軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

822 労働環境改善

人は人間らしい環境で働かなくてはならない。

というわけで労働環境の改善だッ!!

いやね。

オークボとゴブ吉が結婚したことによって、そういうことを考えなければならないなあ、と思い立ったわけよ。

男たるもの仕事と家庭の両立ができなくてはならぬ。

早めに終わって家に帰り、家族との団欒を大切にしなければいけない。

何のために働くのか?

家族を守り、養っていくため。

それなのに仕事に没頭するあまり家族を蔑ろにしてしまっては本末転倒。

そんなことがないように仕事の時間、家族の時間双方を大切にしなくてはいけない。

そういやバティも結婚を機に住み込みをやめて通勤するようになったからオークボたちと状況は同じか。

女も仕事と家庭の両立ができないといけなかった。

我が農場で働く者たちのそうした人がましい生活を保証してやれるのは、農場を率いる俺しかいない!!

突如、雇用主としての自覚に覚醒。

てなわけで農場に働く者どもの就労環境の見直しに着手していく俺であった。

別に冬で暇になったからではないぞ。

我が農場はホワイトな職場!

一点の曇りもないホワイト! 労働基準監督署が付き入る隙を見せない!

「というわけで、農場緊急労働会議を行いたいと思います」

集められた農場の住人たちは一様に『なんだ?』という表情を隠せずにいた。

幸い今は冬の間というだけあって大抵の人たちは暇である。

オークボ城も終わって、今年はもうそんな大きな予定も詰めていないということで大体皆思い思いに自分の作業を決めてかかったり、ダラダラしたりとしているので突然招集されても、そこまで迷惑でもない感じ。

今までのことを見直すにはいいタイミングだ。

「……思えば俺は、キミたちを働かせることに無頓着だったのかもしれない……!」

俺は、ここで働くオークやゴブリンやエルフやサテュロスや他様々な人々が一日何時間労働して、誰が何日の休みを取っているか知らない。

そうした至らぬところを是正していき、皆に余裕を持った生活を送って行ってもらいたい。

オークボやゴブ吉、そしてバティにもこれから子供が生まれていくことだろう。

その子どもたちとゆるりと遊ぶ時間をしっかり確保してやらねば。

ゆえに我が農場でも、労基もニッコリな極上アットホームの労働環境を目指していく!

「まずは週休二日の徹底! そして年十日以上の有給休暇を約束しよう!」

「?」

「一日八時間、休憩一時間半を厳守し、その上で週三日のノー残業デーを課す! さらには年金と健康保険も……!」

「あのー、すみません我が君?」

なんだね?

集められた農場住人の中から一人に呼び止められる。

質問ならあとでまとめて受け付けるが、ここまで言ったことでわからないことでもあったかね?

「しゅーきゅーふつか……とは何なのでしょう?」

「ゆーきゅーきゅうか、とは? 悠久九課?」

「ざんぎょー? 残尿?」

……。

何も伝わっていなかった。

そうか!

そもそもここファンタジー異世界では日々の数え方自体違う!

一週間七日すらこの世界には存在しないのに週休二日とか言っても何それな感じだった!!

大体この世界での働き方といえば朝、太陽が昇ってから布団から出て朝ご飯を食べ、顔を洗い着替えなどを済ませてから出かける。

その間家族と会話するゆとりは充分にあり、働く場所と言ったら家を出てすぐ前にある畑!

そこで鍬とか振り回しつつ、陽が真上まで登ったら適当に昼ご飯も食べて、おやつも食べて、夕日が赤くなるとテキトーに後片付けして帰る!

すべてがお天道様の動きに従って。

だってこの世界には時計がないんだから仕方ない。

一日八時間とか言っても『何のことだよ?』って次元だった。

すべてが太陽まかせにしてじゃあ雨の日なんかはどうするんだよって言われたらそもそも仕事に出ません!

雨が降ったらお休みするのを実践するのが俺たちだった!

そんな生活をしている俺たちに今さら週休二日も有給も今さら何事よって話にしかならない!?

