軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

811 交わらなければ朱に染まらぬ

「ふぃー、大変な目に遭った……!」

結局俺も『愛のマワシ』を穿かされて早や数分。

プラティのラブパワーを受けて超野菜人のようになった俺だが、マワシに違法改造を施されていることが主催のゾス・サイラにすぐさま見抜かれ失格になってしまった。

ある意味ホッとした。

そこで一所に留まっていても居づらいし、まだ恋愛旋風の混乱冷めやらぬ間に他の知り合いにでも出会わんかなと思ってその辺回ってみる。

いつになったら相撲本戦始まるんだろうな。

この調子じゃ始まりようもないか。

そこで見つけた。

何やら沈んでおる偉丈夫を……。

「オークボか、どうしたんだ?」

なんだか憂鬱そうな雰囲気だな?

まだ一番目も始まっていないというのに、まるで敗退したかのような気落ちぶりじゃないか?

その割には『愛』のパワーアップは他にも負けないぐらいなのに。

充溢するオーラの空焚きが戦車のエンジン音のようではないか。

「我が君……いえ、私は既に負けているようなものですから」

「何があった?」

いや、本当に。

オークボと言ったらまだまだ新婚さんで人生の勝者タイムじゃないですか。フィーバーですよ。

それがなんでこんな撃沈状態に?

農場主として、ここまで一二を争って農場で働いてくれたオークボの異常事態を見過ごすわけにはいかないぞ!

「実は……!」

話聞き中。

大体わかった。

要するにオークボくんは結婚してラブラブフィーバー期に入って、自分の硬派なイメージが崩れ去ることを恐れているんだな。

今回の相撲大会で、戦いへの意欲と戦士としての緊迫感を取り戻すつもりでいたところ、奥さんであるゾス・サイラからの横やりっつーか独自企画によって見事に頓挫する。

「完全にピンク色になってしまったものな、この空気……ッ!?」

「一瞬で場を自分の色に染め変えてしまうのはさすがゾス・サイラ殿と言いますか……。しかし私は、お陰で男の本能を取り戻せる千載一遇のチャンスを逃しました。しかしそのことで自分の妻を恨もうとする自分の小ささも許せないというか……!」

「いや、そこまで思い詰める必要はないんじゃない? 新婚さんなら浮かれることもあるだろうよ」

「……」

オークボは胡乱な視線を一旦こっちに向けると、すぐに別の方に移して視線と同じ方向を指で示した。

そっちは観客席?

何があるのかと指先が示す一点に目を凝らしてみると……。

……何か見知った顔がおるではないか。

ゴブ吉?

……と、カープさん?

もう一組の新婚夫婦ではないか?

「あ~ん、ゴブ吉様! あんな面白いイベントがあるなら私たちも参加すればよかったですわね! そうしたら間違いなく優勝ですわぁ~ん」

「そうだね! カープたんの愛する気持ちは世界一……いや宇宙一だものね!」

「そうですわ! ちゅきちゅきちゅきちゅきちゅき……って気持ちで溢れかえってるんですわぁんッ!!」

「私もちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅきちゅき!」

……………………。

……マジかよ……。

アイツらのこともしばらく二人きりを満喫させてあげようと触れずにいたが、あんなことになっていようとは……!?

「自分もいつあのようになってしまうかと気が気ではなく、何とか今日の相撲大会で男気を取り戻そうとしていました……! しかし我が君、その考えが間違いだったのでしょうか!? かつての自分を取り戻すには彼女と距離を置くしか……!?」

いや待て。

それはそれでゾス・サイラが可哀想だろう。

ここは新婚夫婦の危機を回避するために年長者である俺が相応の振舞いをしなければ。

なんて言えばいいかな……!?

「オークボよ……! 人とは、変わっていく生き物だと思う」

「はい?」

よしなんかいい入りだ。

ここからもっともらしい結論にもっていく。

「そして人は自分一人だけじゃ変わっていけないんだ。誰か他人と交わって、自分と違う考え方ややり方を目の当たりにして、自分もこのままじゃいけないと思う。それが変わっていくきっかけになっていく」

そして他人との交わりというと結婚以上に濃密なものはないんじゃないのか。

今まで全く接点のなかった異性と、四六時中一緒にいることになるんだから。

完全な赤の他人では接しようもなかったことに触れて、軋轢衝突も生まれる。

食生活だってクリームシチューをごはんに掛けるかみたいな衝突を繰り返し、角をとるように変形していくんだ。

「変わることは成長することでもある。オークボお前は自分に起ころうとする変化を嫌っているが、それを成長と捉えることはできないか? 変わっていくことは、進むことでもある」

「我が君……」

「硬派もいいが、そういうのは学生のうちに卒業しないとな。大人になったら硬軟取り混ぜて状況によって使い分けていかないと世の中渡っていけない」

女性とは、男にそんな柔らかさを教えてくれる存在なのかもしれぬ。

オークボよ、お前もゾス・サイラとの生活から人としての柔らかさを学び、人として成長するのだ!

