作品タイトル不明
740 華麗に完成
紆余曲折の末……。
完成した!
農場オリジナルカレー!
プラティの薬草園から厳選したスパイスに加え、注ぎ込んだ隠し味は数知れず。
『これもう絶対隠れてねえだろ』というぐらいの量だったが奇跡的に調和を整え、とてもいい具合になった。
散々もめた具材についてだが、『別に一つの絞る必要なくね?』という結論になり、全部の具をメインにしたカレーを一通り作成。
さすがに一つに全部をつぎ込んだら主張がとっ散らかってわけのわからない味になるし……。
レタスレート&ホルコスフォンコンビのイチオシ、納豆カレー。
海の精霊コンビがイチオシ、シーフードカレー。
ヨッシャモイチオシ、卵でマイルドなチキンカレー。
スクエアボアイチオシ、ポークカレー。
……チキンカレーの具材に使われた鳥肉は、山で狩ってきた別種の鳥型モンスターのお肉です。
そしてスクエアボアは、聖者に身を捧げて転生するたびに解脱に近づくとか言うんで適切な道筋であったと思いたい。
そんなわけで出来上がった各カレーを自由にごはんにぶっかけて食するカレーパーティの開催だ!!
参加者は農場の住人全員!!
「「「「「うおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」
様々な食材を必要とし、もっとも複雑な料理かもしれないカレーを完成させられたのも、この農場に関わる多くの人たちの協力のお陰!
そのお礼も兼ねてなので、皆遠慮なく食ってくれたまえ!
そしてごはんに掛けるだけでは皆飽きるだろうから……さらに別のカレーの友を用意してみたぞ!
……ナンだ!
「ナンですって!?」
「ナンなのだ!?」
『ナンですと!?』
「ナンだと!?」
「ナンだ!」
「ナ、ナンだってーッ!?」
ナンなんだよ!!
念のために解説しておくと、ナンと言うのはカレーを付けて食べる用のパンみたいなもの。
インドカレーにはナンがつきものだが、作るのがしちめんどいので本場インドの人たちも普段はごはんにかけて食っているものと聞いたことがる。
ナンてこったい。
「やったわね旦那様!」
見事カレーを完成させたことへ、我が妻プラティが興奮気味に駆け寄ってくる。
まあ、彼女の言い出しっぺでカレー作りが始まったわけでもあるし……。
途中からほぼすべて俺だけの作業になっていたがな。
「これでアタシたちの食卓にもカレーが加わるのね! 常時メニューの一つとなったのね!!」
「まあ、そうだけれど……」
プラティ、何故そこまでカレーに拘りを?
俺が作り出すまでこっちの世界に存在していなかった料理だし、何かしらの強い印象を受けるような出来事もないかと思ったんだが?
「いつだったか旦那様が言っていたわ。カレーは、家に帰ってきた時に安心する味なんだって……」
うぬ?
それは……!?
カレーは今や家庭料理。
インドから英国経由でやってきた舶来の味だというのに、いつの間にか日本ウケして家庭料理になってしまった。
小学校の頃……家に帰るとか追ってくるカレーの香り。
それに胸高なったのは懐かしき思い出……。
そして給食でカレーだった日のお祭り気分……。
カレーはいつだって日常であり特別だった。
「……と旦那様は言っていたじゃないの!」
プラティがカレーを知るきっかけになった、俺のカレー語りの件か……!?
「だからアタシは、旦那様にこっちでもカレーを食べてほしいと思ったのよ! そしてアタシが生んだノリトやジュニアにも、旦那様と同じカレー体験をして幼少の輝かしい思い出にしてほしいの! だって親子なんですもの!!」
プラティ……!?
そんなことを考えてカレーを追い求めていたのか……!?
たしかにカレーは、少年時代の一ページを彩る決定的なアイテム。
その味を知ることによってジュニアたちの子ども時代は確実に一段階豊かになる……!?
ジュニアの様子を窺ってみると……?
「……すぱいしー」
……そうでもないか?
とにかく、プラティがそこまで気遣ってカレーを開発しようとしていたなんて。
その心遣いしかと受け取った!
