作品タイトル不明
775 祭りのあとの寂寥
魔族のベレナです。
一大イベント、合同結婚式が終わって農場に戻ってきました。
祭りの最中は賑やかで楽しかったですがそれが終わればまた日常の平穏が戻ってきます。
こちらもいたって重要ですよね。
人は、穏やかな日々の繰り返しによって生きるのですから。
その日の作業も終わって、のんびりと座って休んでいると、どこからかトンカン音が聞こえてきます。
それぞれオークボさんとゾス・サイラさん、さらにゴブ吉さんとカープ教諭の新居を建設中の釘を打つ音です。
本当なら結婚式前に完成させるつもりが、式場の方にかまけて遅れてしまってるんですって。
さらには夫婦の新居ですから立派なかまえにしようと気合を入れて建てられています。
先々子どもが生まれることも鑑みて空き部屋も多めに作るということで、またオークさんたちが気合の入った大工仕事をしているようです。
変なギミック盛り込まないか心配だわ……。
「……おや、ベレナさんも休憩ですか?」
「ガラ・ルファさん」
私の下へ寄ってきたのは人魚族のガラ・ルファさんでした。
メガネの似合う小柄な女性人魚です。
私もガラ・ルファさんも今や農場の古株で、個人としての付き合いも随分長くなりました。
何しろずっと一緒に農場で働いていますもんねー。
あの頃は、ガラ・ルファさんと一緒にパッファさんやランプアイさんがいて……。
……私と一緒にバティがいました。
そして今は私とガラ・ルファさんの二人きり。
……。
空が青いですね……。
「……とは言ってもバティのヤツは農場を完全に去ったわけではありませんけどね。通勤という形で毎日こっちに来ますし」
「結婚してもなお仕事の情熱が消えないって凄いですよね」
「アイツはそもそも仕事人間でしたし……」
でもまあそのうち段々来る頻度が減ってくるかもしれませんけれどね。
何しろ結婚相手は貴族様。
相手が認めてくれていると言っても、貴族夫人としては公の場に寄り添ったり家の運営を管理したりと用事も増える。
さらに子どもが生まれでもしたら益々こちらへ来る余裕もなくなるでしょうし。
……恐らくは時間の問題でしょうね。
「寂しいですかベレナさん。アナタたちほとんど一緒でしたしね?」
「そう言うガラ・ルファさんこそ。パッファさんとランプアイさんが帰っていってもうかなり経ちますが、まだ寂しいんでは?」
ガラ・ルファさんと他の人魚の方々は『魔女』の呼び名で共通した仲間たちでした。
『疫病の魔女』ガラ・ルファさんに……。
『凍寒の魔女』パッファさんと『獄炎の魔女』ランプアイさん。
農場にやって来たのは三人同時でしたが、今はガラ・ルファさん一人しかいません。
パッファさんもランプアイさんも、それぞれに想う男性を見つけて結ばれていったのですから。
つまりは幸せな門出を迎えての卒業。
じゃあ残っている私たちは留年!?
いや待て。
この考えはナシ。
なかったことにしてナシ。
そんな私の葛藤を差し置き、ガラ・ルファさんの回答は……。
「さすがにもう慣れましたよ。お二人が巣立っていったのは何年前だと思ってるんですか?」
で、ですよねー。
「もうあの二人も子ども生んじゃいましたし、けっこうな時間経過ですよ。それに今じゃ若い子たちも正式な魔女になって農場で働いてくれてるんです。むしろ前よりにぎやかですよ」
「ああー、エンゼル王女と一緒にやってきたあの子らねー」
平均年齢が一際低く、必然ガラ・ルファさんが最年長……まとめ役を務めることも多い。
かつて魔女の中でもっとも変わり者と言われた……まあ今も言われているが……ガラ・ルファさんがまとめ役なんて……!
