軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

878 旧き神々の話

俺です俺。

いやー、疲れた疲れた。

いくら特撮ヒーローに変身しているからって、あんなに大勢の人間の前に出て注目を浴びるなんて、そりゃ心のHPがガリガリ削られる。

それでも聖者崇拝集団なんて放っておいたら何をしでかすかわかったもんじゃないので、ああして出鼻を挫いておいたんだが。

最初は俺が聖者だなんてまったく信じてもらえなかったから焦ったんだけど、最終的には何とかなってよかった。

会場へ詰めかけた大きなお友だちとは、仮面セイジャーとの約束をしっかり覚えて帰ってもらった。

約束その一、ヒトに迷惑をかけない。

約束その二、危険行為をしない。

約束その三、転売行為は禁止。

以上のことをしっかり守って楽しい聖者崇拝活動をしていってね!

さすがに各個人の信仰の自由までとやかく言うことはできないので、俺への崇拝行為は禁止できなかった。

応えることもできないがね。

こうして、大事になるかもと思われた聖者崇拝集団の動きは、まだまだ下火のうちに上手く治められることとなった。

人間共和国も本格的にスタートして、世界全体が平和となり主だった問題もすべて消え去った。

この世界に何一つ憂いもなくなったんではないか?

そんなことを感じ始めた、矢先の出来事であった。

* * *

『大分いい感じになってきたわよね世の中?』

そんなことを言い出すのは、万象母神ガイア様。

久方ぶりの登場。

この世界そのものを創造したとかいう神様の中の神様。

現行この世界を守護している三界神……冥神ハデス、海神ポセイドス、他。

それらより上位に君臨する、もっとも偉大にして母なる神様なのであった。

……そんな大層な方が何故目の前に?

と思う者もいるであろうが、それが農場の日常だと思えば悪しからず。

農場に訪れれば誰もがリラックスモードに。今日のガイア神様もスルメをくっちゃくっちゃ言わせながらお寛ぎとなっている。

『ハデス、ポセイドス、ゼウスの三神に任せたばかりの頃はどうなることかと不安だったのだけれど、何とか治まるべき形に治まったと言えるわねえ。そのために働いたのは神々ではなく、その生み子たちというのが釈然としないけれど……!』

別にその辺は、そこまでこだわる必要はないんでは?

人類も神々の生み出せし者たちなんですから、人々の功績は神々にも帰せられるところでもありましょう。

『そもそもの平和のきっかけを作ったのが生み出してすらいない異世界からの来訪者というのもねえ……』

「うっぐ……!?」

その異世界からの来訪者ご本人であるところが、この俺です。

そんな俺が好き勝手やった末の世界平和であるからして、だとしたらますますこの世界の神々なんもしてねえって話に?

ハデス神やポセイドス神の立場がますます悪くなる!

「……いやまあ、皆さんガイア様の息子たちなんですし、もうちょいお手柔らかに……!?」

『は? 別にあんなヤツら息子たちじゃないけど?』

「え?」

思ってもみない返しに心が揺れた。

どういうこと?

ガイア様はすべての神々の母親ではないんでしたっけ?

ハデス神もポセイドス神も、すべての神の母ガイアが生み出した息子神だったのでは?

『アイツらは孫に当たるのよねー。私のすぐ下の息子にクロノスってのがいて、ソイツの息子らがハデスどもなのよ』

なんか大地母神様の身の上話になってきた。

『そうねー、ちょっとこの話広げてもいい? 今日来た用件に繋がりそうなんでねー。まあ酒の席の話としてもなかなか面白いと思うしさー』

今日来た用件?

一体何なんでしょう? 他の神同様ただただ酒と飯をせびりに来ただけかと思ったんだが。

そんな厄介なのは当世代の神々だけで、すべての始祖となった原始の母神は、ちゃんと常識を弁えている?

『まあ太古に起こった神々の戦争の話なんだけど』

酒の席の話にしては壮大すぎた。

『クロノスは一時期全世界を支配する神々の王であったんだけど、「自分の子どもに地位を奪われる」って予言をされて以来疑心暗鬼になってねー。子どもが生まれるたびに丸飲みしていたのよ』

「酷い父親ですねー。我が子に対する愛はないんですか?」

俺もジュニアやノリトの父親となった今、自分可愛さに我が子を排除しようなどという考え方には反感しか覚えない。

『そう本気でキレなくてもいいのよ。大体神話なんてどこの地域でも似たような展開なんだし』

「メタな話やめません?」

『見かねた私が知恵を貸してやったのよ。私もちょっとクロノスの横暴にはムカついていたからねえー。神々の王の座に着いたのをいいことに、子どもたちを飲み込んだり兄弟を地下に追いやったりと、勝手放題していたから……!』

