軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

829 皇帝竜夫妻の困惑

今日も今日とてやってくるお客さん。

お越しくださったのは……アードヘッグさんとブラッディマリーさんのドラゴン夫妻!

いつぞやの合同結婚式以来ですな!

あの時も他多数のカップルと一緒に華燭の典を上げたお二人。

ドラゴンとしては初の夫婦になって、あり方の変わった竜族の新たな生きる形式の先達となっていくはずだ。

まさに竜の皇帝に相応しい役割と言えよう。

その妃となったブラッディマリーさんも堂々と皇帝のパートナーを務めているはず。

念のために明示しておくと訪問時のドラゴン皇帝夫妻は、飛来時こそドラゴンの姿だったが、すぐさま人間形態に変身。

最強生物であるドラゴンにとっては当たり前の秘術で、我が農場にも人間姿でくっちゃ寝しやがるドラゴンヴ、ヴィールがいる。

人化した皇帝竜アードヘッグさんはガッシリした体格ながらも上品ないでたちの偉丈夫。

同じく人化した皇妃竜ブラッディマリーさんは黒を基調にした貴婦人姿。

そんな二人が並べばそれはもう一枚の絵画のようだ。

やっぱりお似合いの二人だな。結婚するのが当然であるかのように。

そんな彼らが、今日の訪問で何用かというと……。

「やだもう別れる!」

竜族初の夫婦が、早くも家庭崩壊の危機に。

「アードヘッグなんてもう私を愛してないのよ! だったら別れる! 所詮ドラゴンに愛情を育むなんて無理だったんだわぁあああああッッ!!」

「泣かないでくださいマリー姉上……! すまぬ聖者殿。姉上がこんな調子なのでアナタにおすがりする他なく……!」

泣きわめく妻とオロオロする夫。

これは間違いなく揉め事の匂い。

そう察した俺は、できるだけ咄嗟に逃げられるようにジリジリ後退して距離をとった。

「逃がさないわよ」

そんな俺の肩をブラッディマリーさんがムンズと掴む。

さっきまで泣きわめいていたのに、よく気づくことで……!?

「客の話は逃げずに聞きなさいよ! それでなくてもこんなに美しい女が泣いてるんだから理由を聞こうとかいう気持ちくらいなるでしょう!? まったくこれだからニンゲンは!」

「いやぁ、俺にはもう心に決めた妻がおりますし……!?」

「そうよそういうのよ! そういう話をしたくて訪ねてきてやったのよ、この私たちが!!」

は?

言わんとしていることの意味を図りかねて無言となってしまう俺。

どういうことです?

「つまりね……! 誇りあるドラゴンである私たちが恥を忍んで質問しに来たのよ……! 夫婦ってどういうものなの!?」

はあ。

哲学ですかね?

観念的な質問すぎて理解が追い付かなかった。

「夫婦とは……健やかなる時も病める時も、死ぬほど調子がいい時もドン底なる時も……!?」

「そういう観念的な話はいいのよ! そうじゃなくて、アンタたちニンゲンは夫婦になったら日頃どんなことをしてるかってこと!!」

……と、言いますと?

「アナタも知っているでしょう? 私たちドラゴンはそもそも夫婦になる習性なんて持っていないのよ。それがついここ数年ですっかり変わってしまった」

最強種族ドラゴンの種としてのあり方は非常に変わったものだった。

繁殖というか、自己の増やし方。

それはほぼクローン製造と言っていい単為生殖で、何十という自分の複製を作り出したあとに戦わせ、最後に残った者を真なる次世代として継承させる。

それは強大なる力と共に、原初神から負わされた『役割』というものを忘れさせないようにするための手段だったのだろう。

しかしここ最近になってその『役割』がなくなったので、ドラゴンも種としてのあり方を変えようということになった。

他の生物たちと同じように雄雌でつがいをもって子孫繁栄させていく方式に。

そしてめでたくも変更後初はじめて結ばれドラゴン夫妻第一号となったのが、この皇帝竜アードヘッグさんと皇妃竜ブラッディマリーさんなのであった。

そのご成婚の際はみんなでお祝いしたものだ。

彼ら夫婦の行く末だけでなく、ドラゴン族全体の幸福を願って……。

しかしこの様子ではあまり上手く入っていない模様。

「えーと……、一体何があったんです?」

「ホントもう聞いてよ! この人がいかにダメな夫であるかというのを!!」

ブラッディマリーさんが完全に家庭の不満を溜めに溜めた奥様の口調。

アードヘッグさん……アナタ一体何をやらかしたんですか?

