軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

877 聖者の証明の末に

オレの名はヤンバカス。

栄えある聖者キダン様を崇拝せし団体『聖者キダン同盟』の一セクト……『聖者キダンを世界の王に推す会』の会長である。

他の派閥の連中からは『社会派』などと呼ばれる分派の一系で、聖者キダン様を崇拝せし者たちの中で聖者キダン様の社会的地位を向上させんということを具体的目的とした団体だ。

我々の活動を露骨に見下してくる者もいて『聖者様を崇拝しながら世俗に囚われる憐れな者ども』とか『聖者様はそもそも上位存在であらせられるのだから我々ごときで向上させようなどという考え自体がおこがましい』とかなどと言う。

しかしながらそんな意見には断固NOと言いたい。

聖者キダン様が世界の王であらせられるなら、それを広く世界中に知れ渡らせて名実ともに王として認識させるのが我ら崇拝者の役目ではなかろうか。

人魔戦争が終結し、全人類が一つとなって世界がまとまったのは聖者様の功績。

ならばその功績が聖者様のものだとキッチリ知らしめることこそ我ら信奉者の務めであろう。

今、本来聖者キダン様に帰すべき功績の多くは魔王を始めとした表側の権力者たちに掠め取られているような状況となっている。

そんな不公正を是正し、あまねく全世界の諸人が聖者キダン様に対して尊敬と崇拝を捧げるようにすることこそ我ら『聖者キダン同盟』の務めではないのか?

そしてゆくゆくは聖者キダン様ご本人に表へ出ていただき、直にこの世界を治める大王となっていただく。

それがこの世界の何より正常な在り方だと確信する。

この世界がもっともバランスよく、安定的で、欠点が何もない形で運営されるには聖者キダン様が唯一無二なる絶対世界王となって世を治めてくださることが究極によいはずなのだから。

我らはその理想に向けて邁進していくのだ。

そのために我々は日夜弛まない活動を継続している。

我らの理想実現のためにまずは聖者キダン様ご自身の顕現が求められる。

だからこそ、裏で聖者キダン様との繋がりがありそうな権力者たちへと押しかけ、情報開示を求めてきた。

限られた一部の者たちが、重要な情報を独占し秘匿しようとするのは不平等である。

ということで連日デモを引き起こしていたら、ある日兵士がやってきて全員拘束された。

一晩ほど牢屋に拘留されたあとで『次はこれぐらいじゃ済まんからな』と言われて釈放された。

……おのれ権力者め、自分の思い通りに物事を進めようというのか。

こんな理不尽に屈してなるものかと奮い立つが、しかし官憲から本格的に睨まれては、さすがに思い通りの活動はできない。

どうしたものかと頭を抱えていたら、思ってもみない情報が外から飛び込んできた。

――『聖者キダン、降臨す』

と言う。

そんなバカな!? 今まで一向に衆目の下に姿を現すことのなかった聖者キダン様が、ここに来て急に!?

俄かに信じがたいことであったが、聖者キダン様をこの目で拝観することのできるチャンスと聞いて動かずにはいられない。

聖者キダン様を崇拝する者としては特に。

真実であろうがなかろうが万に一つの可能性もある者ならば馳せ参じ、本当に聖者キダン様がご降臨なされるのならば直接に我らの信奉をお伝えし、世界を治める王となることを切実にお願い申し上げなくては。

そう思って、布告にあった会場へと馳せ参じたというのに、そこに現れた聖者というのは実に想像とはまったく違う、ふざけた容姿のヤツだった……!

一体何なのだアレは!?

全身をカニのような甲羅で覆い、顔まで隠している。

あからさまな不審者ではないか。

こんな怪しい輩が聖者様と名乗るなど笑止千万……いや不敬千万だ!

不埒なことを考え付き、実行に移したのは権力者どもに違いない。

聖者キダン様という真実に我々が近づき、既得権益を侵されることを恐れたか。

しかし聖者キダン様というこの世の叡知は全人類で分け与えられるべきもの。

一部の特権者だけが独占していい謂れはないのだ!!

こんなニセモノでお茶を濁そうとしやがって! そっちがその気ならこちらにも考えがある!

今日は我ら『社会派』の人員だけではない! 普段は俗世との交わりを断っている『修養派』までやってきて、この暴挙に怒り心頭しているんだから暴動になったら規模の大きさは比較にならないぞ!

