作品タイトル不明
867 聖者の進化
俺、天下一茶道会に参戦!
そんなことこれっぽっちも望んでなかったんだけども!?
巻き込まれ体質は、生まれながらのラノベ主人公であるリテセウスくんだけで充分なんだけど!?
「いいではないか聖者様。あなたが出場してくれたら、これ以上の盛り上がりはない! お茶道発展のためにも一肌脱いでくれまいか!」
嫌だよ!!
プレジデントファイトですら責任を負いたくなくて逃げ回っていたのに、何でここでさらに注目を集めなきゃならんのか!?
「聖者殿一人が犠牲になるだけで、明日のお茶の世界消費量が二倍になる。いいことではないか」
「今、犠牲って言ったね!?」
「そもそもお茶を生みだしたのは聖者様なのだし、それぐらい協力してくれてもよかろう?」
いかん、グイグイ押されていく。
エルロンは、陶芸に関しては異様な押しの強さを誇っていたが茶道にかけても異様に推しが強い。
そして基本流され体質の俺は、エルロンの芸術家気質が作り出す濁流に逆らいきれない。
「畜生やったらぁあああああああッッ!!」
「よっしゃぁああああッッ!!」
そうして天下一茶道会、俺の電撃参戦が決まった。
第二回戦にシード出場だ。やっぱりトーナメント方式なのこの大会?
「このお茶の入った茶器を……死ぬ気で持ってればいいんだな?」
「そうだ聖者様! こぼすか飲み干すかして先に中身のなくなった方が敗退だ! しかし飲むならともかく零したとなれば茶道家の名折れ! 一滴でも漏らしたなら首と胴は泣き別れだ!!」
怖いこと言うな!!
ええい、この異世界茶道家たち思った以上にキレ散らかした連中かもしれない。
こうなったら試合開始と同時に全部飲み干してやろうか?
そんなことを考えているうちに……。
カァン!
「やっべ、もう試合始まった!?」
しかも試合開始の合図ゴングなの!?
俺の目の前には、同じように茶器を抱えた、屈強そうな茶道家が一人。
「クックククククク……! エルロン宗匠が肝いりの猛者……、品定めさせてもらおうではないか……!」
あからさまに強者の風格ぅううう……!?
鍛え抜かれた肉体は細くてマッチョ……、鋭い眼光は射抜かれただけで身がすくむ。
そんな武術家が茶碗持ってるんだから違和感ありありよ。
「人族茶道宗家センノリ。今大会でエルロン宗匠を撃破しすべての茶道家の頂点に立つ! そのためにもまずは貴様を蹴散らさねばな! 行くぞ!」
うひぃいいいいッ!?
当然のように襲ってくる!?
こうなったら俺も覚悟を決めて迎撃せねば!
俺は強いぞ! なんたって俺には神様からいただいたギフト『至高の担い手』があるんだからな!!
手にしたもののポテンシャルを最大限以上に引き出す超絶能力!
その性能はスキルを軽くぶっちぎるからギフトという!
今までだってこの力で危機を脱したことはいくらでもあるんだ!!
こういう直の荒事でもそれ以外でも!
今回だって『至高の担い手』が手に触れたものを極限化して上手いこと危機を凌いでくれるはず……。
……ん?
いや、ちょっと待て?
俺の手には既に、お茶の入った碗が握られている。
『至高の担い手』が発動するなら、この茶碗だよな?
中のお茶がサイコーに美味しくでもなるのだろうか?
しかしながらそれは、この格闘戦とは何の関係もないのでは!?
しかもルール上、試合終了まで片時も茶碗を離せないことも相まって、格闘戦に準じて手がまったく使えない。
今まで俺を助け続けてくれた『至高の担い手』……。
ここに来てついに封じ手が見つかった?
茶器によって手が塞がったままじわじわと追いつめられる。
俺などギフトがなかったらただのしがない一般人!
ここに来て俺、ついに攻略法を発見されて敗北へと傾いていくのか!?
「ぐぉおおおおおおおッッ!?」
「何だこの動きはまるで素人ではないか! 貰ったぁ!!」
相手側が繰り出してくるジャンプキックに、俺は寸でのところでかわす!
バックステップで距離をとるも、相手の勢いづいてガンガンに距離を詰めてくる!
怒涛の猛追に、俺は身をひねりながら必死こいて逃げる!
