作品タイトル不明
739 カレーで泳ぐものたち
やべぇ。
できた。
「超美味い」
隠してない隠し味を全種類、滝のごとく盛大に注ぎ込んだ結果、俺オリジナルのブレンドカレーが爆誕した。
絶対失敗したと思ったのに。
味見してみたらかなりよかった。
いや、かなりどころか物凄くいい。
「おれ様のドラゴンエキスがよかったのだな」
『いえいえ、このドリアン・カイオウのドリアンが味を引き立てたのでしょう』
どっちも違うと思いたい。
しかし上手くできたとしても、ここまでグチャグチャにつぎ込んだらもはや再現不可能だな。
何を入れたか、どれだけ入れたかもサッパリわからん。
「どうにもならないものは仕方がない……!」
カレー自体が上手く出来上がったんだから、次に考えるべきは具だな。
いや、普通は具ってカレーと一緒に煮込んで味を抽出するもんだから、今となっては完全遅い気もするんだけれども……。
しかしなるようにはなる。
さあ、異世界農場カレーに相応しい具材はなんであろう?
やっぱりオーソドックスに野菜かな?
いかにも農場っぽいし。
「待ちなさい!」
そこへ突きこまれる制止の声。
やっぱり来たか。
隠し味の時と同様に、そんなんなるんじゃないかと思ったんだ!
「その問題、私たちにも一言もの申す余地があると見たわ!」
「そうですねレタスレート」
ああッ、キミらは……!?
かつての人間国王女レタスレート!
そして天使ホルコスフォン。
初っ端からとんでもない人材がぶっこまれてきた!
何故ならこの二人は農場において知らない者はいない豆コンビだからである!
「具材ということなら打ってつけは豆よ! スープに入れてもごはんに混ぜても最良のパフォーマンスを発揮し、美味しい上に栄養満点! 農場カレーは豆たっぷりのビーンズカレーに決まりね!!」
と豆そのものを進めてくるレタスレートはまだいい方で……。
「さらにそこに納豆が加われば完璧です」
……真の難物、ここに本領発揮!
いついかなる時も納豆しか勧めてこない納豆天使ホルコスフォン!!
「ここまでくればマスターも悟っておられることでしょう。納豆に合わない料理などないと」
「あの……、ええ……!?」
力いっぱいに反論できない自分が恨めしい。
「ですので納豆カレーは充分にアリだと推奨いたします。さあマスター、思い切ってカレーで納豆をグネグネ混ぜるのです!」
やめてよ!
そのココ○チで人気のメニューだからこそ頭ごなしに否定できなくて困るヤツ!
本当に納豆って合わない料理はないんだなあと感心させないでッ!
「これはヤバい流れになってきたぞ……!?」
何がヤバいかって大体いつもホルコスフォンと納豆がオチ担当になってるのに、それが初っ端から出てきたんだぞ!?
これじゃあ着地地点がまったくわからず、どんな流れか想像がつかない!
「で、では次の主張者どうぞー」
きっとまた自分の推し具材をアピールしてくる人(?)がいるんだろうなあと思って呼んでみた。
なかばヤケ。
そこで出てきたのが……。
……ニワトリ型モンスターだった。
「ヨッシャモ!?」
その名もヨッシャモ。
ニワトリのような外見をしてサイズもそれくらいだが、性格は極めて好戦的。
不用意に近づこうものなら必殺キックでボールは友だちにされてしまう。
非常に緊張感のあるヤツなのだが……!?
「なんでキミがここに……!?」
もしや、キミ自身がカレーの具材になろうと!?
タンドリーチキンになろうと!?
そんなこと言わないでくれよぉ!
今日まで一緒に生きてきた仲間じゃないかぁあああああッッ!?
「クェッ」
泣き叫ぼうとしたところ、ヨッシャモから差し出される籠。
さらにその中に入っているのは……。
「……卵?」
「クェッ」
なんだ、卵をお勧めしに来たのかビックリした……!?
そうだよな。そもそもヨッシャモは農場に卵を提供する係りだからなあ。
卵にカレー!
それはいい組み合わせ!