この勢いで政庁までつめかけて、今度こそ聖者キダン様の居所を吐かせてやる!

しかしながらそんな気勢はいっぺんにして吹き飛んだ。

目の前のニセ聖者……正気とは思えない奇抜な格好をしたヤツが、拳で地面を割ってみせたので。

……どういうこと?

地面ってそんな簡単に割れるものなのか?

勇者が伝説の武器を振り下ろしてそうなるならまだわかるが。

あんなコスプレ野郎が拳一つでそんなことできるわけがない。

できるとしたら……やはり聖者様!?

しかしそんなことが!?

いやいや、怪力なんて聖者様と何の関係があろうものか!?

そんなのその辺のモンスターや、流行りのプロレス興行のレスラーだってできるわい!

聖者様であるからには、その行いに神聖さがあってしかるべき!

そうだ! お前が本当に聖者だというならもっと聖なることをやってみせろ!

我々の疑いの一遍も残さず流し去るような!

ドラゴンを呼び出してみろ!

聖者キダン様は人魔戦争の真っただ中にドラゴンを派遣させた!

同じことができれば信じてやってもいいぞって……!?

ホントに呼び出したぁああああああッッ!?

会場の上空にいきなりドラゴンが飛来!

しかも一体じゃけじゃなく何体も!

空を覆い尽くしているぅううううううううッッ!?

……かつて、人魔の戦争にて飛来したドラゴンは一体。

今回は十体以上のドラゴンが頭上に羽ばたいている。

『ご主人様ー、来たぞー。ご主人様の意に染まぬ反逆者を滅ぼせばいいのかー?』

「誰もそこまで徹底的なことは望んでねえよ。ちょっとビビらせてくれればよかったのに、こんなに大勢引き連れてきやがって」

『皆、興味があるからお供になったのだー。桃太郎ごっこだなー』

「ちゃんとあげたのきび団子!?」

『血と惨劇がご褒美なのだー』

これを全部あの変なヤツが呼んだとしたら、ヤツは聖者キダン様以上の力を持つということに……!?

……いや違う。

あのヒーロー野郎こそが聖者キダン様ご本人だとしたら、すべての筋は通る?

「では本当に……!?」

「この方が聖者キダン様……!?」

オレ以外の『聖者キダン同盟』も現実を受け入れ始めていた。

姿形の奇抜さに最初はどうしても信じられなかったが……やはりこれほどまでの奇跡を引き起こしたこの御方こそが真の聖者キダン様……!?

この世界の真の支配者……!

「さて……皆、納得してくれたところで仮面セイジャーとのお約束だ!」

なんだ!?

聖者様からの有難いお言葉が!?

初めて我々へと直接に賜るお言葉!

しっかりと聞き逃さぬようにしなければ!

「最近、俺のことで魔王さんや人間国新政府に詰めかけ、迷惑行為を行っているお友だちがいると聞いた! しかし関係ない人に迷惑をかけてはいけないぞ! ルールを守って楽しくセイジャ!!」

何ッ!?

そんな浅はかな行為をして、聖者様の御心を騒がせる輩がいるというのか!?

どんな不遜な者たちなのだ!?

オレたちか!

「あとテレビは部屋を明るくして離れて見るんだ! それでは! デュワッ!!」

ああッ!?

聖者様がジャンプしたと思ったらそのまま地面に降りることなく天高く昇っていった!?

……飛行能力まであったとは、やはりあの御方は本物の聖者様!?

何ということだ……! 混乱しているうちに聖者様が去ってしまわれた!

お聞きしたいことがたくさんあったのに結局我々は聖者様のことを信じられずに罵詈雑言を浴びせただけではないか!

もう一度お戻りください聖者様! そして我々にお言葉を!

いや、再び聖者様に降臨していただくには我々のさらなる敬愛と信奉が必要なのだ、きっと。

聖者様は我らの求める声を聞かれてご降臨くださったのだ。

これからもっと活動を活発にしていけば、再び聖者様を拝観する機会に恵まれるかもしれない。

おっと。

権力者の下へ詰めかけるのはNGらしいからその辺はよく注意しておかなければな。

我々は聖者様に忠実なる信徒。

いずれ真なる意味で聖者キダン様から認めていただき、あの御方の楽園に加わる資格を得るのだ!!

聖者キダン様の支配する千年王国への!!