作品タイトル不明
954 祭りのあとの神々の遊び・後編
これまでのあらすじ。
純朴オタクであるヘパイストス兄さんが、別れた元妻でオタクに優しくない方のギャルである女神アフロディーテことイシュタルに自我崩壊に追い込まれつつある。
このピンチを脱するに手段はたった一つしかない。
女神イシュタルの姉であるシュメールの冥府女神エレシュキガルさんに助けを求めることだけ。
どんなにアフロディーテことイシュタルが美の女神ですべての男を虜にしても、同性にして同姓であるエレシュキガルさんにはまったく効かない。
むしろ日頃のやらかしから憎悪しかないエレシュキガルさんはしばき倒して本国へと連れ帰るのだった。
正常な神経の持ち主ほど、問題ある親族に悩まされるのは私にもよくわかる……。
だから一刻も早くエレシュキガルさんに連絡したいんだがその手段もない。
こんなことならナンパ目的と思われるのを恐れずLINE交換しておけばよかった!!
ああ、ここに都合よく偶然エレシュキガルさんが通りかからないかなあ!!
『初めましてこんばんは、お邪魔しまーす』
誰だ!?
私の祈りが天に通じて、エレシュキガルさんを遣わしてくれたのか!?
いや私が神で、ここが天界だった!
とにかく誰ですか!? 救いの神ですか!?
『私、クロノスと申しますが、ここにプラモデルに詳しい神がいると聞いてやってきました』
クロノス神ッッ!?
かつてゼウスやハデス叔父さん、ポセイドス叔父さんらと戦いを繰り広げた古き神!?
そういや長いことタルタロスに幽閉されていたのが最近になって解放されたと聞く。
しかしそんな神が何故ここに!?
『いや、せっかく幽閉が解けたんであちこちの異世界に出かけてたんだがな。そこでプラモデルとかいう面白いものを見つけたのだ。いやいや何と精巧な! 人間の技術は目覚ましく進歩したものだな!!』
かつて神々の死闘を繰り広げた旧神が、模型沼にハマっておられる……!?
『一目で心奪われて、あるだけ買ってこようと思ったが。……転売対策? とか言われて十個しか買ってこれなかった。困ってハデスに相談してみたら、そういうのに詳しい神が天界にいると聞いてやってきた。というわけでキミがプラモデルに詳しい神かな?』
違います。
私じゃないです。
私はむしろ転売方法について詳しいですけれど、泥棒の神でもあるし。
しかし模型プラモについて無限の知識と技術を持っているのは、神界一の名工にしてオタクの神ヘパイストス様ですよ!
『ふーん、……おッアフロディーテじゃないか。いやイシュタル?』
『ぎゃああああああッッ!? 何故アナタがここに!?』
ん?
なんか流れ変わってきた?
お二人は知り合い? 詳しく話聞きたいです。
『まあ、古い知り合いというかな。この女神がこの世界にやってきたキッカケを作ったのが私なので』
あぁ?
ということはすべての災いの元凶はアンタってことか?
『なんかいきなり咎める視線が来たな……!? まあ私は農耕の神だから災いの種だろうと何だろうと撒くのが仕事だからな』
開き直ってんじゃねえよ。
何がどうなってあの歩くトラブル生産機をアンタが招来せしめたか、説明をプリーズ。
『うーん? まあ私も創生の原初から主神だったわけではなくてな? 私の父であるウラヌスっていうのが私の前に主神だったわけだ。ウラヌスは妻であるガイア母上と仲が悪くて、私へなり替わるように促してきたわけだ』
そんな昔から醜い争いしていたのか?
本当に神ろくでもないな。
『ガイア母上の手引きで暗殺することになってな。まあ妻の協力があったおかげで実にスムーズに父上を仕留めることができた。その時、首ではなく男根を切り落としてな』
なんで?
ねえ、なんでよりにもよってチ○コ切り落としたの?
『さすがに父親のチ○コなんてキモくてたまらんから海に放り投げんたんだ。今でいうところの海上投棄だな』
なんつ―ものを不法投棄してくれるんだよ。
海はすべての母なる場所だぞ。そんなことしたらポセイドス叔父さんがブチキレるでしょう!?
『そしたらなんと海に浮かんだ父上のチ○コから泡がブクブクと! 海のバブルチ○コとなったわけだな父上は!』
気軽にパワーワード生み出さんでくれます?
『その泡から生まれたのが、そこのアフロディーテというわけだ』
『ぎゃあああああああッッ!? いやぁああああああああああッッ!?』
おおッ? なんだ?
いきなりアフロディーテことイシュタルが絶叫した!?
