軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

737 スパイス融合召喚

異世界カレー作成中。

現在はプラティ製の試作品を片っ端から精査している段階。

しかし……。

何故……。

「何故こうどれもこれも原色鮮やかなの!?」

眩いばかりの青、赤、緑、黄色……!

アメリカのお菓子かよってばかりにカレーが色とりどりすぎる!

これ絶対子どもが食べたがるけど、子どもに食べさせたくないヤツ!

「あかあかみどりー」

ほーら案の定ジュニアが興味を持った!

でもダメ! いけません!

まず間違いなく健康に悪いから!

「ふむ……こうして試作を繰り返すことによって正真正銘のカレーに近づく算段だったけれど……!」

これむしろ作るたびに遠ざかっていませんかね?

プラティの薬草園に充分な種類の材料が揃っているものの、結局正解は一つしかないんだし、選択肢が多いだけ逆に正解をわかりづらくしている。

これが『船頭多くして舟山登る』ってことか!?

違うか。

「こうなっては真の正解を引き当てるまでに何年かかるかわからないし、その前に俺の胃がもたない……!」

明らかに失敗と思しき原色カレーは俺が美味しくいただきました。

これで『食べ物を粗末にするな』みたいな抗議を受けなくて済む!

しかしそれと引き換えに、著しいダメージが胃に蓄積されるので、どっちにしろ破滅的な終末は免れない。

ならば俺自身の手で軌道修正を試みねば!!

「プラティ……、今度は俺にやらせてくれないか?」

「いいわよ」

プラティがあっさり代わってくれたのは、飽きてきたから。

今のうちに俺の手で正しいカレーを探り当てねば……命に係わる!!

「ここは久々にこの『至高の担い手』の力を借りるしか……!!」

俺の手に宿る『至高の担い手』は神々からのギフト。

握ったもの、触れたものの潜在能力を限界以上まで引き出す。

『至高の担い手』の効力をもってすれば、この六六六種類の薬草の中からカレーに相応しいスパイスを探り当てられるはず……!

みずからの可能性を孕みしスパイスたちよ……!

『至高の担い手』の導きに応えよ……!

「カレーに相応しいスパイスは決まった!」

さわやかな香りコリアンダー。

最古の芳香クミン。

そして、黄金の輝きターメリック。

出でよ……、スパイス料理……カレー!!

「できた……!」

いやーマジでできるもんですな。

スパイスを選び出したところまででもよかったんだが、結局『至高の担い手』が導く通りに調理したら、カレーができた。

そういうところがあるんだよ『至高の担い手』は。

触れたもののポテンシャルを最大限に生かして、その素材の持ち味を引き出す形に仕上げてしまう。

すなわち料理の形に。

そんな風にセミオートで料理できてしまった例が枚挙にいとまがなく。

異世界の儚き幻影、カレーも今ここに実在した!

