軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

875 厄介ファンの独白

私の名はヒンフト。

聖者様を敬愛せし信徒の一人。

この世界は陰謀に推し包まれている。魔王だ人魚王だなどとこれ見よがしな支配者が大手を振っているこの世界。

しかし真の支配者は別にいて、その御方こそ公にではないが裏から操り、秩序をもたらしている。

その張本人こそ聖者キダン様。

世界は聖者キダン様によって管理され、すべての戦争はキダン様が根絶し、すべての秩序はキダン様がもたらした。

人魔戦争が終結したのも、傲慢なる旧人間国の王族が滅び去ったのも、そのあと海底深くに住む人魚族とすらも同盟して世界中が一丸となったことも、すべて聖者キダン様がそう決めたから現実が従ったにすぎない。

すべてを超越してすべてを従える全能者それこそが聖者キダン様なのだ。

その聖者キダン様だが、一般人の目に触れることはなく存在もあやふやとなっている。

何故なら聖者キダン様はすべての頂点に立つ。

凡人風情が近づくことすらできない領域におわすのだから。

ある一定の能力……もしくは気高さを持ち合わせていなければ聖者キダン様の実在を知る資格すらないのだ。

だからこそ我々は聖者キダン様のことを知るために常日頃から鋭意努力していかなければならない。

知識を得て、体を鍛え、みずからを高めることが聖者キダン様へと近づく方法なのだ。

少なくとも私自身はそう信じて日頃より修行の日々に明け暮れている。

その過程で同じ志を持った人々とも出会った。意気投合し、同じ目的へ向かって進むためのグループを立ち上げた。

それこそが『聖者キダン同盟』。

聖者キダン様を敬い、ある意味崇拝する者たちによって結成された聖なる組織。

聖者キダン様こそ全知全能の存在とし、その御方に直接忠誠を捧げることが世界そのものに貢献することと信じる集団である。

同盟は現在、数千人規模にまで膨れ上がり、様々な考えの下に多くのセクトに分かれている。

構成員は人種を超え、人族魔族人魚族の区別なく入り交じっている。

それもまた聖者キダン様が陰で仕立てられた全人類融和政策の成果であろう。

大いなる聖者キダン様を敬愛するのに、種族の違いなど気にする必要はない。

しかし悲しいことにそうは思わない一派もいて『聖者キダン様は魔族をもっとも愛するからこそ戦争に勝たせた』とか『聖者キダン様は人魚を妃に迎えたというから人魚族をもっとも優遇するのだ』などという意見を振りかざす。

そういう者たちは『聖者キダン同盟』から分派して『優性派』というセクトを作り出した。

さらにそこから『魔族優性派』とか『人魚族優性派』『人族優性派』といった小派閥に枝分かれする。

私はそういう考えを好ましく思わないため『優性派』の対極派閥となる『公正派』に属している。

言うまでもなく『聖者キダン様を敬うのに種族の区別はない』という主張の派閥だ。

その『公正派』からさらに分派し、修行によってみずからを高め聖者キダン様に近づくことを目的とする『修養派』が私が厳密に所属しているセクトの名前。その中の『実行実存の会』と言うのが私の所属する派閥の正式名称だ。

自分自身の資質と苦悩によって聖者キダン様を感じ取ることを目的とする一派であるため、他の派閥よりは活動的でなく、いわば内向きだ。

だから世情から離れた趣はあるが、世に現れる変化はすべて聖者キダン様のもたらしたものという認識は『聖者キダン同盟』全体の共有するところであり、だから情勢には常に敏感であった。

ここ最近もっとも世界情勢を大きく震わせた大事件……旧人間国が魔族の支配から外れて、人間共和国として再発足したことも、聖者キダン様の行いし聖なる御業であると皆わかっている。

