軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

830 夫婦の模範解答

「プラティ! プラティ! プラティ! プラティぅぅうううわぁあああああああああんッッ!! あぁああああ……ああ……あっあっー! あぁああああああ!! プラティプラティプラティぅううぁわぁああああッッ!! あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! モフモフしたいモフモフ! モフモフ! 頭髪モフモフ! カリカリモフモフ、きゅんきゅんきゅいッ!!」

「ぎゃあああああッッ! 何なのよ旦那様気持ち悪い!? キモッ!? キショい!? ウチの旦那が超絶キショくなったあああああッッ!!」

嫌がられてもただひたすら縋りつくプラティに。

さすがに形振りかまわなすぎたか、プラティの嫌がり方は尋常ではなく、二の腕に鳥肌まで浮かべていたから本気で気持ち悪いんだろう。

「でも好き!」

よし(ベネ)!

これで夫婦の危機は回避できた。

見たか結婚歴一年未満の若僧ども!

これが歴戦を重ねた熟練夫婦の愛情の取り戻し方だ! 真似してくれたって全然かまわないぞッ!!

それを見たドラゴン夫妻は……。

「うぬぅ……!? これがニンゲンの夫婦の付き合い方!? 奥深い……!」

アードヘッグさんは素直に感心していたものの、もう一方の奥さんサイドはというと……。

「ダメよ! こんな情けなくて気色が悪いことをアードヘッグが真似したら! したらホントに離婚よ! ああッ、でも……、こんなことを愛するアードヘッグにされたら私、飛んじゃうかも……ッ!?」

一人葛藤するブラッディマリーさんだった。

ドラゴンが未だわからない夫婦の形というものを一端垣間見れたのだから、収穫と思っていいんじゃない。

「ほうほう、そういうことだったのね、ほほう……!?」

途中参加のプラティも事情を聞いて得心する。

元々プラティは噂話ゴシップ大好きな一面もある。そんな彼女にとって地上最強ドラゴンが色恋沙汰にまごついて右往左往しているのはさぞかし面白い風景であろう。

「いちいち手本を示さなきゃ夫婦生活も送れないなんて、やっぱりドラゴンって難儀な生き物よねー。強さだけしか自慢がないんだから!」

「ぐぬっぐ、ニンゲンの分際で……!?」

元が天才のせいか最強種族相手にも不遜が止まらないプラティ。

まあ、そこがよくて結婚したというのもあるけれど……そうだったっけ?

「大体結婚生活なんて人それぞれじゃない。人類色んな性格のヤツがいるんだから、その性格の合うヤツ同士で結婚するんだし、それで夫婦が画一的になるわけなじゃない」

相変わらず理に詰まった正論をピンポイントで抉りこんでくる嫁よ

それに反論もできないのかブラッディマリーさんは『ぐぬぬ』のし通し。しかし腑に落ちるところもあるようで……。

「た、たしかにアナタの言うことももっともね。ということは無理してアナタたちの真似をしなくてもいいということかしら?」

「むしろアタシたちは既に多くの年数を重ねた熟練夫婦なんだから、素人が下手に真似しようとするとケガするわよ?」

『訓練されたプロが行っております』という但し書きかよ。

ブラッディマリーさんも安堵しているが、それ以上に心の底から安心のため息をついているのはアードヘッグさんの方だった。

……そうだな、今のを真似するとなったら率先して動かなきゃならんのは男の方なんだから『アレを真似しなきゃならんのかッ!?』と顔面蒼白にもなるよな。

俺? 俺はもはや全然平気だよ。二児のパパを舐めんな。

「な、なるほど……! 参考にするのであればもっとよく見て、しかも多くのサンプルを揃えなさいと言うわけね!?」

「そういうこと。特にアタシたちのような夫婦は経験と実績を重ね、ハイランクにいるのだからアンタたちみたいな駆け出し夫婦の参考としてはむしろなりにくいわ。参考書にも基礎編と応用編があるように、お手本にもまず必要なのは初心者用ね」

「なるほど……!」

途中から入ってきて見事的確な助言で主導権鷲掴みしてくるのはプラティならではと思うけど。

「基礎固めが終わった後ならアタシたち夫婦を真似るのも一興かもね。しかしとにかく今は基礎! 基礎固めこそが成功の揺るぎなき必須項目なのよ!!」

何のコンサルだっけコレ?

もはやプラティ講師の円満夫婦講座になっているこの場に、口を挟める男はいない。

「幸い、この農場にもまだペーペーの新婚夫婦がいるわ。アナタと一緒に挙式した二組よ。覚えているでしょう?」

「あの人魚の花嫁の二人ね! 同じ時期に結婚したなら彼女らもまだまだうら若い一年生! 私が参考にしてあげる余地は大いにあるわ!!」

「よくわかったわねよい生徒よ! さすれば早速見学にレッツラゴーよ!!」

そう言って爆走していくブラッディマリーさんとウチの妻。

魔法薬作りがどうのこうのと言っていたが、ほったらかしでいいのだろうか?

