軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

813 もう一組の新婚:夫side

私はゴブ吉。

最強究極進化タケハヤ・スサノオ・ゴブリンとなったゴブ吉。

既婚。

そう、ゴブリンでありながら妻を迎え家庭を持ったゴブ吉こそが私。

妻帯者ゴブ吉。

同時期に結婚した同志オークボ殿は、結婚によって激変した生活環境への対応に相当苦慮しているご様子だ。

実際に替わっていく自分をどう受け入れていいか決めかねるのだろう。

しかし私は思い至っている。

いかなる者が結婚生活を制するのか!

それはどんな時も同じ。状況を掌握し、牽引する者が主導権を有する!

受け身では先手を取られますぞ!

だから家庭では、妻のやりたいようにさせてはならんのです!

常に自分から先に行動しなくては!

しかしだからと言って攻撃的になってはいけない。夫婦生活は互いに支え合っていくことなのだから。

我らが敬愛する聖者様も家庭を営んでいるけれども、あの御方を見ていればおのずとわかる。

結婚とは夫が妻を、妻が夫をいたわり合うこと。

主導権を得るにしても共に暮らす妻を出し抜き、蹴落とすのではなく、彼女の幸せな結婚生活を演出することに先手を打たなければいけない。

ということでこうなった。

「カープたん、しゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきッ! 愛してる愛してるムチュー! ハァハァ! ハァハァ! カープたんがいるだけで心が強くなれること! カープたんへの想いでビクンビクンしゅるぅうううううううううううううううううううッッ!!」

こういう感じ。

キモいと言うことなかれ。

いや、周囲の大半からキモいと思われているのは知ってるけど。

特にオークボ殿は時折家の垣根の前を通り過ぎるたびに『アイツ、変わっちまったな』という打ちひしがれた表情をしているが。

……オークボ殿もまだまだ甘いな。そう思うのはまだまだアナタが結婚生活を御しきれていない証拠ですぞ。

そう! 結婚生活の極意とは妻が望むものを、妻が欲するより早く与えること!

我が妻カープたんは一見お堅いように思えるが、その実甘えん坊で激烈なスキンシップを心底では望んでいるのだ!

夫となった私には、それが読める。

究極進化体ゴブリンとなった私の異能力の一つ、未来予知が教えてくれる。

何をしたらカープたんがもっとも喜んでくれるか。

喜ぶことを惜しみなく与えることで彼女の心を掴み、心情をコントロールする!

さすればカープたんは無意識にも私に追従するようになり、いざという時に私の決定に逆らわない。

亭主関白の完成!

どうだ! これこそが妻の躾というものよ!

もとより私はゴブリン! 女性に対しては鬼畜外道という周囲の価値観に従ってやるまでのことよ!

さあ、覚悟するがいいカープたん! キミのことをすっかり骨抜きになるまで調教し、私の言うことを聞くだけの肉人形と変えてやろう!

グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!

……ゴフッ!? ゴゴフッ!?

慣れない笑い方をしたらむせたッ!?

* * *

そんな風にして妻に飴を与え続ける毎日。

飴と鞭の、飴ね。

そんな本日はオークボ城の開催日。

毎年恒例というヤツだ。

いつもなら私も運営に参加するところなのだが、今回は新婚ということで免除がきた。

それよりも奥さんへのサービスに専念しろと。

同じく新婚のオークボ殿も、同じように言われたようだがそれを退けて自分の意志で参加したようだ。

まだ何かと葛藤が彼の中ではあるようだ。

まあ私は葛藤などとは無縁だがな!

こういうイベントこそ妻からの好感度……もとい依存度を上げる好機!

あらゆる状況環境を駆使して好感度稼ぎに努めねば!

というわけで本日は一般客としてカープたんと共にオークボ城を満喫中。

思えば客側としてオークボ城を体験するのはこれが初めてのことだな。

外から来る人々はオークボ城をどのように感じ取っているか、いい機会なのでよく確かめねば。

……いかんいかん、気を抜けば意識が仕事モードになってしまう。

「あはーん! ダーリン、こっちこっちですわぁー!」

「うわはははぁーい! 待ってよカープたぁん!!」

今は自分の妻を思う通りに従わせるための仕込みの最中なのだから。

今は己の心情など忘れてとにかくカープたんの楽しめる状況作り、そのためならば浮かれポンチにだってなってみせよう、この私!