『やめてよ! 私のもっとも忌まわしい黒歴史を公開しないで! 世界でもっとも美しい私がよりにもよって醜いチ○コから発生したなんて、信じがたい悪夢だわ!!』
『お前の存在自身が一番の悪夢だよ』
よかった、おじいさんもこの女神の害悪をしっかり認識しておられる……!
そうクロノス神は、我々のクソ親父ゼウスの父親に当たるので私にとっておじいさんになる。
『大体お前は、ここオリュンポス&ティターンの世界にとっては異神であった。こちらの世界へ来るのに“門”というか依り代が必要だったのだろう。それに選ばれたのが父ウラヌスの男根だったということだ。他にも理由がないではないが、やはりお前の淫蕩さゆえに惹き寄せられたのが一番の理由であろうな』
『違うわよ! 私はホタテの貝殻から生まれてきたのよぉおおおおお!!』
『それは後世の創作だ』
凄い、なんか知らないけど無敵のアフロディーテことイシュタルが追いつめられている。
さすがはティターン神族の重鎮!
段々クロノスおじいさんが好きになってきたぞ!
頑張れクロノスおじいさん!!
『そもそも海を漂い地表に行き着くエピソードの持ち主は 客人神(まろうどがみ) としての特性を強く持つ。お前がオリュンポスの神々の中でも酷く異質な、シュメール辺りに起源を持つ神であることを考えても、外から来たモノが加わるために「流れ着いた」という過程が必要だったのだろう。……とはいえ発生源が天空神のチ○コだというのがいかにもお前らしい……!』
『だからそこはスルーしろって言ってんじゃない! ヒトの黒歴史をほじくり返すんじゃないわよ!』
『お前と似たような性質の神が他にいるとしたら、やはり大和の蛭子神だろうな。あの神は生まれが醜いことから両親に嫌われ、葦の船に乗せられて流されたという。それを考えると、何か思い当たることがあるな』
はい?
なんか話がアカデミックな方向に?
『そうこの世界でアフロディーテの夫となるヘパイストスも、醜い容貌から主神格の両親に忌み嫌われている。醜いことと流されたこと、一組の夫婦神に振り分けられた特性を併せ持った蛭子神。不思議な符丁かと思わぬか?』
大和に現る異形の神、蛭子。
その神が持った形質を、遠く離れたオリュンポスで夫婦神となったアフロディーテとヘパイストスがそれぞれ分けて持っている。
これは単なる偶然か?
こうして見ると、ヘパイストス兄さんとアフロディーテが夫婦となったことも単なる巡り合わせではなく、意味があったように思えてしまうから不思議だ。
神話の謎というヤツだな。
『……ち、違うわ』
ん?
気づけばアフロディーテことイシュタルがカタカタ震えているではないか?
『蛭子神ってメチャクチャ醜いことで有名なんでしょう? そんなヤツと美の女神たる私が一緒なんてあるわけないじゃない! 嫌! 嫌! 嫌ぁあああああああああああああああああッッ!!』
なんか彼女の心の柔らかいところに突き刺さった模様。
何なの醜いとか言うな?
蛭子神さんに失礼だろう?
『嫌よもうコイツ嫌い! 私の黒歴史をほじくり返すし、変なヤツと似てるって言うし! こんなヤツと一緒なんてゴメンだわ! 私は帰らせてもらいます!!』
なんか死亡フラグみたいなこと言ってアフロディーテことイシュタルは帰っていった。
いや、たしかに死亡フラグではあるかな。
帰ったらきっとエレシュキガルお姉さんにお仕置き食らって死ぬことだろう、なんて立って脱獄犯だし。
しかし今は、そんなことより……!?
『怒らせてしまったか……。どうも私はただ喋るだけで相手を不機嫌にさせてしまうようだな。ティターン神族が没落した原因もそこにありそうだし……!』
『クロノスおじいさん……素晴らしいです!!』
思わず声に出して縋りついてしまった。
あの最強最悪の荒神、アフロディーテことイシュタルを単騎撃退してしまうなんて!
エレシュキガルさん以外にそんなことができる神がいるとは。
『凄いですクロノスおじいさん! さすがはオリュンポス神族より上の世代の、ティターン神族の統率者!』
『おじいさん尊敬するんだな!!』
ヘパイストス兄さんも一緒になってクロノスおじいさんに縋りついた。
『んん~!? そ、そうか……!? いや息子たちからはこれでもかってほど嫌われたが、孫には好かれるなんて嬉しいなあ……! タルタロスから解放された甲斐があった……!』
またアフロディーテことイシュタルが襲来してきた時にはクロノスおじいさんに撃退してもらおう。
愛の女神に対抗する手札がエレシュキガルさん以外にも増えたのは頼もしい!
ビバ、クロノス!
これでまたオリュンポスの平和が保たれた!!