軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

928 真説・S級冒険者の実力

シルバーウルフさんの快進撃は止まらない。

ヴィールの山ダンジョンも、いくつかの階層に分かれて最奥たる頂上へと至る道のりがあるが、あっと言う間に第二層へとたどり着き、しかし勢いはまったく衰えない。

「はぉおおおおおおおおおッッ!!」

掛け声とともに、襲い掛かってくるモンスターから逃げる。

逃げる!

確実なダンジョン制覇のためには、極力無駄な戦闘は避けるんだ。

「さすがS級冒険者シルバーウルフ! ダンジョン探索の基礎をしっかりと抑えている!」

あとに続いて見学する冒険者……S級昇格試験の受験者ともいう……が解説する。

彼らはウチの農場メンバー、主にオークゴブリン軍団にしっかりガードされながら進んでおります。

何だこれ?

「素材稼ぎの目的とは違って、ダンジョン制覇を目指す際は戦闘回避が鉄則。無駄な行程を最小限に抑えることで体力消費も抑える! 特にシルバーウルフはオオカミ獣人としての鋭敏な嗅覚があり、それで敵との距離はもちろんのこと一説には感情まで読むと言われている! それによって敵モンスターのテンションを即座に見分け、戦闘不可避なら一撃離脱の対応ができるという判断を瞬時に行えることが、彼の強み……!」

めっちゃ早口の解説の人は置いておいて……。

シルバーウルフさんの攻略ペースが本当に早くて……走っているのとほとんど変わらない?

ついていくのも大変だ。

「ウソだろう!? オレたちは入り口近くで全滅したのに……!?」

「どんどん先へ進んでいく……、これがS級冒険者の実力なのか……!?」

後続の見学冒険者たちも衝撃を受けていた。

いつもはただただクローニンズの一人という印象しかなかったシルバーウルフさんだが、やっぱり実力派の凄い人だった。

この世のすべての冒険者が憧れて目標にするS級冒険者の一人なのだ!

その実力は、一段下のA級とすら次元を画する。

「にゃんにゃにゃん! シルウルちゃんにだけカッコよくはさせないにゃん!!」

などと言って乱入するのは誰?

ブラックキャット!?

同じくS級冒険者のブラックキャットか!?

このタイミングで何故乱入!?

「私だって引退するんだから現役最後の一花咲かせるにゃん! S級冒険者ブラックキャットの本領発揮にゃーん!!」

あッ。

ん?

一瞬にしてブラックキャットの姿が消えたと思ったら……。

いつの間にかモンスターの首が胴から離れていた!?

「S級冒険者ブラックキャットの真骨頂は黒豹獣人としての攻撃性の高さにある!」

また見物人の中の早口な人が解説を始める。

でも待って……彼女黒豹だったの?

黒猫じゃなく?

「ネコ科猛獣として足音、匂いなどを完全に消し、気配ゼロで襲い掛かってくる。それに対応できる人類はもちろんモンスターもほとんどいない! 夜ならば、あの黒い毛並みが闇に紛れて隠形率は六百倍!」

なるほど、ネコ科動物は肉食獣だからな。

攻撃性はどんな獣よりも高いのかもしれない。

「S級冒険者といえばゴールデンバットとシルバーウルフの二大巨頭が、とかく話題になるが、それにブラックキャットを加えた三人がここ十数年の冒険者業界を賑わせてきた! 彼女もまた紛れもないトップクラスの冒険者であることは疑いない!!」

早口の人が解説を続けるものの、その間も二人の快進撃は留まらず、あっと言う間にステージ終盤へ。

気づけば最終階層、ラスボスであるヴィールが待つ頂上を目の前にしていた。

「……フッ、この先へ一歩踏み込めばドラゴンが待っている。きっと壮絶な戦いになることだろう」

「生きるか死ぬかにゃーん」

いかにS級冒険者といえども、ヴィールの山ダンジョンを強行突破で駆け抜けたダメージは蓄積していて、あちこちボロボロだった。

それは途中からパートナー参加したブラックキャットも同様。

「お前たちはこの先を見たいか? 自分が冒険したわけでもない秘境のゴールを、他人が切り拓いた道を通って見える景色が冒険者に有難いものだろうか?」

なんかよくわからんこと言いだした。

「お前たちは、このダンジョンがあまりに困難すぎて攻略不可能だと言った。しかしどうだ、私とブラックキャットの二人が協力するだけで、その不可能領域も突破寸前だ」

「これがS級に求められる実力にゃーん」

「それでも、試験内容が無茶だというか? S級とは、その無茶を突破した先にあるということをキミたちに知ってほしかった。普通ならば揺るぎない成果を元に与えられるS級を試験で決めるなら、これだけの難問になるのだと」

「S級は伊達じゃないにゃーん」

彼の語る内容はもっともだが、あえてここで話すタイミング?

