軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

895 二人より四人

トランプは二人でやる遊戯ではない。

少なくともババ抜きと七並べに関しては。

それでも二人でやるトランプ遊びの中にも楽しめる種目があるんじゃないかと思い、色々記憶の中を検索してみた。

あった。

神経衰弱だ。

「しんけい……すいじゃく? なんなのだソレは? 精神干渉系の間接攻撃スキルか?」

ヴィールが神経衰弱の字面に戦慄していた。

たしかに言葉の意味を問いだすと怖いよな神経衰弱。

このゲームの考案者は何を思って何を思ってこんなネーミングにしたんだろう?

ツイスターゲームを考案したヤツと並んでわけがわからん。

まあ実際にやってみると、そこまで恐ろしいゲームでもないんだが。

闇のゲームってわけでもない。

裏返しにして並べたカードを選んでひっくり返し、もう一枚ひっくり返す。

同じ数字だったらOKで自分のものとなり、さらにカードをひっくり返せる。違う数字ならハズレ、順番が別のプレイヤーに移る。

外したカードはまた裏向きにして同じ場所に放置しておかねばならない。

最終的にたくさんカードをとった人の優勝。

このゲームならプレイヤーたった一人であることで確率確定は生じないし、一緒に伏せられたカードの海に立ち向かっていくという方式だから、まあ二人でやっても楽しかろう。

「がーっはっはっはっは! 要するにこれは記憶力がモノを言うゲームだな!? どこに何のカードがあったかというのを覚えておけば必勝なのだ!」

ヴィールが早くも神経衰弱の何たるかを掴んでいた。

コイツ、普段力任せのアホのように見えて案外地頭はいいからな。

ドラゴンという究極生物であるからして、知能だって基本性能は人間の遥か上を行っている。

しかしながら筋力魔力破壊力など全能力が全生物中トップクラスなだけに知恵が必要なシーンもなく、使って磨かれる機会もないままにアホと思われているのがドラゴンの全体的な印象よ。

元来頭がいいはずなのに強いおかげで頭悪くなってしまっている悲しいモンスターってこったな。

話を神経衰弱に戻すと、たしかに勝ち抜くために記憶力は必要不可欠ではあれど、それだけで勝てないのも神経衰弱の奥の深み。

何故って、どこに何のカードがあるかは結局めくってみないとわからないんだから。

そして揃えることに失敗しなければカードはそこに止まらない。

相手もしくは自分の失敗によってのみカードの位置を把握し、それを正確に記憶することによってゲームを有利に進める。

トライ&エラーの極致というべきが神経衰弱というゲームだろう。

このゲーム、ヴィールが圧倒的に不利に見えて実は圧倒的に有利だ。

さっきも言った通りドラゴンは普段アホだと思われつつも、本当は頭いい。

究極生物は賢さだって他生物を遥かに凌駕しているのだった。

だからこそ盤上のカードの並びなど一瞬で記憶できるに違いない。

そんな最強種族に、人間の記憶力がどこまで太刀打ちできるか。

「あッ、間違えたのだ」

普通に太刀打ちできた。

どうやら記憶力も戦闘能力もすべてが桁違いなドラゴン。

あまりにもスケールが違うがゆえに、小さなことは些末事としてすぐ記憶から抜け落ちるようにできているんだろう。

俺たち人間としても服の細かな模様がすぐ忘れてしまうのと同じように。

究極で大スケールな生物であるがゆえに、細かなことに対応できない。

やっぱり悲しきモンスターだった。

対する俺は、歳も取ってきたし記憶力については衰えはしてきていないかな? と不安ではあったが、ところがどっこい。

案外まだやれるぞ俺の記憶力!

まだまだ二十代相当!

このカードだ! 当たった!

次はこっちのカード! ペアだ!

ああ、なんて楽しい神経衰弱。

面白すぎて背景に花が咲きそう。

そんなわけで終わってみると俺が二十九ペア取ってヴィールが二十三ペアという成績で終わった。

意外に僅差。

途中からヴィールがスケールの小ささに適応するようになって巻き返しが凄かった。

次やったら多分勝てん。だからもうヴィールとは勝負しない。

「さて……やっと三種目目でまともなゲームができたがどうだった? 楽しいトランプ?」

「何とも言えねえのだ……!」

ここまで来てもヴィールの反応がいまいちだった。

過程が過程だったからな。

二人ババ抜き&二人七並べのグダグダがまだ記憶に新しいのか、神経衰弱さんの孤軍奮闘ではまだ心に突き刺さらないようだった。

こうなれば致し方ない。

やはり二人だけでトランプすることに無理がある。

トランプするのに適正人数はやっぱり四人! あと二人どこからか呼んで来よう!!

