軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

842 世界樹vs知恵の木

とまあ、そんなこんながありまして……。

境内に咲き誇る梅の花々でもって早速花見の開催と行きまっしょい。

花が咲けば愛でるのが大和民族の心意気よ。

俺たちは異世界在住だが。

神殿でのお参りを済ませたあと早速、レジャーシートを敷いて弁当など広げつつ、満開の梅の花を愛でようではありませぬか。

「花、綺麗」

「美しい」

「色鮮やか」

「僅かな間に咲いて散っていく儚さがよい」

と農場住人たちも梅花の美しさに胸打たれたご様子。

……。

「……でも桜の花に比べるとショボくない?」

「花冠の数も、桜より全然少ないしな」

「風に舞い散る花びらの風情もない」

「あの樹木全体を包み込むような桜の花の豪勢さを知っちゃうと、どうしても寂しさが……」

こらこらこらこらこらこらこら。

なんてことを言うんだ梅の花の面前で?

たしかにお花見のスタンダード桜と比べたら詫び寂びが忍びかもしれないが、それは桜の咲き誇りっぷりが豪勢すぎるんだよ。

もはや暴力的と言っていいレベル。

あの桜の咲きっぷりを見せつけられたら他のモンじゃ物足りなくなるという気持ちもわかるが。

でもせめて感想を述べるなら道真公の見てないところで言え!

梅ガチ勢の菅原道真公に、聞かれないように!!

『はっはっは、そう目くじらを立てるでもないぞ聖者よ』

そう言って笑うのは当の祟り神。

アナタを思って目くじらを立ててるんですが!?

『他人に趣向を押し付けるのは風流ではない。梅の花も美しいが、だからと言って桜の花の美しさを否定するものではない。いずれも美しく咲き誇るものよ』

さいですか。

『しかしまあ今、梅の花が見劣りするなどと言った輩とは、いい機会なので膝を突き合わせてとことん話し合いたいものだがなあ』

やっぱり気に障ってるじゃないですか。

どんな分野においてもガチ勢は怖いということを再確認しつつ、しかしここは無礼講の宴の席なので何とか難なく進んでいく。

できればこのまま和やかに終わりたいものだ。

皆が浮かれる花見の席で俺だけが緊張するという理不尽さを感じつつ、しかし俺の願いは儚く潰える。

諍いの種が向こうから押し寄せてきたからだ。

『納得が……納得が維管束……』

ズシーン、ズシーン。

ん? なんだ?

この巨人の足音のような大きな響きは?

地鳴り?

その音はズンズン鳴るたびに大きさを増し、こちらへ近づいてくるような印象を与える。

実際近づいてるんだろうなぁ。

「我が君! 見てくださいあちらを!」

誰かが異変に気づき、その指さす方向に全員が注目する。

地平の向こうで、何かが揺れているのを目視できた。

何だ? 大きい?

それこそ巨人か? 怪獣か? と思ったが、どちらも違った。

しかしそれらと見紛えるほどの巨躯だ。

全身が色鮮やかな薄ピンク。

動くたびに濃厚な花吹雪を散らせる、その姿は……。

巨大な……桜の木ではないか?

「桜の木が独りでに歩いてきている!?」

どういうこっちゃ!?

樹木ってそんな簡単に二足歩行でえっちらおっちら歩いてくるものだっけ!?

少なくとも俺の知識では、樹木って一度生えたところからは二度と動かないから樹木なんじゃないの!?

しかもあの巨大さ。

天にも届かんばかりの異様な背丈は明らかに異種融合がおこなわれた世界桜樹。

世界樹にて桜の木!

そんな木がいかにして独りでに歩いておるものよ!?

『……春はあけぼの、ようよう白くなりゆく山ぎは。その春にもっともふさわしい花こそ、この私……桜であるにもかかわらず、その私をスルーするのは何事か?』

誰の声?

