軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

777 最強ドラゴンの戦い(下)

ここからが盛り上がってくるのだ!

この農場ドラゴンのヴィール様が迫真の話術で語り尽くしてやるのだぞ!

……ん? なんだご主人様?

アレキサンダー兄上とアホとの戦いにおれは加勢しなかったのかだって?

……。

ん~~~~~~~~~~。

ご主人様はわかっていないのだな、グラウグリンツドラゴンのアレキサンダーというものを。

正直あの時、おれはテュポンのアホに対してこういう感情しか湧かなかったのだ。

オイオイオイオイオイオイ。

死んだわアイツ。

……と。

アレキサンダー兄上は、自分に対することならほぼ無制限に寛大だが、自分の周囲の者どもが傷つけられることには激烈に不寛容なのだ。

あの時アホとしか言いようのない古くさドラゴンは、幸か不幸かアレキサンダー兄上を怒らせる唯一にしてもっとも的確な手段を取ったのだ。

『ああ、こりゃダメだ』としか思えなかったのだ。

「家令よ」

『はッ』

アレキサンダー兄上が呼ぶとどこからともなく執事服の骸骨が現れたのだ。

あれは兄上に仕えるノーライフキングだな。

世界広しといえども不死王を下僕に持っているドラゴンは兄上しかいないのだ。

「この子を預けるぞ」

『御意、我が命に代えてもお守りいたしますので我が主にはご心配なきよう』

『ちゃんと命令に従って、えらい!』

なんともマイペースなモンスターなのだー。

守るものを離して手ぶらになると、アレキサンダー兄上はすぐさま変身して竜の姿に戻ったのだ。

いつもの新雪のような真っ白い鱗の巨竜なのだ。

一雄叫び上げると誰もがビビらずにはいられないのだ。

『ヒィッ!?』

それはあのアホとて同じ。

『それで? そなたは一体何者だ? 私に見覚えのない竜などいるはずがないと思っていたが』

『それはおれから説明するのだー』

指をくわえて見ているのもなんなので果たせそうな役割は率先してこなすのだ。

『なるほど、封じられし始祖竜か。ならば私に見覚えがないのも仕方のないこと』

『我が末裔が弱体化し、母神ガイアより賜った誅神の指名が果たせなくなった時、おれは甦るシステムになっていた。どうやらその仕組みは生きていたようだな。貴様のような軟弱な腑抜けが最強を名乗るようでは。ドラゴン全体のレベルもさぞや落ちたことであろう!!』

あーあーあーあーあー。

知らんのだ。おれは傍観者の立場にいながらここまでキュッと身が縮まる思いはしたことがなかったのだ。

『消えるがいいアレキサンダーとやら! この時代のドラゴンは再びおれが支配してくれよう! そして暴虐にして残忍! 誰からも恐れられるドラゴンの世を甦らせるのだ!!』

『愚かな』

兄上の声は静か。

遠くから聞こえてくるさざ波のようなのだ。

『力、強さ、そのようなものに何の意味がある? どれほど極めようと上には上がある。強さなど勝ってこそ意味があるもの、負ければ塵ほどの価値も残らぬ。そして生涯無敗を誇れる者などこの世に一人としていないのだ』

『生涯無敗ならここにいる。このおれこそが無敗の最強竜だ!!』

いや、お前さっきこのおれに負けたじゃねーか。

『そうか、では実際に教えてやるしかないな。いかなる言いわけも現実逃避も許されぬ、完全無欠の敗北というものを。……家令』

『はッ!』

『頼む』

兄上に命じられるとその下僕のノーライフキングが何かしらの術を使ったようだ。

すると周囲の空間が一瞬のうちに変わったのだ。

なんだこれ? 真っ暗だ? 空気がねー?

『家令の術で別世界に移してもらったのだ。ここはエントロピー死を迎えた宇宙。もはや瞬く星も一つとして残らずブラックホールの残骸が漂うだけの暗黒地獄よ』

……。

は!?

もしやあの家令とかいうヤツの術でおれたちまとめて別の宇宙に飛ばされたってのか!?

そんなことができるノーライフキングって三賢以外にいたのかッ!?

『生物に迷惑を掛けずに戦うにはちょうどいい場所ゆえにな』

『なるほど、何もなくだだっ広い。暴れるにはちょうどいい場所だな』

なおまだ余裕たっぷりのテュポン。

お前は一体何なんだ?

『ならばこの暗黒世界で散るがいい! このプロトガイザードラゴンのテュポンによる圧倒的破壊能力によって!!』

おお?

テュポンがドラゴン形態からさらに変身したのだ?

体が半透明になって……なんかさらにでっかくなったぞ!?

『これこそ原始皇帝竜たる我が秘奥義「渾幽嵐流体」! 自分の身体を異なる次元に置くことでいかなる物理攻撃もすり抜ける! そしてこちらからの攻撃は通常通りに当たる!! ハハハ! 真の最強能力はこういうことを言うのだ! 次元違いの攻撃で消え去るがよい』

『ほう、素晴らしい能力だ』

しかしウチの兄のアレキサンダーはまったく動じなく……。

『私にはそんな術は使えない。いや、他のあらゆる竜魔法もドラゴンならでは異能も使えない。そのせいで幼少の頃は随分父上からなじられたものよ。「竜の出来損ない」などと……』

うわー、父上の阿呆そんなこと言ってたのか?