「こここ……! これがカレーなのね!?」

出来上がったカレーを目の当たりにしてプラティが感激した。

この黄金色の輝きを放つカレーに首ったけ。

「見た目の珍妙さもさることながら、何とも言えない芳醇な香りね! 嗅いだだけで美味しいとわかるわ!!」

「そうでしょうそうでしょう」

その香りに誘われてか、農場の住人達もズンズン集まってきている。

あまりの濃厚なカレー香に嗅覚の鋭いポチたちがくしゃみをし、お昼寝中の次男ノリトがカッと目を覚ました。

「ご主人様! これは新作の予感か!? 匂いからして絶対美味しそうなアレなのだ!!」

ヴィールもいつものように荒ぶって高まっている。

「少し待つといい。カレーは、カレー自体だけでは完成にはならない」

「何ですって!?」

ナンではない。

ごはんにかける。

そうすることでカレーライスの完成だ。

ご試食どうぞ。

「ふぉおおおおおおッッ!! 何とも言えない独特の食感! 液状のカレーがごはんに絡み合うことで風味に実体が伴うわあああああッッ!!」

「他に嗅いだことのない濃厚で独特な香り! 単純ではなくいくつもの種類が交じりあったようだ!」

「その香りをそのまま味に直したようなカレー自体の豊潤さ! コク! 深み! うまあじ! もとい旨味!」

カレーの香りにつられて集まった人たちも一匙含んで絶賛の嵐。

さらにはヴィールも……。

「うめうめうめうめ! これご主人様が開発してきた中でもかなりのヒットだぞ! どうして今まで作らなかったのだあああああああッッ!?」

そりゃー、材料がなかったからさ。

カレーを作りには、数百種類もあるスパイスから適切なものを選び出さないといけなかったが、いかに『至高の担い手』でもそこにないものは選出できないしな。

だからこそカレーを完成させたのは、その元となるスパイスを用意してくれたプラティの手柄でもあった。

「そういうことよ! このカレーを食せることをアタシに感謝することね! 一噛み一噛み味わうごとに!」

「うっせー! それだったらテメーもラーメン食うごとにおれ様に感謝しやがれー!」

相変わらずの二人。

本当にコイツらは食い物のことになると一致団結する癖にそれ以外のこととなると仲が悪いんだから。

いつも俺が新しい料理を開発するたび一秒以内に出現するしな。

今回のカレーもそうであったが、それ以前の原色カレーの段階でヴィールが出てこなかった、その危機察知本能の精密さが恨めしい。

「ねえねえヴィールや、こっちの原色カレーまだ残りがあるんだけど食べてかない?」

「おれ様の生存本能が訴えているので遠慮するのだ」

このドラゴンめ……!

地上最強の生物であるくせに草食獣並みの用心深さを伴うな。

「それよりもご主人様! カレーとかいうはめっちゃうめえぞ! さらなるムーブメントを巻き起こすことは必定なのだ! 研究を重ねてもっとカレーを味わうのだ!」

「こらー! 何乗っかろうとしているのよ! カレーはアタシと旦那様で作り上げた夫婦合作なのよ!」

プラティとヴィールで手柄の奪い合いが始まった。

しかしヴィールの言うことにも一理あり。

せっかくのカレーを、ただ完成しただけで終わりとすることはできぬ。

カレーは無限の可能性を秘めているのだからな!

ここで手を抜かず、さらなるカレーの美味しさを追い求めていくぜ!

「実を言うと、このカレーはまだ未完成だからな」

「「未完成!?」」

その言葉にプラティ&ヴィールが驚愕する。

「そそそそ、そんなバカな! こんだけウメーのに、これでまだ完成段階ではないだって!?」

「信じられないわ! この美味しさこの香りは、充分完成の域ではないの!?」

まあ完成といえば完成である。

『完成じゃない』と言ったらインドの方々に失礼だしな。

どういうことかというと、今の段階のこのカレーはスパイスを炒めただけの世界的にもっともシンプルなカレー。

インドカレーだ。

カレーは長い歴史を経て様々に変遷していき、俺のような日本人が食べ慣れているカレーはここからさらに多くのアレンジを加えたもの。

インドカレーは水のようにさらさらしているけれど、日本人の慣れ親しんだルーから作るカレーはとろみたっぷり。

小麦粉を入れることでとろみを増すのだということは知っている。

それに、インドカレーは水気たっぷりな分、ごはんはパサパサの方が合うんだが、今回は農場で普通に炊いているモッチモチの日本米で、もう少し改良の余地があったと思っている。

「つまり、カレーの可能性は無限大な分、探求に終わりがないということだ! 俺たちは恐ろしいものの扉を開けてしまったのかもしれない!」

底の見えないカレー沼!

沈みゆく覚悟はあるか!?

「おおおおッ!! なんだかよくわからないけど面白そうね! スパイスを揃えるのに何年もかかったんだもの! そこからたったの一日で終わりなんてたしかに物足りないわ!」

言い出しっぺのプラティも実に乗り気だ。

では、登ってみるか。

このどこまでも続くカレー坂を。