軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

719 旧い魔女たちの確執

唐突に、脈絡もなく、ちょいと無理筋に始まった一大イベント。

ゾス・サイラvsカープさん。

人魚族同士による真剣勝負が、ここ農場にて行われています。

言うても農場にいる者たちは皆、イベント大好きのお祭り好き。

こんな面白げな催しを見逃してなるものかと、農場中の皆がその時々の作業をほっぽり出して見物に集まってきやがった。

こないだ入学したばかりの農場学校生も、特別授業とばかりの観戦。

試合場として設定した農場の一角の耕作予定地は、いまや一大イベント会場と化して賑わっている。

ホントこんな使い方されてばっかりだよ耕作予定地。

ワーワーワーと響き渡る歓声。

「ゾス・サイラもカープ教員もアタシたちより一世代上の魔女だもの。その二人の対決ともなれば見逃せないわよね」

と言うのはプラティ。

野次馬根性丸出しに、長男ジュニアを隣に引き連れ、次男ノリトを抱っこして観戦席に並ぶ。

「パッファやランプアイも見逃したと知ったら悔しがるでしょうね。人魚国にいる我が身を呪うがいいわ!」

「そんなに凄いの、あの二人?」

六魔女たちですら垂涎となるほど見応えある一戦がこれから始まると?

「ゾス・サイラはそもそも悪名高き『アビスの魔女』だし、今や人魚宰相としての地位もあるから文句なしの実力者よねえ。その得意魔法は、生命の禁忌を冒した『ホムンクルス生成』。あらゆる魔法薬学の基本形に当てはまらない異形の術式は若い子の参考になるはずよ!」

あんまり参考にしてほしくない事例なんですが。

それに対してカープさんは、いかに名門校の教員とはいえ魔女に迫るほどの実力を有しているものなんだろうか?

「あら、旦那様知らないの? カープ教諭も昔は魔女と呼ばれてたんだって」

「えぇ?」

「アタシもママに聞くまで知らなかったんだけど『アルスの魔女』と呼ばれて恐れられていたらしいわ。世代的にはゾス・サイラとちょうど同じ。往年のベテラン魔女同士の対決! これは盛り上がるわね!!」

会場は今やゴングも遅しと盛り上がりが最高潮。

既に対戦者である二人は、互いににらみ合って火花をバチバチ散らしている。

「くっふふふふ……! 幾年ぶりかのう、こうしてお前とガチンコでやり合うのは……!?」

「本当に、あの時息の根を止めていれば今日こうして煩わされることもなかったでしょうに。昔の自分の詰めの甘さを悔いていますよ」

「今日の悶着はお前が引き起こしたんじゃろうがボケェ! むしろ巻き込まれたんは、わらわじゃ! わらわこそ早めにお前を殺してトラブル回避しとけばと悔やむ資格があるんじゃあ!!」

もうスピーチによる場外乱闘が始まっている。

これ以上場を持たせてしまうのもなんだし、とっとと試合開始させてしまうか。

はいキックオフ、キックオフ。

「死ねやぁ!!」

「死ねぇ!!」

初っ端から殺意全開でぶつかり合っておる。

ねえこれ本当に若い人に見せていいの? 青少年に健全でない影響を与えない?

「まずは小手調べじゃあ、溶解魔法薬でドロドロとなれぁ!!」

小手調べでそれ?

投げつけられた試験管が空中で砕け散り、中身の魔法薬が広範囲に散らばる。

アレに触れたら、濃硫酸のごとく肌も肉も溶けてR指定になってしまうこと請け合い……!?

「甘いですわね」

「チッ、即座に中和したかさすがじゃな!!」

カープさんが振り撒いた魔法薬がすぐさま霧散し、溶解魔法薬と交じり合った途端無効化してただの水にしてしまった。

酸性とアルカリ性が混ざって中性に……とかそんな感じ?

「さすがカープ教諭。魔法薬学の教科書通りの戦い方ね」

プラティが解説役とばかりに説明する。

「学校の先生だけあって、あの人の魔法薬はどこまでも基本に忠実。際立った特異さがない代わりに隙も弱点もなく、理詰め的に相手を追い詰める。特異の塊といえるゾス・サイラと対極と言えるけど……」

突出した特徴もない代わりに隙もない。

ある意味、魔法薬師としてのプラティの特色と被っている感もあるが……。

「だからあの人が苦手なのよ! あんなエリート教師とキャラ被りなんてアタシのプライドが許さないわ!」

なんというはた迷惑。

しかしそんな戦い方だからこそカープさんはアルス=術理の魔女と呼ばれているんだろうか?

