軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

823 最後の愚か者

程なくソレは、農場近辺の海岸へと流れついた。

一見してただの水死体かと思える簡素さだった。

だってまあただの白骨だし。

皮も身もない理科室に飾ってありそうな白骨。

水死体で白骨ってのもどうかとは思うが、そこに気づくとやっぱり尋常ではない。

特にこれといった覇気も妖気も発せず、やっぱりただの水死体じゃないかと思えるほどだ。

他にも一点気の付くところがあるとしたら、その白骨水死体が着用している衣服。

……これは背広?

日本の働くお父さんたちが皆いずれも着用する、仕事着。現代の戦闘服。

ただし裾が擦り切れてボロボロになっておるが、大分着古してくたびれているご様子。

それでも背広なんて着た水死体がファンタジー異世界いることは大変なミステリー?

どう言うことでそうなる?

『お疲れ様です! いつもお世話になっております!』

「ひぃッ!?」

死体が起き上がった!?

……まあこっちもただの水死体じゃないことなんか百も承知なんだが。しかし予測していても実際に目の前で事が起こるのは訳が違う!

「お忙しいところ大変申し訳ありません! 私こういうものでして、御社でお困りのことでもあれば是非とも相談に乗りたく思っております!」

そう言って背広姿の白骨両手でもってなんか差し出してくる。

名刺?

しかも本来あるような綺麗な紙ではなく、かまぼこ乗せるような板切れの、しかもボロボロの表面にこう書かれていた。

社長。

「それだけ?」

めっちゃ手作り感あふれる名刺だった。

手作りに暖か味でアットホームな雰囲気でも醸し出そうというのか?

しかも書かれているのは『社長』の一言って、逆に潔い。

役職名だけかよ。

名刺ならせめて連絡先ぐらい記しとけよ。

最近の名刺は色とりどりでイラストがついてることすらあって、逆にこれくらい簡素な方がインパクトあるのかなあ?

『いやぁ、惚れ惚れする造りの社屋ですなあ! 御社も相当儲かっている匂いがしますしここで事業拡大、あらたな分野に挑戦してみてはいかがでしょう!? その時は無論弊社がお手伝いさせていただきますぞ!!』

そしていきなりの営業トーク。

ホント何なのこの白骨?

俺もこっちの世界に来て色々個性派な連中と出会ってきたが、それでも今までに見たことのないタイプ。

どうすればいいんだコレ?

水ぶっかけて塩でも撒いておけばいいのか? でもついさっき海から上がったばかりだからなあ?

「これがノーライフキング三賢一愚の一角……、その中で『一愚』を担当するノーライフキングの社長だよ……!」

説明してくれるのはベルフェガミリアさんだった。

ついさっき駆けつけてくれた。

まだ帰ってなかったのか?

「みずからの意思でアンデッド化するノーライフキングは、大変貴重ではあるものの世界中を見渡せばそれでも数十人はいる。その中でも特に強く、恐ろしく、積年の英知に溢れた存在こそ三賢一愚……!」

ノーライフキングの四天王的ポジションでしょう?

三賢一愚のうち、三賢と呼ばれる方々はウチの農場に出入りする先生。

ネコの博士。

そしてこないだも登場した不死山にお住いの老師。

いずれも知性高くふれあいだけで恐ろしいとわかる究極の方々だ。

不老不死を手に入れ、無限の時間を叡知の探究に注ぐ彼らは長生きすればするほど凶悪な手の付けられない存在となっていく。

そういう意味で先生、博士、老師の御三方はまこと究極の名に相応しい不死の王者であらせられるが……。

「時折『三賢』とだけ言い表されて省略されることのある『一愚』……。そのたった一人の愚か者を担当するのがあの社長だ」

三人の賢者と、一人の愚者。

その言葉を歯切れよく圧縮したのが三賢一愚。

普通だったら四人もいたら『四人の賢者』で『四賢』とした方がより歯切れもいいだろうに、どうしてわざわざ一足したのか?

賢き者なんてエラソーでドスが効いてないからか?

「社長は、賢者と呼ばれるにはあまりにも性格がアレだからね。しかし存在のしぶとさ、周囲に与える影響の大きさからして三賢に匹敵……いやそれ以上になるかもしれない。そこで三賢と並び称さないわけにはいかなかったんだろう」

賢者の中に入れるにはあまりにも愚かすぎ、しかしながら賢者と並ぶことのできる愚者。

賢きを超える愚かさとは、一体……!?

