作品タイトル不明
882 神々の和解
そんなわけで太古の農耕神クロノス様との蟠りを解くための宴会はまだ続いております。
神々どもらがただ飲み騒ぎたいだけじゃないかって気もするが。
しかし世界平和をひた向きに願う俺たちは、神々の求めるままに酒や料理を捧げるばかりなのであった。
たかられてるなあ……。
『ふぃ……ヒック。……まさか息子たちと共に酒を酌み交わす日が来るとはなあ』
本日の主役クロノス神はすっかり出来上がって満ち足りげだ。
『こうしてみると幼い子どもらと遊んだ日のことを思い出すなあ……。ハデスもポセイドスも夢中で子犬を追いかけて……。フフフ……』
『我ら小さい頃は父上に飲み込まれて腹の中にいましたが?』『存在しない記憶が湧きだしている……!』
しかし細やかなところでまだ溝は深い模様。
『ところで父上、タルタロスから出てきて自由に過ごされるのはいいですが、解放後はどこに住まわれる予定で? 地上は命ある者たちに開放しているのでそっとしておいてほしいのですが?』
『ふむ、だったらお前の住む冥界はどうだ?』
『んげッ!?』
ハデス神は飲みかけの酒をむせて……。
『ぐげっごグホグホ……ッ!? いやぁ、我が冥界は死者の魂を安らげる場所でもありますので……! そのため我が眷属も冥界内では忙しなく働いています。父上の平穏を乱すこともあるかと……!!』
『そっかー。じゃあポセイドスのところに厄介になろうかな?』
『やだぁあああああああああッッ!!』
海の神、大絶叫。
『……いやッ、ではなく……! 海の世界は特殊ですぞパパ上! 海中仕様になってないパパ上では却ってご不便を強いることになりますまいかと……!!』
『ふぅん、そういうものか……!』
現役世代神二名、『今さら親と同居なんかしたくねえ!』という本心がありありと見え隠れしている。
それにクロノス神には眷属であるティターン神族もついてくるので大所帯。
誰もそんな一段自分のテリトリーに住まわせたくないわなあ。
『……そうだ! 天界はどうです父上! ゼウスの住まう天空の世界!』
『あそこなら余剰スペースはたくさんあるでしょうし、ゼウスも眷属の天界神どもも普段何もせずに遊び惚けているだけですから、穏やかに過ごすことができましょう!!』
二界神、一致団結して厄介な父親を他の兄妹に押し付けんとする。
当のゼウス神が不在だからと言って、今こそ好機とばかりにクロノス神を展開に追いやろうと……。
『それはできぬ』
『『何故ッ!?』』
『忘れたか息子たちよ。このクロノスは農耕神、大地の時の流れを刻むことを司る神だ。そんな私が大地から遠く離れた天界に住んで、それでもし地上に何かあった時には即応できぬだろうが』
『うぐぐぐ……!』
意外と正論で言い返すことのできない神々。
『それに、いくら和解したからってゼウスと同居するのは、嫌だ』
『ゼウスは謹慎中ですから顔を合わせる恐れはほぼないかと……』
『嫌だ』
『だからその……!』
『いやぁ~~~~……!!』
『……』
クロノス神の断固たる拒否に何も言えなくなる息子の神々。
そりゃ彼らだってゼウス神との一緒に住みたくないんだから、そこを推して強く言うこともできない。
『ううむ困ったな。せっかくタルタロスから出れるというのに、このままでは我が居場所は世界のどこにもないではないか』
『いやあの、父上それは……!』
『私を慕うティターン神族のことを考えると、あまりせまっ苦しい場所に移り住むのも嫌だし……。……そうだ、いいことを思いついたぞ!』
そんなことを言うヤツに限って本当にいいことを思いついたためしがない。
『下手に移住しようとするから角が立つのだ! 我々ティターン神族は自由を得た後も引き続きタルタロスに住み続ければよい!』
いいんですかそれで?
『元から幾数万年と住み慣れてしまってるんだから下手に移住するより快適だろうよ。それに閉じ込められるんでなくて出入り自由なら快適ども全然違うだろうしな』
『う、うぬ……!?』『パパ上がそれでいいと仰るなら……!?』
神々困惑気味だが結局、解放されたティターン神族は相変わらず幽閉地であるタルタロスに住み続けることになった。
……いいのかこれで? という感もなくはない。
『……今度、低反発のクッションを差し入れしますね父上』
『私からは壁紙の張り替えを……』
ハデス神、ポセイドス神の両名も幾分息苦しさを感じているよう。
『何、気にするな我が子らよ! そう、我が領域タルタロスはハデスの支配する冥界よりもさらに地下! つまりは……二世帯住宅ってことだよな!!』
『ぐはぁッ!?』
ハデス神が血を吐いて昏倒した。
そこまで嫌な設定だったか?
