軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98 エルフ安住

私はエルロン。

エルフ盗賊団『雷雨の石削り団』頭目であったことも今は昔。

こんな人智も及ばぬ地の果てで、異常なほど豊かな農場に、その場のノリで盗みに入ったのが運の尽き。

聖者キダン様に速攻で捕まってしまった。

魔国、人間国の境もかまわずブイブイやってた私たち。お縄になった時の覚悟もできていた。

まあ十中八九、死刑で首チョンパ。

もっと酷い場合だと、種族的に美人揃いだというエルフの付加価値に着目されて、どこぞの外道貴族の性玩具として壊れるまで飼われるという最悪パターンもありえただろう。

そうならなかった。

私たちを捕えた聖者キダン様は「盗みの償いは労働によって」と私たちに仕事を与えくださった。

その仕事が、私たちにとっては超楽しい道具作り。

私たちエルフは本来森の民で、森でのサバイバル生活のために狩りや採種を行い、それをしない時は日がな一日道具作りで指を動かすのが楽しい種族なのだ。

私は、土をこねて器を作る陶器製造班の班長に任命されて、日々窯に向かっている。

こんなに落ち着いてモノ作りをするのはどれくらいぶりだろうか。

それでも長いこと窯に向き合って汗をかいたので、工房の外に出て休憩していると、冷静な副頭目のマエルガに会った。

いや、今はもう副頭目じゃないか。革製品班の班長だったな。

「アナタの前ではいつでも副頭目ですよ。もっともここの作業は楽しいですが」

ここでの作業は楽しいか。

さすが冷静な副頭目らしい冷静な意見だ。

「こんなことになるとは夢にも思わいませんでしたね」

ああ。

こんなに落ち着いて暮らせるのは、生まれ故郷の森を追い出されて以来か。

私もマエルガも、生まれた瞬間から盗賊だったわけじゃない。

私たちは同じ故郷、同じ森で生まれ育った幼馴染でもあった。

その森は今はない。

消滅してしまった。

場所的には人間国の領土内に属していたその森は、ある日突然枯れ果てて消えてしまった。

あとで知ったことだが、それは人間国が何とかいう大規模な魔法を使ったことによるマナ枯渇が原因であったという。

人族の使う法術魔法は、魔族の魔法よりも利便性がなく使い勝手も悪いが、ひとたび使用したら凄まじい威力を発揮し、その分大量のマナを消費する。

そのマナは大抵、人族の勢力内を流れる自然マナを使用し、それがために無分別に消耗されたマナの影響が自然に色濃く表れる。

私たちが住んでいた森が枯れたのも、その影響の一つと言うわけだった。

私たちは住むところを追われ、家族散り散りとなり、互いの安否も探ることはできなくなった。

森を失ったエルフほど惨めなものはない。

生きる術を失った私たちが盗賊という最後の選択を取るのに、そう長い期間はかからなかった。

故郷を奪われた事情を知り、その復讐とばかりに、あこぎな方法で栄える貴族や豪商からしか盗まなかったのは、せめてものプライド守りだったのかもしれない。

「そういえば、知ってますかお頭? あの聖者様、この世界の人間ではないらしいです」

どういうことだよ?

「人族の法術魔法には、こことは違う世界を繋いで勇者を呼び寄せる術があるそうです。聖者様もその魔法で呼ばれた異世界人なのだそうです」

違う世界から、来てくださーい、って?

「いえ、当人の意思に関わりなく無理やりだそうです。だからこそ聖者様は人間国と縁を切って、ここで静かに暮らしているんだそうですね」

私たちと同じ。

人族の魔法の被害者ってことか。

何だかますます気に入ったな。

「お頭もそう思いますか?」

と、こちらを見透かしてくるような副頭目。

私たちエルフに、男は存在しない。

エルフは女子しか生まないので、女のエルフしか存在しないのだ。

何故そんな仕組みになっているのか私も知らないが、要はエルフは子孫を残すため別種族と交わらなければならない。

どんな種族と交わろうが生まれるのは必ずエルフなので、年頃になると男を求めて故郷を出ていくのだ。

こんな巨大な農場を作り出し、精鋭モンスターを率いる聖者様。

優れた次世代を生み出すのに、これほどもってこいの材料提供者はいない。

「問題は、正妻の座に収まっているプラティ王女とヴィール竜ですね」

あの人たちマジ怖そう。

特にドラゴンの方が機嫌損ねたら生きて凌げる自信がない。

「聖者様ほどの強者ならば勝手気ままに女を犯しまくっても何ら問題ないでしょうし、私たちが欲しいのは聖者様の精であって妻の座ではありません。懇切丁寧に交渉すれば荒事にはなりますまい」

さすが冷静な副頭目らしい意見だ。

私は人族や魔族の閨事情はよく知らんけど。

チャンスがあるのはいいことだ。

「見てくださいお頭」

見ると向こうの方を、一人のエルフが息を弾ませ駆けていく。

ここでエルフと言ったら、それはもちろん私の元部下たちだ。

盗賊団時代は下っ端だったが、今ではガラス作り班の班長に大抜擢されたポーエルではないか。

「毎日のように聖者様の下に通って、製品の出来栄えチェックや新製品の相談をしているようです。ですが特に用事のない日にも顔を出しているようですね」

なんでそんな無駄なことを?

「もちろん聖者様と触れ合う機会を多くし、懸想してもらうためですよ」

そんな手段が……!?

今どきのエルフはそんなことまでして男の気を引くのか?

他種族の男なんて襲って絞り出せばいいと思っていたが……。よく考えたら聖者様にはそれが通じないか。

まあアイツが成功したら私も倣って聖者様に擦り寄るとしよう。

それまでは、ここでの生活を満喫するか。

さ、頼まれた平皿百枚。

さっさと焼き上げないとな。