作品タイトル不明
918 試験に呼応する者たち その二
私の名はベリアード。
栄えある魔王軍の精鋭軍人……。
……であった。
そうやって誇りを持って名乗っていたことも今は昔。
現在はその魔王軍から除隊し、冒険者などというわけもわからぬものとなって。
その報せがもたらされた時は衝撃的だった。
魔王軍が規模を縮小し、多くの兵士を解雇するというのだから。
長年の宿敵、人間国を討ち滅ぼしてついに魔族が天下を取ったというのに、なんで我々の立場が危うくなるというのか?
逆だろ?
敵がいなくなったんだから兵士がお役御免になるのは当然だろ?
……という意見が周りから出て来ていたのだが、私には何のことやわからなかった。
そもそもだ。
このベリアードは怨聖剣及び妄聖剣の継承家系両方と縁があり、実力才能共に豊か。
充分に次期四天王の座を狙える立ち位置にいた。
それを、序列が少し及ばないからと言ってエーシュマやレヴィアーサのようなクソタワケに先を越され、あんなヤツらの下につかねばならなくなった。
『次なる四天王となるためにも、彼女らの補佐について学んだ方がよいのでは?』と言われたがくだらぬ。
なんであの二人より優れている私が、あの二人に従わねばならんのか。
しかも私とエーシュマ、レヴィアーサとは年齢的にも二つ三つしか違わぬ。
ヤツらが老いて四天王を引退する頃には私も盛りを過ぎて、天下に立てたとしてもほんの僅かな間でしかないであろうことは想像に容易い。
人族との戦争もなくなって、戦死の機会もほとんどなくなったこともあるし……。
だから突発的にアイツらが死んで、四天王の席が空く可能性はほぼゼロじゃないか!!
その結論に絶望した私はあらゆる役職を辞退し、昼間から酒を飲んで管を巻いていた。
人族を倒して仕事もなくなったんだから別にいいだろう?
戦争を勝ち抜き平和をもたらした魔王軍人にねぎらいあれ……とかしていたら、ある日……。
人事部に呼び出されて除隊を通告された。
曰く、戦争終結した魔王軍は規模縮小し、余計な人員を抱えておく余裕もなくなるから働いてないヤツは解雇だ、と。
誰が働いていないヤツだ!?
たしかに今は飲んだくれているが、戦争中は誰よりも激しく前線で暴れまくったろう!
まったく、用済みになった途端放り出すなどと恩知らずなヤツらだ。
もちろん私は抗議したが、長いこと勤務を拒否し続けてきたせいで印象が響いたのか、誰にも取り合われず速やかに除隊となった。
軍人一筋に生きてきた私が魔王軍から叩き出されて、私にどうやって生きれというのか?
長年の酒浸りが祟って実家も援助してくれないし……。
困窮に追いつめられた私はひとまずの緊急避難として、ある仕事に就くこととなった。
それが冒険者。
最近勃興してきた新職種で、ダンジョンの管理などを魔王軍に代わって行うことが仕事らしい。
しかも元々は人間国で確立された職らしく、それを知った時私は激昂した。
宿敵人間国の文化を取り入れたのか! と。
いやしくも勝者である魔族が、敗者人族に倣おうなどとは軟弱千万。
普通逆であろう!
敗者はすべてにおいて勝者に従うべし!
敗者のしてきたことはすべて間違い! 劣っている!
だからこそ敗者の因習はすべて破棄し、勝者の正しい行いに倣うべし!
それが戦いの鉄則ではないのか!?
それなのにまったく逆に勝者が敗者に倣い、その行いを学ぶなど、我ら魔族にプライドなどないようではないか!!
こんな間違いは一刻も早く正すように魔王様に進言せねば!
