作品タイトル不明
956 復活は聖人の嗜み
前回までのあらすじ。
火葬してたら死者が復活した。
何を言っているのかわからないと思うが、俺も何を言っているのかわからない。
炎ってすべてを灰に還し、消滅させることで再生を促す存在じゃねーの?
再生のスパンが短すぎるんよ。
そもそもあの炎から飛び出してきた女の子、本当にあの白骨の元の姿なんすか?
『はい、間違いなく……いや、どうかな?』
唯一の証言者たる先生だが、三百年前の出来事なだけに記憶が曖昧だ、非常に。
『顔かたちまではちょっと……ですが、若い女であったことは覚えておりますわい。ちょうど今おるあの子のような……』
と炎から飛び出してきた女ん子を指さす。
たしかに件の彼女は、妙齢と言っていいうら若さで肌の色つやもよく、瑞々しい。
炎から飛び出してきただけに何もきていない素っ裸で、肌の張り艶が余計にアピールできてしまっている。
……。
素っ裸やべぇ。
どういう経緯にしろオッサン二名、並んで全裸の女の子に注目しているなんて絵面、犯罪臭しかしないではないか。
こんな場面をプラティにでも目撃されたら何と言われることか!
「とりあえず何か羽織るもの!!」
俺は特急でその辺から手ごろな布……風呂敷? テーブルクロス?……を見つけ出すと全裸女の子に覆いかぶせた。
これでひとまずセーフ!
しかし……見知らぬ女の子の裸を見てときめくどころか心配の方が先に湧くとは……。
俺も父性が育ったな……!
『うむうむ……若き乙女がみだりに肌を晒してはいけませんからな』
などとしきりに感心する先生が裸だった。
あれッ!?
もしや俺が被せたあの布、先生の法衣でしたか!?
『心配いりませんぞ、ワシの法衣は魔法一つですぐ再召喚できますからな』
と言って指パッチン鳴らすだけですぐさままた法衣で身を包む先生だった。
すげえ先生、指鳴らせるんだ。
俺は無理だ。スカッ。
それよかいい加減あの出火娘さんの話を聞くべきではないのか?
……話、通じるよな?
炎から飛び出してきたからって言語も通じぬ超存在じゃないよな?
「ええと……お嬢さん? お名前は? おうちの住所言える?」
「アナタは誰かしら!? 教会の威光にひれ伏しなさい!!」
あッ、ダメだこれ。
想定していたのとは別のタイプで話の通じない人だ。
「私は聖女マラドナ! 天空の神々より使命を賜った聖女! 地上に永遠の安寧を! 悠久の平和を築くために今日も戦い続けるのよ!」
“永遠の安寧”と“悠久の平和”ってほぼ同じ意味じゃね?
「この世界からすべての災いを消し去る! その一環として辺境に巣食うノーライフキングを討伐しに来ました! 生死の理から外れ、偽りの永遠を弄ぶ悪魔ノーライフキング! 我々命あるものはその存在を許してはならない! よって全身全霊をもって滅ぼさなければいけないのよ!」
『ふむ立派な考えだのう』
「そうでしょう、そうでしょう! わかってくれるならアナタもノーライフキング討伐に協力してくれるわね!?」
『やってやりますぞー』
「えいえい、おー!」
おい。
ノリツッコミは最後にツッコミで締めるからこそ成立するものだぞ。
最後までノリ続けてどうする。
「うぎゃばぁああああッ!? ノーライフキング!?」
やっと気づいた。
こんなタイミングじゃノリツッコミとしては遅きに失しているよ。
「何でここにノーライフキングが!? ええい神の摂理に逆らう怪物め! お前を倒して僅かなりとも世界に神聖さを取り戻すのよ!! 前衛突撃! 決死の覚悟で抑えている間に、神聖魔法で邪悪を抹消するのよ!!」
いや、アナタ一人しかいないから前衛も後衛もあったもんじゃありませんが!?
さっきから何とも会話が噛み合っていない?
『……どうやら記憶が生前の頃から止まっておるようですな。まあ当然と言えば当然ですが』
死後の記憶なんてありえるわけがないもんな。
するってーとやっぱり、このお嬢さんはあの白骨が復活した姿?
なんでまた!?
そもそもなんで復活するん!? 死者蘇生は禁止カードだぞ!?
『考えられる可能性は一つ……』
先生、何か心当たりが!?
教えてプリーズ!
