作品タイトル不明
796 明らかになったもの
「ふッ……! 完敗ね……!」
豆最終奥義を食らって敗退したプラティであるものの、その振る舞いは潔かった。
割と元気そうに吹っ飛ばされた外からリング上へと戻ってくる。
「私の聖唱魔法をはね返すとは……。アンタの豆への情熱たしかに見せてもらったわ。それはもはや世界を覆すこともできる力ね」
「すべては豆の力よ! 豆こそがすべてを解決するのよ!!」
なんかよくわからん言葉を交わしながらガッと握手する二人。
彼女たちから一戦を乗り越えて獲得した友情の絆が窺えた。
気づかぬうちに他にもリングに上がる人影。
先に負けたアスタレスさんやエルロンではないか。
「彼女は見事、この戦いを勝ち抜いた。私たち強敵に勝ち抜いて」
「負ければ、その誇りと正体を剥ぎ取らねばならないという厳しい条件の中、見事……! 私たちもその条件に従うことにしよう」
そういえば。
今日の試合『負けた方が覆面を取る』というルールのデスマッチであった。
今はプラティもアスタレスさんもエルロンもマスクを被ってリングに立っている。
彼女らがレタスレートに敗退するってことは……。
おお!?
三人ともすぐさまマスクを外した、みずから!?
実に潔い脱ぎっぷり!?
それまで布地に覆われていた各々の素顔が晒される。
「ああーッ!? あの御顔はもしや!? 魔王妃アスタレス様ではないか!?」
「元四天王だからオレも見たことがある!?」
真っ先に気づかれたのはアスタレスさん。
魔王の妃だけあってやはり知名度が高い。
「あっちの美女は、人魚国のプラティ王女ではないか!? あんな大物が参加していたなんて!?」
「エルフはエルフだ!!」
詳しいな観客ども?
写真もネットもないこの世界なんだからもうちょっと、もうちょっと人の顔形について伝播が緩いものかと思ってたら侮っていた。
既に女性マスクマンたちの意外な正体に会場全体がざわざわとざわめいていた。
「アタシたち全員、見事アンタにしてやられたわ。アンタが農場にやってきた時には想像もできなかったわね」
「農場での日々が私をここまで強くしたのよ。農場で豆を育て、豆と触れ合い、豆に教えられる日々が……」
俺たちと触れ合って教えられてきたんじゃないのかよ?
まあレタスレートが納得してるならそれでもいいか?
「何はともあれここまで成長してくれてアタシも嬉しいわ。厳しく育ててきた甲斐があったわね……!」
「鬼嫁……!?」
互いに忌み嫌ってる感じがあったような二者だが、心の底では双方想いやってた風!?
リングで固く包容しあって、感涙に咽ぶ。
「よくぞぉ! よくぞここまで育ったわねぇえええええッッ!!」
「おべえさばぁああああああああああッッ!!」
なんとなく感動的な風景。
かくしてレタスレートに降りかかったピンチ。マスク剥ぎデスマッチは無事終了したということでいいのか?
レタスレート一人に対して、他の全レスラーが挑戦者なんてあまりにも無茶な条件大丈夫か? と最初は思ったものだが。
何とか切り抜けられたと思っていいのか。
そこんとこどうなんだレタスレート!?
「いやー、泣いた泣いた。マスクしたままだから涙でぐちょ濡れになってえれえことになってるわねー」
「レタスレート、このおしぼりで顔をお拭きください」
「おお! さすがホルコスフォン! そのよく気が利くっぷりはまさしく敏腕マネージャーね!」
ホルコスフォンってマネージャーだったのか?
まあ、まさしくそんな振る舞いではあるけれども?
「あぁー、気持ちいい。蒸しタオルで顔を拭くほど気持ちいいことはないわー」
「それならばマスクを取って直接顔を噴いた方がよいのでは? 布越しでは気持ちよさも半減でしょう?」
「さすがマネージャーはいいこと言うわね!! マスクを取って……! 直に肌に触れる蒸しタオルが気持ちいいーッ!!」
などと居酒屋のオッサンのような振る舞いをするレタスレート。
しかしながらそれをするってことはマスクを顔から外すってことであり、いまや謎の覆面レスターことミス・マメカラスは素顔を晒して完璧なレタスレートとなってしまっていた。
「あ」
「あ」
「「あああああああああああああああああああッッ!?」」
これはホルコスフォンですら絶叫せざるを得ない大チョンボ。
何をやっとるんだあのアホどもは?
既にレタスレートの素顔は、試合場に押し寄せる観客たちにばっちり見られていて、しかもそれがかつての人間国王女のものだと気づくカンのいいヤツらも大勢いた忌々しい!
