作品タイトル不明
781 生誕を祝う
何やかんややってるうちに秋が深まってきた。
今年の春夏は、合同結婚式に費やされたと言っても過言ではない。
それだけ大きなイベントがあったのだから秋ぐらいはまったり過ごしたいものだった。
しかしながらそんなオフシーズンにもスルーできない一大イベントがある。
我が子たちの誕生祭がな!
長男ジュニア、次男ノリトの誕生時期はいずれも秋頃と重なっている。
なのでこの機に一挙に誕生日祝いを盛り上げる所存。
正式な誕生日は、カレンダーのないこの世界では特定できないので、その辺アバウトだ。
異世界にやってきてまで時間に縛られたくないので、どれだけ現代知識無双を図ろうとも、この世界でカレンダーと時計だけは作らないと心に決めている。
腕時計のカッコ良さには今なお未練を惹かれるが……。
それはともかく我が子たちの誕生祭だ。
全力で祝うのは当然ながら、俺にはこのイベントで懸念していることもある。
昨年のジュニアの誕生祭では、子の成長を祝って餅を拵えて、それをジュニアに踏んでもらう催しをした。
それはまあ、俺の実家での習わしだったんだが、これをやるのは満一歳の時のみなわけね?
しかしながらこちらでは企画の意図が伝わらなかったのか、二歳の時にも餅踏みイベントが開催。
このままではジュニア三歳の今年にもまた餅を踏むことになりかねない。
祭事は正しく履行されてこそ祭事なので、ここは連鎖を断ち切りたい。
そこで俺はジュニアのために、新たなる生誕の行事を用意することにした
色々考えてみた挙句、浮かんだ一案。それは……。
「……七五三?」
……って何?
いや、ジュニアがついに三歳となったから思い浮かんだんだけど。
知ってるよ七五三。
アレでしょう? 子どもが三歳と五歳と七歳になったことを祝うイベントだよね?
詳しいシステムは知らんのであるけれど、それなら今年三歳になるジュニアにとって格好のタイミングではないか!
っていうか昔の行事だから三歳は数え年? 満三歳? どっち?
まあいいや、こういうのはフィーリングでいいんだよ!!
ということで満を持し、異世界七五三計画の開幕です!
早速始動させようとしたところ……。
「餅つけ、餅つけー」
既に餅つきが開催されていた。
今年も間に合わなかったか……。
「いや、わかってたんだけどね……!」
今年も餅踏みのイベントはやるって。
だって我が家には長男のジュニアだけでなく、その弟ノリトもいるんだから。
ノリトが健やかに育ってくれて、満一歳を迎えた。
彼にとって今こそまさに餅踏みイベントの正統なタイミング!
むしろ率先して餅を踏ませねば!
「餅をつかせろー! それは父親の俺の役目だー!!」
と餅つきに興じるオークたちの集団に飛び込む。
きっと今頃はゴブリンチームの方もノリトのために草鞋を編んでいることだろうて。
「あ、我が君……!」
「お疲れ様です」
ウムお疲れ。
キミたち困るよー。俺の到着を待たずに餅をつき始めるなんて。
これは我が次男ノリトのための正統なイベント。
まい進することに一切の迷いなし!!
だから俺が到着するまで餅つきは待ってほしかったな。
「お言葉ながら我が君……!」
ん? どうした?
ウチのオークたちが何やら苦笑気味に。
「ぺったん、ぺったん……」
おぉい誰だ!?
俺が止めたにもかかわらず、なおも餅つきを強行しているヤツは!?
「ぺったん、ぺったん、つるぺったん……」
そして危険なワードを口ずさみよる!?
それはセンシティブだ、今すぐやめるんだ!
一体誰が餅つきをしているかというと、オークとは似ても似つかぬ小さな子ども。
ちょうど三歳ぐらいの……。
つまりは我が子ジュニアだった。
「つるつるぺったん、つるぺったん……!」
だからそのアレンジはセンシティブだッ!!
餅をつくならちゃんとそれらしい擬音にしてッ!?