いや、シルバーウルフさんの意図は読めてきた。

これ以上先に進んだらヴィールと直接対決することになってしまう。

いくらS級冒険者の彼らでもヴィールと対決したら四千パーセントの確率で負けるだろう。

彼らはS級としての威厳を保つために、ああやって詭弁を弄して対決を回避したんだろうなあ。

で、肝心の呼びかけられた方の反応は……。

「たしかに……オレたちはS級を舐めていた……!?」

「S級になろうと野望を燃やしながら、そのS級自身を完璧に侮っていたんだ……!」

うわ、効いてる効いてる。

完璧にシルバーウルフさんの演説が心に突き刺さって感極まっている。

「それこそが今日の試験で皆に伝えたかったことだ。S級の称号を得ることがいかに困難で、人知を超えることであるか、そしてあまりの高みにも心を屈せず登りつ続ける精神力を養ってほしかった!」

「さあ、どうするにゃーん? どうしてもと言うならもう一回、同じ内容で試験をしてもいいにゃーん」

ブラックキャットさんからの提案に、会場が沸騰する。

「やる! やらせてくれぇええええええッッ!!」

「シルバーウルフさんのお陰で、オレの冒険者魂に火がついたんだぁあああああッッ! これまでで一番大きな炎がああああああッッ!」

「今までオレの中の冒険者の世界は小さかった! 二人が世界を広げてくれた! 広がった世界のお陰でやっとS級冒険者の真像を覗くことができた! あとは一直線に邁進するのみ!」

「どうかもう一度試験を受けさせてくれぇええええええッッ!!」

と感動ムードに陥っている。

シルバーウルフさんの真の狙いはこれだったんだろうな。

あまりにもレベルが違いすぎてスケールが図り切れないS級冒険者の実像を、できるだけ多くの見込みある人材に、一挙に伝える。

そうすることによって彼らの意識を向上させることには大きな意義がある。

きっと冒険者業界全体のレベルが底上げされることだろう。

『おい……、いつになったら来るのだ?』

そこへヴィールがドラゴン形態でニョロッと顔を出してきた。

『ここまでダンジョンを登ってきたからには、おれのところまでくるのが礼儀ってもんなのだ。せっかくだから争い合うのだ。ほげげぇえええええッッ!』

ここ農場ダンジョン、他地域のダンジョンとは色々と違う点があって話題の場所。

違いは様々あるがその一つとして有名なのが……。

ボスが奥でじっとしているとは限らないということ。

来るのが遅かったら自分から迎えに来ることなんてしょっちゅう。

自由なラスボスだった。

『ほんりゃあああああ、思い出したように使われるドラゴンブレスなのだ、ぼぇえええええええええッッ!!』

「うわぁあああああああああッッ!!」

皆で大挙して逃げ去るのだった。

冒険者にとってもっとも必要な能力、それは逃げ足。

『はーんだ、結局どいつもこいつも歯応えのない連中なのだ。これではおれもサッパリ物足りんぞ』

そうは言うがなヴィールよ。

彼らだってプロの冒険者、ダンジョンを探索しその成果をもぎ取って生還するのが使命なれば、そんな面白味があるかどうかは別問題では……。

『そうだ、いいことを思いついたのだご主人様。アイツらに手本を見せてやったらどうだ?』

は?

手本?

一体何の?

『おれたち農場のメンバーが、いかにして日頃ダンジョンをうろつき回っているかを見せてやるのだ。コイツら、ダンジョン攻略を生業にしてるんだろ? それだったらおれたちのやり方を見せつけてやるのだ。死体モドキがよくやってる課外授業ってヤツなのだー』