軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

708 不遇の甲殻

ボクは上級精霊のデスマス。

皆、気軽にデスマスくんと呼んでほしいですます。

デスマスさん?

デスマス氏?

いいえ、デスマスくんですます。

ボクが住むのは大いなる海流……デス通りの脇にある無人の孤島に空いた洞穴、マニゴル洞ですます。

そこで潮の満ち引きと共に流れ込んでくる海水に身を浸し、時には外に出て岩肌に生えたコケを食べたり、天気のいい日に甲羅干しをしたりして過ごしているですます。

大体一人ですます。

誰かと一緒にいることは少ないですます。

それはボクの持って生まれたこの姿に原因があるんですます。

ボクは、蟹なのですます。

大体身の丈が人類の大人の男より高くて、巨体と言っていいデカさなんですます。

よくモンスターと間違えられますんですが、それでもれっきとした上級精霊ですます。

『上級精霊なのに蟹なの?』とよく聞かれますですが、そもそもの僕らの成り立ちは何千年も前の神話の時代に遡りますですます。

その当時は、神々が戯れに人族のお姫様に手出しして、生まれてしまった半神がたくさんいたんですます。

その中でも代表的な半神英雄に、かのヘラクレスさんがいたんですます。

数多い半神英雄の中でももっとも強く、数多くの功績を打ち立てた御方だったんですます。

ただそのヘラクレス様はご多分に漏れず天母神ヘラ様から恨まれていたんですます。

なんせ夫のゼウス様の浮気から生まれた子どもなんで恨まれるのも仕方のないことなんですますなあ。

というわけでヘラクレス様は、地上にお住まいの時からありとあらゆる嫌がらせをヘラ様から受けていたんですますが、その嫌がらせの一つがボクら精霊カニに大いに関係あることだったんですます。

ある時ヘラ様は、その神気でお化けガニを作り出し、命令を与えたんですます。

――『ちょっとあのヘラクレス生意気だから、足でもちょん切ってきてくれませんこと?』

と。

『無茶ぶりガニィィイイイイイッ!?』と思ったに違いないんですますな。

それでも天界を支配する妃神に逆らうわけにもいかないから、決死の覚悟でヘラクレスさんに忍び寄って、アキレス腱でもぶった切ってやろうとした化けガニさんですますよ。

もしその試みが成功してたら、今頃アキレス腱はヘラクレス腱と呼ばれるようになってたんだろうですますな?

しかし、そうはなっていないことからもご承知の通り、狙いは成功しなかったんですます。

それどころか、ヒュドラさんとの格闘中でまったく意識に入らないうちに誤って踏み潰されてしまったのがお化けガニさんだったのですます。

これはちょっとあり得ぬ結果だったんですますなあ……。

どうせ負けるにしても、もっと他にいい負け方があったと思うんですます!

知らないうちに誤爆で踏み潰されてたなんて、戦いにもなってないですます!

ただの事故死ですます!

それ以降、蟹の精霊はいくらか生まれてきて、僕もその一人なんですます。

ヘラクレスさんに踏み潰された化けガニは、ボクの親戚か、先祖ということになるんですますかなあ。

しかしハッキリ言っていらない関連性ですますよ。

おかげさまで精霊業界での我ら蟹族の扱いは最低最悪なんですますから。

――『あー、知らないうちに踏み潰された蟹だー!』

――『別の敵と戦ってる隙に不意打ちってだけでも卑怯なのに、それすら失敗して踏み潰されるなんてー』

――『しかも踏まれるだけでグシャるなんて脆ぇー!』

と散々に他の上級精霊たちから罵倒される始末!

ですます!

