軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

703 人魚宮侍女抗争

パッファ王妃め、自分の土俵で戦うことになったと自信満々でいますわね?

甘いですわ。

この人魚宮侍女長クラムが選りすぐった王妃付き侍女候補ですわよ。

血筋貴きだけではなく、実力だって一定以上の水準であるのは間違いないのですわ。

何しろ人魚国の最高学府マーメイドウィッチアカデミア出身者なのですからね。

当然修めた知識は深く、能力だってそんじょそこらの町薬師などとは比べ物になりませんことよ。

いいえ、能力の高さとは即ち、血統の高貴さに比例して高まるもの。

その事実を庶民生まれの王妃様に勉強させてあげますわ。

「そんじゃまー、誰に出てもらおうかなー?」

パッファ妃、みずからの連れてきたアホそうな面構えの娘たちを見渡し……。

「よっしゃ、テメエに決めた」

と言って御指名したのは……。

「コイツはメルルーサ。農場で学んだ女人魚の一人だぜ。ちなみに出自はタラ家だ」

「タラ家……!? その家は……!?」

「さすが権力争いに首ったけな侍女長心当たりがあったか? アタイらが結婚する前後に、王家へ反逆しようとして粛清された派閥に加わっていた家の一つさ」

それは反逆者の縁者ということではないですか!?

そんな危険なものをお傍に置こうなんて、やっぱりパッファ妃は迂闊で庶民ですわ!

「たしかにコイツの家は反逆を企てたが、コイツは家からの命令に背き王家の側についてくれた。そんな忠誠心をもつ娘こそ傍に置くのに相応しいじゃねえか」

納得できませんわ!

反逆者がそのように簡単に許されては、反乱に加わらず忠節を貫いたお家が優先されずに報われないではありませんか!!

「『忠節を貫いた』って言えば聞こえはいいが。要するにどっちが勝つかわからないんで日和見を決め込んだ家ってのが一定以上あんだろ? そんなヤツらより、家族との縁を切ってまで義理を果たしてくれたヤツこそ報いるべきじゃね?」

「お話になりませんわ! そんな反逆者よりも王妃に相応しい侍女を私があてがって差し上げます!」

私が選抜した侍女群から、一人を呼び出します。

「彼女こそ名門人魚貴族家からお預かりした淑女中の淑女ですわ! 先の反乱粛清中も動かず沈黙を貫き通した忠義の家!」

「だから『動かない』ってことこそ日和見……!?」

「さあ、お行きなさい! 真の人魚貴族の戦いぶりを王妃陛下に御披露なさい!」

試合開始。

私と王妃、双方が推した若い人魚が向かい合う。その手には魔法薬の入った試験管。大体女人魚の戦いは、みずから調合した魔法薬の勝負になるんですから!

「フッフフフフフフフ、この勝負勝ったも同然ですわね……!」

何しろ私が選び抜いた淑女人魚は全員、名門マーメイドウィッチアカデミアを優秀な成績で卒業した才女なのですから。

分校か何か知りませんが、実力のない落ちこぼれだからこそ本校を追い出され、分校に追いやられたのでしょう?

物事は常に王道、本流を進む者が強いのですわ!

脇道に外れたドロップアウト人魚などが勝つ可能性など1%もありません!

「試合開始!」

「んぎゃあああああッ! 負けたああああああッ!?」

……あれッ?

瞬殺!? そんな私が推薦した方の淑女人魚が!?

一瞬で決着がつくのはいいですが、何で勝った方が妃の推薦人魚で、負けたのが私の方の推薦人魚なのです!?

普通逆ではないですか。

「はっはっはチョロいチョロい。名門出身のエリート様は本当に扱いやすくていいなあ」

なんですって!?

王妃がはしたない煽りですわよ!?

「いいかい、農場で鍛えられた人魚どもは、アタイやプラティたち魔女の直接指導を受けてんだよ。だからこそタイマンの張り方なんて特に念入りに仕込まれてんのさ。駆け引き化かし合いお手の物ってね」

「そ……ッ!?」

「そんなコイツらにとっちゃ、名門育ちのエリート様なんてもっとも転がしやすい相手だよ。ルールに従っていい子でいたんだ、敵の思惑にすら素直に沿って、罠にドボン。いいカモだね」

なんて、なんてはしたない……!?

そのようなお行儀の悪い戦い方をさせるなんて、やはり庶民生まれに人魚王妃は務まりませんわね!!

「おや、まだ不満かい?」

「当然です! 次です! 次の勝負を所望します! 今出した子は様子見のザコに過ぎませんわ! 今度は最高にして最美麗の淑女人魚を披露いたします!」

「仕方ないねえだったら、こっちもトラフグの子を出そうじゃないか。ディスカス、ベールテール、ヘッケリィ、バトラクス」

何ですの? そんなに一辺にたくさんの名を呼んで?

「来な」

「「「「はいッ!?」」」」

駆け出る四人の人魚。

一体何ですの!? いずれも若い娘人魚なのに、まとう気配が明らかに違いますわ。

「コイツらこそ、農場で育てた人魚の中でも一番の成長株。アタイらにも認められて『魔女』を名乗ることも許された出世魚だぜ」

何ですって!?

魔法薬学師の中でも最強最悪の使い手に与えられる『魔女』の称号を!?

