軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

843 ウメサクラ大戦

さて。

こうして始まりました梅vs桜の春の花代表決定戦。

そんな言い方をすると、他の草花にも思うところがあるかもしれませんが、とにかく今参戦している当人(?)どもの気が済むようになればベストなので、これ以上話を大きくしたくもなければ複雑にしたくもない。

ということで純粋な一騎打ちでとどめておきたいと思っています。

『さあいけ! 殺るのだ! けばけばしい桜など一蹴して梅こそが最強の春の花だと証明するのだ!!』

そして俺の隣で益々騒々しい祟り神こと菅原道真さん。

桜に対する妬み嫉みが、生前自分を太宰府へ追いやった政敵クラスにまで増大している。

このままだとまた怨霊化しかねないのでなんとか平和的に事を収めてくれないものかなあと思っている。

そんな桜と梅の好敵手(?)。

一体どのような勝負を展開していってくれるのか?

『サックラクラクラクラクラ……。梅の花ごときがこの桜に及ぶなど愚かな考え。好敵手と思うことすらおこがましい』

なんか妙な笑い声で桜の木は言う。

『千年以上にかけて愛され続けてきたこの桜の花。春に咲き誇る膨大なる花勢に、梅の花ごときが対抗できるかな?』

と、みずから枝に息吹く花冠の数々を見せつける。

そう世界にはそれこそ数百万種という花の種類があるものの、桜より考えなしに数多くの花をつける種類はないんじゃないかと思う。

枝に隙間なくビッシリ花がつくじゃん。

花びらの数も半端ないし。

どこかの物好きが一本の樹木についてる花びらの数を数えてみたら五十万枚を超えたとかいうウソかホントかの話も聞く。

そりゃあ春の落ちてくる花びらの掃除が鬱陶しすぎて伐採しようかって話も出てくるわけよ。

それに対して梅の花も美しくはあるものの、枝に咲く花は数もそこそこ。

桜と比べてしまったら、どうしても枝の下地が見えてしまうカスカスっぷりが気になってしまう。

結局、春の花として主役の座を競り負けてしまうのは、そういった純粋なる数の差によるものなんだろうが、その数の差を梅の花はどうやって覆すのか!?

『たしかに桜の花の派手さは他の追随を許さぬ……! そのことについては素直に認めようバイ……!』

『弱気になるな梅の木よ! 学問神たる私がついているぞ!!』

外野の祟り神が煩い。

『しかし、そんな不利な私だからこそ強力な味方を呼ばなければなかろうバイ! レッツ召喚!』

梅の木が召喚術を使えるとでも?

それに応えるかのように天から飛来する一羽。

梅の枝にとまったその鳥は、すぐさま軽やかな音色で一鳴きした。

ホーホケキョ、と。

「ウグイス?」

『その通り! 梅に鶯といえば古来より伝わる伝統的な組み合わせ! マリアージュ! 梅の木はこのパートナーを得ることで視覚だけでなく聴覚でも楽しむことのできる風流なのですバイ!!』

梅選手、ウグイスという助っ人(助っ鳥?)を得ることで一転有利に。

『さあ、お前にはこんな盟友ともいえる存在がいるんですバイ? 精々夏の枝にたかる毛虫ぐらいでしょうバイ?』

『ふッ! この桜にはパートナーも取り合わせも必要ない! 何故なら桜は単体でも充分に美しく鑑賞に値するからだ!』

しかし相手も手強い。

絵になるマッチングを持たないボッチ境遇な桜だが、引かぬ媚びぬ顧みぬの帝王的な気構えでもって見事に弾き返す。

『ほう……それでは味覚の勝負ではどうですバイ?』

『味覚!?』

『ご存じの通り、梅の実を塩漬けにして作る梅干しは、多くの人々から愛される有料栄養食! 美しい花を愛でるだけでなく実を食べても美味しいという、この完全存在梅に桜が対抗できるバイ!?』

『何を言い出すと思えば! 実を食せる樹花が自分だけだと思うのか!? この桜とて、その実がサクランボという愛称で親しまれているのを知らぬわけではあるまい!!』

たしかにたしかに。

桜の実を砂糖もしくはシロップに漬けたサクランボは、子どもたちにも人気のスイーツ。

梅の実が塩漬けで桜の実が砂糖漬けというのもまた見事な好対照だが……。

サクランボの茎を口の中で結べるかでキスの上手下手がわかるなどという俗説もあったりする。

そういう面から見ても人気のフルーツなのであろう。

『くッ、味覚勝負では引き分けバイ……!』

『だとしたら一番メインの視覚で圧倒的優位を誇る桜の勝利は揺るぎがないということに! やはり春の花の王座はこの桜の花で揺るぎないようだな!!』

『ぐぬぬぬぬぬ……!?』

やはり桜へと対抗するのは梅には叶わないのか?

