軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

891 人材を求めて

ハローエビバディー、俺です。

なんだかとっても久しぶり。

何とも平和な日々を過ごしていた俺の下へ懐かしき来客があった。

リテセウスくんだ。

かつての農場留学生。

この農場であらゆることを学び、そして晴れて認められて卒業していった若者の一人。

今では、立て直された新人間国の代表として引っ張って行ってるんだから卒業生の出世頭というべきだろう。

そんな彼が久々の農場来訪。

これは諸手を挙げて歓待せねば。

しかしながらリテセウスくんは、ただ旧交を温めるためとか、ちょっと近くに立ち寄った絡みたいな気軽な理由で訪ねてきたわけではないようだ。

もっと明確で、さらには切実なものを瞳の奥に隠し持っていた。

「人材不足?」

「そうです。新生人間共和国は今や空前の人材不足なのです」

これまでにない真剣な表情で言うリテセウスくん。

「現状の人間国首脳部は、かつて王制だった頃の重臣文官をそのまま流用しているんですが、そのせいで古い考えが未だに抜けきれていません。大統領としてトップに立っている僕が、生涯国の代表であると思っているし、将来僕の息子が大統領を継ぐと思い込んでるんです!」

「それって大統領っていうより王様じゃん」

「そうなんですよ! 彼らは大統領と国王の違いを理解できないんです!」

そんなバカな……と思ったけれど、長く慣れ親しんだ制度の変化を受け入れられないというのは、ある程度仕方のないことなのかもしれないな……。

自分の知っている世の中が未来永劫続いていく。……それは人なら誰もが抱え込む改め難い幻想なのかもしれない。

「しかしそんな人たちの考えに合わせていたら人間国の改革はいつまでも進みません!! 彼らは、僕に自分の娘を嫁がせようと日夜熾烈な権力争いをしているんです! 政務そっちのけで!!」

「よくある暗闘劇だのう」

「そして僕がエリンギアさんをお嫁に貰ったら結託して排除しようとする始末! 彼らを抱えていたら人間共和国はいつまで経っても変化できない! そう確信したのでした!!」

えッ?

リテセウスくん結婚するの?

そっちの方を早く言ってよ、お祝いの品を贈らなきゃ。……ああウェディングドレスいる?

バティに作らせようか?

「結婚式の準備より今は人員の刷新。新しい人間国に相応しいフレッシュな人材を確保する方が先決です!」

「お、おう、そうだね?」

新しい革袋に新しい葡萄酒云々ってヤツだね?

リテセウスくん積極的だねえ。

前からそんなにアグレッシブな子だったっけ?

大統領という立場が彼のメンタルにけっこうな影響を及ぼしたということか?

「そこで、ここ農場を訪ねたんですが……」

「あ、まさか……!?」

いやあの……俺はね?

ここでのんびり土いじりしている方が性に合っているから。

それに俺、たくさんの人がいるところへ出ると腹痛が起きるんで……。

……それじゃただの登校拒否だ!?

「ご心配いりません。今日は聖者様を勧誘しに来たわけじゃありません」

「ふ、ふぅん……?」

「僕が求めているのはフレッシュな人材なので」

その言い方はどうなの?

俺はもう既にフレッシュではないと?

そんな言い方されると俺も参画したくなってきちゃうなあ。

廃藩置県でもやっちゃう?

「僕が求めているのは、若い頭に柔軟な思考を収めた新世代です。そういう者にこそ新しい制度の担い手に相応しい!!」

「俺もけっこう柔軟な思考ですよ?」

何しろ異世界からやってきたので!!

「僕はそう言った考え方を、この農場で学びました。僕と同じように農場で学んだ仲間たちにも声をかけ、人材を確保してきましたがそれでも全然足りません。……そこで思い出したんです」

何を?

「ここ農場には、今も僕らと同じように学んで先進的な思考を収めようとしている者たちがいると!」

ああ、農場学校の生徒のこと?

たしかに現在も、ここ農場で学びをえている若者たちはいる。

ノーライフキングの先生が教え好きだから。

かつて実験的に行われた農場留学生が思ったより上手くいったので、もう今は制度化されてるんだよね。

続けないと先生が燃え尽きてしまうし。

去年あたりから本格的に始動し、実は今年もある程度の人数を募集して、新一年生を迎えた。

そんな風に順次毎年生徒を受け入れて、最終的には三年で卒業する予定となっている。

この辺は前の世界の高校辺りを参考にした。

そんなわけで今日も、農場内の学舎エリアへ行けば先生が楽しく授業をしているはず。

「その中から、優秀な人材を是非とも人間共和国首脳部へ寄越してください! 彼らの若き力がこれからの時代に必要なのです!!」

などと力を込めて言われてもなあ。

リテセウスくんもすっかりエネルギッシュな仕事人間へと変貌してしまっていて……!?

