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作品タイトル不明

802 今年もオークボ城

冬になった。

今年も冬になった。

寒い。

寒いから作物も育たないので、農作業は一旦やめて寒さに耐え凌ぐことを念頭に過ごし出す。

これがいわゆる農閑期だ。

今まで蓄えてきた米や野菜などを頼りに、春が来るまで静かに過ごす。

しかしながら、今まで農作業に費やしてきた時間が丸々ナイナイになったということで、俺たちにも大分余暇が生まれるわけだ。

その分の時間をなんか有効活用しようってことで、何らか大きなイベントは大抵冬に起こる。

その代表格がオークボ城だ。

これはもはや毎年の風物詩になって欠かさず行われている。

人間国の一地方に建てられた城……名付けてオークボ城を攻略せんと毎年世界中から有志が集まり大規模なる攻防が行われる祭りだ。

とはいっても本当に攻城戦あるいは籠城戦を行うというわけでなく、各所に設定されたアスレチックを知恵と体力と反射神経で乗り越えていくというイベントだが。

毎年ユーザーを飽きさせてはならぬと工夫を凝らした更新を行っている。

恒例イベントの続編は、元の楽しさをしっかり残しつつアレンジで目新しさを演出していかなければならない。

なかなか難しいところだ。

今年のスタッフたちは長い時間をかけて話し合いを続けてきた。

今年のオークボ城を面白くするにはどうしたらいいか!?

「景品をもっと豪華にしますか!? ご褒美がいいほどやる気も高まるものですよ!」

スタッフの一人が言う。

オークボ城のアトラクションすべてを完走した挑戦者には豪華賞品が贈られるしきたりになっているが、これもう充分すぎるほど豪華なんだよね。

だって大抵が農場産だよ?

農場で産出し、農場で製造された物品は大抵がオーパーツ。

使えば常識外れの性能で、戦況をひっくり返すことぐらいわけない。

売ればサラリーマンの平均年収の数百倍はザラに行く。

現状ですらそんな正気の沙汰じゃない状況なのに、これ以上豪華にしたら伝説の武器とかになっちゃうわ賞品が。

ゲームバランス大崩壊だわ。

「それならばアトラクションを変えてみるしかなさそうですな!! もっとシビアに、スリリングに! やりごたえのあるコースを作りましょう!!」

うぅん、それもなぁ……!?

そういう意見は毎年出てるんだ。

『もっと難しく! ハードに! ユーザーがブチ切れするような!!』と。

しかしながらそのたび思う。

ハードモードにすることによって、たしかに去年より以前から参加している玄人ユーザーたちはやり応えを覚えるかもしれない。

去年とまったく同じコースを走らされてもダルいだろう。

だからもっと難しいものを手応えたっぷりのものを、と思うに仕方ないとは思うが、同時に初見さんもいるわけじゃん?

その初見さんにとってはいきなりベリーハードで一瞬のうちに撃墜されたら何が何だかわからないし楽しめもしないだろう。

だからこそオークボ城の各アトラクションは、概ね変えないまま回を重ねている。

難易度もそのままで。

精々するとしたら前年の意見を取り入れて、よりユーザーフレンドリーになるよう調整を行うぐらいだ。

「前にヘビーユーザーに配慮しようとして、完走経験者のみ挑戦可のEXウルトラハードコースも設定したこともあったよなあ」

概ね不評だった。

「完走者が一人も出ないどころか、第一コースでほぼ全滅ですからな」

「そうそう」

思い返せばあれは難易度がどうこう言う問題ではなかった。

クリアさせる気が毛頭ないというぐらいの鬼畜仕様であった。

実際にあのイベントは製作者の憂さ晴らしとしか機能しておらず、ますます評価しづらいイベントになってしまった。

「その証拠に翌年はやらなかったしね」

「翌年は翌年で事情がありましたから……!」

EXウルトラハードコースをやったのが一昨年だっけ?

その翌年……去年のオークボ城は天候の関係で全体的に装いを変更したイベントになった。

EXウルトラハードが開催されなかったのは、そういう事情によるところだが今年は基本的に通常開催の予定。

……やる?

超上級者コース?

