軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

899 トランプ雑記

こんな風に気づけばトランプが世界中に広まっていった。

別に意図したわけじゃないんだが、なんでだろうな?

なんかもう周囲も俺がなんか開発したら一大ムーブメントになることを経験則的に見抜いているのか、鵜の目鷹の目で同行を見守っている。

そして気づけば疾風の勢いで情報が伝播していくのだった。

本当なら異世界で流行っていくゲームというとリバーシが定番なんだがな。

何故かリバーシが流行らずにまずトランプが流行ってしまった。

なんでだ?

別に逆張りしたつもりはないんだがな。

強いて理由を述べるなら俺がオセロ苦手だってことから?

角が取れねえんだよ、角が。

それで場当たり的に置いていったらいつも負けるんだよ!!

そういう経験からオセロについては無意識的に避けていたのかもしれないが、こんだけトランプが流行った今ならオセロを流行らせていってもいいんじゃないかと思える。

いやリバーシか。

しかし今はとにかくトランプの話。

話のスケールが大きくなると自然弊害も出てくるもの。

案の定トランプ騒動においても予期せぬ事態が発生したとかで、俺へ助けを求める声が上がった。

俺はカスタマーセンターじゃねえっつうの、と思いつつ、異世界に持ち込んだのは紛れもなく俺なんだからアフターケアをするとしたら俺しかいねえ。

……ってことで仕方がないから駆けつけるのだった。

* * *

で、一体どんなトラブルが起こっているんだい?

と巷に駆けつけて見たら、思った以上にエラい状況になっていた。

トランプが飛んでいた。

クルクルと弧を描いて中空を駆け抜けるトランプ。

街の皆がトランプを投げて遊んでいる!?

「こ……これは!?」

トランプを投擲用の武器に見立てる遊び!?

なんてこった! トランプを持ったら誰もが思い描く妄想を、遅まきながら異世界の人々もハマったって言うことか!?

「フフフ、我がカードは特別な職人に作らせた切れ味抜群のゾリンゲン・トランプ!」

「我が名はジャック! スペードのジャックです!」

「投げたトランプを拾うな貧乏くさい!!」

「必殺! トランプの雨!」

スタイリッシュな戦闘スタイルに目覚めた人たちの乱舞の場となっていた。

もちろんこれはトランプの正しい使い方ではない。

トランプは、ルールを守っておだやかに遊ぶための遊具。

周囲に被害が被るような危険な使い方はしちゃいけない。

「これは看過できない事態だ……! 俺にできるなら何としてでもこの流れを止めたいものだが……!!」

大体トランプを武器にして戦うって。

一昔二昔前ならよかったかもしれないが、今は相当に恥ずかしいぞ!?

トランプって!

なんでトランプ投げて突き刺さるんだよ、せめて投げナイフか手裏剣だろ!

トランプを武器にして戦うなんて今のご時世カッコ悪すぎるぞ!

『お前何だかトランプを武器にして戦いそうな顔だよな』が最大級の罵倒になるんだぞ!!

どうすれば、彼らのトランプに魅了された心を呼び戻すことができる?

悪い形で魅了された心を!?

そうだ!

俺の中で閃く名案!

俺もトランプを投げるぞ!

シュッシュッシュッ! 山札のトランプから連射的に飛ばすトランプ!

その一枚がロウソクの上部をかすめて、見事に炎を消す!

え!?

いつの間にロウソクが!?

いや俺が用意したものだ。

投げたトランプでロウソクの炎を消す隠し芸!

これからばトランプを投げるという行為は、危険な遊びではなく隠し芸に昇華する!

「おおおおおッ!? 何てクールなんだ!?」

「ただカードを投げるだけではダメなんだ! 投げた先の目標がないと!」

「オレも投げたトランプで火を消せるように頑張るぜ! 正確な狙いと投げる時のスピードがカギになるんだな!?」

目標もなく振り撒かれる力はただの暴力。

しかし一点に目標を見詰め、ひた向きに進んでいくならば何かしら新しい何かが生まれるかもしれない。

これもまたゲームとは別口の、トランプの楽しみ方と言えよう。

何事も楽しみ方は人それぞれだ。オリジナルに対するリスペクトがあり、周囲に迷惑さえ掛からなければ無限の可能性が、俺たちを待っているのだ。

存分にトランプ投げテクニックを鍛え上げてくれたまえ。

これでトランプから生まれた予期せぬトラブルは収束を迎えた……のかな?