「というか、何でジュニアが餅つきを……!?」
「それは無論、御曹子の麗しい兄弟愛ゆえです……!!」
オークの一人が声を震わせ、昂揚気味に語る。
「ノリト坊ちゃまは、ジュニア坊ちゃまにとって初めての弟君……。血を分けし兄弟の生まれて初めての誕生祝いに、兄として何かしたいとみずから申し出られたのです……!!」
「坊ちゃま……なんとご立派な……!!」
「つい先日まで、言葉もろくに喋れない赤子だと思っていたのが、このように目覚ましい成長を……!!」
ジュニアを囲むオークたちが揃って感慨にむせび泣いている。
……キミらちょっとジュニアに感動し過ぎない?
たしかに子どもの成長は素晴らしいことだが、ちょっとしたことにいちいち涙までちょちょびらせていたら日常生活に支障をきたしてしまうだろう。
と言いつつ俺もまた……気づいたら目から涙が溢れておる。
「よし、餅つきはジュニアに任せようではないか。弟のために存分に杵を振るうといい!!」
「ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん……」
……ねえ、あの……。
聞いております? 父の話?
まあ、夢中になったら他のことは一切感覚に入らないのも子どもらしさか。
しかし、三歳の小柄だというのによくあんなおおきな杵を巧みに操れるものだ。
ハンマーみたいな杵を振り上げ、臼の中のもち米目掛けて絶妙の力加減で振り下ろす。
その動作のなんと美しいことか。
オークの一人が背後について支えているからちうのもあろうが……ん? ちょっと待て?
息子を支えるのは父親の役目じゃないのか!?
おいキミ! そこ代わりなさい!!
「ぺったん、ぺったん、ぺったん……!」
俺とオークらでベストポジションの奪い合いが発生する最中もジュニアは一心不乱に餅をつき……。
「ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん……!」
なんか気づいたら……おお……!?
「なんか餅が巨大化しとるーッ!?」
どういうこと!?
ジュニアが杵を下ろすたび、臼の中の餅が膨らんでいき……いや、増殖していく!?
すぐさま臼から溢れ出し、四方八方に広がる膨大な餅が周囲の者どもを飲み込んでいく!?
「うぎゃああああああッッ!?」
それはもちろん俺のことも含まれている!
集合していたオークたちも諸共に、餅の餌食にぃいいいいいッッ!?
「餅を食うはずが逆に飲み込まれたってかーッ!?」
一体何が起こっているんだ!?
オークたち、キミら餅に何かしたの!?
「わかりませんッ! 去年一昨年と同様の、農場で採れたもち米を使っているはずなのですが……!?」
それならなんでこんな餅増殖してんのッ!?
ふくらまし粉でも使ったのか!?
もはやバイオハザード級だよ!?
などと言いつつ俺たちが餅に飲まれて四苦八苦していたところ……。
「ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん……」
ジュニアは依然として餅をついていた。
キングスライム並に膨張中の餅のてっぺんに立って、何故か柔らかい餅の中へ沈むことなく、今なお杵で搗き続ける。
そして気のせいか? ジュニアが餅をつくリズムと、増殖のペースが連動しているように思われるんだが。
「ジュニアああああああッ! 一旦餅つきをやめなさいいいいいいッ!? このままだと農場が餅に飲み込まれるぅううううううッッ!!」
「ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん……!」
ダメだッ!?
子どもならではの純真な心地で、瞳を輝かせている!!
これは夢中な子どものモード!
飽きるまで終わらない!!
「飽きたー」
そして思いのほか飽きるのが早いのも子ども!!
ジュニアの注意散漫なおかげでなんとか餅溺死を免れた俺たちだった。
「し、死ぬかと思った……!」
やべぇ、モチモチヤベェ……!?
しかしなんでジュニアに搗かれて増殖したんだ餅? 叩かれて興奮した?
前々から怪しいとは思っていたが、ジュニアにも何か特殊な能力でも備わってるんじゃないかな?
想像してみると空恐ろしくなったので今は目を逸らすことにした。
未来の問題は、未来の人々が解決してくれる。
なんにしろ充分すぎるほどの餅がつき上がったので、ノリトも存分に餅踏むことができるだろう。
お兄ちゃんに感謝だな。
弟の件は無事完遂ということで、本格的に兄の方の祝い事に意識集中するとしよう。