軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

853 商人たちのコーヒー談義

吾輩は魔族商人のシャクス。

今日も元気に商業の面から、魔族と魔国の発展に寄与する者だ。

吾輩たちが今現在とりくんでいる、もっともホットな案件は、コーヒーショップであった。

最近新たに魔国との交流が持ち上がった魔島。

その特産物で目玉になったのは、コーヒー豆であった。

火で炙って真っ黒にして、そのあと粉々に磨り潰して湯にこすと、これまた真っ黒ではあるが苦み走って、飲むと気分がサッパリする飲み物となる。

一足先に聖者様が開発し、市場へと持ち込んでいたため受け入れはスムーズ。

吾輩や他の商売人もこぞってこの新商品へ手を出し、魔都中にコーヒーを飲ませる店を数多く立ち上げた。

時はまさに大コーヒーショップ時代。

手っ取り早く一儲けしたければコーヒーショップを開けと言われるぐらいだ。

吾輩も、魔国一の商会のトップであるからには儲け話に乗らない手はない。

幸いいまだ未開の分野でもあるコーヒーショップの経営は様々な可能性に満ち溢れていて、冒険的な試みの入り込む余地があった。

既に決まりきった市場法則に沿うこともなく……。

やってみたいこと、面白そうなことを思いつくままに盛り込んでいけるというのは中々に気分がいい。

モノ知らずで気分だけは大きかった若い頃を思い出す心地だった。

それは居酒屋ギルドの長サミジュラも同様で、古馴染みであるヤツと駆けだし気分を思い出して、様々に自分たちのアイデアを競い合わせたものだ。

そんな風に年甲斐もなく熱狂して商売を続けること数ヶ月……。

しかし頭打ちは、意外と早くやってきた。

まず一つの原因としては、売り物の幅が少ないこと。

魔島から渡ってきたコーヒーという、舶来物の目新しさはたしかに商売を進めるのに有利な働きをしたが。

新しいものほど飽きられるのも早い。

多くの者が一斉に行えば、色褪せる速度はさらに早くなる。

流行から取り残されないためにも何とか新しい試みを……、と頭を悩ませたが、軸になるコーヒーの新たな調理法などそう簡単に開拓されることもなく、何度も失敗を繰り返すこととなった。

もう一つの焦りは、元祖コーヒーショップというべき『ラウンジアレス』の存在。

人族グレイシルバ殿がマスターを務めるそのお店は、唯一魔島以外からのコーヒー豆の仕入れをしている。

その品質が遥かに次元を画した強さ。

当然であろう、その大本はあの農場からなのだから。

聖者様が治める、あの農場から産出されたものはすべてが一級品、いやそれ以上。

コーヒー豆に関してもそれは同様で、せっかく新交易となる魔島の特産物といえども、農場産にはまったく適わぬ。

事実、グレイシルバ殿の喫茶店で淹れられるコーヒーは今なお断トツナンバーワンのお味で、吾輩も暇を見つけては飲みに行っているほどだった。

今では自分でコーヒーショップを経営しているほどなのに……!

敗北を認めるようで悔しい……!

でも美味しい……!

そんな風に頭打ち、限界を感じて焦りが募る今日この頃……。

それを打破する光明が差した。

救いの手を差し伸べてくれたのは意外にも先にも述べたグレイシルバ殿。

いつものように彼の喫茶店で午後のコーヒーブレイクを楽しんでいたところ、妙な提案をされた。

「面白いものがあるんだが、見ていくかい?」

と。

たまたま相席していたサミジュラも誘われた。

どうやらコーヒーショップ経営者なら誰でも興味を引きそうな話であるらしい。

長年ライバルのサミジュラと一緒に……というのは業腹だが、旨そうな話ならば一口乗らない手はない。

本当は人知れず出し抜きたかったんだが……。

そうして、店の奥に我々を引き入れたグレイシルバ殿が見せてくださったものは……。

ヤカンだった?

「薬缶?」

いや違う。

この不可思議な形、創造性を膨らませる佇まい。

既視感を刺激させられる。

吾輩は過去何度もこういったものを目にしてきた!

「そう、これは聖者様が作り出したものなんだぜ」

やはり!!

聖者様謹製の! それならばきっと我々が見たこともないような機能を有しているに違いない!!

ソーセージメーカーの時もそうだった!

