軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

897 ポーカーフェイスの作法

本格的にトランプが流行りだした。

農場の住民たちも作業のちょっとした間や、夜の静寂にカードを囲ってワイワイ盛り上がっている。

そんな中で、一際異彩を放つ集まりがあった。

「プラティたちがポーカーしてる……!?」

気づけばウチの妻プラティが卓を囲んでゲームに興じていた。

何にしてるの? と覗き込んだらポーカーだ。

手に持っている五枚の札の絵柄、その組み合わせを睨んでウンウン言ってるんだからポーカーで間違いあるまい。

無論ポーカーをやるには一人ではできず、卓には計四人の錚々たる面子が揃っていた。

まずウチの妻であるプラティ。

その母である前人魚王妃のシーラさん。

現役人魚王妃パッファ。

プラティの妹エンゼル。

プラティはシーラさんの長女でもあるので、これはもはや人魚王家の女性陣が揃い踏み。

この人たち皆、人魚国から遊びに来たの?

カードゲームのために?

そんな顔ぶれでポーカーなんてやってるから、雰囲気に威厳が伴いまくってるんだよな。

夫たちが男子中学生のように大富豪でワイワイやっている間に、奥さんたちは何て渋い大人のカードゲームに興じているのだろうか。

ここら一帯だけラスベガスみたいじゃん。

「……レイズよ」

そう言って場にコインを上乗せするプラティ。

動作が堂に入りすぎている。

「おやおや、さらに勝負に出るとは余程上手いカードでも巡ってきたかねプラティ?」

「ハッタリで凌ぎきるには相手が悪いわよ。ママたちだってマンボウハートで乗り切れるような安い勝負ばかり乗り越えてきたわけじゃないですからねえ?」

「さらに勝負よ! 十枚レイズ!!」

エンゼルだけが場違いなほどに軽率に、勝負を挑んでくる。

何この? シカゴのマフィア同士で繰り広げられるような緊迫したやりとりは?

カード一枚を裏返しただけで人が死にそうなほどの緊張感に包まれている。なんでこんな雰囲気を醸し出せるの、ウチのカミさんとその親族は!?

「ならばコールよ」

プラティが宣言し……。

「クィーンのフォーカード!」

「何クソ!? ハッタリじゃなかったのかッ!?」

自信の通りの強役で、コインを総ざらいしていくプラティ。

「ぎゃあああああッ!? コイン全部なくなった! お姉ちゃん新しいの頂戴!」

「やるわけないでしょう。地下労働でもして稼いできなさい」

そして軽率に張り続けたエンゼルはあえなく手持ち全部スッて脱落となった。

「あら旦那様? 父親たちの会合はもういいの?」

「うん……リテセウスくんが乱入したおかげで、人魔人魚三ヶ国の協調へ向けた政治談議にシフトしちゃったから……!」

自然、俺がのけものになってしまった。

子どもらは今、ディスカスたち新世代魔女チームが見ていてくれて、今日は父親も母親も子育てから解放されて羽を伸ばす日……ということになっている。

最初は父親同士、母親同士でワイワイやろうとしていたんだが、前述の状況で俺が手持ち無沙汰になっちゃったから、こうしてママ友会の様子を窺いに来たんだけれど……。

「随分と渋いゲームをしているねえ……!?」

ポーカーなんてトランプゲームにおいてもっとも大人向けなゲームではありえまいか?

一から説明するとポーカーは、カードの絵柄合わせゲーム……といったところか。

トランプ全五十四枚の中から無造作に配られた五枚のカードで、ある一定の法則性をで結び付けて役を作り上げる。

その役のレア度で勝ち負けを決めようというゲームだ。

ゲーム中は一回だけ、手持ちのカードからランダムに交換することを許されて、それでもって役ができる可能性を上げる。

ただしそれだとカードを配る、交換する、伏せカードオープン! 田俊二にゲームが終わってしまう。

一発勝負で終わらせずに、ゲームに奥行きを出すためにも必要なのがギャンブル要素。

カジノの定番であることも、ポーカーがトランプゲームの王様ポジションに君臨している理由の一つだろう。

お金を賭けて……勝てば総どり負ければスカ。

そんな要素を交ぜ込んだからこそ、負け分を取り戻すためにさらなるゲームに臨んだり、勝ってさらにお金を賭けることもできる。

一回だけの勝負でなくなったということだ。

各プレイヤーの中でお金の流れが生まれることにより、数回にわたるゲームの総合勝負になって流れが生まれた。

さらには賭ける金額を増やすことにより『それだけ自信があるのか?』→『強い役なのか?』という駆け引きの要素まで加わり、より面白い、大人もハマるゲームに昇華したというわけ。

