軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

846 知識は燻製なり

ベーコン。

皆が大好き薄い肉。

あの独特な触感は、野菜と合わせてもよし卵と合わせてもよし。厚切りにして酒のつまみにもなる有能食材。

誰もが食べたくなるであろうアレも、これまでこちらの異世界で作られることはなかった。

工程に燻しが入ってるから。

それだけはキッチリわかっていたんだよ。そして『燻製ってどうやるの? サッパリわからん!』という精神から、思い立つそばから実行を断念していたんだけども。

しかし今回、桜チップの導入によって燻製を実行。様々なものを燻して経験値もたっぷり積んだ。

今こそ、やらない理由はなくなったんではないか?

元よりおれもベーコン大好き。

朝食の卵焼きにベーコンが伴っていると何とも贅沢な気分になる。

添え物がお肉なんて、おまけがメインみたいな豪華さじゃないか!!

ということで今さらになってベーコンがメチャクチャほしくなってきた俺なのである。

というわけで作るぞベーコンを。

ベーコンってただ煙でいぶせばいいのかというとそんなこともない。

それじゃただのお肉の燻製だ。

使う肉材は豚バラ肉。

レンガもかくやというぐらいの一塊を用意して、これを立派なベーコンへと仕立てていきます。

提供元は毎度お馴染み角イノシシ。

農場近隣のお山に住むイノシシ型のモンスターが、最近では狩ることなしに呼べばやってきてお肉を提供してくれる。

自己犠牲の精神。

生まれては狩られ、生まれては狩られの輪廻転生を繰り返していくうちに神性を手に入れ、もはや生も死も同じものと捉えて動揺せぬ。

だから自分の肉もいともたやすく明け渡す。

もはや聖獣といっても過言ではない角イノシシさんなので、お肉の味もなかなか清浄であった。

こんないいお肉でベーコンを作るのですよ。

期待値アップですね。

まあイノシシ肉なので、豚バラと言うと何やら語弊が出てくるんですが。

とにかくそのバラ肉をまず塩を塗り込みます。

さっきも言ったようにただ煙で燻すだけなら、それはただのイノシシ肉の燻製。

加えて様々な工程が入ってこそベーコンとして成り立つ。

その工程の一つとして塩を刷り込み、味付けしつつ水分を抜く。

塩は水分を吸い取るんだよ。浸透圧だ。

その次にまた一工程。

ソミュール液に漬ける。

ソミュール液!?

一体それは何ぞや!? と言うだろうが俺もよくわかっていない。

肉を味付けする液体とでも思っとけばよかろう。

塩やら砂糖やらハーブやらニンニクやらをぶっこんで煮て冷ましたら出来上がり。

まあ、細かい配合は要研究として……。

その液に塩漬け処理したお肉をぶち込んで、しばし置く。

漬け込みしっかり味も染み込んだところで塩を抜いたり水気を抜いたりしてしっかり準備したあとに……。

やるぞ。

ついに燻製を!!

既にしっかり経験値も溜まった燻製でしっかり煙に巻いて、スモーキーの風味をしっかり肉にまとわせる!!

同時に保存食としての機能をしっかり増強して……ベーコンの完成だ。

「おおおおおお……!?」

出来上がったベーコン一ブロックを見て感動を禁じ得ない俺。

農場の食材加工技術もついにここまで来たか……ということもあるが、それにも増してこんなにまとまったデカベーコンを見るのは生まれて初めて。

「クッソデッカい……!?」

俺にとってベーコンと言えば、それこそ紙のように薄っぺらいか、一口大に小さく切り分けられたもの。

どっちにしろクソちっちゃい1/144スケール的なシロモノでしかなかった。

それが、一から手作りしたためとはいえ、ここまでわかりやすくデッカいベーコンを目の当たりにすることになるなんて……!

うすら恐怖を感じるレベルだった。

今まで認識していたものが、その認識を越えるスケールで対峙した時に人は恐怖を覚えるものらしい。

たとえば可愛がっていた猫がいきなり虎スケールに肥大化したら誰だってビビることだろう。

それと同じような気分で、このベーコン塊を目前にする俺の気分は戦慄を伴うものであった。

……このベーコン塊、丸ごと食うとなったらどんな気分なんだろうな?

もちろんそんなことはしない。

この苦労と実験の上に完成した異世界ベーコン第一号は大事に薄切りにして食べていく所存だが、いわゆるケーキワンホール丸ごと食べるような乱暴な贅沢がせまってくる感じ!!

