軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

753 舞踏会での対決

魔族の令嬢ネヘラ。

結局『ファーム』製のドレスは手に入れられなかったわ。

権力にモノを言わせて順番を繰り上げさせようとも思ったけれど、しかし先回りされてというか『権力を濫用してはならない』なんていう魔王様直々のお達しがあって無理だったわ。

権力の最高位、魔王様が出てきちゃどうにもならないわ。

おかげで今宵の、オルバ様が出席するという舞踏会に『ファーム』のドレスは着てこられなかったわ。

でも大丈夫!

『ファーム』のドレスには及ばないけれど魔都の最大手ブランド『ミックスパイダー』の最高級ドレスを取り寄せることができたわ!

オーダーメイドで私の意向を忠実に実現し、私の魅力を最大限引き出すこと請け合いよ!

この衣装をまとえば、オルバ様も一瞬にして虜となるはず。

彼もいいとこの貴族家なのですから社交には出席するはず! 彼の訪れる場に偶然を装って居合わせ、恋のアバンチュールを描くのよ!

では早速……。

ハイッ。

シュタッ。

着いた。

貴族の何某が開いた私的なパーティのようだけど、主催者の顔が広くて様々な種類の名士貴族たちが集っているわ。

この中にオルバ様もいるという情報をしっかり事前にキャッチしているのよ。

さて、どこにいるやら……。

「素敵なレディ、私と踊ってくれませんかな?」

煩いわね、今立て込んでいるのよ。

あちこち見回って……よし、やっと見つけた。

オルバ様だわ。

軍人として鍛えられながらもタキシードの着こなしが完璧だわ。

待っていなさい。そんなアナタの隣にいてもっとも映えるのが私なのよ!

そう思って彼の傍へツカツカと歩み寄るわ。

「ごきげんようオルバ様、今宵も凛々しいですわね」

「ああはい、……。ええと……!?」

まさか覚えてないの私を!?

私のような美貌の貴婦人は一度見たら顔も名前も死ぬまで忘れないはずじゃないの!?

「……な、に、ぬ、ね……ネヘラさん!? そうネヘラさんですよね!? 先日宮廷晩餐会でお会いした!」

ちゃんと覚えているじゃないの!

そうよ未来の妻のことを忘れてもらっては困るわ! ちなみに私、宮廷晩餐会でアナタに会った記憶はないけど!

「ちょうどいい、アナタに紹介したい人がいまして」

「はい?」

「私の妻になる女性のバティです。どうか仲よくしてやっていただきたい」

そう言って傍らにいる女性を示す。

ソイツは、やたら洗練されたドレスを着た魔族の女だったわ。

「バティと申します。よろしくお願いします」

「実は今、彼女を紹介するために各地の催しを回っていましてね。これからは彼女と一緒に家を支えていくこととなります」

こッ、コイツが……!?

何よ、どこにでもいるような平凡な女じゃない!

こんな十人並みの女にオルバ様の妻など務まらないわ!

……でもまあ、着ているドレスだけは中々いいじゃない。

私は目が肥えているから、見ただけでどこのドレスかわかるのよ。この洗練されたハイセンスな意匠……それでいて作りはしっかりしている。

この造形美と実用性を兼ね備えたドレスは……!?

「『ファーム』のドレス!?」

「あら、よくおわかりですね一目見ただけで……!?」

どうして!?

貴族令嬢の私が数年待っても回ってこない『ファーム』ブランドの極上ドレス! それをこんな平民女が着ているなんて!?

どういうことよ理解不能ですわ!

……ハッ!? そう言えば『ファーム』の衣服は魔王妃アスタレスが元となって流行を発進させた……、なんていう話を聞いたことがあるわ!

この女がアスタレス妃の子飼いであるという情報が入っているし……。

その縁で、他の客より優先的にドレスを仕立ててもらったってことね!?

キィッ、ズルいわ! コネを使うなんて!?

なんて卑怯な女! こうなればコイツのその卑しい本性を暴き、オルバ様の前で大恥をかかせてやる!

そして婚約破棄でもしてしまえばいいのよ!

「お、おほほほほほほ……!『ファーム』のドレスなんて、随分と思い切った出費ねえ。オルバ様に買ってもらったのかしら?」

『ファーム』ブランドは、その希少性の高さから自然値段も吊り上がり、特に上流階級の淑女らが求めるドレスなどは法外な値段になっているはず。

とても平民なんぞに手が出る安物ではなくってよ。

であればこの女は、貴族たるオルバ様にねだってドレス代を出させたことは確実。入手ルートはかつての上官のコネを使ったとしてもね!

