軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

983 魔王子訪問

ボクは魔王子ゴティア。

聖者の農場とやらに来ることとなった。

父上と母上がやたらベタベタに誉めまくる農場。

それが本物なのか、魔王子たるこのボクが、この目で確かめてやろうじゃないか!!

そしてついにやってきた。

「ここが聖者の農場か……?」

移動は転移魔法で。

我が魔族の重要機密でもある転移魔法を軽々しく使うなんて、何の意味があるんだ? とも思ったが、聞けば聖者の農場へは転移魔法を使うことでしか到達できないらしい。

それほど隔絶した場所にあるのか。あるいは転移魔法を使えばそこまでの道順がまったくわからないという副次効果もある。

つまり聖者の農場は、転移魔法以上の機密だというのか?

転移魔法を晒すことで農場に関する情報を最小限に晒したいということは、そういうことだ。

「子どものくせに考えこんでいますね。さすがは魔王様の跡取りということでしょうか?」

そう言うのは、ボクの付き添いで来ている女魔族。

何者だ?

転移魔法でボクを魔都からここまで運んできたのもこの女だが?

「申し遅れました私ベレナと申します。今は農場の所属になっているものの、かつては魔王軍の士官として四天王アスタレス様の副官を務めておりました」

母上の!?

母上の現役時代の士官なんて、ボクも出遭うことは珍しい。

しかし今はここの所属と言っていたが、では魔王軍は辞めてしまったのか?

「ゴティア殿下がまだ赤ちゃんだった頃にお会いしたこともあるのですよ。いやもう大きくなりましたねえ……。昔はあんなに小さかったのに」

親戚のおばさんみたいなこと言ってる……。

「かつての母上の部下と言ったが、それがどうしてこんなところに? 輝かしい魔王軍からこのような田舎へ落ちてくるとは、左遷どころの話ではないだろう」

「そうですねえ……」

何やらベレナが遠い視線になった。

なんだ? 思った以上に何かを背負っているのか、この女?

「ここに移ってきた当初、それはもう思い悩みました。私は何の役に立てるのか? 魔王軍時代に培った技も術も、農場ではまるで通じない。いる意味があるのかどうかから問いかけ直し、アイデンティティの挟まで揺れ動いたものです」

え? そんな?

魔王軍だろう? 地上最強の軍隊にして、そこに所属する兵士はエリート中のエリート。

しかも母上直属の部下だったというなら四天王補佐だろう。

その役職は、魔王軍士官の中でも特に将来有望なエリートポスト。

その座についていた人材が無意味?

「まあお陰で一から学び直すことができて、今ではそれなりの自信がつきましたけどね」

いやいやいやいやいやいや……!?

惑わされるな?

四天王補佐と言ってもその才能実力は各人でまちまちのはず。きっとこの女は、他に適任がいないところをギリギリお情けで四天王補佐に就任した『ヤツは四天王補佐最弱……』『人族ごときにやられるとは魔族の面汚しよ……』とか言われる水準だったに違いない。

だからこそこんな片田舎で苦労することになったんだ。

きっとそうだ。

そして真に能力のある者は魔王軍に残って四天王に登り詰めたに違いない。

エーシュマとかレヴィアーサのような。

「おーい、ベレナよー」

とか考えていたら実際現れた現役四天王のエーシュマ!?

「元同僚のエーシュマさん。呼んでもないのに何しに現れたんですか?」

「ゴティア殿下が農場に行幸なさると聞いたんで野次馬根性で見に来たんじゃないか。……あ、殿下ご機嫌麗しゅう!」

あ、ハイ。

どうも……?

「そんな野次馬根性発揮できる立場ですかアンタ? いくら軍縮したからって魔王軍のトップは激務でしょう?」

「その辺はマモルさんに任せてあるから大丈夫」

「『激流烈破陣』」

「ぐおおおおおおおおおおおッッ!?」

今のはッ?

我ら魔族が操る魔法の中でも超ハイレベルな殲滅魔法!?

アレを放つには熟練の高位魔導士でも、徹底した体調管理と長い詠唱が必要となるはずなのに!?

なんでこの落ちこぼれ元補佐は軽く放っているの!?