……と思ったけれど、魔王軍を除隊になった私には、魔王様に謁見する手立てもない。
落ちぶれたもんだ。
何より職を失った私が生き抜くためにできそうな職業としては、本当に冒険者以外に当てがない。
魔王軍を強制除隊となり、生きていくためにも賃金が必要な私にとっては冒険者になるより他なかった。
何しろ冒険者がすることはほぼ魔王軍時代にしてきたこととまったく同じなのだから。
ダンジョンへと入ってモンスターを倒す。
そんなことは魔王軍人であった時も何遍だってしてきた。
魔国でのダンジョン管理は魔王軍の仕事だったからな。ダンジョンからモンスターが溢れ出さないように適度に間引いて……。
倒したモンスターの皮なり牙なりの素材は、冒険者ギルドとやらに持ち込めばそれぞれの適正値段で買い取ってくれる。
以前は魔王軍がすべて回収し、魔国で管理していたのだが、冒険者ギルドが損代わりをしてくれることでより多くの報酬が我々の懐に入ってくるようになった。
魔王軍時代はどれだけ狩っても一定の給金しか支払われなかったが冒険者の場合、強力なモンスターをたくさん倒せばそれだけたくさんの報酬を得ることができる。
魔王軍の猛者として、日夜強力なモンスターを狩ってきた私としては作業量だけおんなじで報酬はやたらと跳ね上がるような感じだった。
始めは気が進まなかった冒険者の職業だが、務めてみれば見るほどに自分の性に合っていることがわかる。
何しろ完全な実力主義だからな!!
実力ですべてが決まる! 報酬も、地位も、生活も!
これほどまでに純然な冒険者の実力主義に比べれば、魔王軍すら各聖剣継承家系の血統主義が交ざりこんで実力だけの判断が難しいと言わざるを得ない。
あと年功序列もあるし。
私よりほんの少しだけ古株なエーシュマやレヴィアーサがいたおかげで出世の道を閉ざされた魔王軍。
しかし冒険者としての道であれば私は頂点を狙えりゃああああああああああああああああああああああッッ!!
そう思って日夜ダンジョンで剣を振るい続けていた、ある時のこと……。
* * *
その日も私はダンジョンでの戦いを難なく終えて、酒場で『今日もたくさん稼げました』の祝杯を挙げていた。
とはいえ、ここまで乱獲しまくるとダンジョンのモンスター総数も減ることだろうから、潤沢な猟果を保持するためにはそろそろ他のダンジョンに行かんとかなあ……などと考えていた時でもあった。
急に酒場にギルド支部の長がやってきて……。
「魔国の冒険者諸君、そのまま聞いてほしい。本国の冒険者ギルドから連絡が入った」
などと言ってくる。
本国といえば人間国か……。『冒険者といえばまだまだ人間国が中心なんですよ』と言わんばかりの口ぶりがなんとも気に入らない。
ギルド支部長は、とりもなおさず続ける。
「S級冒険者であるシルバーウルフ様がこのたび、現役引退を発表された! シルバーウルフ様は現職のギルドマスターでもあり、その職務に専念するというのが引退の理由とのことだ!」
へー。
S級冒険者か。よく知らんが引退することがニュースになるぐらいの大物ってことか。
……え? 何?
S級は、冒険者等級の最上位? A級の上?
いやまさか!
私ですらまだB級だというのにか! これだけ毎日たくさんのモンスターを狩ってなおA級に上がれないのに、さらにまだ上がいるとはどういうことだ!
おい! 私も早くS級に上げろ!
そんな私の不満も知らずにギルド支部長まだ続ける。
「まあ、S級冒険者の引退とはいえ、ここにいるお前らにとっては『だからどうした』ぐらいの話題だろう。なんでそんなこといちいち報じるのか。本題はここからだ。シルバーウルフ様の引退に伴ってS級冒険者の席が一つ空く。よってその席を埋めるために新しいS級冒険者の選出を行うことが決まった!」
ん?
それはまさか……!?
「そう、ここにいるお前たちにもS級昇格への挑戦資格が与えられるということだ! A級は強制参加、B級以下でも希望者には昇格試験に参加できる! 我こそはと思うものは奮って参加するのだ!!」
なんということだろう。
すると私もまたS級になれるってことか?
フッ、チャンスさえ与えられれば、この魔族最強と言っても過言ではないベリアード様が失敗するはずがないではないか。
魔王軍にいた頃は、ほんのわずかな生まれ時期の違いで最高峰たる四天王に手が届かなかった。
しかし冒険者なら!
冒険者の業界であれば違う!
冒険者なら年齢、決闘、種族、何も関係がなくただ実力さえあれば上へ行くことができる!
何て素晴らしい世界なんだ!!
最初こそ忌避感があったものの、今では私もすっかり冒険者に染まり切って、もう魔王軍に戻っていいと言われても戻る気は起きないな!
しかし今こそ目の前の事態に集中すべき!
S級昇格試験!?
この最強実力者であるベリアード様が挑むに相応しいではないか!
いいだろう、この私が挑戦し、魔族初のS級冒険者になってやろうじゃないか!!