「結婚前からそのような浪費癖……! 貴族の妻としては致命的な問題点ですわね? そのような悪妻をもってオルバ様も大変では?」

わざと周囲に聞こえるように大きめの声で言ってやりますわ。

舞踏会にはもちろん他にも多くの客が来ているんですから、ここで大きな声を出すだけで情報が広がり、さらに人の口に乗って噂が広がるわ。

『オルバ様の新妻は、浪費癖のある悪妻だ』と。

周囲から白い目で見られ、いたたまれずに去るがいいわ平民!

「根拠のない言いがかりはやめていただきたい」

ひぇッ!?

なんでオルバ様が庇い立てするの!? 婚約者だからか!?

「彼女が今宵着ているドレスは、彼女自身が用意したものです。私はビタ一文用立てしていない。……というと私自身に甲斐性がないようで偉そうに言えぬが……!?」

「でも、アクセサリーは、アナタが用意してくれたじゃないの。アナタの家に代々伝わっているものなんでしょう。とても嬉しいわ」

隣にいる平民女が補足するように言う。

それはまるで、夫の面目を保てるように上手く立ち回った良妻のようではない!

なんなのこのやりとり? 却ってこの平民女の株が上がるわ!

「ご心配なく、私これでも手に職を持っていますので。身の回りを整えるくらいのお金は用意できます」

「何ですって!?」

女が!?

手に? 職を!?

なんということかしら!? 貴族の女ならば高貴なる者のしきたりにのっとり、自家の存続を守ることに全力を注がねばならないのに仕事なんて!?

自分が生きるためだけにあくせく手足を動かすなど、とても卑しい行為だわ!

そんなことをしてきた女が貴族の妻に上がるというの!?

到底信じられないことだけど、淑女の誰もが憧れる『ファーム』のドレスを着ているぐらいだもの、かなりの金額を稼いでいるのは間違いないわ。

お金は卑しいものでも、多額となればそれは明らかな力。

……侮ることはできないわ。

探りを入れるのは必要ね……!

「お、おほほ……! しかしそのように高価なドレスをポンと簡単に購入できてしまうなんて、相当な財力をお持ちなのねえ」

「簡単じゃないですよー、作るの本当に大変でしたよー」

「そ、そうなの? まあ年単位で予約待ちの『ファーム』ですものねえ」

職人と交渉して、順番を繰り上げさせるにも相当な困難だったでしょう。

どれだけ報酬を上乗せしたことやら?

「予約は全部後回しにして集中しちゃいました。いや、自分用なんて作るのは初めてだったんですが思ったよりずっと手こずりましたねー」

「んん?」

今なんて言った? この女は?

予約を全部後回し? そんなことってできるの?

しかも『ファーム』に予約を入れた注文客って、それこそ魔王家に近い上級魔族がゴマンといるのよ?

そんな方々を差し置いて……とんでもなく不敬ではなくて?

ほら、パーティの周囲もメチャクチャ視線が冷たくなっていますわ!

『調子に乗りやがって、この成り上がりめ』って感じですわ!!

「おおおおお、お待ちください! 皆様の誤解を修正させてください!」

あからさまに凍り付いた会場の空気を察し、慌ててオルバ様がフォローを入れにきたわ。

でももう遅い! あの平民女の放埓な発言で、パーティ参加者の好感度はグッと下がりましてよ!

これならば社交界で彼らの結婚は認められず、あえなく婚約破棄ということもあり得るわ!

労せずライバルが自滅してくれてラッキーと言ったところね!

「ご列席の皆様に申し上げたい! たしかに彼女の発言は、順番を守らず、ルールを破った傲慢な発言に聞こえるかもしれない! しかし違うのです!」

「何が違うのかしら!? 私たちが欲しくて欲しくて仕方がないのに、それでも予約待ちで我慢している『ファーム』のドレスを、順番飛ばしで手に入れるなんて、とんでもない悪徳ではなくて!?」

ここで一気に印象を悪くするように畳みかけてやりますわ!

「そんなことはない! 何故なら、これは彼女自身が作り出したものだからだ!」

「……は?」

「先ほども言ったではないか、彼女は手に職を持っていると! 魔都中で人気の『ファーム』の衣服を作る、それが彼女の持つ『職』だ!!」

オルバ様の宣言に、会場全体が静まり返りましたわ。

これまで誰も会ったことがなく、謎に包まれているという『ファーム』の服職人。

……それが目の前にいる彼女だというの?

あの素晴らしいドレスの作り手が、自分自身のために腕を振るうのに、殺到する注文を後回しにするのは当然?

オルバ様を取り戻すための舞踏会が、思いもしない方向へ急展開していった。