今日から我が農場にカレー曜日を設立しようではないか!
隔週で!
そんなこんなで楽しいカレーパーティがたけなわと言ったところだが……。
まだまだ!
カレーのポテンシャルはこんなものでは引き出しきれない。
カレーならではのあるあるネタをここでやるだけやってカレーを楽しみつくさないとな!
カレーといえば何か?
カレーは辛さ!
『辛ぇからカレー』などと言われるように、味でカテゴリ分けされるならきっと辛味にカテゴライズされるカレーを、辛さで味あわないでナンとする!?
ここまでに出したカレーは、ジュニアなどが食することも考えて甘口にしてある。
リンゴォとハチミツをドバドバ入れ、コクがあってまろやかな仕立てになっていた。
しかしここからは大人の味だ……。
つまり激辛だ!!
辛味の元レッドペッパーをドバドバ入れて、カレーの辛味を爆上げしていく!
おおぉー 赤い赤い!
カレーがみるみる赤色になって液状のまま燃え盛っていくようだ!
これできっと十辛ぐらい!
さあ、これを俺と共に食す命知らずなヤツはいるか!?
「我が君! なれば我々がお供を!」
「主君が死地に赴くというのに露払いせぬ家臣はいません!」
おお、オークボにゴブ吉!
新婚ホヤホヤの彼らがこんな危険な試みに付き合ってくれるなんて、これぞ断ち切りがたい主従の絆!
「そんなに面白そうなこと、おれ様がスルーするわけにはいかんなー!!」
ヴィールも来た!
「そもそもドラゴンは口から火を吐く生き物だぞ! そのドラゴンが食物程度の辛さに屈しようなど種族の恥! その挑戦受けて立ったのだ!」
ドラゴンらしい高飛車なセリフで、激辛カレーを侮りまくっている心境が見えまくっていてよし!
これはこれで面白くなってまいりました!
「私も交ぜてもらってよろしいか?」
ここでまさかの……。
酒神バッカス参戦!?
「辛味といえば酒の肴にピッタリなもの! 酒をこよなく愛する者として激辛カレーとやら試してみないわけにはいかぬ! なぁに、この古今東西の酒の味に慣れたバッカスの舌にとっては、多少の辛さなど酒を楽しむアクセントだと証明させてばっかっす!!」
うわー、いうこと勇ましい。
『にゃはっはっはっは……、だったらミャーも一口乗せてもらうにゃー!』
そ、その独特の語尾は……!
ノーライフキングの博士!?
しかし見た目は完全に猫! 猫の博士が激辛カレーを所望だと!?
『世に猫舌などという言葉があるにゃが、そんな凡人の物差しは我らノーライフキングには通用しないと教えてやるにゃす! 猫は辛いものが平気! それが新世界のスタンダードにゃす!』
マジでは?
どうなっても知らないぞ……!?
そして同じくノーライフキングである先生は……!
『ワシは……、やっぱやめます』
危機回避本能が勝った。
さすが先生、アンデッドながら生存のための本能が高い。
他にも命知らずの向こう見ずどもがたくさん立候補し、特攻野郎カレーチームが立ち上がった。
メンバーが揃えば実食の時!
「それでは皆さん、プロージット!!」
「「「「「プロージット」」」」」
皆で一斉に激辛カレーを口内に流し込む。
そして一気に胃の中へ。
そして各自の感想は……。
「か、辛ァああああああああああああッッ!?」
「体が焼ける!? 胃に入れても体の内側から燃え盛るかのようだ!? 私の体が炉にぃいいいいいいッ!?」
「うひぃ辛ぇえええええええッッ! 噴く気もないのに勝手に口から火が出るのだあああああああッ!?」
『アルコール度数九十%にも匹敵するううううううッ!?』
ほーら、言わんこっちゃない。
これで一定のラインを越えた激辛カレーは、気軽にものの試しで食ってはならないという教訓が得られたことであろう。
……え? 俺?
俺は食べてないよ激辛カレー。
だって辛いの苦手だもん。