作品タイトル不明
789 真実を追う者
オレの名はシンビスハンメ。
崇高なるジャーナリストだ。
オレの使命とは記事を作製し、世界の真実を民衆に伝えること。
この世のすべての人間には、真実を知る権利がある!
一部の権力者が隠蔽している秘密を暴き立て、すべての人々に報せ、不平等を正すことがオレに課せられた使命だ!
ということで最近も、地方領主の不倫を暴き立てて国中に晒してやったぜ!
見たか権力者! これが報道の正義というものだ!!
そんなペンにこもった正義の情熱が、次に書き立てろと訴えかける題材は……!
……これだ!
――『謎の覆面レスラー、ミス・マメカラスの正体とは!?』
前年辺りからスタートし、今や国境を越えて人気を博するショー、プロレス!
S級冒険者でもある元傭兵、ビル・ブルソンが主宰しているということでも話題性を呼んだが、さらにその中で一際存在感を放つ花形スターがいる。
それこそが覆面を被りしミス・マメカラス!
客寄せのためか美人揃いな出演レスラーの中で、あえて覆面被り顔を隠しての出場。
それだけでも異彩を放っているというのに、さらに異質なのはその対戦成績!
全試合全勝!
あらゆる対戦相手にも一歩も引き下がらず力でもってねじ伏せる。
その堂々としたファイトスタイルに加えて、それでも必ず勝つという確実さに熱狂的なファンも年々増え続けている。
今や実力、人気共に主催者ビル・ブルソンすら越えている。
プロレス興行それ自体の看板と言っていいレスラーだ。
しかしながら! 清廉なるオレのジャーナリスト魂が、この女の存在を許してはいけないと叫ぶ。
何故覆面を被る?
何故顔を隠す?
隠されているものがあれば暴き立てるのが自然の摂理、ジャーナリストの存在理だ!
だからこそオレは調べ上げる!
覆面レスラー、ミス・マメカラスの正体を暴き、記事にして世界中に知らしめるのだ!!
「アホなことに情熱燃やしてないでもうちょっと平和的な記事を書きましょうよ」
あぁ? 何を言っている後輩!?
平和何てクソ食らえだ! 抗争、暗闘、不和、確執! いさかいを書き立ててこそのジャーナリズムだろうが!
平穏なんて退屈なんだよたわけが!
思えば昔はよかった……!
人魔戦争が長きにわたって続き、記事のネタに困ることはなかった。
それなのに戦争がオレの断りもなく終わりやがって……争いがなくなったら記事に書くことがないじゃないか!
仕方なく、その辺の権力者の家庭内不和を書き立てて憂さ晴らしをしているオレの身にもなってみろ!
「そんなこと言って、こないだ先輩の書いた記事のせいでスポンサー切られちゃったじゃないですか。アンタが不倫暴露した領主、スポンサーの上客だったんですよ。少しは人間関係慮ってくださいよ」
「なんでジャーナリストが権力者の顔色を窺わなきゃならん! 権力に抗ってこそのジャーナリストだろうが!!」
「んなのこと言って戦争中は王宮に命じられるままに戦勝記事書きまくってたくせに……! 戦争が終わっていわば一番のスポンサーが消え去ったんですから我々もやり方を変えなきゃダメですよ」
「時代に影響されて何がジャーナリズムか!!」
まったく後輩! お前も真なるジャーナリストを志すからには反骨精神を身に着けねばいかんぞ!
権力に噛みついてこそのジャーナリストだろうが!!
だからこそミス・マメカラスの正体を暴くのだ!
すべての秘密は白日に晒される!
晒すことこそジャーナリストの使命!
「何でそんなにマメカラスちゃんのこと目の敵にするんすか?」
目の敵になんかしていない!
あのプロレス興行とかいうものが気に入らないだけだ!
そもそもあのビル・ブルソンの大女がS級冒険者にのし上がること自体がおかしい!
多くの一般冒険者が数十年の歳月をかけて手にする称号がS級!
その栄冠に数年そこらで到達したのがビル・ブルソン!
ヤツは元々傭兵だったのが戦争終結で職を失った落伍者だからな! 仕方なく冒険者に転向した負け犬なんだ!!
「その件なら冒険者ギルドから説明があったでしょう? ビル・ブルソン改めピンクトントン女史は、戦争終結に伴い大量の傭兵が冒険者業界に流入したことを受け、その融和が円滑に進められるよう特例で爆速のS級昇格となったって」
特例!!
平等精神の体現者ジャーナリストがもっとも嫌う言葉!!
「その説明に国民は納得していますし、何よりピンクトントンさんがS級に足る実力者だってことは傭兵時代の数々の活躍が証明しています。どんな言いがかりをつけたってギルドも本人も揺るぎませんよ」
「『言いがかり』とは何事か!?」
ジャーナリストによる正当な批判に対して!?
