作品タイトル不明
931 冒険者の焦燥
オレはコーリー。
A級冒険者のコーリー。
しかしクソッ、オレは冒険者として今日ほど不甲斐ないと感じたことはない。
S級昇格試験、敬愛するシルバーウルフ様主催のこのイベントで最高の成績を取ろうと息巻いていたのに結局何の成果も上げられなかった。
恐ろしきは聖者の農場ダンジョンだ。
ここに連れてこられた時はてっきりたった一つのダンジョンかな? と思っていたのに、三つもある?
しかも洞窟型、山型、遺跡型の全種類制覇。
そんな土地柄が本当にある?
たった一つのダンジョンでもできればそこに街が作られる、ダンジョンにはそれほどの経済効果があるというのに、ここ聖者の農場には三つものダンジョンが隣接しているんだって?
初めて訪れた冒険者は、まずそのことに驚天動地。
冒険者業界に長く身を置くものほど、その特異性が実感できる。
ここは楽園か? はたまた魔界か?
ただただ事実に身が震えた。
しかしオレたちは観光にやってきたんじゃなくて、栄えあるS級の称号を獲得するためにやってきた。
ただ驚くんじゃなくて実際にダンジョンに入ってその中を進み抜き、ゴール地点まで制覇しなければ。
と思っていた。
S級昇格に必要な条件は、聖者の農場にある三つのダンジョンをすべて制覇することだという。
そういうことなら迷わず行くぜ!
オレに生きる希望を与えてくれたシルバーウルフ様の跡を、立派に継いでみせる!
そう思ってまず突入したのは、三つあるうちの山ダンジョンだった。
オレはオオカミの獣人だ。
因子は大分薄れているが、それでも普通の人族よりは鼻が利くし、感覚も鋭い。
それら獣人ならではの超感覚は、より因子の濃いシルバーウルフ様ほどではないにせよ冒険に役立ってきた。
そんなオレの個性を充分に活かすには、山ダンジョンが最適だと思われた。
まずはもっとも得意な山ダンジョンを攻略して、他のダンジョンへ弾みをつけるんだ!
しかし、そんな考えは甘いとすぐに思い知った。
山ダンジョンに入ってすぐさま、イノシシに轢かれてリタイヤした。
ええい、一体どういうことなんだ!?
スクエアボアはたしかに凶悪なモンスターではあるが、全力疾走の際は直進しかしてこず細かいフェイントなど絡めてこない。
だから動きを予想しやすく、レベルの割には狩りやすい色んな意味での『美味しい獲物』としてのイメージが定着している。
だからオレを含め、多くの冒険者たちも軽くあしらえると思っていたのに……!
軽くあしらわれたのはこっちの方だった!
なんだあのスクエアボアの常識では考えられない動き!?
「急にカーブしたーッ!?」
「シンカーだッ!?」
「質量のある残像だと!?」
「おッ、オレを踏み台にーッ!?」
他の冒険者たちも、あまりに変幻自在すぎるスクエアボアの動きにまったく対応できずに、ボーリングのピンみたいに蹴散らされるしかなかった。
そんなわけで山ダンジョンは無事リタイヤ。
しかしこんなところで諦めるわけにはいかない。
オレはシルバーウルフ様に続くS級冒険者になるんだ!!
その執念だけを拠り所にして、山ダンジョンがダメなら……と別のダンジョンへと河岸を変える。
『一番得意な山ダンジョンをクリアして弾みを……』とか言っていたのに、その山ダンジョンでけちょんけちょんにやられたら次どうするんだ? ってツッコミもあることだろうが……!
いや! もしかしたらあの山ダンジョンだけ突出した難易度で、多少の適正も無意味なっちゃうぐらい鬼畜コース!……という可能性だってあるじゃないか!
さすれば洞窟ダンジョンや遺跡ダンジョンこそを先にクリアして、弾みをつけて山ダンジョンに再挑戦!!
うん、そのコースで行こう!
……と思っていたんだ。
何事にも弾みさえつければなんとかなると。
しかし弾みがつく、つかない以前の問題もある。
試しに挑戦してみた次なる舞台……聖者の農場内の洞窟ダンジョンでもオレは辛酸を舐め尽くした!!
いや、ここでは最深層まで行けたんだ!
その点やっぱり山ダンジョンだけがアホみたいな難易度なのかな? と思っていた。
しかし、そんな楽観的な考えでは冒険者失格だと思い知らされることになる。
何しろ最深部でオレたちを待っていたのは、冒険者最大の脅威。世界二大災厄と並び称されるうちの一方ノーライフキングだったのだから!
