軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70 魔女の仕事始め

歓迎会から翌朝。

ついに彼女たちのお仕事が始まる。

「ここがどういう場所で、どういう成り立ちで出来たかはもう理解してると思うけど……」

居並ぶパッファ、ランプアイ、ガラ・ルファの三人を前にプラティは教官然と仁王立ち。

彼女らはプラティが直接使う人材として呼ばれたので、丸ごと彼女に任せるつもりだ。

「アナタたちにやってほしいのは、アタシの仕事の補佐よ。発酵食品の製造、薬の調合。旦那様のリクエストに応えて新しい食品開発の研究も行うわ。それ全部を一手に引き受けるのはハードだったけど、アナタたちと分担できれば楽になる、はず……!!」

プラティがちょっと涙目だった。

ゴメンね。これからは楽させてあげるからね。

「アナタたち用の調合器具は既にバカ兄に頼んで運び込ませているから順次作業に入って……、って」

クルリ、プラティが新人たちへの訓戒を中断し、こちらを向く。

「なんで皆して見物し続けてるのよ!?」

「えー?」

プラティの背後には、俺を始めヴィール、バティとベレナ、そしてオークボたちモンスターチームと、ここの住人が全員集合していた。

アロワナ王子と先生は昨夜のうちにほろ酔い気分で帰って行ったよ。

「何で全員いるのよ!? アナタたちだってアナタたちの仕事があるでしょう!? さっさと出勤しなさい!!」

たしかに畑の管理とかあるけどさ……。

「何? この土地の主人として、新人の教育がどんな風に行われているか見届けておこうと思ってさ……!」

言い訳がましい俺だった。

実際のところは、迎えた新人を指導するなどという風景が物珍しく、見物したかっただけ。

「奥様。我々モンスター組も近々人員を補充する予定ですので、新人指導の仕方を是非とも学んでおこうと、見学をお許しください」

と言うのはオークボたちモンスターチームだ。

コイツらが本当に一番色々真面目に考えている。

次にバティとベレナ。

「「何か面白そうだったので」」

大変素直でよろしい。

最後にヴィール。

「他にすることがないから」

働け。

そんな感じなのですプラティさん。見物もとい見学をお認めください。

「そうは言うけど、この子たちも素人ってわけじゃなくて相応の経歴もあるし。特に指導とかもせず即戦力で働いてもらうつもりよ。だからオークボちゃんたちの参考にはならないと思うけど……!」

ですよね。

ここに集結したるは人魚界に悪名轟く狂乱六魔女桀。

何度言ってもカッコ悪い呼び名。

その六人中四人なのだから、我が妻含む。

「基本的な調合作業ならすぐさまこなして見せるぜ。通常の三倍でな」

「わたくしは兵士の仕事をしていた間、攻撃魔法薬以外の調合を疎かにしていましたので。カンを取り戻すのに猶予を頂ければ幸いです」

「麹! 酵母! の培養を是非……!」

新人たちが頼り甲斐ありすぎる。

……ちなみに、彼女ら全員元々は人魚の国では犯罪者として収監されていた。

ここに来たのも一種の司法取引。

中には特定勢力との軋轢を避けてほとぼりを冷ますためとか、込み入った事情を持つ者もいる。

そんな人たちだからこそ「簡単に雇って大丈夫なの?」と心配にはなったが、雇う当人であるプラティは大丈夫そうだった。

「問題ないでしょう。三人全員に、ここで喜んで働く理由があるんだから」

プラティは昨夜のうちにそう言い切っていた。

まず『獄炎の魔女』ランプアイ。

彼女は前職が人魚国の近衛兵で、それだけに人魚姫であるプラティには忠実だ。

何しろ、ここへやって来たきっかけというのがプラティに悪口言った人魚貴族をボコボコにしたってことだし。

そこまで厚い忠義の持ち主ならば、プラティに逆らって逃げたり勝手なことをしたりもしないだろう。

むしろプラティに犬のように従うことに人生の幸福を噛みしめるはず?

次に『疫病の魔女』ガラ・ルファ。

このファンタジー全盛の異世界で細菌の存在を予見した、まさしく才女。ただしそれが災いして人魚国を追われる羽目になり、ここまで来た。

そんな彼女にとって、俺の発案でプラティに作ってもらった醤油味噌。パン用に使う乾燥酵母などは、自分の学説の正しさを証明するもの。

いわば福音。

己が理論の正当性を立証し、さらに先へと進めようとする研究者気質から、むしろ率先してウチでの仕事に従事するだろう。

昨夜のうちにプラティからそう聞いたオレはなるほどと思った。

最後に『凍寒の魔女』パッファ。

彼女こそが一番の難物なんじゃないかな? と思ってしまう。

あからさまに反骨心旺盛そうな雰囲気だし。「力づくで従わせてみろ」と言わんばかりのオーラを放っている。

プラティも最初は、彼女をどう扱うべきか悩んでいたようだが、昨晩の宴会を経て、すっかり安心したようだ。

「あの子が一番大丈夫。問題ない」と。

何がそんなに問題ないのかと、その時は訝ったが、俺もだんだんわかってきた。

あのパッファという切れたナイフみたいなお嬢さんが宴会の席、アロワナ王子の隣に座って離れようとしないってことを。

そして盛んにアロワナ王子の木杯へお酌している。

我が開拓地ではまだ酒類は作っていないため酒は全部アロワナ王子の持ちより。

それを盛んに勧めている。盛んに飲ませている。

酔った勢いで我を襲えと言わんばかり。

これはさすがに俺でもわかった。

そしてパッファはきっとここでの作業をしっかりこなしていくに違いない。

アロワナ王子に嫌われないように。そしてあわよくば好感度を上げられるように。

「六魔女って素行に問題あるかもしれないけど、そもそも優秀な薬学魔法師だからこそ魔女に選ばれるのよね」

プラティは意味ありげに呟いた。

「実力で人魚王妃に選ばれる資格が充分あるってこと。次期人魚王である兄さんの縁談はアタシ以上に政略に利用される危険があるから、早めに手を打っておいた方がいいかもね」

……と。

昨夜の宴会ではそんなことが様々にあったのだ。

そして意識を今に戻そう。

プラティは早速、初めて持った部下に指示を与えてくようだ。

「ではパッファ! アナタにしてもらうことがあります!!」

「ケッ、命令されるのは嫌いだが仕方ねえ。何だよ言ってみな。『凍寒の魔女』の名に掛けて何でもし遂げて見せるぜ」

「告白の練習よ!!」

「んなああああああああああああッッ!?」

パッファさん生娘のごとく取り乱す。

「何言ってんだテメエはあ!? 誰が誰に告白するってんだよ!?」

「そんなのうちのバカ兄に決まってるでしょう。さあ復唱して! 『好きです付き合ってください』! サンハイ!!」

「できるかあああああああああッッ!?」

仕事してもらうために呼んだのに。

早速別のことに興味が逸れ始めている。

それはそれで楽しくていいか。