軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

827 サウナに境界なし

そして案の定、サウナが農場で大流行した。

ブームの中心はオークとゴブリンたちである。

アイツら本当に男くさいのが好きだからな。

サウナの中で黙しつつ腕組みして座ってるの本当思い描いたとおりだわ。

農場のオーク&ゴブリンがこぞってサウナにこもりたがるために、当然小さなテント一つじゃギュウギュウで収まりようがない。

かといって海岸線に沿ってサウナテントを並べるのもどうかとなったので結局、木造サウナハウスをおっ建てることになった。

そうなったらもうオークたちの建築好きの血が騒ぎ、あっと言う間に外観も洗練されたサウナハウスを建造してしまった。

立地は川沿い。

さすがに海岸線じゃシケのたびに水没しないと心配しないといけないから、天候にあまり左右されないでなおかつ出てすぐ水浴びできるところをピックアップしていったらここになったようだ。

それでもまあ川だって流れの速い時は充分危険だから気を付けてくれたまえ。

そのサウナハウスは充分な間取りが取られて三十人くらいが同時に入ることが可能。

加熱方式も魔力によるストーブ式にして広い空間も一気に百二十度近くまで上がるようになっている。

百二十度?

それがサウナだ。

まあ尻を焼かないように座席には必ずタオルを引いてほしい。

それでも農場全員分を収容するにはまったく足りず、他にもサブポジションなサウナが作られる。

面白いのがイカダ型サウナで、海の上にプカッと浮かんで、その上にサウナハウスが建造されているっていう作り。

サウナでのぼせたらそのまま海へ飛びこめっていう意図らしい。

なんでそんな思いつくの?

他にもロッキーサウナといって石たくさん積んで熱するヤツとかにも挑戦。

水ぶっかけて蒸気発生させてロウリュ。

蒸気を当てられるたびにみんな『効くわぁ』って顔になる。

そうして数多くのサウナが手すさびに建てられたもんだが、それにハマッたのはオークやゴブリンたちばかりではなかった。

農場に住み着く酒の神バッカスも何か大いにサウナにハマった。

『おおおおおおおおッッ!? ビールが進むぅうううううううッッ!!』

理由はやっぱり酒がらみだったが。

まあ風呂上がりであってもビールはドチャクソ美味い。

それが入浴以上に体温を熱するサウナ上がりだとどれだけの美味になるのか。

バッカスの反応が芳しいのも当然と言うべきだった。

『ビールが美味い! ビールが消費されるぅううううッ!! 冬の寒い中にここまでビールが美味くなるなんて!! 他のヤツらも頼むのはビールばっかっす!!』

冬だとどうしても日本酒とかの方に手が伸びてしまうからね。

思わぬ副次効果でビールの消費が伸びるのもいいことだ。

俺もサウナ上がりは牛乳もいいが、ついついビールにも手が伸びてしまうぜ。

そしてそんな灼熱に沈む男たちを見詰める冷ややかな視線がある。

女性たちだ。

たとえば我が妻プラティなどは……。

「冬が暇だからって変なのにハマって……本当に男ってバカよねー」

ととても痛い正論をぶつけてくる隣で古参人魚のガラ・ルファも……。

「急激な高温は思考能力を落とし、脳にダメージを与えることになりかねません。わざわざ健康を損なう危険な行為に、自分から進むのが理解できません」

医者らしい見地から辛辣なツッコミするのやめてッ!?

こッ、これは一人のサウナ好きとしては反論せぬわけにはいかない!

サウナはただのマゾよりな娯楽ではない!

健康にもいい!

そうでなければこんなに大ブームにはならないはずだ。

神経が整うというのもあるけれど、やっぱり暑いから、熱いから汗を掻くというのも重要なはずだ!

汗を掻くというそのものが健康にいいはずだ!

デトックスという言葉もあるし、汗は体の中にある古いものや毒々しいものも一緒にして体外に排出させるんだと思う!

そして何より女性にも耳寄りなことが……。

「痩せる」

「「んッ?」」

「汗を掻くと痩せるって言うのはよく聞くことだろう。サウナ内だと熱さでダバダバ汗を流すんだぞ? 搾りだされた水分だけ軽くなるのは自明の理」

そして先述のデトックスでお肌の潤いも保たれる。

いいことづくめのことなんだよ!!

* * *

どうしてこうなったんだろう?

ただ今サウナ内は、女性たちで満席となっております。

いや、実際に中を覗いたわけじゃないので本当に満員なのかは知らんが、雪崩れ込んでいった女性の数から察するに満員電車みたいなことになってるんじゃないかと推測。

だから内側は覗けねえって。

女性が入ってるサウナだぞ。

覗きは犯罪だろうが!!

