作品タイトル不明
758 ドレス完成
そうして農場に迎えた新たな仲間。
仕立て師の卵たちである若者たちに仕事を教えたり、農場の常識を覚えてもらったり、エルフやドワーフどもからの芸術洗脳から守ってやったりで忙しなくしているうちに時は過ぎ去った。
時が過ぎた分、様々なことも進んでいき……。
* * *
まずドレスが完成した。
「出来たーッッ!!」
今度の花嫁どもが式にて着飾るためのウェディングドレスだ。
計四着。
バティ本人とゾス・サイラにカープ教諭、あとドラゴンのブラッディマリーさんの分。
四着一度は骨が折れたようで、さすがのバティも『完成!』の雄叫びと共に倒れ込んだ。
「フハハハハハハハ、フハハハハハハハ……!」
それでも余程満足いく仕事だったのか、倒れながらも笑いを上げる。
イントネーションに抑揚がなくてスパ○タンXみたいな笑い声だった。
一方、中途から手伝い始めた新人の子たちもグロッキーだった。
初めてバティの指揮下に入ったのだから。
魔王軍仕込みの重労働もさることながら、トップブランド『ファーム』の仕事ぶりを間近で見て精神が圧倒されたらしい。
「これが……、これがファッション界を席巻する作業……!?」
「密度と勢いが凄すぎる……!?」
「何年修行してもマネできる気がしない……!?」
多大なショックを受けていた。
これちゃんと立ち直れるんだろうか?
「パワーのある仕事がしたかったらまずハードな環境に慣れることですね。その点魔王軍はお勧めです。地獄のハードモードを経験できます」
自慢げに言うバティ。
それはブラックの考え方だよ。
さらに言えば地獄のハードモードを体験できるのは、厳密には魔王軍全体じゃなくてアスタレスさん旗下に限った話じゃないのかな?
「まあそんなことより重要なのは結果ですよ結果ァ!! 見てください、この私の独身最後の仕事を!」
トルソーに飾られ並んでいるウェディングドレス。
ファッションについては素人の俺ですら一目見て凄いとわかる。
金剛シルクをふんだんにあしらった輝きを放つ純白。それでいてデザインは四つの中のどれ一つとして似通っていない。
これほどのデザイン案の引き出しを持ち、縦横無尽に使いこなすことのできるバティは真実、仕立ての天才なのであろう。
ミシンや金剛シルクのような農場のオーパーツだけが人気ブランドの秘密ではない。
「私の智謀の源泉はまだ尽きていなかったようですね。これまでも散々ウェディングドレスを作製してきてネタ切れになったかと思いきや、経験が新たな構想を練り上げてくれました」
「これまでもたくさん作ってきたよねー」
アスタレスさんやら、ウチのプラティやら色々作ったよねえ。
「そうですね、特にこれまでのウェディングドレスは、仮託した裏テーマがあったので。そのテーマが地水火風と光だったんで、もう割り当てが尽きるところだったんですよ」
「そんなことしてたの?」
バティから話を聞くと……。
まずアスタレスさんに作ってあげたウェディングドレスが、風のウェディングドレス。
次にグラシャラさんに大地のウェディングドレス。
そこから人魚組に移って、人魚王妃パッファに水のウェディングドレス。
『獄炎の魔女』と謳われたランプアイに炎のウェディングドレス。
そしてウチの妻プラティのために光のウェディングドレスを拵えてやったんだそうな。
「中々に中二的……!?」
「最後に闇のウェディングドレスを作ろうかと悩んだんですが、さすがに結婚の雰囲気にそぐわなそうなのでお蔵入りとなりました」
そうね。
それはあまりに中二すぎるよね。
「そうして一旦のテーマは出尽くしましたんで、今回は新たなテーマでウェディングドレスを仕立ててみました。作風に活かすことができて私もたしかな手ごたえを感じています!!」
「へぇ」
今度はどんなテーマを盛り込んだのかな?
十二宮のゴールドウェディングドレス?
「雷電のウェディングドレス! 飛燕のウェディングドレス! そして月光のウェディングドレスです!!」
……。
……ふーん。
またなんか随分暑苦しい感じになって来たなあ!
でも字面だけはロマンチックな感じだよなあ。特に月光のウェディングドレス!
