軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

716 人族生徒の代表

私は人族のエミスラ。

由緒ある領主家の令嬢よ。

次女だけれども。

私の家は、子どもが私とお姉様の二人姉妹のみ。

それで責任ある領主の家系ですから、いずれは長子であるセラお姉様が婿を取ってお家を継ぐのが常道でしたわ。

お姉様には幼い時から一緒に過ごしている古馴染の殿方がいて、密かに好き合っているのが見て取れましたの。

まあ、将来は結婚するんじゃないかというほどにアツアツラブラブでしたの。

ただそこで問題なのは、幼馴染の殿方が我が家に仕える使用人の一人だということ。

将来我が家を継ぐべきお姉様は、もっと由緒ある家系から貴公子とした婿を取らなければいけない。

生まれ卑しい使用人と結婚するなどもっての外ですわ。

しかし二人が心底愛し合っているのは傍から見てれば丸わかりですので、何とか二人を結ばせてあげようと、お家を継ぐ責務は妹の私が担当しようと思っていましたの。

私は特に想い人とかいないので、家柄がいいだけのブタみたいな顔と結婚しても全然OKでしたわ。

しかしある時、思いもしない事態が起きましたの。

戦争に敗けて、領土を取り込まれた我々人族は、占領者たる魔王軍の言うことを聞かなければいけない立場に追い込まれたのですわ。

そして魔王軍が寄こしてきた命令は『若くて将来性豊かな人材を差し出せ』というものでしたわ。

該当するのは領主家の長女であるセラお姉様。

しかし領主家長女であるお姉様が取られては、我が領は崩壊いたしかねませんわ。

どうしたものかと皆が思い悩んでいた折、声を上げたのがかのセラお姉様の秘密の恋人。

立場的には使用人に過ぎなかったワルキナさんですわ。

――『オレが代わりに行きます』と。

愛するセラお姉様のために我が身を犠牲にしても厭わぬという精神力。

セラお姉様は泣いて止めましたけれどもそれ以外に方法がないからにはどうにもならず、私たちはワルキナさんを送りだしたのです。

誰もが彼の献身に感服し、一人残されたセラお姉様は悲嘆に暮れました。

……それが数年前のこと。

今年に入ってワルキナさんが帰ってきました。

魔王軍の募集に応じて旅立った修行の地で、充分に修行を積んで一人前に認められたとのこと。

帰還したワルキナさんは、見違えるほど立派になって、どこぞの王子様のようでしたわ。

一番喜んだのは言うまでもなくセラお姉様。随分前から文通や里帰りで修行時のワルキナさんのことは存じ上げていたものの、本格的な帰還でついに恋心が大炎上した模様ですわ。

すぐさまお父様に申し入れて結婚の許可を迫ったのです。

お父様も、我が娘のために命を投げ打つワルキナさんにいたく感心しておりましたし、魔王軍での修行を終えた彼が大きなコネを持つ結果となりました。

それは、かつては絶望的とすら言われた二人の身分差を埋めるに充分な要素でしたわ。

お陰で二人は晴れて結ばれワルキナさんはワルキナお義兄様となることが決定いたしましたの。

お父様の後継を担う領主も、正式にワルキナお義兄様が婿入りして勤めることになるようですわ。

本当におめでとうございます、お姉様。

生まれてからの育み続けてきた恋愛が、まさか実を結ぶことになろうとは。

お姉様はまさに人生の勝者ですわ。

修行したワルキナお義兄様は領主としての政務能力も充分備えてきましたし、彼に任せておけばお姉様のことも領のことも心配ないことでしょう。

するってーと私のこの身がいきなり空いてしまったのですわ。

一時は恋するお姉様の代わりに、我こそが領主令嬢の責任一切を背負おうとしておりましたのに。

そのすべてをワルキナお義兄様が引き受けたからには、私の出番も一切かっさらわれてしまった形ですの、やべえ。

お姉様たちが幸せになってくれるのはいいことですが、それで私の人生設定が一気に白紙となってしまったのは飛んだトバッチリでしたわ。

一体どうしましょうか、この私?

特にやりたいこともないこの身の上にどうしたものかと戸惑っていたら、義兄となったばかりのワルキナ様からお勧めいただきましたの。

――『キミも農場へ行ってみてはどうだい?』と。

は? なんで農場なんですの?

