軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

831 皇帝竜夫婦訪問記・人魚前編

おれはガイザードラゴンのアードヘッグ。

どうしてこうなった?

私の妻として成婚したブラッディマリー姉上が、ある日突然キレ散らかされて炎上して……。

かねてからよしみのある聖者殿の下へ乱入、そこでも大騒ぎした挙句、さらなるわけのわからないことまで言い出した。

『世界中の夫婦の下へ見学に行くわよ!!』と……!?

どういうことかわからない。

ただマリー姉上は、おれとの結婚生活に不満があるということだけは何とか辛うじてわかった。

しかし何が不満なのだ?

俺はマリー姉上のことを大切に想い、結婚前と変わらず敬って対応していたのに。

結婚前と、

まったく違わず、

寸分の違いもなく……!

一体何が不満なのだ?

しかし暴走するマリー姉上を捨て置くわけにもいかず。農場からの辞去際、聖者殿からも『絶対目を離すなよ! 絶対だぞ! フリじゃないからな!!』と言われたのでついていくしかない。

『もちろんアードヘッグも来るのよ!! むしろニンゲンの夫婦からもっとも学ばなければいけないのはアナタなんだから!!』

『はあ……!?』

お互いドラゴン形態に戻って飛行移動中に言われる。

何を学べと言うのか? おれは今ではかなり立派に皇帝竜を務めているつもりなのだが?

しかし『人間の夫婦から学べ』と言っても、具体的にどうするのか?

まさか目につく街村に片っ端から降りたって、道行く者を無分別に捕まえて問いただすわけにもいかん。

みだりに人の生活を乱すのは悪いドラゴンだ。

そこでおれは思い立った。

『姉上、知り合いの下に行くのはどうでしょう? おれたちには聖者殿のような知己が他にもおります』

何しろおれは『人に優しいガイザードラゴン』を目指しているからな。だからこそニンゲンの知り合いも多いのだ。

その中で特に、さっきの聖者殿以上に付き合いの深い方に心当たりがある。

しかも彼も既婚者だ。

きっとマリー姉上の喜ぶ話を提供くださるだろう。

まずはそちらに行ってみるのはいかがかな?

『何言ってるの? 既にそこへ向かっているわよ?』

『えええええええぇーーーーッ!?』

『ガイザードラゴンの妻たる者、夫の交友範囲ぐらい把握していなくてどうするの? 聖者の次はきっとこっちだろうなとタカを括っていたんだから先んじることぐらいわけないわよ』

怖い。

夫の動きを完全に読んでいる。人間たちの妻も普通にこれぐらいやっているのであろうか。だとしたら本当に恐ろしい。

聖者殿のところの細君もそれぐらいやってそうだが……それが特別なのかを知るためにも新たな夫婦の下へ調査に行く必要があるな。

なので我々は次の目的地へ急ぐことにした。

ここから先は海に潜らねばならない。友の下へ訪れるにしろ毎回海水塗れになるのは厄介なことだな。

* * *

おれたちが訪問したのは人魚国。

そこの支配者で、人魚王を名乗るアロワナ殿こそ、おれと共に修羅場をくぐった断金の友だ。

「おおおアードヘッグ殿! よくぞ参られた!!」

「無沙汰をいたして申し訳ないぞ! ハハハハハハハ!!」

久々に顔を合わせし友。

おれも人間形態となって互いの肩を叩き合う。再会を喜び。

アロワナ殿とは力を合わせて我が父・先代ガイザードラゴンに挑んだ仲だ。

彼の助けなくばオレは父上に勝てなかったろうし、さすれば今のおれもなかったであろう。

アロワナ殿は、ニンゲンの中でもっとも親しきおれの友。

むしろこういう時は聖者殿よりも先に訪ねるべき相手であった……!

再会の喜びもほどほどにして、来訪の用件を伝える。

「ほうほう、理想的な夫婦の形を探るために、我が城へとやってきた?」

そっす。

アロワナ殿も既に結婚されて数年が経つものよな。

そろそろ夫婦生活の酸いも甘いも噛み分けてきたものと存ずる。その経験を是非割れた新婚夫婦にお聞かせ願えまいか。

特にマリー姉上に。あの人が満足するまで帰れません。

「我が盟友アードヘッグ殿の頼みとあれば断る理由もない!!……しかしながら私ごときの話で本当に満足してくれるのか?」

急に弱気。

「……というのも私は恐れ多くも人魚王の位を賜り、市井の夫婦とは一線を画した生活を送っている。つまり特殊なのだ。何事にも例外があって、その例外が初っ端に当たると却って理解の妨げになりかねない。果たしてアードヘッグ殿たちの役に立つかどうか……!?」

「何を言っているの!? 持ってこいじゃない!!」

鼻息荒く割り込んでくるマリー姉上。

「我が夫アードヘッグは皇帝竜なのよ! すべてのドラゴンの頂点に立つ帝であるからこそ、その辺の一般庶民の夫婦生活など参考にならないわ! せめてニンゲン王族でないとね! そういう意味では最初の聖者のところなんか庶民の中の庶民でミスチョイスと言わざるを得ないわ!!」

さり気に聖者様のことディスらないでください姉上。

というわけでアロワナ殿……ウチの姉上が気にしなくなるまでお話やってくださいませんか?

飽きたらテキトーに帰ると思いますんで……!

「ふむ、我が夫婦の話をすればいいわけですな? なんと言ってもパッファは最高の究極良妻だからな!!」

何か始まった。

ニンゲンによるつがい自慢か?