『おやおやおやおや!? そこにいるキミはどこかで会ったことがありますような!?』

そして放ったらかしにされていた社長が、俺と会話しているベルフェガミリアさんに目ざとく気づく。

白骨だから眼球はないけどね。スカルジョーク。

『そうかそうか、何百年か前に私に仕事を紹介してくれた人だな! あの仕事もよく捗っているよ! キミもそろそろ就労の素晴らしさに目覚めたことじゃないのか一緒に華々しい労働生活を送ろうじゃないか!』

「ははは、まだまだ労働なんて面倒くさいと思っている人生ですよ……!」

なんだ?

二人は知り合いなのか?

だからこそベルフェガミリアさんも社長の出現を予測して先回りしてこれたんだろうし、二人にはどんな因縁が?

しかしつくづくノーライフキングと因縁のある人だなベルフェガミリアさんも。

人類最強と謳われる一因か。

「……私は魔王軍に入る前、あてどもなく武者修行していた時期があってね。……別に人生の何もかもが面倒になって放浪していたわけじゃないんだよ?」

「補足しなくても大丈夫ですよ」

「老師の下で修行していたのもその時期だったが……加えてもう一件、忘れようとしても忘れられない印象的な出来事があった……。それが社長との出会いだ」

ベルフェガミリアさんほど万事面倒くさがる人の印象に残るなんて……。

「実は社長はね、ノーライフキングと化してからまだ百年となってない。精々数十年と言ったところだ。三賢のお歴々が最低でも千年以上年を重ねているのに対し、物凄いことだよ。不死王たちにとって重ねてきた年月=知性の量=強さだというのに……」

年齢がそのまま実力に直結する……その図式がある意味人間よりも絶対なノーライフキングの世界で、社長はまだペーペーと言っていいぐらいの若輩で、三賢の長老たちと肩を並べられているということ?

どこまで異例?

「そもそも社長は、魔族でもなければ人族でもない。この世界で生まれたモノではないんだ。こことは別の異世界からやってきた……といえば聖者くん、キミなら察しはつくんじゃないか?」

「まさか……!?」

俺と同じ?

「そう、かつての人間国が行った禁術で、異世界から召喚された勇者の一人だ。勇者はこの世界にやってくる際に、神からスキルを授かるルールになっている」

その通りだ。

俺がこの世界にやってきた時はヘパイストス神からスキルを越えたギフト『至高の担い手』を授かった。

思えばあれが運命の分かれ道だったな。

「かつて人間だった頃の社長も、異世界から渡ってくる際に一つのスキルを授かった。それこそが彼のこちらでの生き方を決めることとなった。彼が授かったスキルは……」

『永遠に疲れないスキルです』

社長自身が答える。

『いやー、いいスキルを頂きましたよね! 疲れないってことは休む必要がないってことですから! ガンガン動いてガンガン働けますね!』

ええ~?

さっきから社長のこのフィジカルぶり。

圧倒されて飲み込まれる。

しかしなんだろう、彼も俺と同じ異世界からの移住組だと聞いて、急にそのフィジカルさが腑に落ちてきた。

『社長のスキルの真の機能は、恐らく周囲の空間に漂う外気マナを無尽蔵に吸収できる能力だったんじゃないかと私は睨んでいる。私が老師から教わった術の一つにもそういうのがあってね。要するに空気中からエネルギーを供給できる。持久力においては無敵の能力といっていい』

車にたとえるなら、空気をガソリン代わりにして常に給油しながら走っているようなもの。

永遠にガス欠になることもない。

そう考えれば勇者としてはかなり上等な部類で、当時人間国からも重宝されたんではないか?

『しかし、そうして重宝がられたのが彼にとっての仇となる』

「あッ、先生?」

ノーライフキングの先生が現れた!

三賢に数えられる、直球正統派の最恐ノーライフキングの先生!?

お越しになられましたか。

『さも珍しい瘴気を感じたら、たしかめに来ぬわけにはまいりませぬよ。……社長の人としての最期はワシも聞き及んでいますぞ。我々も同類の誕生には敏感になりますでな』

本来ノーライフキングになるには修行を積んだ魔術師などが秘術をもってマナを吸収するため、異世界からやってきた勇者には到底不可能な行いだった。

しかしながら社長には、秘術をもって行うはずのマナ吸収がスキルとして生まれつきのように備わっていた。

勇者としての任務中、ダンジョンで手違いのあった社長は人間としての命を落とす。

しかし死してなお発動し続けるスキルの力で無尽蔵にダンジョンの濃縮マナを吸収し、自身の構造を変えてしまった。

それは秘術によってノーライフキングへと変わり果てるプロセスと何ら変わりなかったという。

そして実際にノーライフキングへと変わった社長が、第一声で放った言葉は……。

――『これで永遠に働ける』