「えーと、そしたらせめて福利厚生を……!?」

と思ったが、そっちも気にするまでもない。

何せここには人魚国が誇る魔女たちが何人も暮らし、世界最高の魔法薬が並べられて医療水準も万全なのだから。

何なら死んでもノーライフキングの先生が反魂の術で蘇生してくれる!

死後一時間以内なら!

「図らずも、どんなホワイト企業より優良環境だったぜ……!?」

もはやホワイトを通り越したクリア企業……もといクリア農場?

今さら思い付きで労働環境改善する必要性もなかった……!?

「あのー我が君? そろそろ戻ってもいいですか?」

「冬が終わるまでに異世界サグラダ・ファミリア完成させちゃいたいんですけどー」

「今日中に四十枚の皿を焼かんといかんのだ!」

冬だからって趣味に走るヤツもいればフツーに働いているヤツもいる。

労働環境を改善しようとして今日の労働をかき乱してはそれこそ本末転倒。

うーん、今日のこの企画に失敗だったかな?

「いえ、何でもないです……。お騒がせして申し訳ありませんでした……!」

しくじったとわかったら即座に引き下がる潔さを持った俺。

こうなったらさっさと家に帰ってジュニアやノリトと遊んですごすか。俺自身が自分の家族との時間を大切にしないとどうにもならんしな……。

そう思っていたところへ……。

「我が君、お客様がお越しです」

「へえ、誰?」

「魔族のベルフェガミリア様です」

えぇ? あの人ぉ……!?

魔王軍の重鎮にしてとんでもない面倒くさがりで周囲から問題児認定されている人。

こないだの不死山騒ぎでお腹いっぱいになったのに、あれから日も経たずにまた来たのぉ。

「聖者くん、聖者くん……!」

会うとも行ってないのに向こうから押しかけてきた。

ベルフェガミリアさんにしては珍しく、酷く慌てた様子だ。

「妙な気が起こっていると感じて駆けつけてみたが……、もしや労働を論じていたのじゃあるまいね……!?」

「えッ? どうしたんですか?」

労働状況の改善案ならついたった今虚しく潰えたところですが?

まさかそれが理由で押し掛けてきたんですか?

そんなに働くことが嫌なのか? どれだけ怠け者なんだよ?

「違うんだ聖者くん……! キミほど高邁なる者が労働について論じたら、それだけで大きな気が発生してしまう。そう、大いなる労働気が……!」

なんだそりゃ?

何でもテキトーに名前つければ意味ありげになると思ってないだろうな!?

「その労働気が、大変なモノを引き寄せてしまうかもしれないのだ! だから聖者くん! 頼むから労働を論じるのはやめてくれ!!」

土下座せんばかりの勢いで頼み込んでくるベルフェガミリアさん。

不死山がらみでも思いもよらぬ我を通して意外だったが、今回はその比じゃない。

ここまで慌てて何かを恐れて、一体何が起こるというんだ。

「ぬうぅッ! この瘴気は……!?」

そして一人で何でも進めてしまうベルフェガミリアさん、今度はあらぬ方向を向いて何かを感じ取ったようだ。

ホント何なの?

「遅かったようだ……、聖者くん。キミはこの世界でもっとも恐ろしいモノを呼び寄せてしまったぞ……!」

「この世界でもっとも恐ろしいモノ?」

「何だと思う? この世界どころか、三千世界に敵などない究極最強の超竜アレキサンダーか? それとも世界を我が物顔で牛耳る三界の神々か? いやそれ以上に恐ろしい存在がこの世界にはいるんだ……!」

ん……? なんだ?

俺も感じてきた。なんだこのソワソワと落ち着かない、『何かしなくちゃいけない』と気の焦る心は?

今すぐ何かをしないと不安で押し潰されそうな。

未来のために何か積み立てておかないとと逸る気分は何だ!?

「ヤツの瘴気に当てられているんだ。ノーライフキングは数あれど、こんな珍妙な瘴気を放つモノはヤツ以外にいない。この私がもっとも恐れた最悪の敵……」

ノーライフキングの中でも最恐最悪とされる四体。

三賢一愚。

その中の一角。

ノーライフキングの社長が……。

働けると思ってやってきた。