でも肉薄される!
「おのれちょこまかと……! 得意なのは逃げるだけか!?」
でもだって、逃げるくらいしかできそうにないんだもん!!
飛び蹴り、かわす!
回し蹴り、かわす!
百裂キック、かわす!
とにかくかわす、かわすかわす!!
……うーん。
よくかわせてるなあ、俺。
これむしろ不自然じゃない?
だって戦闘については明らかに素人の俺が、あんなに鍛え上げられた武術家の猛攻を完全回避できているなんて。
しかもこんなに継続して。
こんなのもう自分自身の動きじゃないみたいだ。
……もしや?
『至高の担い手』が発動している?
手に触れていないのに?
「手強い!? やはりエルロン宗匠推薦の闘士だけはある……!?」
そんなこたないと思うんですがねえ!?
戦闘については未来永劫素人の俺が、いかにもな体捌きで玄人の攻勢を凌いでいる。
これは推測するまでもなく『至高の担い手』が俺の身体に宿って、肉体の限界以上の瞬発力を出させてかつ、武道の達人の体捌きを再現している。
しかし何故?
『至高の担い手』の発動条件である『手が触れる』ことは茶碗を持つことによって塞がっている。
それなのに自分の全身に対して『至高の担い手』が効力を現わしているなんて……?
全身?
そうか……!?
俺はついこの間、ハデス、ポセイドス、アポロンの三界神によって正式に聖者と認定された。
自称他称とはまったく違う、神に認められた聖者の称号。
それが俺を新たな段階に引き上げ、身に持つギフトまで強化した。
今の『至高の担い手』は両手だけでなく、全身に及んで効果を発揮する。
足に触れたものも肩に触れたものも、口で噛んだりしたものだって限界以上のパワーを発揮するんだ。
この体自身にも影響はあるから、さきから達人のような動きができている。
もちろん両手の影響力だって健在だ!
俺の手の中にある茶碗と茶の能力を限界まで引き出してやる!
「おおおおおおおッッ!!」
「おおッ!? 何だあの茶筅を回す動きは!?」
高速旋回!
今の俺の手は電動泡だて器!
超高速の掻き回しで、一粒のダマも作らずクリーミーな抹茶を作り出す!!
さらに抹茶自体にも『至高の担い手』が影響し、カフェインの覚醒作用、カテキンの抗菌、抗酸化、老化抑制作用、各種ビタミン効果も限界以上に高まり、もはや霊薬の域に!
それを一気に呷って体内に入れると、緑色のオーラが全身から吹き出すぞぉあああああッッ!!
「こ、これは……!?」
「これこそ全茶道家が追い求める、究極最強の茶オーラ……、その名も『ひょう気』! 最初の試合でここまでの域に達するとは、さすが聖者様!!」
なんか傍でテキトーなこと言ってるヤツがいるが、エルロンだな。
しかし今は、この試合を終わらせることに全力を注ぐぜ! 抹茶摂取により急激上昇したパワーを一気に炸裂! 超必殺技発動!
「スピンニング抹茶キック!!」
「ぐぉえぁあああああああああああああああああッッ!?」
高速回転するキックの竜巻を防ぎきれず、対戦相手の人はボコボコにされ吹っ飛ばされた。
その寸前にしっかりと自分のお茶を一気飲みして。
「勝利!!」
この勝利を妻と息子たちに捧げます!!
最後に残りのお茶を一気に呷って完飲!!
「素晴らしいぞ聖者様! アンタの助けがあればすぐにでも世界全土に茶道は広まっていくだろう! 私たちと一緒に茶道の頂を目指そうではないか!!」
「……」
目を輝かせて詰め寄ってくるエルロン。
そんな彼女に、俺は背を向け猛ダッシュした。
「ああッ!?」
「お腹が痛いんで次の試合は棄権します! それではバイナラ!!」
全力疾走で会場をあとにする。
プレジデントファイトからも全力で逃げたのに、なんで今またここで別のバトルに巻き込まれなあかんのか?
ここでの視察は充分にしたということで、次のポイントへ行くことにするぜ。
さらにもう一つ、人間共和国の建国前に覗いておきたい場所がある。
これが最後の確認事項。
……冒険者の魔国進出。
あのプロジェクトがどれくらい進んでいくかを見に行こうと思う。