アロワナ殿の妻であるパッファ殿もおれとは知己だ。

人類の中ではなかなか強力な魔術使いであり、魔法を込めた薬の扱いに長けている。

同族の間では『凍寒の魔女』などと呼ばれてもいたそうだな。

「まず前提として人魚王である私の妻は、必然的に人魚王妃にならなければならない。それが人類の作りし『王国』というシステムの根幹にかかわることだからだ」

「そうね、だからこそ私だって皇帝竜のアードヘッグと結婚して皇妃竜になったのよね!」

「実は私は当初……パッファが人魚王妃となることに不安を抱えいていた……。パッファが素敵な女性であることは間違いない。しかし彼女の魔女としての尖った才能もあるし、反骨心も強い。それらは国民全体に対して公正であるべき王妃の質に合わないのではないかと……」

ふむふむ。

ふーむ?

「国王の伴侶とはそういうところが厄介で、どんなにお互い同士が愛し合っても国王や王妃としての責務が果たせなければ夫婦関係は成立しない。私も結婚前は大いに悩んだものだが……!」

アロワナ殿そんなこと考えていたのか?

彼らの結婚式には私も出席したが、その前後この人はただただ幸せに浮かれているという感じにしか受け取れなかった。

腹の中では不安と戦っていたとは、ニンゲンとは本当に複雑な生き物なのだな。

「しかしながら、すべては杞憂であることが結婚してすぐわかったね!! パッファは魔女であるからにはバカではない! 当然賢い! 王妃のポジションからしても賢明さは重要な資質! ときに国王の代理人をも務めなければならない王妃が知性豊かで空気も読めるとなれば、これほど安心感はないぞ!!」

ここぞとばかりに嫁さん自慢始めてきたな……!

こんな瞳キラキラのアロワナ殿見たことないかも?

「唯一不安だった反骨心も、パッファは見事に毛づくろいしてきた! 人魚王妃としてのパッファは身分を重んじ、形式を守って、歴史に敬意を払っている。アレがかつて牢獄で牙を剥いていた大罪人かと信じられぬほどだ。ある時に、歴代人魚王の名を初代から全員諳んじた時は感動で涙が出るほどだったぞ! それでいて元々の不良っぷりがまったく抜けきったかというとそうでもなく、必要とあらば得意の魔法薬で私の敵を吹き飛ばすことすら厭わない! むしろあのワイルドさが、人魚宮勤めの箱入り侍女たちには刺激的なようで、そこを慕って今ではパッファの派閥ができるほどだ。ちょっとしたイタズラ程度の脱法魔法薬を配って侍女たちのご機嫌を取ることもあるらしい。そうした清濁取り混ぜた人心掌握も、苦労なく育った深窓の御令嬢にはできない手管だな! お陰で現在の人魚宮は母上が取り仕切っていた時と何ら変わらず安定している。代替わりの混乱をつけるなどと思っていた不逞の輩は残念無念また次代といったところだな! ここまで完璧であるにもかかわらずパッファは、完璧すぎるほどに世継ぎを生むことまで完璧だった! 結婚一年目で首尾よく懐妊し、最初の一人目で王子を生んだからな! いや、父親としてはだぞ!? 生まれてくる子が元気なら男だろうが女だろうが全然かまわぬ! しかし性根の腐った連中は、とかく王子を生まない王妃を責めたがるものだ本当にいけ好かぬ! そんないけ好かぬ連中が何か言うタイミングも与えず黙らせてしまうのが我が妃の凄まじさよ! しかももう二人目を身籠ったというので益々口出しの余地がないと、もうこうなったら私の治世で不正を働こうとする悪人どもが可哀想になってくるほどだよ! はははははははははははは!!」

どうどう、どうどう……!?

すげぇアロワナ殿、愛する奥様を語るのにめっちゃ早口だし、それでいて言葉が尽きずに次々流れ出てくる!?

これもまた彼が奥様を愛している証ということなのだろうが、ニンゲンの夫はこれぐらい妻を際限なく褒められるようでないとあかんといううことか?

「アードヘッグ!」

「はいぃッ!?」

案の定マリー姉上から要望が来たッ!?

「ちょっとアナタも私のことを語ってみなさい!」

「マリー姉上はとても美しいです!」

「一行ッ!?」

すみませんマリー姉上! 不甲斐ない夫で!

「まあまあ、アードヘッグ殿は元々口下手な御方なのだから、その寡黙さこそが魅力と思えばいいのですよ」

「そっ、そうかしら?」

「それ以前に、ただの『美しい』の一言だけでテレ散らかしてますね?」

ここですかさずフォローに入ってくれるアロワナ殿、マジフレンド。

「あまりに口が滑らかすぎる男も軽薄で信用ならんものですぞ。口は黙って背中で語る……それこそ真の男の魅力ですからな。私のようにあまり饒舌でいると……!」

「……アンタぁーッ!!」

話の途中でアロワナ殿が吹っ飛ばされたッ!?

凄まじい勢いで氷が発生して!

「人前で嫁自慢すんなっていつも言ってるいじゃないかい! アンタのその早口聞いたヤツから『お妃さまは陛下から特別愛されて羨ましいですわねぇ?』って弄られて毎回顔から火が出そうなんだよ!!」

それは人魚王妃パッファ殿が投げつけた氷結魔法薬であった。

パッファ殿もお久しぶりです。