「はっはっはベレナは魔法戦の天才ですからね。高位魔法も詠唱なしで連発可能なんですよ」

「詠唱なしは語弊ですね。いかなる魔法であっても、その始源である精霊や神への祈りなくして使えません。その祈りを形にしたものが詠唱であれば、別の祈りの形になるものを用意することで詠唱の代わりとなるのです」

「はっはっは、何言っているかサッパリわからねー」

いくら手順を省略できたとしても、ここまでの大魔法を放つには相当量の魔力が必要になるはず。

それを一人の魔導士が保有していたとするなら、それは充分大魔導士のキャパシティではないか。

「ベレナはもう私などより断然強いですからね! 四天王でもコイツに勝てるのはベルフェガミリア様ぐらいのもんですよ」

「別格をぶつけてこないでくれますか? まあ農場で鍛えれば誰もがこんなもんですよ。エーシュマさんも一時期農場で修行していたことがありますもんね?」

「我が人生でもっとも伸びた時期だった……!」

し、四天王より強い魔族が何だって、こんな片田舎で……!?

「おっと、そろそろ休憩時間が終わるので私は魔都に帰る。殿下しっかりお勉強してきてくださいねー」

「あ、本当にただ様子を見に来ただけだったんだ……。魔法の直撃受けて血まみれで帰っていった……」

あ、あの……。

キミは魔王軍に復帰するつもりはないのか? それほどの実力なら相当重要なポストを用意してやれるが……?

「そんなつもりにはなれませんねー。一旦辞めた職場に戻ってくるって言うのも格好悪いですし……」

そんな拘りで、栄光ある魔王軍への……!?

魔王子であるボクが言ってるんだぞ!

「それに平和な今の時代、別に戦闘能力があるからって重要なわけでもないじゃないですか。今いる四天王の面々だけで充分ですよ。むしろ磨いた実力を活かしたければ農場にいる方が機会は多いですし」

はあ!? どういうことだ!?

世界最強の魔王軍にいるよりも、こんな僻地にいる方が能力を発揮できるって言うのか!?

「殿下は、農場に来られたばかりですし。ここの主である聖者様に対面する前に、まずはざっとご案内しましょう。そうすればすぐにでもわかると思いますよ。ここがどんな場所かということが……」

* * *

ということでまずはベレナの農場案内から始まる。

しかしボクのご機嫌は斜めだった。

栄誉ある魔王軍への勧誘を断るなんて……それほどこの農場が凄いというのか!?

だったら実際に示して見せろ。

少しでもボクの満足に届かなかったら、軍を送り込んで解体してやるからな!

我が魔国から有用な人材を掠め取るんだから、それだけのことをされる謂れはある!

「はい、ここが農地となります。農場というからにはここがメインとなりますね。とはいえまだ春先なんて実りはまだ遠いですが」

ふーん、ほーん。

まあそこそこ広めではないかな? 以前視察した魔都周辺の農地よりは若干狭めかな?

これで一つ勝ったな。

「いや王子……魔都周辺の農地は、魔国最大の人口を有する首都の食料を賄うためのものですんで。それだけの大農地と、個人の有する農場の規模が僅差ということを恐れてください」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!?」

そう言われてみればその通りだ。

しかし、それだけ大規模な農地をどうやって管理しているんだ?

魔都周辺の農地であれば数百数千人の農夫が携わっているんだろうが、とてもこの農場にそれだけのマンパワーが備わっているとは思えない。

広大な土地を持て余して、管理が行き届いていないんじゃないか?

「そこは、ここにおいては『量より質』方式ですかね……」

「?」

「ちょうどいい、右手をご覧ください」

右?

右に何があるんだと思って振り向いてみたら、そこにはなんか豪快な土飛沫が!?

土飛沫!?

自分で言ってておかしいと思ったが、そう言い表すしかないほど凄まじい勢いで、土が掘りあげられている!?

「アレはオークさんたちが畑を耕しているんですねー。農場所属のオークさんたちは変異化オークなので、通常のオークよりもずっと強いし知能も高いんです。なので広大な農地もあっという間に耕せるんですねー」

変異化オークって!?

家庭教師に習った覚えがある、モンスターの中には極まれに資質変化するものがあり、通常種より遥かに強くなるんだと!!

そんな強力種が、ここは保有しているっていうのか!?

「農場にいるオークはすべて変異種ですよ」

「すべて!?」

「ついでに言うとゴブリンもそうですが」

「ゴブリンも!?」

待て待て待て待て待て待て待て待て……!?

授業で習ったが変異化モンスターは、たった一体でも都市一つを制圧できる能力があるのだろう?

それが一体、何体いるっていうんだ!?

最初の案内だけでもう度肝を抜かれてしまったんだが!?

「このリアクション久しぶりですねえ。これは案内のし甲斐がありそうです」