軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

962 聖女の農場見学

そんなわけで現世へと甦った聖女マラドナさん。

別に成仏するわけでもなく現世に居座るらしい。

するとまずは時間が経過したことを知ってもらう必要があるか。ここ数百年の変化を伝えることにした。

「まず、人間国滅びましたよ」

「なんですってええええええええええええええええええええええッッ!?」

案の定物凄く驚かれた。

さらに、つい最近復活したんですがね。

「なーんだ、ビビらせないでよ。……そうよ! 人間国は永遠に不滅なのよ!!」

「王制は廃止されましたがね」

「どういうこと!?」

ここで民主化とかの説明に入ると凄く面倒なので回避した。

要するに新しいタイプの王様が現れたんだよとザックリ言っておいた。リテセウスくん本人が聞いたらまた嫌そうな顔するんだろうなあ。

「教会の方は完全に消滅しましたがね」

「なんですってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!?」

これにはさらなる驚愕の声を上げる聖女さん。

彼女の母体そのものであるからして、そりゃー絶叫もするわなあ。

しかもこちらは後継母体もなく完璧な断絶と言って間違いないし。

「そんなッ!? では偉大なる天空神ゼウス様への信仰は、誰が取りまとめていくというの!?」

「あ、その辺は大丈夫っすよ。ゼウス神は封印されたそうですから」

「はんげぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!?」

あれ?

これまででもっとも驚かれた?

別にお空の神様が出したり仕舞われたりすることが一番他人事では?

「何を言っているの!? ゼウス様こそ貴き唯一にして偉大なる神。そのゼウス様が封印されたなんて世界から神が失われたってことじゃないの!?」

別にゼウスの他にも神はいるでしょう?

ハデス神とかポセイドス神とか?

「そんなのはゼウス様に敵対する亜流の神に過ぎないでしょう! いわば神のパチモンよ!」

うわぁ……。

過激な思想だなぁ……。

『古の教会信徒の考えなど、そのようなものでしょう。まして彼女は一層の過激派であったようですから』

先生も、俺の隣に立って引き気味にしていた。

ちなみにそのハデス神とポセイドス神、聖女さんの脇にいますよ?

今日も元気に農場の飯をタカりに来ておる。

『おいポセイドスよ。お前、亜流の神だってよ』

『あぁ? そりゃお前のこと言ってんだろうてよ』

食べたらさっさと帰ってくださいね。

「そんな……私が眠っている間に世界はこんなにも激動に晒されていたのね……!」

眠っていたというか、ただただ死んでいたんですけれどね。

まるでわけあって悠久の眠りについていたような特別感を醸し出す。

「わかったわ! こうなったら私が救世主となり世界に光を取り戻す!!」

やめてください。

わざわざアナタが動かずとも世界は充分、光に満ち溢れておりますので。

思い込みが激しい聖女、やっぱり過激な方向へ流れていったか。

こんなこともあろうかと先んじて国際情勢を伝えておいたのだ。

「いいですか? 今、世の中はこれまでにないほどいい具合にまとまってるんですよ。人族魔族は仲良くやっていますし、そこに人魚族も加わってまさしく世界平和が実現されているのです」

「ほ、ほう……!?」

「だから今さら世直しする必要もないし、幸福を望むのであればできるかぎり現状を維持するのがベストの中のベストなんです。だから解放運動とかやめてくださいね。約束ですよ?」

俺が噛んで含めるように言うと聖女さん、俄かに考え込んで……。

「……なるほど、多くの人族が不幸であるなら、この聖女マラドナ。復活の故を得たりと戦乱に身を委ねる覚悟でしたけれども、皆が幸福であるならその必要もないってことね」

こうやって聞き分け欲納得してくれるところが、この聖女さんの救いだった。

根はいい人なんだよな、思い込みが激しいだけで。

「……すると私は何のために甦ったというのかしら? はッ、まさか? 今はまだ誰も気づかない脅威に備えて、神が先んじて私を復活させたもうたとか……!?」

そこ、突発的に設定を増やさない。

アナタが復活したのは先生の気紛れと奇しき偶然が重なったからで、後付けで意味を得ようとしてもダメなんですよ。

神に運命も感じないで。

『おいおいポセイドスよ、なんか我らの知らない脅威が迫ってるってさ?』

『マジそれ怖い』

神様たちも食後のコーヒー飲んだらさっさと帰って。

「大丈夫ですよ難しく考えないで。アナタは甦ったんなら普通に生を謳歌すればいいんです。立ち向かうべき運命なんて、この世界にはないんですからね」

特にこの異世界では。

「そうなの!?」

「そうなんです」

その証拠に……というのもアレですが、実際にアナタが死んでいる数百年の間に変わった世界を御照覧あるのはいかがでしょう?

