作品タイトル不明
815 危ない師弟
俺からのお疲れ様。
今年も無事終わりましたねオークボ城。
これが終わると一年も大詰めだなって気がしてくる。クリスマスか。
そもそも冬は農閑期でもあるので、農場を営む俺たちはぶっちゃけ暇。
だからこそオークボ城なんてイベントを開催して暇を潰しておるんだが……。
その暇自体を満喫したっていいんじゃない?
と思いオークボ城をやりきったここ数日は揺るがぬ決意を込めてグダグダゴロゴロしていく予定。
コタツにでも入ってヌクヌクするのもいいなあと思っていた矢先、変な風景にぶち当たる……。
* * *
「先生! 次お願いしますッ!」
『フォッフォ……、ではもう少しピッチを上げるかのう』
……。
信じがたいものを見た。
信じがたい組み合わせ、と言うべきか。
この農場にもたくさんの人が増えて、その全員が全員と面識を持つのが難しい感じになってきている。
知らない人同士は割とずっと知らないまままである。
そんな風に会話することすら見たことないって組み合わせもまあいるんだが、今回まさにそんな組み合わせが現実に会話しているのを見てありえなさにビビった。
ノーライフキングの先生と、レタスレート。
あの二人が何をしているんだ?
農場の端の方にある空き地で、何やらもちょもちょやっている。
ちょっと何してるのか想像つかない。
だって俺の中でありえない組み合わせだもの。
不死の王&亡国の姫。
同じ農場に棲みながらも接点はあまりになく、互いに空気のような存在だと俺も見做していた。
その二名にいつの間に接点が?
俺も冬の暇さも手伝って、猛烈に湧いた興味を抑えることができずにホイホイ近づく。
あの二人は何をしてるの?
『ではレタスちゃんよ、少し難易度を上げていこうかの?』
「はい先生!」
『この目隠しをしなさい』
「はい!」
『耳栓もしなさい』
「はい!」
『この舌カバーもしなさい』
「はい!」
『手足も縛りなさい』
「はい!」
本当に何してんの!?
先生の言われるままに五感のほとんどを封じられつつ拘束状態で転がされるレタスレートは何かのプレイ!?
『これでレタスちゃんは身動きも取れずに感覚もほぼ機能せぬ。この状態で、ノーライフキングたるワシが魔法で生み出す千六百の火炎弾を、十秒間に全断叩き込む』
「はい!」
『すべて避けるがいい』
「はい!」
さっきから『はいはい』言ってんじゃねーよレタスレート! イエスマンか!?
十秒千六百って機関銃以上じゃねーか!? 一発一発の威力となれば比べるまでもない!
これがノーライフキングのちょっとした本気!?
こんなの人間がくらったら消し炭すら残らねーよ!
レタスレートが地上からいなくなってしまわぁーッ!?
「はぁーッ! ほいほいほいほいほいほいほいほいッッ!! ほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほいぃいいいいーーッッッ!!」
そんなこともなかった。
レタスレートの野郎、千六百もの飛来する火球……恐らくメラゾーマ級のヤツを華麗に、まったく危うげなく避けまくっている!?
しかもアイツ……あれで目隠ししたり耳栓したりもしてるんだろう?
それでどうやって脅威を察知しとるんだ!?
しかも手足も縛っているので、よけ方といえば魚みたいにビッチビチと飛び跳ねるだけだった。
そんなことしている間に火の雨は尽きて静寂が戻る。
レタスレートの周囲の地面は抉れたり焼き払われたりで悲惨なことになっていた。
あれが降り注ぐ場所によっては大きな街なんぞが痕跡も残さず焼き払われるんだろうな。
『うむ見事じゃ、目や耳に囚われず……感覚に囚われずにあるがままを受け入れることで己を「空」とし、自分の身を柳のごとくしてあらゆる悪意を受け流すことができる……。極意をついにモノにしたな』
「先生のご指導の賜物です!」
先生が指をフッと振ると、焼け野原を通り越してクレーターだらけになっていた地面が幻のように描き消えて、元の平穏な野原に戻った。
やっぱり一番恐ろしいのは先生かもしれない。
「目や耳に頼らずとも、あらゆる事象を察知できる新たな感覚……。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に並ぶ第六の感覚……天豆通を開眼することができました!!」
『うむ、これでレタスちゃんは今後あらゆる攻撃が届く前に、殺気敵意が発された瞬間に危険を察知して先の先をとって対処することが叶うであろう。また一つ武の頂に近づいたのう』
「違います! 豆の頂です! 豆の道は一日にしてならず! 豆を制する者は世界を制す!!」
さて、ここまでのやりとりを見てきたことで、益々わけがわからんくなった。
というかレタスレートここに来て何パワーアップイベントこなしてんの?
