作品タイトル不明
951 ツミを数えろ
引き続き、天界の神ヘルメスです。
ヘパイストス兄さんの精神に変調をきたしたきっかけとは……巨大ロボット!!
『……って何?』
唐突すぎて話についていけなかった。
巨大ロボットって何?
いや言葉自体は知ってるよロボットでしょう?
この世界にはないけれど、禁断の力・科学によって創造された機械のことでしょう?
特に人の形を模して稼働するものがロボットだと聞く。
罪深いよね。
人自体が神の姿を似せて創り出されたモノなのに、その人がさらに自分たちを似せたモノを想像するなんて。
神の奇跡を真似しようってことで、神によっては激おこプンプン丸で天罰とか下しそう。
でもここの世界なら大丈夫だよ。大抵の神は心広いし。
しかしこっちの世界には、そもそも科学というテクノロジー自体ないんだしロボット製造なんて無理だろう。
……と思ったがすぐにその考えを打ち消した。
今地上には、あらゆる技術的問題を突破する『科学も奇跡もあるんだよ』と言わんばかりの連中が立て込んでいる。
『地上で彼らの様子を見守っていたんだな……』
やっぱりアイツらかよー。
異世界渡りの聖者とその仲間たち。
ヘパイストス兄さんからギフトを与えられた聖者本人もさることながら、その仲間たちまで最近では人知を超えた能力を発揮しているから困りもの。
いや、我ら神の考えすら及ばないので『神知を超える』と称してもいいほどだ。
『もしや……聖者くんがロボットでも作りました?』
『いや、作ったのは聖者くんの部下のオークたちなんだな』
なんでオークがロボット作るんだよー。
邪悪で低能なモンスターじゃなかったのかよオークってよー。色々ありすぎてオークの概念が崩壊しているよ。オークゲシュタルト崩壊だよ。
『地上の者たちですら、あんな素晴らしいロボットを一から拵えられるようになっていたのに。神であるボクが新作に挑戦せず無為に時を過ごしちゃダメなんだな。停滞は死と同義なんだな』
地上の連中が奮起したことでヘパイストス兄さん創作意欲が無駄に刺激された。
ちょっと勘弁してほしいんだけど。
『…………ヘパイストス兄さんあのですね? 兄さんって鍛冶の神でしょう? 鍛冶ってことは作るのは剣とかで、ロボットは関係ないのでは?』
無駄なあがきとは思ったものの、一縷の望みを懸けて指摘してみる。
『椅子とか宝石とか色々作ってるんだから今さらなんだな』
『そうですよねー』
そうヘパイストス兄さん、鍛冶の神と言いつつその制作物は鍛冶の域には収まらないほど多岐に亘るから、ロボットを作ったとしても今さらよ。
『地上の者たちの、まだまだ稚拙ではあるが情熱がたっぷり詰まった作品にボクは心奪われたんだな! 乙女座のボクとしてはセンチメンタリズムな運命を感じざるを得なかったんだな!』
ヘパイストス兄さん乙女座なんですか?
オリュンポスの神々が星座持ってるの大いなる矛盾のような気がするんですが。
『というわけでボクはまず、自分の中にあったはずの情熱を見つけ直すために、己のツミと向き合うことにしたんだな』
『罪?』
何を言ってるんですか兄さん。
どれだけ神々が罪深かろうとも、ヘパイストス兄さんにだけは罪らしきものなんてないでしょう。
オリュンポスの神々でもっとも無罪なのがヘパイストス神と言っても過言ではない。
そんなヘパイストス兄さんのツミとは?
『これらなんだな』
兄さんは、自室に溢れかえるほどたくさんある箱を示した。
本当にアホみたいにたくさんある。
何十? 何百? 箱の大きさはまちまちだが、共通点としては平べったい立方体の箱で、材質は紙のようだ。
『何なんですかこれ?』
『これはボクが、他の世界に旅行に行ったときに買ってきたプラモデルなんだな』
プラモデル!?
いやその前にヘパイストス兄さん旅行とか行くの!?
引きこもりレベルでのインドア派かと思っていたんですが!?
そしてプラモデル!?