「サウナで痩せられるって本当なんですか!?」

「痩せる! 痩せる! 痩せる! 痩せる! 痩せる!」

「たしかにこんなに暑ければ、その熱で体についた脂肪も燃焼されるってことね!?」

「冬の間動けずに食べてばかりだからお肉が付きやすいのよぉおおおおッッ!」

「サウナよ! 脂肪を燃やせぇええええええええッッ!!」

サウナの戸板越しにすら明瞭に聞こえてくる声。女性たちのダイエットへの妄執が窺える。

どうしてそんなに体重を減らしたがるのか?

「プラティ、プラティさん?」

戸板越しに呼びかける。

我が妻プラティも体重を減らさんとサウナに閉じこもるクチ。

「そろそろ出てきた方がいいよ? いくら痩せたいからって三十分もサウナにこもるのは危険すぎるよ?」

「いいのよ旦那様ッ! サウナこそ冬の女たちへ降臨せし救世主! こないだ餅十個食べた分のカルマを清算するまでアタシはサウナから出てこないわ!!」

そんなに食べたんかい。

明らかにカロリーオーバーだが、あとから痩せようと思うなら最初から食べなければいいだけの話じゃん。

「焼いた皿のよしあしを知るには実際器に料理を盛らなければ! 食べた分だけここで減らすぅううううッ!!」

「高熱で無駄肉を焼き減らすなんて斬新な発想ですわ! 医学的な裏付けを取らなくてはぁああああッ!!」

「美味しいミルクを出すためにも、プロポーションは最良に保っておかないとぉおおおおおッ!! サウナさんよろしくお願いしまぁあああああッッ!!」

「事務仕事はとにかく運動できないのよぉおおおおッ!! サウナで美容がオフィスレディの嗜みぁあああああッッ!!」

プラティだけじゃなく他の女性たちもサウナに囚われて。

エルロンにガラ・ルファ、パヌにベレナの声もした。

皆そんなに冬の間に肥えたの?

サウナで痩せるのもいいがさすがに長時間こもるのは健康を害する。

「ただサウナで座ってるだけなんて生ぬるいわ! そうよ、サウナ内でさらに運動すれば相乗効果でより痩せる!?」

「いいアイデアです! 腕立てだ腹筋だ!」

「この苦痛の果てにくびれた腰がぁあああああッ!!」

ヤバい。

サウナ内で激しい運動なんてより危険なことになるじゃないか?

ここは何とかして女性たちをサウナから出して無理なダイエットを中断させなくては。

しかしどうやって外に出す?

無理矢理引きずり出すんじゃ変態確定で社会的に抹殺されてしまう。

向こうから自発的に出てくるように仕向けるのがもっとも有効的な手段であろう。

しかし具体的にはどうしたら?

あッ。

そこで思いついた。こういうケースによく似た逸話が記憶のサンプルの中にあったと。

「バッカスよ! ビールをプリーズ!」

『えッ? 何いきなり?』

唐突に注文されてビビるバッカスであったが、それでも注文に応えてきっちりビール出してくれる辺りは神。

俺はそのままジョッキを呷って一気飲み。

「あー、美味いなー! サウナ上がりのビールは絶品だなー!!」

「「「「「……ッ!?」」」」」

よし、サウナ内から伝わってくる気配は鋭敏だ。

彼の神話よりアイデアを拝借した天岩戸作戦! サウナで乾ききった喉にビールの誘惑は猛威だろう。

それに緩めず追い打ちを放つ!!

「サウナで熱くなった腹の中でアイスはよく溶けるだろうなー! よぉし皆! 真冬のアイスクリーム大会と洒落こもうじゃないか! パフェやチョコもてんこ盛りだぜぇーッ!!」

女の子らに甘いものの誘惑は退け難いはず!

どうだ、これでもサウナから出てくる気にはなれないか!?

「「「「「おりゃああああああッッ!!」」」」」

やっぱり出てきた。

女の子なら通常状態ですら抗いがたい甘味の誘惑に、サウナで体中の水分を絞り尽くした状態ならなおのことクリティカル。

さらに脳みそまで茹でられた状態に冷たいお菓子やビールの誘惑で倍率ドン!

そして女たちは獣となった。

「ぐおおおおおおッ!! やめてやめて雪崩れ込まないで! ちゃんとお菓子も用意してあるから! 待って誰だ俺の指食おうとしてるヤツ!? んぎゃぁああああああああああッッ!?」

高熱と食欲で我を失った女性たちは用意されたお菓子もお酒も次々と貪っていく。

そしてリバウンドで前よりさらに肥えるのであった。

サウナで痩せようとするにも節度を守って計画的にね。