といっても今のところ見せられるのは近場だけになりますがね。

「見たい見たい! 神への信仰が世界をもっとよくするものと、そう信じるのであれば時を経た未来はもっとよくなっているはずだわ!」

その神自体が今は姿を隠していますがね。

いや、アナタの信仰する神ですが。

その件はどうでもいいから、もう早速農場見学へと移りますか。

こちらがその農場です。

「おお!……なんと、素晴らしい……!!」

そう?

俺としてはもう見慣れた風景なんだが、それに今は冬なので自慢の畑にも雪が積もって代わり映えのない銀世界。

やはり農場というからには、作物の生い茂った夏の風景か、実りある秋の風情などを披露したかったのですが……。

「そんなこと関係ないわ! むしろもっとも過酷な冬の季節に、ここまで豊かな人の生活を営めるなんて、まさに幸福の証! 見てみなさい、人々があんなに楽しげに!!」

ああ、言われてみれば農場の一隅で賑やかなる雪合戦が執り行われておりますな。

主な出場者はオークやゴブリンたちだけれど。

アイツらパワーは常人の数百倍ありやがるので、飛び交う雪玉が音を超えた速度だったり、巨岩を思わせるような雪玉が放られたりしている。

雪合戦一つ取って見ても人外の行いよなあ。

「それにあちこちに立てられているお家の作りも立派で豊かさを感じられるわ! 豊かさこそ幸福度! これだけ雪が積もってもビクともしない家屋なんて、材質がしっかりしているのと技術がしっかりしている証拠よ! つまりそこまで人類は進化したってことね!!」

ここ農場には、住居用の家屋他、秋に収穫した農作物を保管するための蔵が数十棟と建ち並んでいる。

建てた本人が言うのもなんだが本当に増えたもんだなあ。

農場の生産量を考えるとあれだけたくさん建ててもまだ収まりきらないレベルなんですよ。

アイテムボックスが欲しくなってきちゃう。

どれだけ何でもありの世界観でも、アイテムボックスだけはないんだよな、この異世界。

しかし、たくさん建っている蔵こそ豊かさの証明。

その中には食っても食っても食いきれない食料が貯蔵されている。

とある人は『無駄は醜い』などと言ったが、無駄とは余剰、余剰こそ豊かさの証。

この何十棟と建ち並ぶ無駄こそこの農場がいかに豊かでいかに強大であるかを形で示すものだろう。

「私が死して三百年……その間に人はここまで豊かになることができたのね! これこそ私が夢見てきた理想郷……ああ、神様感謝します……!」

だからその神様があんまり関係ないここ農場ではあるんだが。

そうして人の営みが発展し、安定することを素直に喜べるという点、この聖女さん根は真人間であることが見て取れる。

信仰的には過激で、この手合いにありがちな盲信かつ猛進的な一面はあるものの、総合的に見て憎めないお嬢さんなんだよなあ。

「あら、あそこの倉庫が一際大きいわね? 一体何を収めているのかしら?」

「ああ、あれは……!?」

そりゃあ目に付くよね。

他の蔵に比べて二回りは大きいんだもの。

そんなこれ見よがしに豪華さを示すあの蔵は何かというと……。

「レタスレートが建てた蔵だね」

そう、個人的に蔵建ててやがるんだあの元王女は。

もちろん収めているのは全部豆。レタスレートは今や農場の一割に迫る面積の豆畑を保有し、収穫した豆を蔵にぶち込んでいるのだった。

そうしてホルコスフォンの納豆を始めとした加工品にするため適時放出しているのだが……。

「王女!? 人族の王女がいるの!?」

説明中、意図せぬ部分に反応した聖女さん。

そうか、元人間国の教会関係者としたら旧王族の存在はそりゃ見逃せないか。

「是非会わせてくださらない! ああ、三百年の時を経て甦った先に王族へ謁見できる機会を得るなんて、なんと幸運なのかしら!?」