「前回挑戦者の一部が『今度こそは完走してみせる!!』と再開を希望しているようですが……!?」

「クリア無理だろ常識的に考えて……」

そうだね。

クリアするには少なくとも飛行能力と、壁ぶっ壊す能力と、壁に張り付く能力がないと攻略不可能。

明らかに終盤ステージの仕様。

俺としてはもうちょっと難易度の調整が必要かと思うんだが……!?

とか額を突っつき合わせて話し合っていたら、来やがりましたよ。

ある意味問題の本質とも言うべき人が……!!

「ホッホッホ……! わらわの知恵が必要な状況かのう……?」

ゾス・サイラ!!

人魚族でもっともタチの悪い魔女の一人!

そして人魚国の宰相!

さらには最近オークボと結婚した人!!

随分多くの肩書を背負うようになっちまったなあ、この人も……。

そして何でこうタイムリーな状況で現れなさったんですか?

「農場の主ならわからぬわけがなかろう? わらわとオークボも今や夫婦! 夫婦ッ!!」

二回言うな、わかってるから。

「だからこそオークボのいるこの農場に毎晩帰ってくるのは当然のことじゃろう!? 今日も人魚国宰相の仕事を無事終わらせて退勤してきたわい!!」

……宰相って、俺の認識では国を背負って立つ激務だと思っていたんだが。

そんな毎日定時で帰れるホワイトな職場環境なの?

もしや結婚に浮かれて宰相職を超適当にこなしている?

と一瞬思ったが、それはないはずだ。

何故ならそんなことをしようものならヤツの姉貴分……シーラ前人魚王妃様からココナッツクラッシュを食らって額がカチ割れるに違いないからだ。

彼女の額が無事だということは、宰相の責務をしっかりこなしつつ、毎日定時で退勤してるってことだよな?

幸せで能力にブーストがかかったか……。

そういう人もいるという事実は受け止められる。

で。

何でこのタイミングでゾス・サイラが話題に上るかというと一昨年、問題のEXウルトラハードコースの主宰となったのが彼女だったからだ。

「懐かしいのう……! あの時はわらわも存分に楽しませてもらったわ……!」

「主にアナタ一人がね……!!」

何せ挑戦者にまったくクリアさせるつもりのない、むしろ叩きのめすことを主題とした鬼畜コースだもんよ。

あの当時のゾス・サイラは、強制的に宰相職に就けられてストレスも溜まっていたのでせめて憂さ晴らしをしてもらおうという意図だった。

イベント全体を巻き込んだ接待プレイ。

あんだけ好き放題やればさすがにゾス・サイラの荒んだ心も和らいだかと思われる。

当時な。

しかし時は今。

無事オークボとの婚姻を結び、人生の絶頂期にあるよねアナタは。

もう憂さ晴らしする必要ないじゃん?

それでもまだあの鬼畜事件を繰り返そうというのか!?

「絶頂の真っただ中でさらに幸福の頂点を味わいたい」

「尽きない欲望!!」

欲しがり屋さんだねゾス・サイラはッ!?

しかしオークボ城は皆で楽しむイベントなのでいつまでもアナタ一人に接待しないよ!!

もっと世界平和に繋がる案を出してほしいものだ!!

「よかろう、それならばわらわが人魚宰相としての職権を使い、まっさらピチピチの新案を提示してくれようではないか?」

え? マジで?

そんな巨大な職権を持ち出されるとそれはそれで怖いんじゃが?

一体何を提案するつもりなん?

「聖者も知っておろう。人魚国でもこの時期、大きなイベントが開催されることを」

大きなイベント?

ああ、武泳大会のこと?

海中深くの人魚国では、年に一回男人魚たちが各々の武を競って普通に殴り合いするイベントが開催される。

それが武泳大会。

でもゾス・サイラの野郎が言ってるのは、それとはまた別ものらしい。

最近になって武泳大会に併設されるように、もう一つの肉弾系イベントが開催されるようになった。

それが相撲大会。

俺が教えてしまった相撲の面白さに現人魚王のアロワナさんがドハマりして、人魚王就任と共に新設したイベントだった。

何気に新人魚王の初実績になってしまった。

「その相撲大会じゃがのう、人魚王からのご意向でもっと陸との交流を図れるように工夫せよと言い出す。そんなの宰相に振る案件じゃないわと思ったが、ここでいいアイデアを出してしまうのがわらわという女なんじゃ」

そこはかとない自分誇りいいから。

一体何をやるつもりなんだ?

「だから一緒にやらんか? オークボ城と相撲大会?」