* * *

騒動を治めて、農場に戻る。

何やら大層無駄なことに体力を消費したように思った。

想像以上に様々なところへ影響を及ぼし、それらにへの対処で追われていたけれど、一番重要なことに対する成果が今のところどうだろうか?

そう、ジュニアがトランプをどう受け止めてくれたかだ。

我が子に楽しんでもらうためにトランプを異世界で開発したというのに、周囲がそれだけリアクションしても仕方がない。

今回最終的な成果をたしかめるためにも、ジュニアの下へひた走った。

……。

到着した。

いつもここでジュニアは遊んでいるはずだが……。

……どうしたことか? 人の列ができているぞ?

しかも長蛇の列。

これだけ多くの人が並んで、長い線になって……いったい何人いるんだ?

しかも列を作っているのは全員女の人?

農場に住むエルフやらサテュロスやら、バッカスのところの巫女さんとか、あとは農場学校の生徒か……。

その中から女性だけが選りすぐって行列を作っているなんて、一体何事?

俺は真実をたしかめるために、行列を遡行してみる。

その間ならんでいる女性たちから『あッ、聖者様ズルいですよ!』『ちゃんと並んで順番待ちしてください!』などと言われたが、俺はこの現象の正体をたしかめたいだけなんだ!

けっして順番飛ばしをしたいわけじゃないので、ズルじゃないんで見逃してくれ!

そうして行列の一番先頭まで到達して俺、驚愕。

「ジュニアッ!?」

行列の先頭にいたのはジュニアだった。

何故に!?

行列と向かい合って、何十人と続く女性たちを待ち受ける形になっているのがジュニアではないか!

「はいはい並んで並んでー。順番を守らない人は受け付けないわよー」

プラティもいる!?

そりゃ息子い母親がワンセットなのは安心するが、そしたらなおさらこの状況の意味がわからない。

大人のプラティが制限することもなく、むしろ乗っかっているということか!?

「あら、ご主人様? ダメじゃない行列を飛び越えちゃ。順番を守らない人は受付しないわよ?」

「いや俺は……!?」

この行列の先で何が行われているのか知るために駆け登ってきたんだが?

一体ここで何が行われているの教えてプリーズ。

「仕方ないわねえ、そういうことなら実際みれば一目瞭然よ、ねえジュニア?」

「レッツ、うらないー」

うらない?

力ない掛け声とともにジュニアの手の中でシャッフルされるトランプ。

トランプ!?

まだ子どもだというのにカード使いが手馴れている?

ショットガンシャッフルまで!? カードを痛めるぞ!?

「うんめいのかーどはー、これー」

山札の中から一枚ドローしたカードは……。

「ハートのえーすー、れんあいうん、ぜっこーちょー」

「きゃああああああッ!! ありがとうございます! ありがとうございます! これでアタックする自信ができましたああああッッ!!」

喜びの叫びをあげるのは、行列の先頭にいた女の子。

飛び上がってスキップを刻みながら駆け出して行った。

それから交代するように、行列の二番手に並んでいた女の子がウチのジュニアに迫る。

「導師! どうか私を占ってください! 具体的には告白に成功するかどうか!」

「しんじるものは、すくわれるー」

これはつまり……。

ジュニアが、彼女たちの運勢を占っている? トランプで!?

「トランプを貰ってからジュニア、面白そうに弄ってたんだけど、ある時から変なことを言いだしてね」

プラティが解説してくれる。

「それがどうやら近くにいる誰かの未来を言い当てるものらしくて、それがピッタリ当たるものだから皆ジュニアに占ってもらいたくて、それで長蛇の列ができたってことよ」

女の子は占いが大好き!!

俺がトランプ遊びに騒乱する周囲の対応に追われている間、ジュニアがそんなことになっていたなんて!?

たしかにトランプの源流はタロットカードなんて説もあるほどだから、いや逆? トランプとにかくトランプで占いしたって何も問題ない!!

トランプで知的に遊んでほしいと思っていたのが、まさかこのようなことになるとは。幼いながらも才気に溢れたさすが俺の息子だぜ!!

そんな感じで目的も無事(?)果たせて、トランプにまつわる諸々のお話はこれでいったん終了といたす。