「あれはレタスレート王女!? 彼女は死んだはずでは!?」
「人間国滅亡に伴って国王ともども処刑されたはずだぞ!」
「彼女がミス・マメカラスの正体だったなんてッ!?」
ご丁寧な説明ゼリフつけやがって……!?
とにかく秘密が漏洩しそうな……いやもう既に漏洩しまくっている非常にマズい状況だった。
当のレタスレートたちも大層混乱して……。
「あわわわわわわ……!? どうすれば? 一体どうすれば……!?」
「こうなれば、わたくしがマナカノンの一斉射で目撃者を一人残らず始末します! そのあと腹を切る覚悟で……!」
思考がどうしようもなくヤバい方向へ行きかけている最中で、流れをせき止める頼もしい存在が立つ。
「静まれぃッッ!!」
その大音声に言われるまま静かになった。
声の主は魔王さんッ!!
さすが魔王さんッ! カリスマ性で有象無象の庶民など一瞬にして黙らせる!
そして人間国を占領した魔国の王として、レタスレートの処遇に間違いなく関係している御方……ということで、自然注目が集まる。
「あれは魔王……!?」
「何故こんなところに……!?」
「魔王妃がリングに上がっている関係か……!?」
そして魔王さんのことも普通に一目で識別できる庶民ども。
情報共有力が高すぎんか?
魔王さん、充分に自分への視線を集めた上で厳かに語り出す。
「皆の者も気づいての通り、彼女は元人間国の王女レタスレート。公には処刑されたと発表したが秘かに生かしていた」
魔族の最高責任者である魔王さんが言うのだから疑いの余地もない。
一体どういうことかと固唾を飲む観衆。
「我は、魔族も人族も平等であるべきだと考えている。戦争に勝敗があるのは常だが、勝った方が負けた方を永遠に従え続けるのも無理ある話。よって我はいずれは人間族の権利と誇りを回復し、人間国を復活させたいと思っていた」
な、なんですってー!?
そんな深いお考えが!?
「ゆえに、旧人間国の王族をひそかに生かし、匿っていた。王族を優遇したからではない。かつて魔族と敵対していた人族、その頂点であった王家が改心し、魔族との和解を望むのであればきっと魔国人間国全体が手に手を取り合っていけると信じたからだ」
人間国を復興させてもまた戦争状態になったらなんも意味がないもんな。
魔族が求めるのは、平和に手を取り合っていける隣人。
それが実現可能かどうか、レタスレートの存在で確かめたと?
そういう方便?
「レタスレート王女は、今ではこうして社会に貢献し、人族と魔速の橋渡しを行えるまでになった。もはや信頼に足る。我は今ここに、人族たちに主権を返還し人間国を復活させることを宣言する!」
おおおッ!?
何とも衝撃的なことを言って観衆たちに衝撃を与えたぞ!?
これでレタスレートの正体がバレた混乱はあっさりかき消された!?
魔王さん、何と言う人心掌握術。
「いや、これは前々から考えていた事案なのでな。もともと人間国は、人族たちで独立してやってくれた方が魔族にとっても負担が少ない。永続されていた戦争が終わるだけでも魔国は大助かりゆえな」
なんだか世知辛い内情を話してくれる魔王さん。
それならばレタスレートも晴れて王族に戻り、人間国は復活して世界平和となっていくのか?
「待ってちょうだい!!」
しかしその流れを遮ったのは意外にも、リングの上のレタスレート本人だった。
「何年か前の私ならその話に迷わず飛びついたでしょう。しかし今は考えが違うわ……! かつて人間国を滅ぼしてしまったのは私たち王族の傲慢さから……そんな私たちが再びトップに立つなんて恥ずかしくてできない!」
レタスレートがまともなことを言いよる。
成長の一環なのか!?
こんなレタスレートを見れるなんて、感動で涙が溢れだす!!
「何より今の私には豆を育て、豆を世に広めるという使命がある! そのためにも王族なんてやってられないわ!!」
そっちが本命かい。
「だから人間国を復興するなら、以前とは違う形の、王がいなくても回っていける国づくりがいいと思うわ! ……そう、人間共和国を!!」
人間共和国!?
「人間豆共和国を!!」
一文字足すな。
意外なところから人間国の新たな在り方が提案されて、どんどん話が膨らんでいく。
最初は単純に世界的危機かと思われたレタスレートの身バレ危機マスク剥がしデスマッチ。
しかし終わってみたらレタスレートの正体はしっかりバレていながら、新たな展開を示唆することができて丸く収めることができた。
十割魔王さんのおかげだがな。
さすが名君は違うぜ。
こうして秋のプロレス興行も大成功に終わった。