のちに天界に移住したヘラクレスさんから『何かゴメンね?』という謝罪の言葉を受け取ったんですますが、彼自身なんか悪意があってしたことでもないんで、何とも言えない微妙な空気にしかならなかったんですます。

お陰でボクを始めとした蟹精霊たちは今なお肩身の狭い思いをして、こうした地上の片隅で暮らしているんですます。

僕が住んでいるマニゴル洞も、なかなか静かでいいところですますよ。

誰も訪ねてこないから、耳障りな悪口も聞こえない代わりに、ただひたすら静かですます。

穏やかだけど寂しいですます。

時々クラーケンのクラーク・ケントさんが遊びに来てくれますです。

照れがあるから『勝負よ!』と常に勝負事を口実にやってくるんですますが、ボクのこと気にして様子を見に来てくれるいい人……でなくていいタコなんですます。

でもボクらが神話の時代から不遇に置かれていることは変わらないんですます。

ああ、どうしてボクらは蟹に生まれてしまったんですます?

蟹でさえなければこんな不遇に置かれることもなかったんですますのに……。

そうやって毎日をうつむき加減で過ごしているところに、お客さんが来たんですます。

『こんなボクのところにお客さんが?』と戸惑ったんですますが、さらにお客さんが言ったことがボクに衝撃を与えたんですます。

* * *

「蟹さんだぁああああああッ!! これこそ俺が追い求めるヒーローの理想像!」

えッ? 何ですます? 何ですます?

初めてお迎えする人類のお客さんですます。でもそんな人類さんが、こんな哀れな蟹さんに何の御用ですます!?

「ああああ! ご挨拶が遅れました! アナタが蟹の上級精霊のデスマスさんですね!?」

いかにも……ではなくカニにもボクはデスマスですますが、ボクを呼ぶ時は『デスマスくん』と呼んでほしいんですます!

「デスマス様?」

違うですます!

「デスマス殿?」

違うんですます!

「デスマスくん?」

そう! それ!

して? ボクの名を知る人類さんこそ一体何者なんですます?

「俺はちょっと遠くにある農場の主です! アナタのことはクラーケンのクラーク・ケントさんから窺っていました!」

やっぱりあのタコの関係者なんですます?

こんなボクのところに訪問者が来るなんて、彼(?)以外にツテはないと思っていたんですますが、予想通りですます。

「それでですね……! アナタにお願いがあってきたんですが……。アナタにヒーローになってもらいたいんです!」

な、何ですます!?

突拍子もなさすぎて話についていけないんですます!!

世界広しといえども、ボクほどヒーローに程遠い存在もないんですます!

ヒーローの敵役にすらなれないのが蟹なんですますよ!

そんなボクにからかいの言葉は控えるんですます!

「いいえ、そんなことはありません! カッコいいじゃないですか蟹!」

カッコいい!?

「まずは何より、そのハサミ! わかりやすい強力な武器じゃないですか! 種類によっては人間の指の骨も簡単に折り砕くという! さらに見た目が凶悪でカッコいい!」

凶悪!?

「あと全身が硬い甲殻に覆われているというのも強そうですし、防御力高そうですよね! 高速回転で錐もみしながら突き刺されてもはじき返しそう!」

そ、そうなんですます!?

たしかに殻の硬さにはちょっとした自信があるんですますよ!

「あと食材としても蟹鍋、焼きガニ、蟹味噌、カニ玉、カニクリームコロッケ、蟹雑炊、カニチャーハン、そしてカニカマ! どう料理しても美味しいですよね!」

それ関係あるですます?

「そんなアナタから生命因子を頂ければ、強くてカッコいいヒーローが生まれてくれると確信しているんです! どうか俺たちと一緒にヒーローになってくださいませ!」

そんなこと言われたの……、これまでで初めてですますぅ~~ッ!?

ボクが活躍していいんですます!?

神話では英雄に立ちはだかる敵役にもなれず、知らないうちに踏み潰されていた蟹のボクが、ヒーローとして活躍していいんですますうううううッ!?

こんなに嬉しいことは今日まで生きてきてなかったですます!

わかったんですます!

ボクでお役に立つんなら、どうぞボクで素敵なヒーローを拵えてくださいんですますううううッ!!

「よぉおおおおしッ!! これで作れるぜええええッ!! 蟹さんの協力を得た、強くて硬くてカッコいいスーパーヒーローをぉおおおおおおおッッ!?」