固さを失うことはけっして堕落ではない!

「うおおおおおおおおッ!!」

オークボ、咆哮と共に身に帯びるオーラを噴出する。

ゾス・サイラから貰った『愛』のオーラを。その噴出は天まで届き、雲をも射抜かんばかりだ。

……天界の神様がビックリしてないかな?

「我が君! アナタの言葉で目が覚めました! 柔らかくなることは堕落することではない! 人としての成長! アナタの教え、胸に刻み込みました!」

「あ、ハイ。わかってくれたのなら重畳」

ちなみにゴブ吉ぐらいドロドロ液状化になるくらい柔らかくなるのも考え物だと思うけど。

もう鞭打とかできるんじゃねえアイツ?

「ふっくくくくく……。上手く説き伏せられたようじゃのう」

「うわぁ!?」

いきなり後ろから声をかけられてビックリしたが、振り返ってみたらそこにいたのは問題のゾス・サイラ!?

「旦那様が最近ふさぎ込んでいたのはわかっておったからのう。今日のイベントが悩み解決のいいきっかけになるかと思ったが目論見通りじゃ」

「なにぃ……!?」

「単なるガス抜きでもよかったが、それでは根本的な問題は解決せん。ぬしのお陰で旦那様の悩みも解決できたし、礼を言おう。さすがは王女が見初めた男……とだけ言っておこうかのう」

まさか……!?

ゾス・サイラはここまでのことを計算して、この奇行を企てたというのか?

ありえなくもない。

何しろゾス・サイラは魔女であるだけでなく、人魚宰相も務めるとびっきりの賢女。

ヒトの行動を制御することにも長けていることであろう。

その上で、夫婦間の亀裂も入らないようにオークボの悩みを解消する。

多くの人間も巻き込んだ上で。

そこまで計算して、この騒動を繰り広げていた……!?

「では目論見通りに夫婦仲を危うくもせずにオークボの悩みも解消できてめでたしってことで……」

「うむうむ?」

「この状況を何とか治めません?」

今、この相撲会場は桃色の旋風が吹き荒れている。

ゾス・サイラが仕掛けた魔法のせいで。

女性の恋心がある意味可視化できる状態になってるわけですよ。

そして大会の流れに則れば、このまま相撲大会を断行して最後の一人になるまで闘うんですが、決してそんなことは許されませんよね。

何故かって?

それは女性の恋心の大きさに順位をつけるということだからだ。

「……そうじゃの」

そこはクローニンズの一人にも数えられるゾス・サイラさん。

俺の言わんとしていることを言外に察しとってくれた。

「女は皆自分が一番だと思うとるんじゃ。それに二番三番四番五番などとつけられていったら……!?」

「男だってそうですよ! 下手に初戦敗退して『お前の愛が足りなかったからだ!』とかなったら離婚のきっかけにもなりうる……!」

「「……」」

すべてを察した俺たちの行動は速やかだった。

「う、うわー! きざいとらぶるじゃあー! おかげで『愛のマワシ』の機能が全停止してしもうたー!!」

「これでは特別企画は敢行できそうにありません!! 誠に残念ではありますが、通常の相撲大会を繰り広げたく思います!!」

ゾス・サイラの機転で全機能停止へと追い込まれた『愛のマワシ』のお陰で。

本大会は普通の相撲だけで競い合えるようになって、負けても当人の実力のせい・……ということになった。

奥さん彼女さんの愛の深さは関係なし。

しかしまあ結局は、人として新たな成長の段階を踏んだオークボが獅子奮迅で優勝。

そもそも今回のこれがオークボ城の一環なので城主設定のオークボが一番取るのも非常に無難。

皆さん万雷の拍手で勝者を讃え、今年のオークボ城も幕を閉じた。

角が立たないのが一番いいよ……!