「ご主人様―、今度は何を作ったのだー?」

そして現れるヴィール。

食い物を創作したらヤツが出てくるというのはもはやコーラを飲むとゲップが出るというぐらい確実。

HBの鉛筆をベキッと折れるぐらい当然。

「……おッ! これはご主人様、チャーシューを作ったのか!? 早速ラーメンに放り込むのだー!!」

「違う違う違う違う違う……!!」

ラーメン(作りが)大好きドラゴン、ヴィール。

もちろんラーメンに付き物のチャーシューも一から手作りできるぐらいに精通し、やつのラーメン研究室には常に数キロ単位でチャーシューが保存してあるとか。

恐ろしい。

しかしながら、同じ豚肉で作られているからと言ってチャーシューとベーコンはまったくの別物。

そもそも煮て焼くのみで調理するチャーシューは、その分脂身がトロリとして、だからこそラーメンスープに交じって互いの味を相乗するんだろう。

対するベーコンは、保存目的で塩漬けしたり干したり燻したり、徹底的に水分を抜く工程を取っているから汁物に交ぜても吸ったりしない。

『学食のラーメン、チャーシューの代わりにハムが乗ってるぜ』的に嫌がられるのがオチというものであった。

「だからこそベーコンは焼いたりするのが合っているんだろうな。熱を加えて初めて奥底に封じ込めた油が染み出し、何倍にも味を高める」

「なるほどなのだー?」

ヴィールの生返事が、よくわかっていないことを如実に示していた。

よしここ論より証拠。

実際に一番美味しいベーコン料理を食わせてその真価を見せつけてくれよう!

ベーコンエッグを作る。

諸説あるとは思うがベーコン料理でもっともオーソドックスかつ素材の旨味をもっとも活かすのはベーコンエッグだと思うのだ諸説あり。

フライパンにまず薄切りベーコンを敷いて、ベーコンから油が染み出した頃合いを見計らって卵をイン!

あらかじめ敷いた油だけでなく、ベーコンから出る油も加えてトロトロに卵を焼く。

そうしてこそ、ただの目玉焼きにはない味を付け加えるのがベーコンエッグの強み!

とりあえず卵の焼き加減は半熟で(好みの差あり)、さあ焼き立てを召し上がれ!

ベーコンの風味で、むしろ調味料を加えなくてもいいぐらい!

醤油かソースかはとりあえず戦争になるから別件で!

「ふぉおおおおおおおッッ!? うめぇのだぁあああああああッッ!!」

そして案の定なリアクションをしてくれるヴィールだった。

「油の風味が目玉焼きに移ってしっかり美味いぞぁあああああッッ!! こんな濃厚な肉味の目玉焼きは新鮮なのだぁああああッ!! 半熟ならむしろごはんに乗せて食べたいのだぁあああッッ!!」

さすがはヴィール。

ハーフボイルドのもっとも美味しい食べ方を心得ている。

なるほど半熟卵のトロ味と、ベーコンの脂味が飯に絡めばこれほど美味しいものはないっつーことで。

お店に出してもおかしくないクオリティよ。

そしてベーコンの旨味はベーコンエッグだけに止まらない。

「次の料理……ベーコンソテーだ!!」

ベーコンソテーと言えば定番はホウレンソウ。

報告、連絡、葬式のことではないぞ。

非へム鉄たっぷりで一部の海兵を最強バーサーカーへとキメさせる強壮栄養食。

野菜にはけっしてない油を、ベーコンから染み出す分で絡めることで独特の旨味をうんたらかんたら。

「これもクソ美味ぇええええええッ!! 炒めてしんなりしたホーレン草にベーコンの歯応えがマッチングだぁああああああッッ!!」

これもヴィールにはいたくお気に入り。

ベーコンの油は何と絡めても美味いという定説を実証することとなった。

まあベーコンと一緒に炒めるとなったらホウレンソウもいいが、アスパラガスもいいよな。

『子どものころ嫌いだった味』の代表格みたいなアスパラガス。

しかし大人になった今あのシャキシャキとした食感が堪らない。

これもベーコンの油味が交じると格段に上手い。

しかもアスパラガスは今のような春先こそもっとも美味しい季節。

今こそアスパラガスにベーコンを巻かねば!!

……という感じで完成した傍から大活躍のベーコン。

このファンタジー異世界で、そもそも製造工程が明らかにされていないベーコンをここまで正確に再現するのも至難の業。

普通の人がソミュール液なんて知ってる方が珍しい。

しかし俺は、異世界に渡る前にたまたま本か何かでベーコンの作り方を知っていたので、こうしてこっちの世界で再現することに成功できた。

まさに『知識は力』だな。

ベーコンだけに。