軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

876 聖者降臨

本番当日の俺です。

うひゃあ、集まってる集まっている。

陰から覗くと指定した会場には、死ぬほど多くの人だかりが密集していた。

ザッと見で千人近くはいるんではないだろうか?

それ以上いる?

これほど多くの人々が聖者を求めているなんて、本人としては意外過ぎて驚きの感情であった。

「……本当にこれでよかったのでしょうか?」

俺と並んで物陰から覗くダルキッシュさんが言う。

不安に震えるかのように。

「聖者様の要望だからと言って、全世界に対して布告をしましたがここまで大反響になるとは予想外です。ここまで大事になると何かとんでもないことの引き金になってしまわないかと不安になります……!」

これで杞憂癖のあるダルキッシュさんなのであった。

全世界への布告自体は、人間共和国の政府や魔王さんに掛け合うことができたので比較的簡単に行えたという裏話。

こんな時権力者と知己があるのは強い。

「で、ここからどうするのですか聖者様? まさか本当にあの者たちの前に姿を晒されるのですか?」

「その通りです」

元からそういう計画でしたしね。

俺のことを無闇に崇拝している人たちに俺から直々に注意を呼び掛ける、と言うのが今回の企画のコンセプトゆえですからに。

「しかし……、暴走するほど聖者様を追い求める輩どもに聖者様みずから姿を現されるなど、火に油を注ぐようなものでは……!?」

ダルキッシュさんの杞憂ももっとも。

俺もその辺はキッチリ対策を講じてある。

だからこそ今日に踏み切った。

たしかに俺のことに興味津々な連中の前にムザムザ素顔晒しに行ったら俺のプライベートは崩壊。

一瞬のうちに俺の情報は世界中に広まり、以降は外を歩くだけでサインを求められる始末となるだろう。

そんなことになれば俺ののんびりのどかな農場生活も求むべくもなくなる。

だからこそ一工夫携えてやってきた俺なのであった!

「いくぞ……変身!」

俺が締めてきたベルトからまばゆい光が放たれて、その光が全身を包む!

その光はやがて収束し、固まって物質化するかのように……光が収まった時、それ以前とは違うまったく異質なコスチュームが俺のことを包み込んでいた!

それはまるで鎧のような、昆虫か何かの甲殻のような……!

とにかくそういうコスチューム的なものが俺の全身を一部の隙間もなく包んだのだった!

そのデザインは、たとえるならば特撮ヒーローのコスチューム……。

いや比喩ではなく特撮ヒーローそのものだった!

それもそのはず、これはいつだったか我が子ジュニアを喜ばせるために開発した変身ヒーローグッズ。

これを発動させることで俺は、往年の赤青黄色緑ピンクな五人組もしくはバッタと人間のハーフ的な存在のように一瞬にして姿を変えることが可能なのだ!!

そうして全身甲冑的コスチュームに包み阻まれ、顔形も一切不明となった俺が、ステージへと躍り出る。

「とうッ!!」

ご丁寧に跳躍中、捻り込み宙返りするのは特撮の礼儀みたいなものだ。

そして見事壇上へと着地した俺は、ポーズをキメて一言。

「仮面セイジャー、参上!!」

そして背後で轟く爆発音。

百点満点の演出。

これでギャラリーの心は一瞬にして鷲掴みとなったはず!

掴みはオーケーでこのまま一気に畳みかけていくぜ!

「よいこの皆! 俺こそが大人気のスーパーヒーロー、その名も仮面セイジャーだ! 今日は来てくれてありがとう!」

ヒーローっぽい、人差し指中指の二本のみを突き立ててデコに添える系のポーズをキメる。

「ヒーローイベントで俺と握手して行ってくれよな!」

ヒーローコスチュームを着ていれば、俺の人相などまったくわからないのでプライベートは保たれる。

その上で聖者と言うものを世間に晒して、それを追い求める人々を満足させようという作戦だった。

まさに完璧な作戦!!

これで無闇やたらと聖者を追い求める人々も好奇心がマックスハートなことだろう!

さあ、待ちに待った聖者との触れ合いを楽しむがいい!