アンタら一応まだ結婚丸一年も経ってない充分な新婚さんでしょう? まだまだ甘くて幸福な時期だと思うのに……!?

「そもそもアナタたちニンゲンはどうするの?」

「どう……とは?」

またフワッとした質問で、こちらの対応を試そうとしないで。

「だから……夫婦になった時のお互いの態度とかよ。やっぱり結婚前と後じゃだいぶ違うんでしょう? だからこそ結婚するんですし!!」

「まあ……?」

……そうなりますかね?

「でも、コイツは結婚前から何も変わらないのよ! 相変わらず私のこと『姉上』呼びしてくるし! ニンゲンは結婚した相手を姉って呼ぶの!? ねえどうなの!?」

どうですかね? そもそも人間社会では姉と結婚すること自体あまりないことですし。

しかしアードヘッグさんの言動は万事そんな感じで、愛妻となったブラッディマリーさんを今なお姉と敬うように接して、妻としての扱い方をしていないらしい。

具体的には……。

二人だけで出かけることもなく……。

ヒトと会った時に妻と紹介するでもなく……。

人前でイチャイチャすることなんか無論ない。

寝所すら別だった。

それに業を煮やしたブラッディマリーさんがついにせつなさ炸裂。

その挙句の農場訪問であった……と。

「いや待ってほしい、おれの言い分も聞いてほしい」

しどろもどろになりながらも弁解をするアードヘッグさん。

「知っての通り、これまで我らドラゴンにはつがいを作る……という習慣がなかった。孤高の生物だったのだ。夫婦どころか他者との触れ合い方すら満足には知らない。そんな我々にいきなり理想的な夫婦になれと言っても無茶ぶりではないか!?」

でもそのための努力ぐらいはちゃんとしてるんです?

何やかやと言って結婚式から半年以上経ってるんですよ。その間なんの進歩もなかったというのも……!

「いいや! おれは不器用なドラゴンなんだ! そう要領もよく今までできなことをパッとできる離れ業なんてできないね!!」

そんな開き直られても。

皇帝竜?

「だから夫婦らしい生活とやらをするのに手本がいる! こうするのが正しいんですよという好例をしめして、そこに近づくように画策しないと正解なんて引き出せない!!」

「そうよ! だからこそ私たちはここに来たのよ!!」

ブラッディマリーさんまで一緒に騒ぎ出して。

やっぱりコイツら似たもの夫婦でお似合いなんでは?

「アードヘッグがこう言ってゴネるから、私たちはいい手本を求めてやってきたってわけよ! 聖者! アナタ手本を示してみなさい!」

「お、俺!?」

「そうよ、皆が言っているわ『農場の聖者夫妻は理想的なおしどり夫婦ですよ』って!! そうなら私やアードヘッグには想像もつかない『理想の夫婦』とやらの形をお手本に示しなさい!!」

それが今日の訪問の目的であったか!?

つまりキミたちは、この俺の夫婦生活から学びを得ようと!?

ふっふっふ……それはいい目の付け所だな。

結婚してより早やン年!

誰よりも心通じ合い、子供二人を設けた俺たち夫婦はまさに理想像と言っていい!

そのオシドリっぷりを見せつけて若者たちの模範となれってことだな!!

いいでしょう!

「プラティ! プラティはいますかぁー!?」

「ハイハイ何よ旦那様?」

呼ばれて屋敷の奥から出てきたのは我が妻プラティ!

最愛の共に連れ添う人生のパートナー!

「さあイチャイチャするぞ! このウブな新婚さんのために夫婦のありようを示してあげるんだ!!」

「何言ってるの、この忙しい時に?」

あれ?

プラティ何だかつれない?

「やっと今さっきジュニアとノリトがお昼寝したんだから、今のうちに魔法薬を作らないとガラ・ルファの医務室やディスカスの発酵蔵とか回らなくなるのよね。旦那様も遊んでないでちゃんとお仕事するのよ」

これはッッ!?

育児に追われて周囲が目に入らず、だんだん夫婦の情が冷めていく倦怠期パターン!?

『もう妻のことは母親としか見れない、女とは見られない』とか言うけど逆のパターンだってあるはず!

これは秘かに忍び寄る夫婦生活崩壊の危機!?

他人の心配なんかしている場合じゃなかった!

俺こそ全身全霊をかけてプラティの心を掴み直さなくてはならなかったんだ!!