「先輩がピンクトントンさんに対して私怨を持ってるってことはわかりました。頑なに傭兵時の通り名の『ビル・ブルソン』呼びしてくるし……!」
「当たり前だ! 何がピンクトントンだ! 名前を変えて過去の所業から切り離されると思ったら大きな間違いだぞ愚か者が!!」
「過去の栄光を捨てて、新しい環境に順応するぞっていう意思表示として、改名はおおむね好評ですよ?」
うるせえ大衆の意思など知ったものか!!
大衆をコントロールするのがメディアの務めだろうが!!
「とにかくもあの巨悪ピンクトントンを打ち倒すためにミス・マメカラスの素顔を暴くことは重要と見た! 我ら正義のジャーナリストは卑劣な覆面レスラーの正体調査に全力を尽くすのだ!!」
「ミス・マメカラスはクリーンなファイトで有名ですが?」
「正体を隠す時点で卑劣なんだよ!!」
いいか一つこの世の摂理を覚えておけ!
権力者は陰で必ず悪事を働く! 権力者は全員だ! 例外はない!
それを暴き立て、社会的制裁を加えるのがジャーナリストの使命!
真なる正当ジャーナリストのオレは、その使命に邁進するのだ!!
* * *
そしてやってきた。
ピンクトントンのヤツが主宰するプロレス団体の記者会見だ。
ヤツらはここで興行の日程などを発表し、宣伝などを狙っているようだ。
さらには人気レスラーも幾人か登壇させ、雑談や質問を受け付けるなどファンサービスも行っている。
そこが俺の狙い目だ!
記者会見に出席するレスラーの中には、あのミス・マメカラスもいる。
だからこそ神聖正当ジャーナリストであるオレが、こんなお遊びみたいな席に来てやっているのだ!
せっかくの質問の機会!
際どい質問をぶつけてヤツの隠している秘密を暴き立ててやる!!
「愚かな庶民どもよ見ているがいい! 次の試合でこそ私が優勝し、お前たちを奴隷支配してやるわ!!」
「はいはいパンドラさんのマイクパフォーマンスでしたー」
ヒールレスラーが退場していよいよ次はミス・マメカラスの出番。
大トリにもってくるとはやはりヤツが花形レスラーだという評判は内外共に確定のようだな。
そして現れる覆面の女。
「皆さんごきげんよう! 豆が遣わした豆の使者! ミス・マメ……!」
「超正当ヒューマンタイムズのシンビスハンメです! 早速質問お願いします!」
「名乗りがまだなんだけど……!?」
ふん、だから何だ!?
怒りたければ怒るがいい。感情が乱れればそれだけ口も滑りやすくなる。
そもそも質問相手を怒らせるのもジャーナリストの仕事よ。いちいち腹を立てるのは質問対象の懐が小さいのが悪いのだ!
「……まあ、いいでしょう。質問は何かしら?」
「ミス・マメカラス選手が覆面を被り、正体を隠しているのはファンの不審を呼びます。ここは潔く素顔を晒してはどうですか!?」
どうだこのジャーナリストとして完璧な質問は!?
言い逃れできるならしてみるがいい!!
「フフッ、わかっていないのねえ記者さんは」
「な、何ですと……!?」
「秘密は、いい女の色気を引き立てるアクセサリーなのよ!」
なんなんだそのふざけた回答は!?
真面目に答えろ!!
「おお……! なんと軽妙な受け答え!?」
「ああいったジョークを交えたトークも彼女の魅力の一つだわ!!」
「実力だけでなく人気ナンバーワンにも納得できる……!?」
おぉい他の記者!?
なんで覆面女の味方をする!? ここはジャーナリズム精神に則って一致団結し、質問攻めで追い込むシーンだろう。
「私からも質問させてください! ミス・マメカラスさんのご活躍でプロレス興行自体も世界中に人気拡大していますが、これからの展望をお教え……!」
「おおい待てコラ! オレがまだ質問してるだろうが勝手に割り込むんじゃねえ!!」
「ええッ!? 原則は一人一問……!?」
オレの質問はオレの気の済むまで続けられるに決まっているだろうが!!
「ミス・マメカラスに質問します! 覆面を被ったままの活躍は、ファンからの疑念を呼び不義理であるという声もあります!! それに対して考えを伺いたい!」
「そんな声あったっけ……!?」
煩い他の記者!
オレが声を上げればそれが世間の声なんだよ!
「そうね……! ファンの要望にはできるだけ応えていきたいと思うわ」
「でしたら今すぐ覆面を取って素顔を見せてください! それが国民の願いです! 国民には知る権利があります!」
「でもただ取るだけじゃ面白くないわよねえ」
なんだと!?
「私はレスラーなんだから、この覆面を脱ぐかどうかもリングで決めるべきなんじゃないの? よし今この場でいい企画を思いついたわ。次の試合では、この企画を元にさらなる盛り上がりを約束しましょう!」