作品タイトル不明
901 今、スイカを切る
まだまだスイカの素晴らしさを皆に広めていくぞ。
スイカは美味しいが、それだけではない。
スイカの凄さは、ただ味で人を楽しませるだけでなく、他の方法でも人を熱狂させる要素を持っている。
それが……。
「スイカ割り!」
……という遊びを御存じだろうか?
波打ち際のエキサイティングスポーツ。
海水浴へやってきたパリピが行う、ビーチバレーに次ぐ賑やかな遊び。
ヒトの楽しみのために生贄に供される、それがスイカの役目なのだ!!
「なんか興奮してるけど、どうしたのよ旦那様?」
「新しい食い物なのだー! おれにも食わせろー!!」
例によって食い物の匂いを嗅ぎつけ、農場の面々が集まってきた。
いつも通りだ。
しかしいいタイミング、ギャラリーが多いほど披露も盛大になるんだから。
では早速スイカ割りを御照覧いただこう!
「いや、おれは早くこの新しい食い物にかぶりついてムシャムシャ咀嚼したいのだ」
ヴィールそれはあとにしなさい。
試食タイムに間に合わなかったお前の落ち度だ。
今はステージが進んでしまったんだから、それが達成されるまで大人しくしておれ。
ということで移動だ。
何しろスイカ割りは、海辺の砂浜でするものだからな!!
幸い農場には近場に海岸があるので、ロケーションのために移動するのも全然手間じゃないぜ!!
うーん、いい感じに太陽が照り付けて熱い砂だなあ。
足の裏が焼ける!!
「それでこんなところまで何やらかす気なの旦那様? いつぞや言ってたビーチバレーってヤツ?」
「知ってるぞ! 海辺の砂場でボールを叩きつけ合う遊びだな!……わかったのだ! このスイカをボール代わりにするんだな!」
「なるほど、それはいい着眼点ね」
プラティとヴィールの中でビーチバレーとスイカ割りが融合していた。
それはそれで新しいタイプの遊びが生誕しそうだが、今日のところはオーソドックスなスイカ割りを楽しもうではないか。
「いいか! これから始めるゲームの説明をする!!」
「そんなことよりスイカを食わせろー!」
ええい煩いなヴィールが。
このマイペースぶりが、さすがドラゴン。
「ゲームの目的は、このスイカを割ることだ! バットを使って、スイカ目掛けて振り下ろす! そうすることでスイカは割れる!!」
「なんだ、そんなの簡単じゃない。どこにゲーム性があるのよ?」
なんだプラティ?
お前まさか、ヌルゲーはゲームじゃないとか言いだしちゃう輩か?
その議論は紛糾しそうだから今は置いておくとして……。
もちろんただ割るだけではゲームは成立しない。ゲームをゲームたらしめるための、ひと工夫が必要だ。
「それがこれ、目隠し!」
「目隠し?」
そう、スイカを割らんとする者は自分の目を布で塞ぎ、視覚を封じるんだ。
見えなければスイカがどこにあるか確認できない。
プレイヤーは無明の中でスイカの位置を手探り推測し、探す!
それがスイカ割りの醍醐味なんだ!!
「なるほど大体わかったわ! したらばさっそく実践ね! 皆でスイカをカチ割るのよ!!」
え?
皆?
次の瞬間、現れた光景は……。
農場の住人何十人かが一斉に目隠しをつけて、そしてスイカを求めてうろついている光景だった。
「どこだ……スイカどこだ……!?」
「うわ、ぶつかった!?」
「わかった、ここだなスイカ!!」
「いてぇええええええッッ!?」
なんで皆で一斉にやるの!?
そんなの意味不明だし何より危ないじゃないか!?
「え? 皆で一斉にスタートして、最初に割った一人が優勝ってゲームでしょう?」
無闇に争おうとするな!
スイカ割りチャレンジするのは一人ずつ!
他の人は、目隠しで見えないプレイヤーに口頭でスイカの位置を教える指示厨になるんだよ!
そう、スイカ割りは争いのゲームではない!
スイカを割る係、スイカの位置を教える係で力を合わせて目的遂行する、協力のゲームなんだ、わかったか!!
わかったら速やかに正常な形態へ移行!
ハイ、最初は誰がやる!?
ファーストバッターは、誰!?
「そんなに言うならご主人様がやったらどうだ?」
え? 俺?
「そうね、何事も知ってる人がお手本を見せるべきだわ! 行け旦那様!!」
そんなピ○チュウをけしかけるみたいに言われても……。
彼女らの言い分にも一理ある。
文句つけてばっかりで指一本も動かさないではたしかに伝わりづらい。
ここは一丁、俺がスイカ割りの何たるかを体で示してやろうじゃないか!!
目隠し装着!
バット装備!
これがスイカ割りの正装。これにて目標のスイカを一刀の下に叩き割ってくれようではないか!
「いけー旦那様! 気持ち右よー!!」
「右にズレすぎなのだ! 十一時の方向に軌道修正なのだー!!」
「右、下、右下、パンチ!!」
「↙→↘↓↙←↘+BC!」
外野からの指示に従って……、恐らくこれで俺の足元にはちゃんとスイカがあるはず!
チェックメイトだ!
上段振り下ろし切り!
スカッ!
あれッ?
宙を切った。ハズレ?
バカな、皆の指示も俺のエイムも完璧だったはず。
なのになんで何も当たらなかった?
『聖者様ぁあああッッ! やりましたぞぉおおおおおッ!!』
そ、その声は!?
『この樹霊モバイルスイカ! 他の樹霊たちとの度重なる討議の結果! スイカに憑依することとしましたぞ! これより私がスイカに乗り移って、いかなる脅威からも守ってみせましょう!』
ってことは何か!?
俺がバットを振り下ろそうとした瞬間、樹霊がスイカに憑依して回避したというのか!?
自分から移動するスイカをスイカ割りしようなんて、難易度が爆上がりじゃないか!
違うゲームになっちゃうよ!
「ああッ! 旦那様スイカが右に逃げたわよ! いや左!? 上下!? えッ、あれは残像!?」
外野からのナビゲーションも混乱して意味がない!?
周囲からヒュンヒュンと空気を切り裂く音!?
『ふはははは! どうですか聖者様、私が乗り移ったからには、もう誰であろうとスイカを傷つけることはできませんぞー!』
収穫の終わったスイカまで守ってどうするの!
いかん、使命に忠実すぎる樹霊の暴走ですっかりスイカ割りのゲームバランスが崩れてしまった!
「旦那様、こうなったら心の目よ! 曇りない精神の知覚で、スイカの動きを先読みするのよ!!」
またそんな少年漫画ならではのトンデモ設定を!?
心の目なんぞで何でも見えたら苦労はしないわ! どうせ種明かししたら『物凄く耳がいい』とかそんなオチなんだろ!
しかしまあ感じるぞ……。
この優しい気はプラティだ。この大きなのはヴィールだな。
……来る。
巨大なフルーツのエネルギーだ。
凄いトロピカルを撒き散らして、こっちに迫ってくる。
コイツが、コイツが……!
コイツがスイカだぁあああああああッ!!
「スイカ割り斬!!」
スイカ割れた。
俺が心眼を会得したという思わぬオチがついて、スイカ割りは見事成功裏に幕を閉じたのであった。