……と思った矢先、会場に何やら不満げな雰囲気が漂うのを俺は感じ取った。

普段はなかなか鈍感な俺でも感じ取れるくらい重々しい雰囲気。

「ふざけるな! 何が仮面セイジャーだ!」

観客席から飛び出るブーイング。

「そうだそうだ! 我々の追い求める聖者様はもっと高潔で、聖なる偉大なお方だ!!」

「そんなアホみたいな服で全身覆った変質者みたいなヤツが、我らの敬愛する聖者キダン様であってたまるか!」

「ファッションセンス壊滅じゃないか!!」

などと罵詈雑言の嵐。

これは思ったのとやや違う展開……。

彼らにとっては長いこと崇拝の対象であった聖者。何年もの期間に各自の中で聖者のイメージが膨らみ、練り込まれ、揺るぎない形に固まってしまったんだろう。

そんな先入観ありありの中へ飛び込んできた特撮ヒーロー感マシマシの仮面セイジャーは、彼らの神聖なイメージを冒涜し解釈不一致となってしまったことは疑いなかった。

「引っ込め! ニセモノ聖者引っ込めー!!」

「本物の聖者様のご降臨を要求する! そうしないと暴動を起こすぞ!!」

思い通りにならないと暴力をチラつかせて威圧する手際が実に鮮やかだった。

常習犯の臭いがする。

このままでは関係各所へ迷惑をかけかねない。

てっきりこの姿で飛び出せば大好評を得ること間違いなしとタカを括ってた俺は、さらなる対応を強いられるのだった。

「よし! だったらば見せてやろうじゃないか! 俺が聖者であるという証拠を!!」

俺は腹に力を込め、全身に力をみなぎらせる。

これが真っ当な特撮ヒーローならば、どこかにカードを読み込ませたりしたいところだが、残念ながらこのスーツにそう言った機能は実装されていなかった。

「……聖者パンチ!」

俺は拳を突き出すと、とりあえず足元の地面へと叩きつける。

それだけでヒットした地面は揺らぎ、地割れと見紛う大きな亀裂が走り、土煙がもうもうと噴き上げる。

「ぐわひーッ!?」

これには暴動一歩手前の観客たちも驚きビビッたようだ。

それもそうだろう。

とりあえず人的被害が出ないようにと何もない地面に向けて放ったパンチだったが、大いなる大地が裂けて砕ける威力ともなれば、もし人間が食らったら五体粉々になることは確実。

そりゃあヒーロー設定的に怪人を打倒するための必殺技なんだから、人間に対してはオーバーキルになるくらいの威力でないと怪人は必殺できない。

まあ、何にしても人知を超える力をアピールできたことに変わりはなかろう。

聖者っぽくない? これって?

「どうかな? 仮面セイジャーの力を認めてくれるかな?」

今俺がきているこのスーツを、ただの変身グッズと思うことなかれ。

何事にも最良のクオリティを追い求めるこの俺は、この仮面セイジャー変身セットを作成することにも全力を注いだ。

このスーツには、上級精霊でもある聖なる蟹デスマスくんのパワーが宿っているのだ。

なので聖なる上級精霊の加護が宿ったこのスーツは、着るだけでパンチキックが数トンの威力をもって繰り出される。

走れば新幹線のように速く、ジャンプしたら鳥の飛ぶ高さまで苦もなく登れるであろう。

古のヒーロー設定を再現できるスーパーグッズ。

それがデスマスくんパワー付きヒーロー変身スーツだった!

「仮面セイジャーの力はパワー! 正義がこの世にあり続ける限り仮面セイジャーは負けないのだ!!」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!?」

さあ、これで観衆も納得して、満足と共にヒーローグッズをお買い上げの上帰路についてくれるものと期待するが……。

「ま、まだだ! 我々はこのような事態を決して認めない!」

「ただ地面を割るような怪力であれば聖者様でなくとも実現できる! 聖者様の行いは、聖なるものであるから聖者様なのではないか!」

「そうだそうだ! 本物の聖者様だというなら、もっとそれらしい行いをして見せろ!」

要求が激しい厄介ファンたち。

しかし、聖なることをしてみせろとは一体どんなことをしてみせればいいんだろうか具体的に?

『聖なる行為』……考えてみるとこれがまたフワッとしていてわかりづらい。

一体どういう行為が『聖なる』なんだ? 落とし物を交番に届けることか?

「聖者ならドラゴンを呼んでみせろ。かつて聖者キダン様は人魔の戦場にドラゴンを遣わされたぞ!」

なんだそんなことで『聖なる』なのか。

そういうことなら今すぐにでも実現してみせよう。

ピッポッパ……。

……ああ、もしもしヴィール?

忙しいとこ済まないけどちょっと来てくれない? できればドラゴンの姿で?

ええ? 今ドラゴン仲間とドラゴン四駆大会に興じているところだって?

それはタイミングが悪いな……。

……何? せっかくだから皆でこっち来るって?

総勢で二十体ぐらい?

わかった、お待ちしています。

そしてドラゴンは一っ飛びで世界を縦横断できるぐらいの移動能力を持っている。

すぐさまヒーロー会場の上空はドラゴンの集団に埋め尽くされることになったのであった。