思い出して怒りが湧いたのか、ガイア母神の表情に苛立ちの色が浮かんでいた。

『クロノスの妻であったレアにアドバイスしたのよ。子どもに装った石を身代わりにして、クロノスはまんまと騙されて飲み込んだわ。お陰で数多くいたクロノスの子どもたちの中で末っ子だけはにも困れずに済んだの』

「その末っ子とは?」

『ゼウスよ』

即座に漂う『ダメっぽいなこりゃ』『ダメっぽいっすねえ』感。

しかし現在へとつながる過去話だからこそ聞くまでもなくオチがわかっていることで、そもそもゼウス陣営が勝たなきゃ今の世界にはなっていない。

毒親の魔の手から逃れたゼウスは、見事反撃をなして父神クロノスを打ち倒す。

先に飲み込まれた兄弟を救出し、新たなる神々の王朝を開いて、今日までの繁栄を築き上げたのだった。

そのあと兄弟間で仲間割れし、地上の領域を狙って人間族を織り込んだりもしてきてるんだけども……。

『戦いに敗れたクロノスは、眷属の神々と共に地中深くに封じられることとなった。ハデスたちが棲む冥界よりもさらに下のタルタロスという場所に。創世の時代が過ぎ、地上を人が支配するようになった今なお、古の神々は幽閉の刑期を終えないのよ』

いかにも神話的な話。

人間がこの世界に現れるよりも前に繰り広げられ、そして終結した神々の戦争。

そんな逸話はそれこそ世界中の神話に見られるもので、別段珍しいものではない。

大抵どこでも創世の神々と支配の神々は別で、戦争もしくは譲位によって頂点の座は明け渡されるのだ。

『でもねえ、そろそろ刑期も終わっていい頃だと思うのよ』

「はい?」

唐突にガイア神がそう言うのへ俺、意図もわからずポカンとする。

『太古の戦争から幾億万年が過ぎ去り、成り替わって支配者となったオリュンポスの神々も相当なやらかしだっていくつもしてきたわ。それらも治まり、世界はもうちょっとやそっとでは揺らぐことのない平常を謳歌している』

主に人類たちの頑張りによってですがね?

皆、平和を勝ち取るために懸命になったんですともよ?

『そんな今がいいタイミングだと思うのよ。世界に争いはなく、ハデスもポセイドスもいい加減大人になったことでしょうよ。過去のわだかまりも忘れて仲よくしてくれるものと思うのよねー』

「誰と?」

『クロノスと』

それはさっきの話に出た、今の神々と大戦争起こした古代の神のことですよな?

その神を……、何? 復活?

『実を言うとコレを言いたいがために今日はアナタのところに来たのよねー。あの不死の王に召喚してもらって。神々もこれから何かするにはあなたに一言通しておいた方がスムーズに行えるようだし』

それはもう報連相は大いに助かりますが!?

そういう辺り、天地海の神々よりも常識を弁えているところが窺えて安心できる大地母神。

しかしこれから実際に行動しようとしていることは、あらゆるスケールを越えて常識外れ。

太古に敗れた旧世代の神が復活したら、再び現役の神々との大戦争が勃発したりしませんか?

そんなことになったら折角平和になった地上が大変なことになりませんか!?

『大丈夫でしょうよー。クロノスもハデスたちもいい加減数億万年を在り続けていい大人なんだから分別ぐらいあるでしょ?』

クロノスさんとやらは知りませんが、ハデス神ポセイドス神の日頃農場に来ての振舞いなどを考えたら、とても分別などという言葉が似合う感じはないんですが。

むしろ『分別』という言葉からもっとも遠いのが神々なんではないでしょうかッッ!!

『それに万が一……ということも考えているから、前もってアナタのところを訪ねたんでしょう? いいからつべこべ言わずに協力しなさいよアナタ』

「はいぃ?」

一体この大地母神は何を企んでいるんだろうか?

俺がけっして厄介ごとに関わりたくないのはこの異世界に召喚されてから一貫して貫き続けているポリシーなのだが、それを越えて絡めとってくる何かが、この大地母神にはある。

さすが原初の神とでも言うべきか。

こうして万象母神による旧神解放プロジェクトが始動し、俺たち農場の面々も付き合わされることとなった。

果たして古の神々を封じた蓋を開けたら何が出てくるのか?

そりゃ古の神々たちか。