やべぇツッコミどころが多すぎて追いつかない。
『あの世界のプラモデルは最高の出来なんだな……! 細かいながらも正確な造りで、色分けも完璧、そして昔は接着剤やらドライバーやらがいるのに、時代が進むごとに必要な器具が少なくなっていって、今じゃ精々ニッパーさえあればいい出来に組み上がるんだな!』
『左様で……!?』
『百分の一スケールの迫力もいいけれど、今じゃ一四四の一スケールでも充分にリアリティのある見応えたっぷりなモデルがたくさん出ているんだな! ボクはプラモデルを買うためだけに人間に扮してあっちの世界に行くんだな!』
『わああ……兄さんらしい……!』
旅行なんて兄さんのイメージにはないなあと思ったが、目的はイメージ通りだった。
『それでも最近は時間がないから、買うだけ買って仕舞っておくことが多くなってるんだな。暇な時に作ればいいかなんて考えていたけれど、ちょっと時間が空いても別の機会に……とか思って長いこと放置されてたんだな』
『はあ……!?』
『しかしそれじゃダメなんだな! 足りないのは時間ではなく、僕の情熱だったんだな! 情熱さえあるならどんなに時間が足りなくても絞りだして、プラモを作っていたはずなんだな!!』
ヘパイストス兄さんは、そんな自分の状態を気づかされた。
地上の、オークたちの力作を目にすることで。
『余計なことを……!』と正直思わないでもない。
『故にまずは、いままで積み上げてきたプラモデルの山を崩して、一つ一つ組み上げていたんだな! 僕の“積み”を数えていたんだな!』
『ああ、そういう……!』
こうして部屋に散らばっていたのは、組み上げ終えたプラモデルの空き箱だったか。
よく見れば、組み上がったプラモデルが壁際に綺麗に並べて飾ってあった。
ヘパイストス兄さんらしい、塗装こそされていないがスミ入れやつなぎ目消しなどが丁寧に行われて、『はあ、いいな』と思う。
……あッ、これクリアモデルじゃない?
兄さんめ限定盤にまで手を出しているのか? だったら現地にまで買いに行く必要があるはずだ……!
……でもまあ、プラモ作りで創作意欲が消費されるんならそれもいいんじゃないか。
これだけなら実害も出ないし、プラモで世界の平穏が保たれるなら大変よろしいではないか!
ベラスアレス兄さん他への報告には『ヘパ兄さんは急にプラモ熱が高騰して引きこもっていました』でよろしい。
これにて一件落着!!
『そして、何度も繰り返したプラモ作りによって構築されたアイデアを基に建造したロボットがコレなんだな!!』
……落着ではなかった。
ヘパイストス兄さん……実際に巨大ロボットを拵えなさっていた!
うわー大きい。
何十メートルあるのこの機械人形?
そしてなんでこんな巨大なものが収まるのこの神殿。
『素材はオリハルコニウム。動力は太陽エネルギーを凝縮した“アポ炉”を使用しているんだな。装備はメギドビームライフル一門に、接近戦用の実体剣“エクスカリバー”。シールド。さらに無線式自律推進小型砲台“ピット”を七門搭載。さらには胸部より高出力のビームを放射する“メギドブラスト”を一門備え付けてあるんだな!』
『へえ……なるほど』
さっぱりわかんね。
ヘパイストス兄さん……ロボット熱をプラモ熱に熟成させ、ついには本物の巨大ロボットを建造しちゃったってこと?
『さらに追加装備としてバズーカ砲と打撃用ハンマー、背部のバックパックを換装することで水中、宇宙などでの活動にも対応できるんだな! 一機で敵部隊の制圧を想定して開発された! まごうことなき主人公機なんだな!!』
『そっすか……!』
まあ、それでヘパイストス兄さんの創作意欲が満たされて満足してくれたんならそれでいいが……。
実際この巨大ロボットが発進して戦うとなったらとんでもないことになりそうだけど、作った時点で満足はされましたよね?
それがエンジニアというものだから。
ならばよかった!
この件は一件落着、ということで!
『では次のフェイズに進むんだな』
『はい?』
次のフェイズって?
『ヴァルカン、お前を作ったのは棚に飾って愛でるためじゃないんだな! 戦って勝って、ボクの作ったヴァルカンが一番強いんだと世界に向かって叫ぶためなんだな!』
ああ、あのロボット。
“ヴァルカン”って名前だったんですか?
『さあヴァルカンよお前の戦場へ向かうんだな! お前のライバルが地上で待っているんだな!!』
え、ちょっと待って。
ライバルってまさか……!?
私が止める間もなく兄さんは何かのボタンを押し、それと同時に巨大ロボットは何凄い煙を吐き出しながら空へと上っていった。
『うおおおおおおおッッ!?』
行くってやっぱり聖者くんたちのいるところ!?
ヤバい久々に、ヘパイストス兄さんがそのエンジニア精神から大暴走!?