「誰かぁああああああああッッ!! 誰かいませんかぁああああああああああッッ!!」

大声で呼んだ甲斐あって、応える者たちがいた。

一人はノーライフキングの先生。

もう一人が酒の神バッカス。

ただのトランプ遊びに相当な面子が集まってしまった。

ドラゴンと不死の王と半神と、ただの人間。

俺だけ存在が浮きまくっていませんか?

「ご主人様がんなこと言っても自虐ネタの域を出ねえぞー」

『まことに、世界に二人とおらぬ、世界を調和せし聖者様ですからのう』

先生までそんな持ち上げたことを言って……!?

まあいいや。

そこはあまり深く掘り下げずに、トランプに集中しよう。

皆カードを配るぞー。

先ほど説明した通りにペアになったカードを捨ててくれー。

「放っとかれてばっかっす!」

名前だけ紹介されてあと放置だった酒の神バッカスが広義の雄たけびを上げた。

うるせえさっさとババ抜きの準備しやがれ。

そう、俺たちがこれからやるゲームはババ抜きだ。

いわばババ抜きリベンジ。

クソ面白くもなかったタイマンババ抜きから二人のプレイヤーを加えてカルテットでおこなう。

これならババの所在も自分を除けば一/三になってどこにあるかは俄かにわからない。

よりゲーム性も深まって、少なくともさっきよりは楽しくなること請け合いだった。

まず手元にあるペアカードを抜いてゲームの準備を整える。

「では始めましょうぞ」

「負けたら私の作った酒を一気飲みということで!」

流れるように罰ゲームを設定するな。

こんな昼間っから一気飲み強要か? これから家族で夕食なんだけどさ。

まあいい勝てばいいんだから。

というわけで聖者・ドラゴン・不死王・半神によるババ抜きスタート。

とはいえ序盤はサクサク進む。

引いたカードでペアを作って捨てていくだけなのだから。

とはいえ四人もプレイヤーがいると、自分の引く相手が必ずペアを持っているという確証もなく、縁もゆかりもないカードを引いてターンを浪費するなんてこともあるにはある。

これは二人プレイの時にはけっして起きなかった現象。

さらにはどこに潜んでいるかわからないババの存在に想い馳せた時に緊張感も馳せ、確実にゲームとしての楽しさが迸っている。

そうしてトントン拍子でペアカードは捨てられていき、各自の所持カードも絞られていく。

「よーし! 最後のカードが揃ったのだ! 一抜けだぁあああああッッ!!」

そんな中ヴィールのヤツが最後の一枚をペアにして手札ゼロ枚にしやがった。

わずかにプレイ経験があるからと言って、この竜できる。

とはいえババ抜きは、他のゲームに比べれば運のウェイトが遥かに重いゲーム。

ババが来るか、ペアになるカードが巡ってくるかも運次第。

精々プレイヤースキルが活かせる要素といえば、ババを引くか引かないかの時に発揮できるポーカーフェイスぐらいか。

自分がババを持っていた時、相手がババを引きそうになった時にニンマリ顔など作っては言語道断なのであった。

「……あの、先生?」

『うむ?』

「先生の周囲に悪霊が寄ってきてるんですけれど?」

先生の発生する瘴気に反応して悪霊が!

悪霊がわらわら集まってくる!?

もしかして俺が先生から引こうとしてるカード、ババじゃない!?

残った一枚のカードがババですか!?

手元にババが残ろうとするから、露骨に表情出るどころか周囲の空間にまで感情を伝播させるのはどうかと思う!?

『ノーライフキング様、相手のカードは五です。引けばノーライフキング様のカードとペアになって上がれますよ』

おいコラ悪霊!!

こっちの手札見て主人に教えるんじゃねえイカサマだイカサマ!!

……ドラゴンもまた最強種族であるだけにトランプへの順応が大変だったが、同じ最強種族のノーライフキングもまた色々順応に差し障りがあるようだった。