月日の移り変わりは実に面白いものを見せてくれますよね。
「あの子たちの実力も日を追うごとにメキメキ上がっていって……、もはや新世代の主役といった感じです。私の時代はもう過ぎ去りましたねえ」
「いやいや……!」
「実際事実ですよ。もう狂乱六魔女傑なんて呼び名も忘れかけられていますし……」
そんな呼び名もありましたねえ。
ウチの農場に住むプラティ様にガラ・ルファさんが、人魚国へ帰っていったパッファさんとランプアイさん。そして上の世代のシーラ前王妃とゾス・サイラさんの計六名ですか。
合わせてそんな風に呼ばれることもありましたねえ。
しかし一人が結婚し……また一人が母となったり……でドンドン第一線から退いて、人々の記憶に埋もれるようになっていきましたねえ。
……あッ。
そういえばつい先日結婚したゾス・サイラさんもその六魔女の一人でしたよね?
とするとプラティ様もパッファさんもランプアイさんも結婚して……、シーラ前王妃なんかそもそも王妃様でしたから……。
「もはや六魔女で独身なのはガラ・ルファさんのみ!!」
「言わないでください!!」
ガラ・ルファさんにしてはめっちゃ大声でした。
私、そんなに相手の気を煩わせるようなことを言ったでしょうか?
……言ったな。
「必死に現実から目を逸らして気づくまいとしていたのに!! それを言ったらベレナさんだって同僚同期のバティさんに先に行かれて嫁ぎ遅れじゃないですか!!」
「言うなぁあああああああッッ!!」
言ったな!?
絶対に気づきたくなくて必死に現実逃避していたことを!
なんでそんな目を逸らしたい事実を突きつけてくるんですか!?
私が先にしたからか!
やられたらやり返す納得だね!
「見事に残り物となりましたねえ……」
「いやまったく……!」
私は残りもんじゃねーわ。
タイムセール半額なんてつかないわ、と主張したいところではあったが、その主張を支え切れるだけの気力がなかった。
だって……。
このまま日々を過ごしていても素敵な出会いがあるなんて考えられないんだもん!
環境が悪いんじゃない!
だって、この農場はもはや聖域と言ってよく、世界中の有名な人たちが出入りしてくるんですよ!
だから『出会いがない』なんて愚痴られない。
むしろ質も量も最高クラスの出会いに満ち溢れている!!
それでありながらまだいい人を捕まえられないのは、純粋に私に問題がある!
ガラ・ルファさんもそう。
「私はそもそも結婚に適した性格でないことはわかりきってましたからねー」
「またまた……」
「魔法薬学の研究一筋で、他のことにはまったく興味なく過ごした結果がこれということです。後悔はしてませんけどね。農場は、私の研究を進めるのに最高の環境です。ここに来られたことは私の人魚生最高の幸福です。何度生まれ変わってもここに訪れたいです」
などと供述するガラ・ルファさんの瞳は輝きに満ちていました。
彼女はたしかに研究にすべてを捧げ、その姿勢から『最狂』とまで言われるようになった真理の探究者。
けっして強がりで言っているわけじゃないと思います。
それに引き換え私は……!?
何かしら崇高な目標があるわけでもなく、ただ流されるままに農場に住み込んで、日々を漫然と過ごしていたら時も過ぎ去って婚期を逃す寸前……!?
私には何も残っていないわ!
こんな恵まれた環境に身を置きながらどうして何もなしえることができなかったのか!?
私のバカ!
大バカ!!
「大丈夫ですベレナさん!」
ガラ・ルファさんが私の手を握って言う。
「私のアナタは同じ仲間じゃないですか! 一緒に農場で働き、一緒に頑張っているんです! 仲間がいれば耐えられないことなんて決してありません!!」
「ガラ・ルファさん……!」
そうよね、そうですよね!?
ここに来るまでまったく面識もなく、種族すら違うというのにこうして出会って絆を結びあうことができる。
それこそ農場の醍醐味。
皆さっさと片付いて残り物となってしまった私たち。せめてその立場で農場の素晴らしさをアピールし、盛り立てていきましょう!!
「私たち二人で結成しましょうね! 一生独身コンビを!!」
「それは嫌!!」
ここまで来てもまだ希望を捨てきれない私……ベレナだった。
いいじゃない、夢を抱え続けることぐらい!!