「ここにコーヒーと水を入れてな、火にかけてな?」

「ほうほう」

「すると蒸気があっと言う間にコーヒーを抽出させて、出来上がり」

「ふぉおおおおおおッッ!?」

出来上がったコーヒーは相変わらず真っ黒。

思ったより小量で、試しに口をつけてみると……。

「にっっがッッ!?!?!?」

超苦い!?

濃厚なお味であった。

ここまで濃厚なコーヒーを抽出できるなんて!?

「蒸気を利用して急激に抽出する方式だから、普通よりもずっと濃厚な味になるらしい。聖者様の受け売りだがな」

「なんと興味深い……!? しかし、こんな素晴らしいものを我々に見せてもよかったのですか? 恐らくアナタの店の目玉商品となるべきものでしょう?」

いわば切り札と言っていいもの。

「なに、新しいものは皆で使った方がいいだろうって聖者様も言っていたからな」

聖者様……!

なんと慈悲深い!

アナタ様のお陰で魔都の文明は急激に進んでいくのですね!!

この実に濃い味のコーヒーが世間に出回れば、コーヒーショップ業界に革命が起きるぞ!

今でさえ頭打ちとなっているメニューレパートリーに、様々な新アイデアが加わるのは間違いない!

世はまさにコーヒー新世紀!!

「というわけで、このエスプレッソでどんな新しいコーヒーができるか、皆で考えてみようぜ!」

ドン!

グレイシルバ殿の音頭で、この場は新商品の考案会場となった!

それが狙いだったのかグレイシルバ殿!?

広い施しの心をなされたと思ったら、この大商人たちの知恵を利用するとは何たる巧みさ!

「うーん、しかし苦い……苦いなあ、苦い……!?」

同行するサミジュラのヤツは、苦いのが苦手なのかガンガン砂糖を入れていた。

フン、無粋め……。

コーヒーは苦味こそが思考とわからんのか?

「そんなこと言ったって苦いのはキツいだろ!? 店にいらっしゃるお客さんもミルクに砂糖を合わせて注文される方がほとんどだ! ほとんどすぎて最初からメニューとして出すほどだぞ!」

「カフェオレな。そしてエスプレッソにミルク入れるのをカフェラテというらしい」

カフェラテ!?

何ですかそのハイカラそうな名前は!?

早速メニューに取り入れましょう! 商品のインパクトは商品名からですよ!!

もちろん素のエスプレッソもメニューに加えよう!

さらにインパクトを加えたいから……。

「……そうだ、大きめのサイズを頼む時は『ドッピオ』と言ってもらうことにしましょう!」

「ドッピオ!?」

「どどどどどど、ドッピオ!? どういう意味ドッピオ!?」

私にもわからない! しかし今急激に脳内に降ってきたんだ!

エスプレッソの大きめサイズはグランデではなくドッピオと!

ドッピオ!!

ドッピオと叫ぶだけで来店者数が百万人に増えそうだな。

「ぐぬぬぬぬぬ……! シャクスばかり新商品のアイデアをポンポン出して、こちらも負けられんぞ……!」

「新商品っていうのかなあドッピオ?」

サミジュラめ、吾輩の商会長としての溢れ出すセンスを実感してくれたかな。

これこそ立場が生み出す貫禄というものだよ。

「フッ、甘いなあシャクスよ。ワシに何の切り札もないと思ってか?」

「何?」

「ワシは以前聞いたことがあるのよ。聖者様が会話の合間にポロッとこぼしたまったく新しいコーヒーのメニューを」

何ぃ!?

そんな重要な情報を!?

「何気ない会話の中でも重要な情報はしっかりと聞き逃さない! それこそワシが居酒屋ギルドマスターとして培った抜け目なさよ! 儲けの機会を嗅ぎ分ける感覚こそが商売人のキモ!!」

い、一体どんなコーヒーのアイデアを聖者様から聞き出したというのか……!?

「聞きたいか、それならば聞かせてやろう!!」

「もうエスプレッソから話が逸脱してない?」

「聖者様がポロッと口を滑らせたコーヒーの新メニューとは……!! ウィンナーコーヒーだ!!」

* * *

後日、コーヒーの中にウインナーをぶち込んだウィンナーコーヒーがサミダ珈琲店で発売されたが、売り上げはイマイチだった。

聖者様にお聞きしたところによると、ウインナーコーヒーというのは、ああいうのじゃないんだそうな?

じゃあウィンナーコーヒーってどういうの?

と思いつつ私の店ではキャラメルマキアートがバカ売れするのだった。