軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

838 春と梅

ひねもすのたりのたりかな。

俺です。

随分久しぶりな気がする。

唐突に訪れたアードヘッグさんとブラッディマリーさん夫妻はまた嵐のように去っていったが、あれから問題解決したんだろうか?

経過報告ぐらいしていってほしいものだ。

そんなこんなやっているうちに冬が開けた。

春だ。

早蕨の萌えいずる春。

『春はあげぽよ』と呼ばれることで有名な春。

すべての生命が厳しき冬を乗り越えて、暖かな喜びに解放される季節!

我ら農場も再び始動だぜ!

春が来るとすっかり『年が明けた』って感覚になる。

前の世界だと十二月三十一日にカウントダウンして『明けましておめでとー!』と言ったら年明けの気分だけど、こっちにゃカレンダーもないので暖かくなったら年明けだな。

年が明けたらすることは何か?

「初詣行こうぜ!!」

初詣と言えば、今まで我が農場にはなかった文化。

しかし本年からはある。

何故かというと昨年神社を建てたからだ。

詣でる対象がなければ初詣も何もあったもんじゃねえが、あるなら参ろう。

「プラティ行くよー、準備できたー?」

「待ってよ旦那様……! ああもう動きにくいわね、このドレス!」

振袖姿のプラティがモゾモゾ歩きにくそうに出てくる。

いや彼女は既婚者だから留袖か?

腕には次男のノリトを抱え、長男のジュニアは俺に手を引かれている。

俺もジュニアも、今日は七五三の時に仕立てた紋付き袴を装備。

神に詣でる時の正装だった。

「では皆で揃っていきますか!!」

「「「「「おおぉーーーーッ!!」」」」」

他の農場の仲間たちも揃って団体様で神社を目指す。

こうしてると本当に初詣の賑わいを彷彿とさせるぜ。

そうして辿りついた行先は……!

神社!!

昨年俺たちが建立した異世界天満宮へ!!

そこでは祭られる神様が待ち受けてくださっていた。

『よくぞ来た、我が氏子らよ』

いや氏子じゃないですけど。

この平安貴族のような冠直垂姿の神様は、菅原道真公。

この神社を建立した時、祭神になってくれる神様をテキトーに召喚したら来てくれた。

学問を司る神様なので、これから育ち盛りの子どもがいる我が家には打ってつけの神様。

詣で祈るにも自然と力が入ってくるぜ!

「神様あああああッッ!! ウチの子を! ウチの子をどうか東大にぃいいいいいいッッ!!」

「えッ? 旦那様ジュニアやモリトを灯台守にしたいの?」

そのトーダイじゃなくねてッ!

ベタなギャグだぜ!

東大じゃなければケンブリッジに! まちゃちゅーせっちゅに言えてない!!

『まあ子どもは幼いうちはのびのび育てるのがよいことだ。焦りは禁物じゃぞ』

学問の神みずからなだめくだされたッ!?

「のびのびそだてろー」

ジュニア本人からも要請がッ!!

まあジュニアも今年四歳、ノリトもいよいよ二歳を迎える。

七五三には引っかからないから今年はようやく普通に誕生日を祝えそうだ。

こんな立派な神社を七五三以外で利用しないのももったいないから、こうして初詣に来ておるのだがな。

ただ、七五三や初詣以外でこの神社が放っとかれたわけでもなく、足繁く通う参拝客もいたようだ。

たとえばノーライフキングの先生。

『道真公、この年が明けてめでたき日に挨拶に来ましたぞ』

『おお、同志先生よ!!』

先生と道真公は、同じ教育者気質なのかメッチャ気が合う。

俺が知らないところでも交流を密にしているらしく、今日も会うなりハイタッチして仲よしさんだった。

友遠方より来りて楽しからずやな道真公。

『同志先生は、この世界の若者の教育に熱心ですからな! 会話していて楽しいですぞ!』

『ワシも道真公から和歌など教えてもらって世界が広がっております! どれ日ごろの鍛錬を確認するためにここで一句……サミダレを集めてはやしトネガワ』

盗作だ!!