そんな佳境に入りつつある対決だが、その周囲は相変わらず花見で和気あいあい。

農場住人たちが長い冬を乗り越えて到達した春の暖かみに満喫していた。

「今年の浜見は梅の花も加わって彩り豊かですのう」

「日本酒をもう一杯」

「桜を見ながら食べる桜餅うめー」

「梅を見ながら飲む梅酒もなかなか……!」

とそれぞれの趣向で花見を楽しんでいらっしゃる。

「ところで梅と桜はなんであんなに争っているのだ?」

「だよなあ、どっちも綺麗でいいだろうに」

そして根本的なところに言及し始めた。

そうだよどっちも綺麗で見ごたえあればいいじゃん。無理に一番を決める必要もないんだよ。

「アレかな? 梅と桜それぞれにまつわるエピソードを披露する合戦なのかな?」

「それだと余興としては持ってこいだがなあ」

となかなか好意的な解釈をしてくれるものの……。

「ぼく、しってるー」

とふいに名乗りを上げる者が現れた。

彼の名はジュニア。

我が息。

今年でついに四歳。

ジュニアはてくてくと梅の木、桜の木の下へ歩み寄っていく。

何をするかと皆が注目する中……。

『うん? どうしたんバイ坊や? ……ぐべおッ!?』

「さくらおるバカ、うめおらぬバカー」

ジュニア、いつの間にか手に持っていた巨大こん棒で梅の木を横殴り。

突如行われる暴行に、梅の木をこよなく愛する道真公も度肝を抜かれる。

『なんでぇえええええッッ!?』

桜折るバカ梅折らぬバカ。

『桜切るバカ梅切らぬバカ』が正確なんだけど、その格言は植木職人における教えで、桜の木は折ったり切ったりすると枯れてしまうことがあり、逆に梅の木は成長旺盛でこまめに剪定しないといけないという教えの言葉であるらしい。

庭木を育てるにも種類によって様々な方法があるんだなあ、と感心させられるものの……。

そのエピソードを今持ち出す必要性はあるのか息子よ?

『サックラクラクラクラクラ……! 幼児にぶちのめされるとは所詮梅の木よ。つまりこれは、やはり春の花の最強はこの桜であるという……』

「……」

『……何?』

ジリジリとにじり寄ってくるジュニアへ、えも言われぬ不安感を覚えたらしい桜。

警戒感によって声が張り詰める。

「ど、どうしたんだジュニア?」

「……じょーじ」

ジョージ?

いきなり誰のことを言ってるんだジュニアは?

ジョージ・ラローシュか?

……いや違う!

ワシントン!

アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンのことか!?

彼もまた桜に関するエピソードの持ち主!

幼少の頃、斧で桜の木をブチ折り、そのことを正直に告げて称賛されたという!

「ぼくもしょうじきに言って、ほめられるー」

異世界生まれのジュニアが、どこでアメリカ大統領の逸話を知ったか、相変わらず謎の情報収集能力を誇る我が息子。

しかし正直に告白するにしても、父親である俺がしっかり事件現場を目撃しているのですが?

それでいいのか息子よ?

「さくらもおるばかー」

『ひぇああああああッッ!? 助けてぇええええええッッ!?』

突如としてシリアルキラーとなった我が息子に泡を食って逃げ出す桜の木。

こうなったら樹霊が憑依して動き回れるのが有利に働くな。

しかしながらウチのジュニアがこんな凶行に及ぶ真の理由は、決して過去のエピソードになぞらえて知識披露することではあるまい。

喧嘩両成敗。

これがすべてだ。

純真無垢な子どもによって叩き折られて、無益な争いはすべきでないと心に刻むことだろう。

一生懸命逃げ惑っていた桜の木も結局追いつかれてジュニア必殺フルスイングであえなく屈折。

一仕事終えてこっちに戻ってきたジュニアが……。

「ぼく、おったー」

と報告してくるのは罪の告白というよりは戦果を告げているような感じであった。

こうして春一番の争いは、引き起こした者の全滅というもっとも悲惨な結果で幕を閉じたのだった。

まさに花の散るがごとしだった。