領主家を継げなくなった私は僻地で開拓でもしていろと? と一瞬ケンカ腰になりましたが、よくよく話を聞いてみるとそんなこともなさそうでしたわ。

なんでもワルキナお義兄様が魔王軍の指示で修行に赴いたのが、農場だというそうです。

正式には聖者の農場。

マジですのお義兄様? それって巷で噂になっている伝説の理想郷ではありませんか?

そこに行けばどんな望みも叶うという。一時期は好事家や夢追い人、さらには復権を狙うかつての人間国権力者までが血眼になって探そうとしたそうですわ。

まさか実在していたなんて……!?

そしてそんな場所で修行してきたワルキナお義兄様、凄いですわ。

さらに義兄の言うところによると『農場では卒業した俺たちに代わって新しい生徒を募集するそうだ』とのことでしたわ。

新たに農場で修行するチャンスが巡ってくると。

それに名乗り出るのは私ですわ!

年齢的にもちょうどいいですし、家の責任もワルキナお義兄様が一手に引き受けてくれた今、私は自由な身分ですから!

お義兄様のコネを使えば渡りをつけるのは簡単で、思ったよりあっさりと農場へ向かう手筈は整いました。

ワルキナお義兄様の前例で安全も確保できたので、家族を納得させるのも容易かったですわ。

せっかく義務から解放されたのですもの。この上は自分の能力の限界を見極めにいざレッツらゴーですわ!!

そしていよいよ農場へ向かう日がやってまいりましたの!

姉夫婦に見送られていざエミスラ、冒険の大海原へ第一歩を踏み出しますわ!!

同じような感じで集められた同年代の人たちと転移魔法で一っ飛び。

ついた先が農場で『おお、こんなところなのか!?』と思いましたわ!

パッと見た感じ、故郷の領地内にある農園とさして違いないように思えましたけどすぐさま『違う』と感じられましたわ。

だってノーライフキングがいる!

ドラゴンがいる!

魔王や人魚の王様までいる!

あと滅んだ人間国の王女様に似た怪力女もいましたわ! ずっと昔に遠目で見かけたレタスレート王女のように見えましたけど、絶対別人に違いありませんわ!!

……聖者の農場。

やっぱり噂通りに物凄い場所であることは間違いないようですわね。

ここで修行したワルキナお義兄様は見違えるほどカッコよくなって、お姉様とラブラブウェディングを果たして人生の勝ち組となりましたわ。

私もまたそれに倣い、ここで修行して力を得て、イケメンの旦那様をゲットするのも一興!!

欲しいものは自分の手で掴み取る、それが領主令嬢エミスラの人生哲学ですわ!

という感じで意気込んでみたはいいものの。

早速農場で始まった最初の催しは私を失望させるに余りありましたわ。

『芋掘り』ってなんですの?

いや、世の貴族令嬢のように『土に汚れるのは嫌』『労働なんてしたくない』ってことじゃありませんわ。

ワルキナお義兄様が、王子様のごとく立派に成長された場所なのですから、さぞかし厳しい修行があるのかと身構えておりましたのに。

こんなお遊戯のような催しでは拍子抜けもいいところですわ。

てっきり最初は、入学生全員が穴の中にでも放り込まれて、そこで殺し合って最後に残った一人だけが抜け出せるとか、それぐらいのサバイバルがあるかと思っていましたのに。

はあ……、進路を間違ってしまったかもしれませんわね。

こんな芋掘り遊びをしている間に、回し蹴りで木でも薙ぎ倒す訓練でもしていた方が有意義でしたわ……!

……とか思っていたら……。

何ですの?

私が掘り出したイモが喋り出しましたわ!?

何ですのコイツ!?

男爵風情で偉ぶりやがって、私のお家は伯爵相当ですわよ! 頭が高いですわよ!

いやそれ以前にイモが喋るって!?

イモが喋るってどういうことなんですの!? それがここでの常識なんですの!?

よく見れば、今日初めてここに来たであろう新入生以外はそこまで驚いた風も見せませんし、ここではこれがごく普通の風景なんですの!?

……甘く見ておりましたわ聖者の農場……!?

たしかにここは、私の想像も及ばない奇跡があちこち転がっているようですわね……!!

けっこう、それならばそれらすべての奇跡を我が身に吸収し、地肉と変えて、我が成長の礎としてやるまでのことですわ!