ちょっともじって誤魔化しが効くなんて思うなよ!

道真公、教えるならちゃんと教えて!!

それはともかく、初詣には我が農場の住民だけでなく、よそのお国からも参拝客が数多い。

魔王さんやアロワナさんもまた拝殿の前で熱心に祈りを捧げていた。

「どうかウチの子たちが賢く育ちますように!!」

「安心して任せられる優秀な後継者になりますように!!」

祈りの切実さが伝わってくる。

二人とも責任ある国家元首の立場だからなあ。

自分らのあとのことを考えると、優秀な後継者は必要不可欠。そんな彼らにとって学業成就の神様たる道真公はジャストミートな神様なのだろう。

そりゃあ遠出までして祈りにも来る。

「しかし魔王さんアロワナさん……!? 自分とこの神への参拝は済ませてあるんですか?」

魔王さんとこの魔族には冥神ハデス。

アロワナさんとこの人魚族には海神ポセイドスというそれぞれの主祭神がおられるはず。

魔国人魚国とて冬が開けて新年あけましておめでとう気分なんだから、国王みずから祖神に対して『昨年も見守りくださりありがとう』『今年もよろしくお願いします』のお祈りは済ませたんですか?

「もちろん! まだだ!!」

「そんなことよりミチザネ公へのお祈りが大事! これで息子が英邁に育ってくれるなら安いもの!!」

現世利益恐るべし。

今得られるメリットの方が、古き神との契約を上回っている。

……これ大丈夫かな?

古参業者から苦情入れられるベンチャーみたいにならない?

『道真公のもたらす利益は、人の社会にピンポイントでヒットしますからの。拝む者が後絶たぬのも仕方ありますまい』

『私にとっては好むは努めるに如かずなるものを神となってからも離れがたいだけなのだがな。学ぶことは楽しくも役立つことであるのだから、別にことさら広めるまでもないと思うがな』

出たよ天才の主張。

それはアナタが恵まれた才能を持っているから言えることであって。

普通の人間はできれば勉強なんてせずに過ごせれば、それに越したことはないんですよ。

俺だってそうだった。

振り返る学生時代。

暇さえあればゲームしてた!!

宿題する暇があったらゲームしていたかった!!

『しかし誤解することなかれ!! 私は別に学問だけが好きなわけではない! もっと様々なことに興味を持つ、視野の広い文化人……もとい文化神なのだッ!!』

「急にどうした?」

『中でも私がもっとも好むもの……もっとも愛でるもの! それこそが梅の花!!』

「はい」

『見てほしい、我が社は、次元を隔てた異界に建っても梅の花で満開なるぞッ!!』

道真公がババーンと示す、異世界天満宮の境内。

そこには一株ならぬ、いくつも立ち並ぶ梅の花が、いずれも満開に咲き誇っていた。

「おおッ!? これは素晴らしい……!!」

利益目当てに訪れた参拝客も、満開梅の華々しさに目と心を奪われる。

主に紅と白の二色で入り乱れる梅の花だが、一株だけでなく数多くの木々が折り重なると紅白が折り重なって目の覚める風合いになり、かつさらに遠目に見たら色が混じり合って淡い桃色となってさらに風情豊か。

さながらどこぞの観光名所のようだ。

この花見たさに世界各地から人が集まってきそうだ。

『クハハハハハハハハッ!! 素晴らしい景観であろう我が境内は! やはり天満宮には神木の梅あってこそ! さあ、梅の花の美しさを愛でながら梅が枝餅を食うがよい!! 花に団子を兼ね備える、それが我が梅の素晴らしさ!!』

得意満面の道真公だが、ここまで来るのにどれだけの苦労があったことか。

どういうことかって?

まず考えてみよう、この異世界にどうやって梅の木がどうやって根付いたか?

どうやって満開まで花咲いたか?

春になったのにいきなり冬の頃へと回想します。