『ふっはははははは……! 幽閉の身から解放されて息子たちとも仲良くできるとは、いい世の中だな!』
クロノス神は上機嫌で酒を呷る。
『そういう理想的な状況になったのも、すべてはこの地上にて繁栄した人類のお陰。このように上手い料理、美味い酒で神の心を癒すことができたのだから! そしてその人類を生み出したハデス、ポセイドスお前たちの手柄!』
『は、はい……!』『まったくその通りで……!』
何やら心苦しい様子でいるハデス神他。
この農場が、自分らの生み出した人類ではなく異世界からやってきた俺の成果であることが引っ掛かっているんだろう心に。
『私も息子たちの偉業に大きく感心したぞ。……なので決めた!』
何を?
『このクロノス神も、息子たちに倣って新しい人類を作ってみようと思う!』
『『なんですってええええええええッッ!!』』
また神が突拍子もないこと言いだす。
『ちょっと待っておくんなまひょい父上!』
『そうですぞパパ上! 地上に新たな生命を生み出すって、そんな簡単なことではないんですぞ! ちゃんと最後まで面倒見れるの!?』
息子たち二人も、そんな父親の暴挙に絶叫。
『パパ今日から小説家として食っていくぞ!』と言われた並のショッキングだった。
『そう心配するでない息子たちよ。自分の父親が信用ならないか?』
『まったく信用なりません!』
『お前たちが生み出した生命たちが、完全調和を果たしている世界へ新たに新生命を加えることはたしかに不安であろう。ちょっとした新しい要素を加えるだけで完成された調和が崩れ去ることはよくあることゆえにな。その辺りはこの父もちゃんと弁えている!!』
『弁えているなら考え直してくれたらいいのに……!』
『だからこそ、この大神クロノスは既に地上にいる生命たちの迷惑のかからない、完全無欠の新生命を生み出すつもりだ! よく考えてもみよ! 賢明で完璧で、絶対に間違いを犯さない生命がいるなら絶対に争いごとも起きないだろう』
『その前提からして間違いなんですわ』
『不完全な生命は我々が管理すべきだ』とか言い出しそう。
『そこで、この大神クロノスが生み出す究極生命のプロットがこちら!』
・世界最強。神より強い。
・無限の寿命、世界が終わっても生き続ける。
・空を飛べる。
・あらゆる病気にかからない。
・美しい。
・美声。
・賢い。
・神の命令に絶対服従。
まさに『ぼくの かんがえた さいきょうせいぶつ』。
そのハチャメチャな特徴欄を見て、俺はあることに気づいた。
「その特徴に当てはまる生命ならすでにいますよ?」
『なんだって!?』
「天使ホルコスフォンです」
俺に紹介されて進み出てくるホルコスフォン。
「納豆はいかがですか?」
どんな時でも納豆を進めることは忘れない。
『天使はゼウスが以前作り出した生命でしてな。もう四千年近く前ですが』
『なにぃッ!? ゼウスが!?』
衝撃を受けるクロノス神。
そんな父親の動揺を無視してハデス神は解説続ける。
『ゼウスのアホが地上支配しようと送り込んできた種族だったんですが、そりゃもう分別なしの理想てんこ盛り生命だったおかげで皆苦労しましてね。結局撃退するのに一回世界が滅びましたよ』
『私の……この農耕神クロノスの発想があのゼウスと駄々被り……!? うおおおおおおおおおお……!?』
『ゼウスのああいうところ父上に似たんですな』
『嫌だ! アイツと同じなんて嫌だぁあああああああああああッッ!!』
自分の発想がもっとも毛嫌いしている息子と被って、いささかショックを隠し切れないようだった。
さすが親子。
俺たち地上の人類に迷惑千万な類似点だったが、神の親子の地の濃さを感じさせるのだった。
「私の存在が神々の汚点になっているようで釈然としないのですが」
ホルコスフォンの言うことももっともだった。
「それを言うならドラゴンとてガイア母神の考えた最強生物ということで我々と同類なのでは?」
「んだとーッ!? おれたちドラゴンは由緒正しい地上の覇者なのだ! お前らみたいなご都合生物と一緒にすんなー!!」
怒れるヴィール。
この話題はあちこちに飛び火しそうなので、この辺りで決着にしたかった。
神々は争おうと和解しようと世界に災厄を振り撒く