いいんだろうな。

* * *

そしてまず先に着いたのが、ゴブ吉&カープさんの夫婦。

この二人がどんな夫婦生活を展開しているかというと。

「あぁーんッ!! カープたん、ちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅき!! ちゅきちゅきちゅき! ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅききききききききぃーーーーッッ!!」

「私もダーリンのことがちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきですわーッ!!」

相変わらずだった。

アイツらは参考になりそうにない。

むしろ参考にしてはならない反面教師的な意味合いすらあった。

俺たちは無言で彼らから離れる。

「えっと……、世の中には最初の一歩からハイランクなアクロバティックプレイのできる人たちもいるということよ。危険だから決して真似しないようにね」

「ドラゴンの私が畏怖を感じるなんて……恐ろしい二人だわ……!」

プラティもブラッディマリーさんも、ただ今見届けたカップルの見せた『領域』に戦慄している。

やったなゴブ吉……お前もドラゴンを震撼させるほどの男になったんだぞ……!

「そう言えば他にもう一人いたじゃない? 何でしたっけ……、ニンゲンの国で宰相を務める花嫁なんでしょう?」

「正確には人魚国だけどね。ゾス・サイラは結婚しても宰相職を退けないからなおさら大変よね」

本人はクッソ辞めたがってるがな。

しかしながらわかりきっていたことに彼女自身は大変有能で、アロワナさんが王位についた新体制がキッチリ安定するまでは絶対辞職できないだろう。

まあ最低でも四、五年は。

その間、日中は人魚国の政庁で仕事し、夜になったら転移魔法で農場に帰ってきてオークボと一緒に過ごす……という日々を過ごしている。

毎日定時で帰る宰相。

すげえ。ノーライフキングの社長にも見習わせてやりたい。

「それは寂しいわねえ。離れている間旦那さんはどうなされているの?」

「もちろん仕事していますよ。結婚前からそうしているので」

オークボも昼間のうちはちゃんと外に出て、他のオークたちと一緒に農場の仕事に精を出している。

ダンジョンに入って狩りをしたり、農場内の新しい家屋を立てたり、土を耕したり……。

「オークボは責任感のある男だから。どんな時でも自分に課せられたことをおろそかにはしない。ゾス・サイラもきっとそういうところに惚れ込んだんだろうし」

「立派なものだな。愛する人と離れ離れになっても自分の使命に向き合えるとは」

俺やプラティ、アードヘッグさんとブラッディマリーさんは比較的いつでも一緒にいるから、昼間のみでも離れて活動するゾス・サイラ&オークボの夫婦に畏敬すら感じる。

みずからの使命役割に向き合い、責任をしっかり感じながら互いに支え合って生きている。

仕事に突き進む互いを、プライベートで支え合うために。

それがオークボとゾス・サイラの結婚の形なんだろう。

ゾス・サイラの方は欠片もそう思ってないと思うけど。

ちなみにゴブ吉とカープさんもあんなに色ボケしながら自分らの仕事はキッチリこなしているというか何なら普通以上の成果も出している。

夫婦揃って。

怖い。

「夫婦にも様々な形があるということ、段々わかってきたわ……。それぞれの種族、職業、能力、性格、それらが千差万別にあるのだから、それぞれが合わさって、それこそ二つとない夫婦関係が生まれるということね?」

「そういうことよ! さすが理解が早いじゃない!!」

ブラッディマリーさんの呟きに、プラティが軽快に答える。

ただ二人の思うところがいまいちよくわからず、俺はアードヘッグさんと顔を見合わせて首を傾げるばかりだった。

「やはりニンゲンたちの結婚という制度は、一筋縄ではいかない奥深いもののようね。ただ式を挙げればそれで終わりではない。ドラゴンの中で最初に結婚した皇帝竜夫妻として、これをおざなりのままにしては置けないわ」

などと言うことを言い出して、決意新たな表情をする。

いかにも『いいことを思いついたわ!!』みたいな表情で。

「この世界にはもっとたくさんの夫婦がいるはずだわ! しかもそれぞれ他にない特徴を持った、色々な組み合わせの夫婦に! 彼らを見て話を聞いて、そして我らドラゴンがいかなる夫婦になればいいかの参考にしていきましょう! いいわねアードヘッグ!」

「はいぃッ!?」

なんか企画が始まるようだ。

このドラゴン夫妻が人類の夫婦を見て何を学び、どんな家庭を作っていくかはわからぬが。

ただ一つだけ確信をもって言えることは、ブラッディマリーさんはアードヘッグさんを尻に敷く姉さん女房になるだろうなってことだけだった。