そう言うのが降り積もって皇帝竜と皇太子竜の決裂に至ったのだなー。

『私は無能の出来損ないだ。だからこそ私は自分にできないことができるすべての者たちを尊敬する。私にできること……私に使用可能な竜魔法はたった一つしかない。自分の魂が耐えられる限界まで、自分の力を倍加させる竜魔法だ』

『なに……!?』

『私の限界強化倍率は……三四七京九八四一兆八五七一億九六七四万倍だ』

そして兄上は発動させた。

この世のすべてを埋め尽くす、大究極竜魔法を。

『なんだ……!? なんだ!? なんだなんだこれは!?』

半透明のテュポンは狼狽する。

『満ちる……!? この何もない暗黒宇宙に純粋なるパワーが満ちる!? バカな!? 位層を移したおれの体にまで蝕んでくる!?』

ひぃいいいいい……!? やべぇええええええええ……!?

兄上のパワーが満ちまくっておれまでヤベえ!?

アレキサンダー兄上の能力こそ純粋な力なのだ。

何の小細工もなくパワーを膨張させ、自分と言う存在で埋めつくす。

この圧倒の前にはいかなる小細工も通用しない。

物理無効? そんなものに何の意味があるというのか。

アレキサンダー兄上の前で。

世界そのものと同等……いやそれより遥かに上の存在力を持ったアレキサンダー兄上は法則も原則も摂理も真理も、それごとまとめて叩き潰す。

極限よりも先へ行った純粋なパワーは、ルールそのものを丸ごと粉砕できるのだ。

だからアレキサンダー兄上に勝てるヤツは誰もいない。

大抵の連中は、自分の定められたルールを作ってその中で最強になれる。

兄上はそのルールごとぶっ潰せる。

もちろん純粋な力比べでも負けることがないので、アレキサンダー兄上を倒せる者は世界に誰もいない。

世界の外でも。

そんなアレキサンダー兄上にケンカを売ることがいかに愚かなことかわかったか!?

っていうかおれもヤベえええ!?

必死に逃げないと兄上の放出するパワーに飲み込まれる。

これが元いた世界でやられたらとっくにニンゲン滅んでるヤツ!?

『ぎゃあああああああッッ!? おえええええええええッッ!?』

あーもーテュポンのアホは完全に飲み込まれてあとは兄上のパワーに咀嚼されて肉体はもちろん魂も、魂が滅んだあとで繋がっていく運命さえも粉々にされて消滅したことだろう。

って言うかもうこれ決着ついた!

兄上! もうやめて兄上!! おれ様もこのままじゃ飲み込まれる!

どうかお願いやめてくださいませ!!

* * *

「相手が思ったより早く音を上げてくれてよかった。お陰であの宇宙を壊さずに済んだ」

『我が主がその気になれば世界の十、二十は瞬く間に崩壊できますからな。主が定める限界強化倍率も、周囲の世界群が耐えきれる限界でしかありません。やろうと思えばもっと強化できるのでは?』

「どうかな?」

元の世界に帰ってきたアレキサンダー兄上はすぐにニンゲンの姿に戻ったのだ。

おれも疲れてヒトの姿に戻ったのだ。最近はこっちの姿の方が落ち着く。

あー、死ぬかと思った。

おれも農場で過ごして随分力も上がったと思うが兄上には全然敵わんのだー。

「いいや、私の放出するパワーから数秒間でも逃げられ続けたお前は大したものだよヴィール。あらゆる竜魔法を駆使して、成長したな」

『がんばって、えらい!』

まーたこのぬいぐるみに称賛されたのだ。

釈然としねえ。

「私の力など意味のないものよ。壊し、消し去ることしかしない。あとに何も残るもののない虚しいだけの力だ。そんなものよりも何かを生み出し、育み、あとに何かを遺すことの方が何億乗倍も尊い」

兄上は言う。

「ゆえに私はニンゲンを愛しむ。彼らは誰もが私にできないことのできる尊い者たちだ。彼らの生きざまを守るために使えるのなら、この無意味なだけの力にも意味が生まれるのやもしれぬ。……ということで」

おれたちは目の前にはいつくばっている半死体に目をやった。

まあ上手く生き残れたもんだテュポン。

アレキサンダー兄上のパワーに飲み込まれて、瞬時のうちに殺されながらも魂は何とか無事に保って蘇生できたのは始祖竜としての実力からか。

「そなたがすべての竜の祖と言うなら、それ相応の敬意を払おう。しかしそれを理由に罪なき生命を害そうと言うなら私が絶対に許さん。今度こそは輪廻転生の轍までまとめて消し去ってくれよう」

『は、はいぃいいい……!?』

さすがのアホも思い知ったか。

「こやつは私の下で預かり、この時代での作法を叩き込んでいくとしよう。今は力の時代ではない。この時代の生き方を学んでいくことが必要だ」

こうしてテュポンのアホは、アレキサンダー兄上の預かりとなったのだ。