人間共和国初代大統領を名乗るリテセウスなる輩も、聖者キダン様の意を受けた忠実なしもべなのであろう。

私たちは皆わかっている。

この世界の真の支配者は聖者キダン様だと。

すべては聖者キダン様の望む通りに進み、人魔戦争が終結したのも人間共和国が新たに発足したのも、何故そうなったかと言えば聖者キダン様がそうなるようにと決めたからだ。

思うがままにこの世界を塗り変えることができるそれが聖者キダン様の偉大さ。

この私も矮小な存在ながら聖者キダン様の下へ近づきたい。

そして過分な望みではあるけれども聖者キダン様のお役に立てればどんなに嬉しいことか。

そんな日を夢見て私は今日も、修行に打ち込む。

基本メニューは自分にムチ打ち二百回。痛みに耐えて精神を養う修行だ。

しかし他セクトの聖者キダン信徒は、もっと手っ取り早い方法で聖者キダン様に近づこうと考え、時折問題を引き起こしている。

それは権力者に直接迫ろうという手段だった。

聖者キダン様は、この世界のすべての権力者を裏で操っている。

魔王も人魚王も、新たに台頭してきた人間大統領も例外なく聖者キダン様の走狗であるはずだ。

だからこそ聖者キダン様との意思疎通する手段を持ち合わせているはず。

それを聞き出せれば我々にも聖者キダン様のお言葉を直接賜れる……!

そう考える者たちがここのところ世界各地の権力者に突撃することが起こっているらしい。

主な突撃対象は人魔人魚参加国それぞれの王者たち。

魔王、人魚王、人間大統領だ。

各自の王城前ではデモの大群ができ、『聖者キダン様を開放せよ』とのシュプレヒコールが響き渡っているのだとか。

しかし権力者というのは秘密を守りたがるもので、どんなに迫られても情報を開示しない。

それどころかデモに集まった群衆を兵士を使って取り締まるほどだった。

権力者はいつも都合の悪い事実を武力でもって押し潰すものだった。

なので昨今では、ターゲットが切り換えられて、もっと小規模な権力者に突撃するような動きが見られる。

主な突撃先は人間国領主のダルキッシュ、魔国のパンデモニウム商会、ドワーフ地下王国などが挙げられる。

いずれも聖者キダン様と接触した形跡があり、直接的な繋がりがあると疑われる者たちだ。

各国の王たちより保有する権力武力は小さく、力づくで取り締まられる可能性も低いというので集中的にデモられているという。

でも活動をメインにしているのは『聖者キダン同盟』の中の『優性派』と、『公正派』から枝分かれした『社会派』と呼ばれるセクトたち。

みずからが社会の中枢に食い込むことで聖者キダン様に近づき、聖者キダン様のお役に立とうと目論む連中だ。

私的にはそういう連中とは合わない。

社会的には既にそれぞれの権力者たちが聖者キダン様のために役立っているのだから、そこに割り込んで何の意味があるのだろうか、と。

それよりもやはり、みずから修行によって高みを目指し、その末に聖者キダン様のお眼鏡に適うことこそ最良。

だからこそ私は、世情はチェックするだけに留めてみずからにムチ打ち、痛みに耐えて成長を促していくのだった。

そのような鍛錬の日々を送っていたある時のこと、信じられぬ情報が舞い込んできた。

――『聖者キダン、降臨す』

……何だとッ!?

最初は耳を疑った、目を疑った、正気まで疑ったが、どうやらすべて正常だった。

聖者キダン様が、この現世に顕れなさるというのか!?

しかも我ら衆生の眼前に!?

こんなことが実際に起こりえるのか!? まだまだ修行中の功徳足りない私たちの前に簡単に現れていい物なのだろうか!?

いや、逆に考えるんだ。

私はもう聖者キダン様のことを考えて三年以上、修行に取り組んできた。

一心不乱に。

その想いがとうとう聖者キダン様に届いたということか!

私の修行の日々が報われたということなんだな!!

そう言うことなら遠慮なく、聖者キダン様への拝謁の栄誉に浴しようではないか!

私のために降臨してくださったようなものだからな!!

と言うことでお触れに記された日時、指定の会場へと向かう私。

会場は人が詰めかけてひしめき合っていた。

こんなにも多くの者どもがどこか集まってきたのかと思ったが、どうやら『聖者キダン同盟』の『優性派』や『社会派』の者どももいるらしい。

ヤツらも噂話を聞いてきたか。

私たち『修養派』の起こした奇跡に便乗しようとするとは図々しいヤツらめ。

今日、聖者キダン様に拝謁できるのは我々の栄誉だというのに。

まあいい。我らは争いを好まぬ派閥ゆえに見物ぐらいなら許してやるとしよう。

そんなことよりも、ついに聖者キダン様のお姿を目にすることこそが大切なのだからな。

私たちは日夜アナタを想い、みずからにムチ打ちを強いて修行してきたのです。

どうか我々に、その輝かしい姿をお見せください!!

「わはははははは! 皆! 今日は来てくれてありがとう!!」

おお!

陽光に照らされて現れし、その姿は!?

「我こそは正義の味方で皆の味方、仮面セイジャーだ!!」

は?