生卵でもいいしゆで卵でもいい! 温玉でもスクランブルエッグでも!
特に生卵をグリュグリュ混ぜてぶち込めば、激辛カレーも和らぎ味の調整にピッタリだ!
「納豆との相性もいいですしね」
「ホルコスフォン!? いついかなる時にも介入しようとしないで!」
納豆の万能性を象徴するかのようで嫌!?
さあ、他に名乗りを上げる者はいないか!?
『ならば私たちこそが……!』
『真のカレーの具材として主役に立候補するですます!』
そう言って海をザパーンと割って現れたのは……!?
クラーケンと巨蟹デスマスくん!?
まさかの海から参戦だぁああああッ!?
『話は聞いたわよぉん! 具材というなら海にこそ求めるがいいわよぉ!』
『海には幾千幾百種類もの食材が眠っているですます! それを多用すれば地上最強……いや海中最強のカレーができること請け合いですますうううううッ!!』
力説する海の幸ども。
うむ。
シーフードカレーか。
それもまた選択肢の一つとして充分アリっちゃありだが。
「ふっふっふ……、ダメな考えね……!」
なんかレタスレートが言い出した?
「いい!? 海の幸は総じて潮の香りが強いものよ! それと香り要素の強いカレーを混ぜ合わせたら……ケンカになるに決まっているじゃないの!」
『な、なんですってー!?』
「それだけに飽き足らず、シーフードといっても魚やら甲殻類やら軟体動物やら海藻やら、色んな種類があるんでしょう!? しかもどいつも主張が強い!」
『うッ!?』
「そんなヤツらを一堂に会したら、それぞれの主張がとってもうるさくって、どれがメインかわからなくなっちゃうでしょう!? 結果、なんだかよくわからない味になっちゃうのよ!」
そんなことないと思うけれど?
しかしレタスレートが、そんな理路整然と理屈を展開できるのがなんか凄いなと思った。
農場に来た頃はただのワガママ王女であったのに。
成長?
『そッ、そんなことないわよぉ! たしかに千差万別様々なシーフードがあるけど、カレーはすべてを受け止めて一つの味に調えてくれるわ!』
『そうですます! カレーは海より広くて深くて、すべてを受け入れるんですます!!』
なんでそんなにカレーに対する深い信頼を寄せるんだ大タコと大カニ?
お前らがカレーの何を知っている!?
『それに匂いだって、臭いものに臭いものを合わせてより大きなシナジー効果を発揮することは、よく行われていることよ! カレーは弱くないわ! シーフードの磯の香りと交じってさらなる相乗効果を生み出すのよぉおおおおッッ!!』
『磯とスパイスのアクセルシンクロですます!!』
海の精霊たちとレタスレートの激論は尽きることなく続いていく。
うむ、これはいかんぞ。
もちろん止めなきゃいかんのだが、どうやって止めればいいかそのとっかかりがわからない。
いつもであればオチに納豆を持ってくることで強制終了させられるんだが、今回はもう納豆は使われてしまっているのでなあ。
一体、どう話をまとめればいいんだ!?
『ブモォ(そこまでだ)!!』
「『なにぃ!?」』
そこへ現れる、争いの調停者。
それは……イノシシ!?
「スクエアボア!?」
あれこそ、農場周辺でもっとも狩られるタンパク源、イノシシ型モンスターのスクエアボアではないか!?
『ブモォ!』
「農場の食卓、そのもっともメインを飾る主役のお肉こそ自分。その自分を差し置いて、カレー具材の座を争い合うなど笑止千万!……と言っています」
ホルコスフォン!?
キミ、イノシシの言葉がわかるの!?
『ブモォ!』
「お肉の入っていないカレーなどそれこそ主役不在! 聖者様のカレーは、この私の肉こそが相応しい!……と言っています」
ちょっとイノシシくん!?
キミはそれでいいのか!?
これまで散々食してきておいて何だけれど、スクエアボアくんのその滅私的な献身はどこから来るんだ!?
豆vs魚介vs肉。
農場カレーを彩る具材、一体誰が栄冠を得るのか!?