『何、これもいつもと同じパターンでありましょう。この農場で起こる不可思議なことは、大抵一つの原因から生じるものですて』
大抵一つの原因?
そして先生がジッとこっちを見ている……。
……。
俺!?
そんな俺がトラブルメーカーみたいな扱いやめてもらえませんかね!?
いやでも実際そうか!?
今回の唐突な死者蘇生!……しかもなんの前振りもなく起こったこれも俺が原因と考えれば筋が通る?
そして、俺がすべての元凶と考えれば考えられるルートは一つ!
『至高の担い手』か!?
この俺に宿る最強ギフトがまたなんかやっちゃいましたか!?
そうかまさか、お焚き上げしようかって時に遺骨を直接手に取って薪の上に積み上げたっけな!?
まさかあの時!?
あの時になんかやっちゃいましたか!?
『聖者様のギフトは直接触れた際に発動しますでのう。恐らくは聖者様の何らかの意思に反応し、再び生気を吹き込まれる形で生命を取り戻したのでしょう』
何という俺……!?
ついに生死不可逆の法則まで超越してしまったのか。ハデスさんに怒られそう。
しかし恒常的に行おうってわけじゃなくてあくまで事故だから。今回限りってことで見逃してプリーズ。
『しかし甦ってしまった者はいかに扱うべきか……!? まさか本来は死んでいるからと言って、あるべき常態に戻れと再殺するわけにもいきませんしのう。ワシがやったらなおさら不道理ですからのうハッハッハ』
炸裂するアンデッドジョーク。
『とにかく彼女自身に話を聞こうではありませんか。実はワシも三百年前は黙々と迎撃していただけで、会話などろくすっぽしておりません。彼女が何者で、何を目的に襲い掛かってきたのかもわからぬまま……』
三百年前の先生は、時の経過で感情が摩耗していたそうだからな。
今の生徒たちに囲まれて感情豊かな先生からは想像もできないが、他者に感情移入するなど考えにも入らなかったに違いない。
『目的の方は先ほどの独り言でぼんやり見えてきましたが、その背景がまだまだサッパリ窺えませんのう。ここまで来たら命を狙われた側として俄然興味が湧いてきましたわい』
こうして話している間も、蘇生した女性はシャーと先生を威嚇したまま動かない。
襲い掛かろうにも無策で突っ込んだら秒で殺されるとわかっているんだろう。
かといって逃げてもまず捕まるので、この場に留まってシャーシャー言ってるというわけだ。
『ホレホレ怖くないぞー』
と言って威嚇しまくり蘇生女をあやす先生。
その手にはエノコログサ、通称ねこじゃらしが握られていた。
『それでお嬢さん、なんでそなたはワシを狙ってきたのかのう? 別に三百年前とて世の中に迷惑をかけた覚えはないが?』
そうだよな。
聞くところによると先生はまず千年前、聖剣に意識を乗っ取られてダンジョンへと潜り込み、そこでノーライフキングとなった。
完全に自分の意思による不死化ではなかったせいか、ダンジョンの外に迷惑をかけるでもなく千年間静かに過ごしてきた御方だ。
問題のこの女性が攻め込んできたのは例外だとして……。
それに対して当人の主張。
「何言ってるの! アンデッドなんて存在自体が悪に決まっているでしょう! 生ある者はいつか必ず死す! それは神が定めた原則であり自然の理! それに逆らって死したあとも存在し続けるアンデッドは、法を犯せし悪そのもの!」
『耳が痛いですのう』
「だからこの私が、間違いを正しにきたのよ! 聖教会より聖女と認められしこのマラドナが!!」
それさっきから言ってるけど“聖女”って何?
俺も常日頃から聖者って呼ばれてるので親近感は……湧かない。
しかし俺としては、湧いた疑問より事実を指摘したいところだ。
「あのー……、アンデッドが自然の理に反して邪悪な存在と申しますが……」
「そうよ! すべてのアンデッドは土に還すべきなのよ!!」
「今のアナタもアンデッドなのでは?」
「え?」
いやだって。
アナタだって一回死んでから復活しておりますやんか。
自力で復活したら聖人かもしれませんが、理外の理で死したまま甦ったら、それはアンデッドですぜ。
まさに今のアナタのことです。
「え? 私、一回死んで?……え? えええええええええええええッッ!?」
いかん、自分が死んだことに気づいていない怪物が、その事実に気づいてしまったみたいなことになっている。
実際まさしくその通りなんだけれど。
さて自分が死んだことに関する聖女とやらのリアクションはいかに?