かつてこの農場で学んでいた頃はいかにも『やれやれ』言いそうなラノベ主人公気質だったのに……。

……いや『やれやれ』は言わんか。

同じラノベ主人公気質でもリテセウスくんは、どっちかっていうと気弱であらゆる重要単語を的確に聞き逃す、最強の聴覚を持ってる系の主人公だった。

どっちにしろそれが今や、ヤング誌のビジネスマンガに出てきそうな大統領リテセウスくん。

むしろ暑苦しい感じがしてくるぜ……!?

『立場が人を育てる』って、こういうことか?

「というわけで、ちょっと目ぼしい子がいないか見学させてもらってもよろしいでしょうか?」

「いや待って性急、ちょっと待って?」

そもそもの話からして、今ここで学んでいる農場学校の生徒は学生だよ?

まだ学びを得ている一人前未満。

これからまだまだ学びを得ていかなければいけないというのに、実際の仕事に駆り出そうというのもどうなの?

農場学校はまだまだ始まったばかりの制度だから。

最初の一期生が卒業するのもまだ一年以上先の話。

そんなうちから青田買いしていこうって話?

「聖者様……僕はかつてこの農場で学びました」

「はい?」

「かつて聖者様がいた世界には、インターンという制度があると!」

……コイツ。

学生を学生のうちから働かせる気だ!

「別に彼らは学んだままでもいいんです! ちょっとした授業の合間に職業体験として僕らの手伝いでもしてくれれば! そうして人間共和国の仕事を体験し、やり甲斐があると思ってくれたら卒業後に本格的に!!」

それだと選択権は生徒にあって、当然違う進路を選択することもあるってわかってるよね?

「その場合は莫大な違約金を課すことにします」

「ブラック企業!!」

完璧な罠じゃねーか囲い込みがエグすぎる!

のんびりしたお気楽主人公リテセウスくんはどこへ行ったんだ!?

「お気楽じゃ大統領は務まらないんですよ……」

……かつて誰もがめんどくせーからって押し付け合って結局一番若輩のリテセウスくんにお鉢が回ったが……。

我らが想像する以上にとんでもない重荷を背負わせていたってことか?

今さらながらに事の重大さを実感できた。

「とにかく聖者様、実際に見学させていただいてもよろしいでしょうか。未来の人間共和国を支える官僚たちを……」

「うん……ふむ?」

リテセウスくん無言の圧に押されて承諾してしまった。

彼の覇気に抗えなくなってきておる?

* * *

そういうわけで……。

「現、人間共和国の大統領リテセウスくんです。この農場学校の卒業生でもあります」

「「「「「うぉおおおおおおおおおッッ!?」」」」」

リテセウスくんを教壇から紹介した際の、生徒たちの盛り上がり様は凄かった。

まあ世界有数の三大種族その一つの現行トップが訪問したんだからむべなるかな。

これまでも魔族トップの魔王さん、人魚族トップのアロワナさんも時折やってきて特別授業をしていってくれたが、それに匹敵するイベントであろうことは間違いない。

飛び入りゲストに、その寸前まで授業をしていた先生も……。

『立派に巣立っていった生徒がこうして里帰りしてくれる……、教師としての冥利に尽きますのう……!』

感動のあまり涙していた。

最近の先生は情緒が豊か。

「えーと、今日は新しく発足した人間共和国のことを正しく知ってもうために、そのトップに来てもらいました。同時にこのリテセウスくんは、この農場学校の前身で学んでいたキミたちの先輩。この農場で学ぶとこんなにいいことがあるよ!! ということを実地で示してもらいましょう!」

俺解説。

何とかこの解説内容の実地だけで終わらせたいという祈りもある。

「ではリテセウスくんご本人にお言葉を賜りましょう」

頼む……!

つつがなく終わってくれ……!

頼む……!!

そんな俺の祈りを前にしてのリテセウスくんの第一声。

「キミたちには殺し合いをしてもらいます」