やっぱゲームってのは金を賭けると段違いに違ってくるんですよ、面白さが。

破滅者の理論。

そういうわけでトランプDEギャンブルといえばポーカーと言えるほどの定番ゲームに。

ポーカーフェイスなんていう言葉が一般的に広まるぐらいであった。

「……で、今は誰が勝ってるの?」

「あら、見てわからない? 圧倒的な差なんだけど?」

いや、わかる。

たしかに傍から見ても一目瞭然なぐらいに勝ちまくっているよね。

プラティが。

彼女の胸元には、多分他の連中から巻き上げたのであろう集約されしコインが山と積み重ねてあった。

念のために明言しておくが、このコインは実際の貨幣ではなくゲーム用のおもちゃ。

金銭的価値はまったくないけど、まあゲーム内通貨として活用されている。

とはいえちょうどジャストな大きさだから子どもたちが誤飲の危険性もあるので、扱ってる時は子どもを近づけさせないようにという決まりがあった。

てなわけでマダムたちオンリーで行われるポーカー大会。

さっきもえらく強い役で上がっていたし今ギャンブルの女神はプラティに微笑みかけているということか。

これほど気紛れな女神もいないだろうがな。

「ぐぬぬぬぬぬ……!」

そして戦況は事実なのか、パッファが悔しげにグヌッていた。

久々の農場来訪なのにギスッているなあ。

さらには実母のシーラさんだけど……。

「プラティちゃん、いい気になるには充分なんでしょうけど、そういう時こそ足元をすくわれるものよ。アタシの長女はこんなに状況に酔いしれやすい女だったのかしらね」

「ママこそ、そんなに負け惜しみが出てくる女だなんて知らなかったわ」

「ぐぎッ!」

プラティ煽らないで。

実母を全開で煽らないで!

「アホのエンゼルは早々に全コイン失って地下送りになったけれど、そんな無様な二の舞を演じるつもりかしら? ママもお義姉さんも、ここで土下座して頼めばコインをいくらか融資してもかまわないわよ。もちろん良心的な利子率でね?」

「ぐぉおおおおおッッ!! プラティごときがいい気になりやがって! やったらぁ! 残りのコイン全部ベットじゃああああッッ!!」

まんまと挑発に乗ったのがパッファ。

赤布に突進する猛牛のような真っ直ぐさで持ってるコインのすべてを突き出す。

賭け事で熱くなるタイプか。

「ダメよパッファちゃん冷静になって。明らかにこれはプラティちゃんの罠よ」

「ですがお義母様! あそこまでおちょくられて引き下がったら人魚王妃の沽券が!」

不利な状況で結託する新旧人魚王妃。

しかし勝負の流れはプラティに味方しているように思えた。

実際プラティの表情には『絶対負けない』とばかりの自信がにじみ出ている。

この世のすべては思い通り。自分が勝者の座から滑り落ちることなどないと確信しているような?

人間そこまで自信たっぷりになれるものか?

「……ええい、わかったわ。だったらアタシも全額ベットしましょう。思い上がった娘に人生の厳しさを教えてやるのも母の務めよ」

「さすがママ、大勝負の舞台が出来上がったわね! これでアタシが人魚王妃や人魚太后より偉いって証明してあげるわ!!」

これはもう完璧にプライドを賭けた戦い。

しかし俺は、プラティのこの不自然なまでの自信のデカさが気になり、彼女への注目を凝らしていた。

不審騒わかる。これでももう長年連れ添った夫婦ですから。

「じゃあカードを配るわねー」

と言ってプラティがシャッフルする。

カードはプレイヤーで配るんか……。ディーラーがいないから当然かも知らんが。

……ん?

「はい、これがママの分―、兄嫁の分―、アタシの分ー」

「ちょっと待った」

プラティのカードを配る手を止める。

「ん? 一体どうしたのかしら旦那様?」

「今、カードの山の一番上を配ろうと見せかけて、上から二番目のカードを配ろうとしたね?」

俺知ってるよ?

それってイカサマだよね?

『セカンドディール』って名前までついている割かし有名なイカサマ。

それを使って自分に都合のいいカードが手元に来るようにしていた?

「テメェええええ! ズルしてやがったのか!?」

「見そこなったわプラティちゃん! アナタをそんな子に育てた覚えはないわよ!!」

イカサマにまったく気づいていなかったシーラさんとパッファが紛糾。

さすがにトランプが普及したてのこの世界。イカサマの概念までまだ生まれてはいなかった。

そんな中でイカサマを実践し、それでもって勝負を有利に進めていたプラティはやはり天才というべきか?

悪い意味での天才だが。

とにかく悪い方向に才能を活かそうとするプラティは、俺がしっかり手綱を引いておかなければ。