しかしオークボ城は、競技参加者だけでなく見物客にまで楽しめる作りになっていることが利用者側に回ってよくわかる。

見物客用の出店、小型アトラクションの充実度。

する人、見る人すべてが楽しめるような作りになっているからこのように恒例行事としていつまでも大人気のオークボ城なんだろう。

「カープたんせっかくだから何か食べていこう! あの納豆セットなんかどう!?」

もはや農場イベント恒例の、レタスレート&ホルコスフォン主催の納豆物販。

食べ歩き用の販売もあればお土産も充実している。

もはや農場主催のイベントに納豆は必需! とすら言われるぐらいだが。

「いりません。だって臭いんですもの」

「はあ……」

ここはグッと黙って。

今はカープたんを甘やかしまくって骨抜きにしてしまう段! 彼女の言うことを全肯定しなくては彼女を依存させることなどできない!

「そうだよねー! 納豆なんて臭くて食えたもんじゃないよねー!」

「さすがゴブ吉様ぁん! 鋭い目利きですわぁん!!」

あとで店には物販のコーナーもあった。

女性はとにかく買い物好き。ここで気に入るものでも買ってあげてご機嫌を取ろう。

……おッ?

「よしカープたん! アレを買おう!」

「ええッ!? アレは……!?」

Tシャツ。

こうしたイベントによくある限定販売のロゴ入りTシャツだ!

ここオークボ城でももれなく定番商品が置かれて、オークボ城の達筆ロゴが印刷されたシャツ(木綿)がS、M、L、LL、XLとサイズも豊富に取り揃えられている!

しかし、今私がもっとも注目するのは……。

「このカップル用! ペアルックTシャツ!」

男女それぞれのまったく同じデザインロゴ入りなだけでなく、ロゴのデザインが特殊!

生地中のいたるところをハートが乱舞しまくってめっちゃ浮かれておる!

まさしく浮かれまくりの新婚さんが着るに相応しい!!

「ご、ゴブ吉様……! いくらなんでもこれは恥ずかしい……!?」

「キミと私の愛し合う気持ちを形で表現するだけさ。それの何が恥ずかしいのか?」

「ダーリン……!!」

こうして買ったその場で着替えた私たちは、頭わいとんのかと思えるハート乱舞のペアルックでオークボ城を練り歩く!

他にもカップルは多く来場していたが、私たちぐらい頭が煮えたった二人も他にはいない!

「あッ、あっちでカップルジュースも販売しているぞ! 一つのカップに二本のストローが刺さっているヤツ! 一緒に飲もうじゃないかカープたん!」

「えええええッッ!? あんなものまでッ!?」

そう、カップルができることはすべてやり尽くしてカープたんの脳を幸せハチミツ漬けにしてやるのだ!

さすれば正常な判断もできなくなり、いずれは夫の私の言うことを何の疑いもなく受け入れる良妻が誕生することだろう!

それが我が計画! 家庭を統治する夫の政略!

見ているかオークボ殿! これこそが結婚した我々必要なしたたかさなのだ!

変わっていく自分たちに戸惑っている場合ではない!

悩むのは行動してから! 行動こそが明日の自分を助ける礎となるのですぞ!

……おっと、行列だ。

見物客用の小アトラクションは人気で、入り口前に長蛇の列ができ一時間待ちなどザラな時もある。

待つという時間は暇なもの。

その暇な時間を紛らわすこともできずに『つまらない男』と思われてしまう。

それがカップル破局の原因にもなると我が君も仰えられていたこれが遊園地トラップ!

もちろん備えは万全にしてある! この私の間を持たせる必殺の策を食らえ!

「カープたん、もっと顔を見せておくれ」

「ああ、ダーリン……!」

「たとえ百年であろうとキミの顔を見ているだけで時間など忘れられるよ」

こうして順番待ちの魔のタイムも難なく過ごすことができた。

ところでオークボ城の一般向け施設は私の同僚、農場勤めゴブリンたちが取り仕切っている。

さっきの物販コーナーも、カップルジュースの販売も、アトラクションの行列整理もゴブリンたちが行っていた。

なのでそこかしこでバカップルぶりを振り撒いている私のこともバッチリ目撃されていて……。

「ゴブ吉リーダー、変わっちまったな……!」

「アレで割と渋いところのある人だったのに……!?」

「色恋は男をあんなにも変えてしまうものなのか……!?」

同族同僚たちにめっちゃ生暖かい目で見られていた!?

違うんですコレはその!

奥様を乗りこなすための努力というか、自分も奥様のお気に召すように、自分自身を作り替えんといかんのです!

怪物と戦う者は、みずからも怪物とならないように気をつけよ。