ノーライフキングはヤバい。
各S級冒険者たちの体験談を聞くほどにノーライフキングがどれだけヤバいものであるかを刻み込まれる。
元々世界二大災厄と呼ばれるだけあって、その脅威はドラゴンにも匹敵する。
基本的に人類が対抗できるものでもないし出遭えば一瞬で即殺されるのは確定。
だったら逃げるのが唯一の生存方法で、冒険者にもその対処は徹底されている。
ノーライフキングもしくはドラゴンと出会ったならば、一瞬の躊躇もなくすぐさま逃げろ……と。
瞬時即座に逃げ駆けた者が生き残り、判断が遅れた者が死ぬ。
冒険者の間では摂理ともいうべきセオリーであるが、それが通じない場合もあるのがノーライフキングだという。
ドラゴンは元々生命として超越者であるために万事力押しの傾向があり、かつ人類を下等種として見下している。だから油断が常にある。
その傲慢油断を突けば、とりあえず逃げ隠れることぐらいは充分可能で、しかもやることが大雑把であるために一旦見失った獲物を再び見つけることは難しく、さらには諦めるのも早い……というのが冒険者から見たドラゴンへの評価だった。
無論『倒す』となったら、いくら相手が油断していようとも、それで埋められる生物的優劣の差ではないが。
それに比べてノーライフキングこそ最悪の存在。
そもそもノーライフキング自体が一つの生物種ではなく、元来は人間だったものが禁法を用いてアンデッドと化し、そのバケモノの頂点についた存在であるのだから。
元人間であるからにはノーライフキングに、ドラゴンのような油断は存在しない。
しかもアンデッド化の禁呪が使えるほど魔道に熟達した人間は、例外なく賢明で博識だ。その知能はバケモノと化したあとも引き継がれる。
つまりそんな存在にとって、冒険者程度など赤子みたいなもので簡単に陥れられる。
さらにはアンデッド化しているし、その魔力妖力もドラゴンの膂力並。
要するに力もあれば隙はない、ドラゴン以上に完全無欠の生物(?)だということ。
そんな怪物と遭遇して無事逃げ切れる可能性は、ドラゴンよりさらに低いことになる。
もしダンジョンでノーライフキングに出遭ったら、より一層死の覚悟を固めよ。……というのがS級冒険者たちからの教えだった。
そのノーライフキングが目の前にいる……!?
しかも二体!?
『ぐ、ぐわはははははー、よく来たな矮小なる人間どもよ! ……えっと、我が領域に踏み込んだ愚かさ……迂闊さ?……を、その命で償うがよいわぁー!』
『なんかセリフに覇気がないのう。地域最恐と言われてきたんじゃろ? もうちょっと悪役らしくできんのか?』
二人もいるノーライフキング(絶望)において、一方が一方をイビリ散らかしているような構図。
しかも、イビッてイビられての二ノーライフキング、その一方の特徴にオレは覚えがあった。
アレは『カントリー・キャッスル』に住むというノーライフキングの伯爵。
数あるノーライフキングの中でももっとも残忍残虐という、『遭ったら死亡』ランキングの上位に食い込む最悪の相手!
しかしここ最近、唐突に消滅したことが『冒険者通信』で伝わっていたのに!?
『今日訪れた冒険者の皆殿よ。本日はこれをいい機会と、ノーライフキングと相対した時の対処法についてレクチャーしていこう』
伯爵でないもう一人のノーライフキングが語りだした。
急に授業!?
『皆は、ダンジョンで唐突にノーライフキングと遭遇したらどうする? 逃げるじゃろう、それがもちろん正解であるからの。しかし皆より何百年と長く生きたノーライフキングを出し抜くのは至難の技じゃ。正解を選んだところで確実に生き残れるわけではない……というのが冒険者の厳しいところじゃのう』
……ああ、はい。
そうです……!?
『だからこそ皆はノーライフキングからのより確実な逃げ方を、実地で学んでいかなければいかん。ここに打ってつけの教材がおるのじゃ。今日はコイツを利用してノーライフキングの恐ろしさ、具体的な立ち回りを学んでいってもらいたい。本当ならワシが相手役を務めてもよかったんじゃが、解説は別にした方がいいと思っての』
『謹んで教材役を務めさせていただきます! どんどんかかってこーい!』
傲岸不遜、己を伯爵と称して貴族気取りであったはずのノーライフキングは、もう一人の方のノーライフキングに心底ビビッて絶対服従している。
それだけあっちのノーライフキングの方が格上ということなんだろう。
最強ということ?
伯爵が別のダンジョンの主だったことを考えても、ここ農場の洞窟ダンジョンの主があのノーライフキングであることは推測に易い。
農場のノーライフキングは、自分以外の同種を一睨みで従わせるほどに強いということ!?
恐るべし、農場。
各ダンジョンを広く回るごとに、この土地の恐ろしさが身に染みるのだった。