基本の技に誰よりも精通しているから?

「フフフフ……、それはどうかしら?」

「あッ、ママ?」

ごく自然に話に加わってきたのはシーラさん。

この騒ぎの仕掛け人だ。

「おばあちゃー」

ジュニアにとっては生粋の祖母であるゆえに恐れなく膝に抱き着いていく。

「こうしていると思い出すわねえ、アタシとゾスちゃんとカープちゃんの三人で、七つの海を荒らしまわった日々のことを……」

いきなり武勇伝なんです?

シーラさんたちの少女時代って、世紀末並みにあれてそうなイメージがあるんですが。

「あの頃の二人は、それはもう毎日のように殴り合っていたから、なおさら懐かしいわ。互いにライバルと認識して張り合っていたから、アタシに揃って叩き潰されるまで、それこそ覇を競い合う間柄だったのよ」

「覇ぁ……ッ!?」

そんな物騒な話題をほのぼの話さないでください。

子どもの教育に悪いです。ジュニア引き離していいですか。

「だから十数年ぶりか、ああして地位もしがらみもかなぐり捨てて争いあう二人を見ていると、昔に戻ったみたいでほっこりするわ。この戦いを提案した理由の一つね」

「理由の……一つ……?」

しかし、これを見てほっこりするのはやはりこの前王妃、心のいずこかが掛け違えているのでは……!?

「ちょうどアタシがダーリンと出会う前、大海に躍り出たまさにその頃、人魚界の無法地帯はあの二人が頂点を奪い合っていたわ」

『アビスの魔女』ゾス・サイラ。

『アルスの魔女』カープ。

現在の六魔女に相当する存在として……いや今以上に絶対的であったという。

勝った方が裏人魚界を一手に牛耳る。

その野望を巡って激突する両者は、実力伯仲するために何度も戦いながら決着をつけられなかったんだとか。

荒れた時代だったんだなあ……。

令和から見た昭和みたいだ。

ゆえに彼女らの関係は、今のプラティ、パッファ、ランプアイとの関係ともまた違った因縁渦巻くものであったとか、なかったとか。

途中それ以上の暴虐である『アドビヤーの魔女』シーラ・カンヌによって諸共制圧され、彼女たち自身の決着はつかず仕舞いになってしまった。

その決着を、今つけようとでも?

「カープちゃんも教師になって随分丸く……というよりお固くなってしまって、若い頃の戦い方を封印してしまったのよねえ」

「え?」

「今の優等生の戦い方で、果たしてゾスちゃんを倒せるかしら? 勝てなければアナタの願いは成就しないということでもあるのよ?」

一方肝心の試合は、ある時点から一方的にゾス・サイラの優位に傾いていた。

彼女が真骨頂、魔法生物ホムンクルスを繰り出してきたからだ。

「肩慣らしもこれくらいにするかのう。そろそろ本番じゃ」

そう言って地面にばら撒かれる魔法薬。

そこから泡立つように生まれてくる異形の人工生物。

禁忌の魔法薬によって生み出された仮初の命、即席ホムンクルスのディープ・ワンだった。

その大群を前に、カープさんは孤軍で表情をしかめる。

「何十年も前からバカの一つ覚えのように人工生物を……!? しかし、生成スピードも数も、昔とは段違いですね」

「研究を進めておったからのう。わらわとて童女の頃から成長したというわけじゃ。お前と違ってのう」

「何ですって!?」

「お前はどうじゃ? 昔は対等であったが、その頃より量も質も大進化した我がホムンクルス軍団に今も抗しきれるかのう?」

「ぐッ? 数だけでない? 単体としての強さも段違い……!?」

ゾス・サイラの能力を鑑みて、バトルフィールドは大分広めに設定しておいたからホムンクルス軍団の脅威は遺憾なく発揮される。

このままならば、ほどなくカープさんは数の暴力に飲み込まれて一瞬のうちに沈んでしまうに違いない。

「教師としての教科書通りの戦い方ではゾスちゃんには勝てなくてよ? アナタが勝つには、かつて『アルスの魔女』と恐れられたその力を出し尽くすより他ないわ」

シーラさんが何かボソボソ呟いている?

「さあ、久方ぶりに見せて頂戴。ゾスちゃんの禁忌と並んで、かつて七つの海を震撼させた『アルスの魔女』の邪法を。アナタが封印した暴威の力を。すべてを出し尽くすのよ。何故なら恋は、その人のすべてをさらけ出さなければ叶うことはないのですから」