「あんまりにもよく育ったんでプラティのヤツがなんとしても手放したくないって農場に残留することになったヤツらさ。今は里帰りのために人魚国にいるが……。ちなみにコイツら、庶民か下級貴族の出だぜ全員な」

そんな……!

高貴なる人魚貴族を差し置いて庶民などが『魔女』の称号を得るなんてありえませんわ!

「エリートさんたちってのは決められたことしか学ばないからどうしても視野が狭くなりがちだ。そんな箱入りどもに、今日は社会見学させてあげようじゃないか。……アタイの可愛い教え子ども」

「「「「はい!!」」」」

「アンタらはもう一人前の殺戮人魚たちだ。アタイの自慢の弟子だ。アタイらの仕込んでやった能力でしっかりと見せつけてやりな。農場で培われた最強の薬学魔法ってヤツをね!!」

うぬぅううううううッ!?

生意気ですわ!

そういうことならこっちだって容赦いたしません!

人魚国の名門貴族の誇りに懸けて、庶民王妃が手塩にかけた安っぽい人魚たちなど打ち砕いてご覧に入れます!

行け!

飛べ!

血の高貴さこそすべてを解決する!

そして三分後……。

視界に広がったのは、全滅した侍女候補たちの死屍累々の光景でしたわ。

この惨劇の作り主は、パッファ王妃によって放たれた四人の魔女。

彼女らは掠り傷の一つすらなく、しっかりと惨劇の中に立っていた。尾びれで。

どういうことなの?

勝負は最初、互いに出した代表の戦いだったはず。なのに気づいたら私が用意した侍女候補すべてが争いに飲み込まれ、誰一人生き残ることができずに撃沈してしまった……!?

まさに鎧袖一触。

パッファ妃が送りだした、野良猫同然の庶民女人魚四名が、この私の選りすぐったエリート人魚五十人より勝ると……!?

「だから言ったろ? コイツらはアタイの自慢の弟子だって」

勝ち誇りのパッファ王妃。

その態度がなんかムカつく!?

「『冷蔵の魔女』ディスカス!」

「『火加減の魔女』ベールテール!」

「『熟成の魔女』ヘッケリィ!」

「『整頓の魔女』バトラクス!」

「これからの魔法薬学会は、コイツら四人が引っ張っていくこと請け合いだぜ! 子育てで忙しくなったアタイたちに代わってなあ! 本当に出会った時にはただの小娘だったコイツらが……よく成長して……! うびびびびびびびびびびびび……!?」

王妃が勝手に感涙しだしたわ!?

一体何なの気持ち悪い!?

しかしこんな庶民人魚たちに王宮を牛耳られては敵わない!

こうなったら見てらっしゃい、この侍女候補を送りだした人魚名家に働きかけて、嫌でもこちらの要求を受け入れざるを得ないように圧力をかけてやる!

彼女たちの実家だって、自分たちの繁栄のために人魚王妃のコネを求めているのよ!

それを素直に分け与えるのが人魚王妃の役割ではなくて!? 我がままで引っ掻きまわさないでしょ!?

「我がままはアナタでしょうクラムちゃん?」

ヒィッ!?

私の心の言葉を見透かして釘を刺してくるこの声は……!?

「シーラ・カンヌ人魚王妃……!?」

「あら、人魚王妃の座はとっくにパッファさんに譲って、アタシはもうただの人魚太后よ? クラムちゃんてば決まりごとに詳しいことだけが取り柄なんだから間違えたらだめじゃない?」

「ひぃいいいいいい……ッ!?」

先代ナーガス王陛下の妃シーラ・カンヌ様……!?

生まれも育ちも一切不明という、札付きの当代パッファ妃に輪をかけて王妃にあるまじき異形の存在。

それなのに結局最後まで王妃を務めきったのは、何よりどんな対立相手すらねじ伏せられる知力と武力の備わった人だから。

「結局アタシに頭の上がらなかったアナタだったから侍女長に居座ることを許してあげていたけど。アタシが引退した途端煩くなりだすのは結局予想通りだったわね?」

「いえ、あのその……!?」

「パッファさんって頑張っていると思わない? 公務も立派に勤め上げて元気な孫も生んでくれて……。その上あんな優秀な子たちまで育て上げるんだから。まあ魔女だっていう実力の下敷きはあるんだけど。ンフフフ……」

ヤバい……!?

前王妃様が『ンフフ』って笑う時、大体一週間以内に人魚宮から誰かが消えて、そして二度と舞い戻ることはなかった。

人魚宮侍女長である私は、その場面に何度も遭遇してきた!?

「ダーリンと結婚したばかりのアタシもあんな風に健気だったわよねえ……。そうだったわよねクラムちゃん?」

「あ、あの……!?」

「気を付けて答えなさいね? 自分の生死がかかっているぐらいのつもりで気を付けて?」

「は、はいぃ……!?」

ど、どういうことなの!?

パッファ妃とシーラ太后の新旧王妃は不仲だと聞いていたけどウソなの!?

だから取り入って王宮内での勢力を拡大しようと思ったのに!?

「仲のいい嫁姑なんてあるわけないでしょう? それでも家族のために歩み寄るところは歩み寄るのよ。これからも優秀な侍女長として、言われたことだけをしっかり実行しなさいね。期待しているわよクラムちゃん?」

こうして世代交代を機に狙った勢力拡大はすぐさまとん挫した。

パッファ王妃の周囲を固める侍女たちは、軒並み農場卒業生なる得体の知れない者たちに限定されたのだった。