……いや、ここまで来たら情報を総合して、あの桜の木が喋っているのは疑いない。

そんなことがあり得るのか。

考えられる要因は一つ。農場には、樹木に憑りつく樹霊という存在がいるではないか。

『桜の樹霊チェリー・ボーイ。この理不尽なる仕打ちに世界桜樹に憑依して参戦しにまいった!』

やっぱりそういうことか。

この既に面倒になっている状況に、さらなる面倒の種が向こうから足を生やしてやってきた。

『うぬぬぬぬー! 何しにやってきたんですバイ! サクランボーイ!!』

それに対して梅側も樹霊降臨。

梅の樹霊オノコ・ウメも梅の木に憑依して対抗する。

『今日は私が主役の席ですバイ! そこへ呼ばれてもないのに押しかけてくるとは桜らしい自己主張の激しさ! 少しは日本の心……奥ゆかしさを身に着けるがよかバイ!』

『せからしい! 春の花といえばこの桜の木が主役であるのは十人中十七人が認めること! それを理由にまかり越して何が悪いというのか!?』

『これだから桜は節操なかバイ! そんなに枝中に花ば盛りつけてゴテゴテしい!』

和やかな花見の席は、すぐさま桜vs梅の、春の花勝負の場として騒然とし始めた。

これはこれで華々しい。

「おおー桜の花も現れて、一気ににぎやかになりましたのう!」

「見た目の色鮮やかさに酒も進みますわい!」

それを見て花見のテンションが上がる農場住人たち。

いや、そんな場合じゃない!

『よいぞ梅の花よ! お前こそが春の季語にもっともふさわしいということを今こそ知らしめるのだぁあああッッ!!』

ここぞとばかりに好戦的な祟り神。

せっかくの和気藹々とした花見が決戦場に早変わり!

『いいですバイ! こうなったら我が必殺、 梅花袖箭(ばいかちゅうぜん) で穴だらけにしてやりますバイ!』

『だったらこちらも桜花放神で破邪顕正じゃあああああああッッ!!』

桜の花と梅の花と戦いとは言っても双方、ただの桜でもただの梅でもない。

それぞれ神話級の神樹霊木が合わさったハイブリット超樹木。

誰だ? こんなおったまげたものを拵えたのは?

俺か!

とにかくそんなものがぶつかったら、周囲への影響が飛んでもないものになりかねない?

何しろ一方が世界を支える大樹、もう一方が人類に原罪を植え付けた楽園の木なのだから。

しかし一方では梅と桜。

こういうのも代理戦争ってことになるんだろうか?

『ふんのぉおおおおおおッッ!!』

『おごごごごごごごごごごごごごごッッ!!』

いや、ただの杞憂だった。

どれだけ神話級のヤバいシロモノであろうとも所詮は木。

そこに能動的な行動力もなく精々枝葉をザワザワさせることだけが主張であった。

「まあ、梅に桜と合わさったら見た目には鮮やかだし、花見を楽しもうかな」

「はい、ご主人様、お茶よ」

「おお」

プラティから差し出された緑茶は、濃くて美味しい。

まだ肌寒さの残る春先によくあった味と湯加減であった。

花を愛でながら飲むものとしても味わい深いな。

ズズ……。

……はあ……。

……茶が美味い。

『和やかになっている場合ではないぞぁあああああッッ!!』

そこへ乱入してくる祟り神。

風情の欠片もない。

『今こそ私の梅が最強の春の花だと知らしめる絶好の好機! 一緒に梅の花を応援してやるのだぁああああッッ!!』

いや、俺はどっちにも肩入れしませんよ?

すべてにおいて公正であるのが農場主としての務め。

俺はただ農場において行われるあらゆる争いを静かに見つめ、その行く末を見届けるのみ。

梅と桜。

知恵の木と世界樹。

さて勝つのはどちらであろうか?

こうして花と花が異種格闘戦して、それを観戦するのも花見と言えるのだろうか?