農場きってのパワーキャラが技術まで手に入れたらいよいよ手に負えなくなってくるんだが?
「あッ、セージャだわ」
『これは聖者様、お見苦しいところをお見せして……!』
先生とレタスレートが覗く俺に気づいた。
いやそんなに畏まられても。むしろ無断で覗き見ている俺の方が無作法なんだから……と思った。
それよりも今の今まで温め続けてきた疑問を、満を持してぶつけたい。
何しとるんの、と。
何の修行をしておるの、と。
「くっふふふふふ……! 聖者も気になるようね。……これはそう! このレタスレート様が世界最強豆を作り出すためのステップなのよ!」
答えを聞いてもわけわからん。
「世界最強の豆ができるには、作り手である私自身も最強でなくてはいけないの! よって先生に教えを請い、今までパワー一辺倒だった私に技術が加わりパーフェクト豆人となるのよ!!」
『違いますぞ』
やんわりとだがきっぱりと否定してくる先生。
『農場学校で生徒たちに伝授する技やら魔法などでですな。まあ生者用ですので死人のワシには加減がわかりにくい場合も多いのです。そこでまずはこのレタスちゃんに先んじて学んでもらい、加減をたしかめようということですな』
ああ。
頑健だものなレタスレート。そういう車に乗せるダミー人形みたいな扱いは打ってつけ。
先生は、我が農場で開かれている学校の校長的ポジションにいつの間にやら収まっているので教育熱心なのだ。
そんな先生にとって授業の予行などは手間にもならないんだろう。
「ただ……、それでレタスレートが不用意にパワーアップするのも……!?」
「何よ? この私が手に入れた力で悪に走るとでも言うの? バカにしないでよね、私が力を振るうのは、常に正義と豆のためよ!」
でもアナタ豆のためなら悪逆非道も平気で行うでしょう?
俺知ってるんだから。
『その点レタスちゃんはよい実験仲間にして弟子でしてな。ワシもついつい興が乗って生徒に教える予定のないものまで教えすぎてしまいます。……のうレタスちゃんや』
「何です先生!?」
『せっかくなのであの奥義を聖者様に御披露してあげなさい』
「わかりました先生!!」
何なんです?
むしろ怖くて見たくないというか怖いもの見たさもある。
『では、ぬむむむむむむむむむ……!』
先生が念じると、虚空から形あるかなりハッキリしたものが出現。
いともたやすく無から有を生み出す先生であった。
それは人間の二倍程度の全長がある、大きな岩石の塊。
……いや精錬前の金属の塊?
『我がマナを凝縮して作り出したマナメタルじゃ。これを素手で砕いてみなさいレタスちゃん』
「かしこまりました!」
正気?
また先生無茶を言う。マナメタルってメチャクチャ硬くて、この世界のオリハルコン的立ち位置じゃなかったっけ?
それをお姫様ポジションのレタスレートに殴り壊せと言う。
いや、今のレタスレートは普通のお姫様ポジじゃないからやれんこともないけど、それもそれでどうかと思いますよ。
「では先生、やります!」
『うむ』
レタスレート『やります』と言いつつ、拳を振り上げることもなくただマナメタルの塊に掌を押し当てた。
「…………」
そのまま微動だにせず……。
「……ほわたぁッ!!」
気合いを込めただけでズバーンと破砕音が鳴り、マナメタルの塊が粉々に砕け散ってしまった。
手が触れてただけなのに!?
「これこそ先生から教わった破壊の極致! 浸豆勁よ!」
『体中に循環するマナを他対象に流し込むことで内側から破壊する奥義! 見事モノにしておるなレタスちゃん! 今日のキレも冴え渡っておるぞ!』
いや待って。
それで地上最硬度のマナメタルを四散させてしまうって、ただの必殺技じゃないよね?
もはや世界最強への片道切符じゃないの?
『レタスちゃんほど覚えのいい生徒だと、こちらも教え甲斐があるものじゃわい。この年になってもっとも楽しいことは、若者の成長を見守ることじゃのう』
「ありがとうございます先生」
『そこでワシも、もう少し自分の教育の成果をたしかめたくなってきた』
もはや教えることが生き甲斐みたいなところのある先生。
不死者だけどさ。
そんな先生が、優秀なる生徒レタスレートを前にして何を思うのか?
『ワシと仕合ってみようかレタスちゃん。本気でかかってくるとよい』