「でもあれ? ドレスは全部で四着ない?」
今あげられたのは三着なので、一つ余る計算になるが?
「最後の一着は、私用のウェディングドレスですからね」
「ほう」
「なので、他のドレスとは一線を画した、もてる技術のすべてをつぎ込んだ最高最強のウェディングドレスにしました」
「おい」
「名付けてアルティメット・ウェディングドレスです!」
強そう。
ラスボスとの戦いに着て行けそう。
いやバティてめぇ。
いくら製作者だからって自分の作品に思いっきりウェイト傾けやがったな!?
今まで数々のウェディングドレスを作成したのは、お前自身のドレス作製を見越した肥し作りのためであったか。
それって職権乱用じゃないの!?
……。
まあ別にいいか?
仕立て人だって自分の着る物について全力を注いだって罰は当たらんだろうし。
自分で作り出せる人の特権だよな?
「と、いうわけでこのアルティメット・ウェディングドレスを着て式に出るのが待ち遠しくて仕方ありません! これまでずっと脇役に徹してきたこの私に、ついにスポットが当たる時!!」
「へえ、なるほど。究極とはとてもいい響きねえ……」
その時、ゾワリと這い寄ってくる声。
その声の主は……漆黒の衣装をまといし人外の美女!?
「ブラッディマリー様!?」
「最強生物ドラゴンの、そのまた頂点に立つガイザードラゴンの妃となる私にこそ『究極』の言葉は相応しいんじゃなくて? ニンゲンなどよりもね!?」
「ぎゃああああッ!? 不当なる侵略者がああああああッッ!?」
同様に結婚式を控えたブラッディマリーさん。
『究極』を冠する一番いいヤツを堂々と強奪せんとす。
まあ一生に一度の結婚式だし、誰だって一番いいものが欲しいよね。
「ままままままま! 待ってください! これはそう、私用に採寸したドレスなのでマリー様みたいなボンキュボンな御方には合いません! ウエストはキツいし胸は余ります!」
「あら、そんなことなら大丈夫よ?」
ブラッディマリーさん、何事やらムニャムニャ呟くと、それに呼応したようにその体に変化が!?
あの豊かなお胸が急にしぼんで!? お腹もポッコリ出たような!?
身長も五cmほど下がったような!?
もっと言うと頭身も下がったような!?
「私たちドラゴンにとっては、この人間形態など所詮は仮の姿。体格ぐらい自由に調節できるのよ。これで私もバティちゃんと同じ体格よ!」
「あの絶世の魅力を振り撒いていたブラッディマリー様が! いきなり凡庸に!? 寸胴!? ちんちくりん!? これが私か!?」
悲しい現実を突きつけられるバティ。
こんな非情の行いを容易くできるなんて、やっぱりドラゴンは暴虐だな!!
「ぐおふぉおんッ!?」
バティがショックで打ち崩れた。
結婚式というもっとも美しい自分を演出できる矢先に、客観的な現実を見せられたんだからああもなるわ。
「じゃあ、サイズもピッタリ合うってことで究極のウェディングドレスを貰うわ! 欲しいものは奪え!!」
蛮族の考え方。
「さーて、お目当ての究極は……!? ん!? コレね!? とってもいい感じじゃない!?」
マリーさんついにお目当てのドレスを発見した模様。
もはや万事休すか?
ヒトはドラゴンから奪われ続ける運命なのか?
と思いきや……!?
「あれは月光のウェディングドレスですね……!?」
バティ製のその他大勢ドレス?
「マリー様をイメージしてデザインしたドレスなんですが、思いのほか本人に強くヒットしたみたいです。まあ私がマリー様に似合いよう全力を尽くしたんだから似合うのも当然ですがね?」
そう言ってニヤリと笑うバティ。
彼女の仕立て師としての実力はやはり本物だった。
いかなる究極が目前にあっても、相手がドラゴンだったとしても。
彼女が相手の手間に仕立てた衣服には、相手の方が気に入って吸い寄せられてしまうのだ。
さながら蜜に誘われる蝶のように。
美しさの究極は、人それぞれのもの。
だからこそ顧客それぞれに見合った究極を作り出せるバティこそ最高の職人なのかもしれない。